第108回 咳・痰 ~どのような鑑別診断をあげますか?~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。腰痛について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

本日は、咳・痰ついて一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

① はじめに

【Step 1】 表情をみよう

【Step 2】 まずopen questionを

【Step 3】 すぐ介入が必要な危険な咳か

【Step 4】 急性か慢性か

【Step 5】 肺炎の除外を

【Step 6】 患者背景を聞く

【Step 7】 咳の特徴を聞く

本日は臨床推論の勉強をしたいということで、臨床推論の本をもとに勉強を進めていきたいと考えています。実臨床ではどのように臨床推論を進めていけばいいのか、snap diagnosisだけでなくいろんな鑑別診断を上げながら、診断をしていけるように勉強していきましょう。 

 

108回 咳・痰 ~どのような鑑別診断をあげますか?~

 

本文内容は主に『外来を愉しむ 攻める問診』を参考に記載しています。この本は系統的に問診から鑑別診断を絞っていく方法が書かれており、わかりやすいです。臨床能力をあげたいと考える先生は是非読んでみてください。

外来を愉しむ攻める問診 (Bunkodo Essential & Advanced M)

外来を愉しむ攻める問診 (Bunkodo Essential & Advanced M)

 

① はじめに

 咳はプライマリ・ケアの現場での最も頻度の高い消光・主訴の1つです。その原因には予後良好で自然軽快する通常の感冒から心疾患や肺癌など重篤なものまで多岐にわたります。原因疾患が予後良好なものであったとしても、咳が患者さんのQOLを低下させることにつながります。

 

【Step 1】 表情をみよう

 診察室に入ってきたときの患者の表情には沢山の情報が示されています。苦しそうに顔を歪めていないか、チアノーゼはないか、どのような姿勢で待合室にいるのか、診察室まで数歩歩いただけでも息切れしている様子はないかなど確認しましょう。

 

【Step 2】 まずopen question

 まず患者さんに自由に患者自身の言葉で症状を説明してもらいます。「今回咳で受診されたのはなぜですか?」などの話のきっかけを与えた上で自由に話してもらいます。しばらく話を遮ることなく患者の話を聞き、そして、聞きながら原因をいくつか考えます。もちろん、話をする患者の表情や呼吸様式の変化に注意を払うことも行いましょう

 Open questionを行い傾聴することで、患者の咳による日常生活障害の程度や咳に対する不安の程度をうかがい知ることができます。その咳がどの程度苦痛なのか知ることは診断や治療選択の上で有用な情報です。このステップでは推定原因が見つかったとしてもまんべんなく病歴聴取を行いましょう。咳の原因は1つとは限りません。

 

【Step 3】 すぐ介入が必要な危険な咳か

 最初に緊急性が高い疾患を除外します。特に、気胸、気道異物、肺塞栓症、うっ血性心不全の4つをまず除外します。緊急性の高い疾患を考えるために、まずは警告症状の有無を質問します。重篤・緊急性の高い疾患の原因は、比較的「気道以外の疾患」が多いです。

警告症状

重篤・緊急性の高い疾患

良性の疾患

喀血

肺癌、結核肺塞栓症、肺炎

気管支炎、気管支拡張症

喘息及び息切れ

喘息、心不全

気管支炎、COPD増悪

胸痛

気胸肺塞栓症、急性冠症候群

COPD増悪

呼吸困難 and 下腿浮腫

心不全肺塞栓症

 

意図しない体重減少

肺癌、肺結核、肺膿瘍

COPD

過剰な慢性痰産生

気管支拡張症、肺癌、肺膿瘍

慢性気管支炎、慢性副鼻腔炎

発熱および膿性痰

肺炎、肺膿瘍

急性副鼻腔炎

緊急性を要する疾患を否定したら、次に高頻度でありかつ死亡率も高い肺炎を除外します。

 

【Step 4】 急性か慢性か

 持続期間によって次のように分類されます。

 急性咳嗽:3週間未満の咳

 遷延性咳嗽:3~8週間持続する咳

 慢性咳嗽:8週間以上持続する咳

 急性咳嗽の多くは、呼吸器感染症であり、咳嗽の持続とともに非感染性疾患による遷延性・慢性咳嗽の頻度が増加します。

 

【Step 5】 肺炎の除外を

 肺炎は頻度が高く重症化する危険性が高い疾患です。よって早期の段階でその可能性がないかを考慮しておく必要があります。しつこい咳と痰、頻呼吸、呼吸困難、発熱などの訴えがあれば肺炎を疑います。病初期のレジオネラ肺炎を含む多くの非定型肺炎や気管支と交通のない肺膿瘍では痰を伴わないことがあります。X線写真を取らずに肺炎の診断をつけることは実は非常に難しいです。

 

【Step 6】 患者背景を聞く

 病態を評価する際にはその患者が「どんな人か」を把握することは重要です。年齢、体格、既往歴、内服薬、嗜好、職業歴によって考慮しなければいけない疾患は大きく変わります。

1,喫煙歴、環境や職業上の暴露因子について

2,現在飲んでいる(もしくは最近まで飲んでいた)薬について(例:ステロイド、免疫抑制薬、抗がん剤、ACE阻害薬)

3,易感染性をもたらす既往歴や基礎疾患について

4,アレルギー、喘息、副鼻腔炎、最近の呼吸器感染、結核暴露、冠動脈疾患、食道癌などの既往歴について

 

【Step 7】 咳の特徴を聞く

1,痰を伴うか、どんな痰か

 健常者の気管支は1日に約100 mLの痰を分泌していると言われており様々な病態で分泌量は増加します。特に気管支拡張症、肺化膿症、肺水腫、びまん性汎細気管支炎、空洞形成肺結核、慢性気管支炎では多量となります。病態を診断していく上で参考となる痰の性状、色の特徴をあげます。

・痰に匂いはあるか

 悪性腫瘍や肺化膿症では腐敗臭を認め、糖尿病に合併した感染ではアセトン臭を認めることがある

・痰の色や性状は

 上気道炎や気管支炎の初期、慢性気管支炎、肺炎では粘液性の痰を認めます。特徴的な色調の痰を認めるものとしては、肺炎球菌性肺炎での黄色~鉄錆色痰インフルエンザ肺炎での黄色痰緑膿菌性痰での緑色痰があげられます。肺化膿症では匂いの強い膿性痰が特徴的です。慢性気管支炎(COPD)では粘膿性痰を認め、気管支拡張症やびまん性汎細気管支炎では多量の膿性痰を認めることが多い。

・随伴症状は

 ヒューヒュー音がします気管支喘息、うっ血性心不全、肺梗塞

 喉の奥に鼻水が垂れていますかアレルギー性鼻炎、血管運動神経性鼻炎、非アレルギー性鼻炎、急性鼻咽頭炎、急性(慢性)副鼻腔炎

 胸やけはありますか:GERD、咽頭結節・ポリープ、慢性咽頭炎、副鼻腔気管支症候群

 慢性的な口臭はありますか:慢性副鼻腔炎

 慢性的な顔面痛はありますか:慢性副鼻腔炎

・増悪・改善因子はありますか

 横になると悪化しますか気管支喘息、急性気管支炎、うっ血性心不全、副鼻腔気管支症候群、GERD、気管支拡張症

 運動中または運動後に咳発作が出ますか気管支喘息、副鼻腔気管支症候群、アレルギー性鼻炎

 冷気や寒冷な気候にさらされると咳発作が出ますか気管支喘息、副鼻腔気管支症候群、アレルギー性鼻炎

 夜になると悪化しますか気管支喘息、うっ血性心不全、GERD

 季節的なものですか気管支喘息アレルギー性鼻炎、副鼻腔気管支症候群

 重度のストレスはありますか?睡眠中も咳が出ますか?:特発性または心因性咳嗽も疑います。通常青年期に生じます。

 

咳喘息

アトピー咳嗽

副鼻腔気管支症候群

感染後咳嗽

GERD

咳嗽

-~±

-~±

-~±

-~±

気道過敏性

亢進

なし

なし

なし~一過性亢進

なし

喀痰好酸球

増加

増加

正常

正常

正常

気道可逆性

あり

なし

なし

なし

なし

咳受容体感受性

正常or亢進

亢進

正常

正常

亢進

特徴

Wheeze(-)

アトピー素因(+)

症状の季節性

アトピー素因(+)

症状の季節性

副鼻腔炎の症状(後鼻漏、鼻汁、咳払い)副鼻腔炎の既往

風邪症状の先行

自然軽快傾向

胸やけ、呑酸

食後に咳悪化

他疾患との合併が多い

胸部X線写真

異常なし

異常なし

(副鼻腔X線、CTで副鼻腔炎像)

異常なし

異常なし

治療・診断的治療

気管支拡張薬

吸入ステロイド

ヒスタミンH1受容体拮抗薬 and/or ステロイド

14, 15員環マクロライド系抗菌薬や去痰薬

診断には他疾患の除外が重要。中枢性鎮咳薬、麦門冬湯

プロトンポンプ阻害薬

 

いかがでしたか。次回は『腹痛』の勉強を行います。