第109回 腹痛 ~どのような鑑別診断をあげますか?~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。咳・痰について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

 本日は、腹痛ついて一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

① 腹痛のフレームワーク

② killer abdominal pain

③ 胸部

④ 皮膚・筋骨格系

⑤ 代謝・内分泌

⑥ 腹部(腹膜炎、持続痛、蠕動痛)

本日は臨床推論の勉強をしたいということで、臨床推論の本をもとに勉強を進めていきたいと考えています。実臨床ではどのように臨床推論を進めていけばいいのか、snap diagnosisだけでなくいろんな鑑別診断を上げながら、診断をしていけるように勉強していきましょう。

109回 腹痛 ~どのような鑑別診断をあげますか?~

 

本文内容は主に『総合内科 ただいま診断中! 森川暢著』を参考に記載しています。この本は症候から鑑別診断を漏らさずに上げる方法が述べられており、わかりやすいです。臨床能力をあげたいと考える先生は是非読んでみてください。

総合内科 ただいま診断中!   フレーム法で、もうコワくない

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① 腹痛のフレームワーク

 ・killer abdominal pain(詰まる、破れる、ねじれる、裂ける)

 ・胸部

 ・皮膚・筋骨格系

 ・代謝・内分泌

 ・腹部(腹膜炎、持続痛、蠕動痛)

 

② Killer abdominal pain

 突然発症の腹痛では詰まる、破れる、ねじれる、裂けるの4つの病態に分けて整理しましょう。

  Sudden onset abdominal pain

 ・詰まる:腸間膜動脈閉塞症、非閉塞性腸管虚血(NOMI)、腎・脾梗塞、心筋梗塞

 ・破れる:異所性妊娠、卵巣出血、消化管穿孔、腹部大動脈瘤(AAA)破裂、肝細胞癌破裂、尿管破裂、特発性腹腔内出血

 ・ねじれる:卵巣捻転、精巣捻転、絞扼性イレウス、ヘルニア嵌頓

 ・裂ける:大動脈解離、腸間膜動脈解離

 詰まる・裂ける病気を鑑別するためには造影CTを考慮しましょう。これらの疾患を疑うきっかけとして、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、心房細動などを確認しましょう。

 

若い女性の破れる病態のポイント

 妊娠は100%可能性がないかどうかが大切です。最終月経、その前の月経、月経周期、不正性器出血、避妊の有無、最終の性交渉について確認します。特に最終の性交渉日は妊娠の推定に最も有用です。少しでも疑わしければ妊娠反応は躊躇しないようにしましょう。若い女性に腹部CTを撮像する際は、妊娠が100%否定できないなら同様に妊娠反応を調べたほうが無難です。最終月経から2週間以降~月経予定日に、性交時~性交後・外傷後に突然発症する腹痛は卵巣出血を考えます。腹痛+妊娠反応陽性であれば異所性妊娠腹痛+妊娠反応陰性+エコーフリースペースであれば卵巣出血を疑って産婦人科にコンサルしましょう。

・若年者のねじれる病態のポイント

 女性の腹痛+卵巣嚢腫→卵巣捻転疑いとして産婦人科に紹介しましょう。卵巣腫瘍の既往があれば、積極的に疑いますが卵巣腫瘍の既往歴はなくてもよいです。悪心・嘔吐を伴う突然発症の腹痛では発症に先行して間欠的な軽度の腹痛を認めます。腹部エコーで卵巣嚢腫の有無を確認することが大切です。チョコレート嚢胞の既往があり、腹水と腹膜刺激徴候を認める場合はチョコレート嚢胞の破裂を疑います

男性の腹痛+精巣圧痛→精巣捻転疑いとして泌尿器科に紹介するほうが無難です。精巣痛を訴えず、腹痛で来院することもあります。精巣の圧痛を確認することが見落としを減らす上でも最も大切です。

 

・高齢者の破れる病態のポイント

 心血管リスクの高い高齢者の突然発症の腹痛では必ず腹部大動脈とFASTを確認します。FASTが陽性であればまずは腹部大動脈瘤を念頭におきますが、肝細胞癌破裂や特発性腹腔内出血も念頭におきます。消化管穿孔でも腹水は出現しますが、初期では腹水が目立たないため腹膜刺激徴候が重要です。高齢者の下部消化管穿孔では所見が乏しいこともありうるので、便秘の病歴と軽微な腹膜刺激徴候を見逃さないことが大切です

 

・高齢者のねじれる病態のポイント

 手術歴がない腸閉塞では腸管がねじれる病態、つまり外ヘルニアに伴う腸閉塞S状結腸捻転を考えます。前者は外科コンサルト、後者は消化器内科コンサルトが必要です。鼠径ヘルニアを疑えば鼠径部の診察を、大腿ヘルニアを疑えば鼠径靭帯化にエコーで突出した腸管を確認します。ズボンを脱がせることを怠らないようにしましょう。S状結腸捻転はエコーでは確認が難しいので、X線で特徴的な大腸の拡大を確認します。増悪傾向・最悪の痛みを伴う腸閉塞は、絞扼性イレウスを念頭に外科にコンサルトします。腹水を伴う腸閉塞も絞扼性イレウスを示唆します。血液ガスで乳酸値が上昇していれば、原因の如何にかかわらず腸管壊死を考えて造影CTを行いましょう。

 

③ 胸部

 労作時に増悪する腹痛はACSを考えます。冷汗や心血管リスクなどの随伴症状を確認します。疑わしければ心電図を撮るが、来院時に痛みがなくても頻度や持続時間が増悪傾向であれば不安定狭心症も念頭に入れます。吸気時に増悪する腹痛はたとえ下腹部痛であっても胸膜の炎症を考えます。咳嗽や喀痰などの随伴症状を確認します。胸部診察で疑い胸部X線で確認しますが、腹部CTを撮像するときに肺野も確認する癖をつけます。

 

④ 皮膚・筋骨格系

 皮疹、特に水疱を伴う腹痛では帯状疱疹が疑うが、痛みが皮疹に先行することがあります。この場合は感覚過敏の有無を確かめます。体動時に悪化し、安静時に消失する痛みは筋骨格系の腹痛を示唆する病歴です。筋骨格系の腹痛をうたがえばカーネット徴候を確かめます。腹筋運動時に圧痛が誘発されれば陽性ですが、腹筋運動自体で痛みが誘発されればより特徴的です。カーネット徴候が陽性となるのは腹直筋関連の疾患と腹壁神経の圧迫が代表的で、体動時、特に体幹を回旋させたときに悪化する腹痛は下位胸椎疾患を念頭に置く必要があります。疑えば実際に体幹を回旋させて痛みを誘発します。

 

⑤ 代謝・内分泌

 局所的な圧痛が乏しい腹痛は内分泌/代謝由来の腹痛を疑うきっかけになり得ます。頻呼吸を伴う腹痛では糖尿病性ケトアシドーシスを念頭に口渇・多飲・多尿・糖尿病やインスリンの有無を確認し、アルコール性ケトアシドーシスを念頭にアルコール依存の病歴を確認します。頻呼吸を伴う腹痛では血液ガスで代謝性アシドーシスを確認します。繰り返す原因不明の激痛で、糖分入の点滴で自然軽快する腹痛では、急性間欠性ポルフィリン症を念頭におきます。バッテリーなど鉛暴露歴がある原因不明の腹痛では鉛中毒を念頭に置きます。

 

⑥ 腹部(腹膜炎、持続痛、蠕動痛)

・腹膜炎

 腹膜炎は腹膜が振動する状況で痛みが悪化します。具体的には、咳嗽、歩行、車の振動などが挙げられます。身体診察では踵落とし試験が腹膜刺激徴候の検出に有用です。身体診察により明らかに腹膜炎が疑わしければ腹部CTの閾値は下げるほうが無難です。特に高齢者は軽微な腹膜刺激徴候であっても腹部CTの閾値は下げたほうが良いです。

虫垂炎

 虫垂炎ではTime courseが重要で、嘔吐をしてから腹痛が起こる場合は虫垂炎の可能性が下がり、痛みが移動する場合は虫垂炎の可能性が上がります。憩室炎では虫垂炎に比べて一般的には痛みの移動はなく、最初から下腹部が痛く、悪心に乏しいことが鑑別点とされています。踵落とし試験は虫垂炎の診断にも有用です。McBurney圧痛点にこだわる必要はなく、右下腹部の圧痛の有無が重要であり、なければ虫垂炎の可能性は下がります。しかし、虫垂炎は非典型例が典型例であり、あらゆる腹痛で虫垂炎の可能性を考え、腹部CTを撮影した場合には必ず虫垂を確認しましょう。フォローアップに関してもTime courseが非常に重要であり、腹痛患者を帰宅させる場合も虫垂炎の可能性がゼロではないことを説明しましょう。痛みの増悪や痛みの改善が乏しい場合は再診をするように指示すべきであり、不安であれば翌日の外来受診や消化器外科医へのコンサルトをためらわないようにしましょう。

・骨盤内炎症疾患

 女性の腹痛の原因として骨盤内炎症性疾患を忘れないようにしましょう。複数のパートナー、特定のパートナー意外との性交渉、骨盤内炎症性疾患の既往歴があれば、積極的に疑うべきです。虫垂炎に比べて痛みの移動がなく、悪心・嘔吐を認めず、下腹部痛で発症し、両側に痛みを認めることが特徴的です。腹膜刺激徴候が強く歩いたり打診をしたりすると腹部全体で響く割に、腹部CTの所見は乏しいことが特徴です。内診での圧痛は診断的です。内診の代替として直腸診が有用ですが、性交時痛が病歴であれば骨盤内炎症性疾患の可能性を示唆します。膣分泌物や陰部掻痒感などの正規の症状も骨盤内炎症性疾患を示唆します。

・持続痛

 持続痛は、歩行や咳嗽で悪化せず、痛みがゼロになることがなく、持続する腹痛で、急性の持続痛では「詰まる、ねじれる、破れる、裂ける」に準じて考えますが特に、詰まる、ねじれるを念頭に置きます。慢性の持続痛では膵癌、大腸癌、胃癌のような悪性腫瘍を念頭に鑑別をあげます。まず行うべき検査として腹部エコー、便潜血、上部消化管内視鏡が有用です。慢性の腹痛に加えて、食欲不振、体重減少、鉄欠乏性貧血、便通変化、便潜血陽性があれば下部内視鏡、腹部造影CT検査などを考慮します。

・蠕動痛

 波があり、かつ痛みがゼロになる場合にのみ蠕動痛を考えます。蠕動痛であれば痛みは改善傾向、緩徐発症で、痛みの程度は軽いことが多い。しかしそもそも蠕動痛かどうか見極めることが重要となる。他のフレームワークを除外した上で全導通らしい病歴でなければ蠕動痛と判断しないことです。急性の蠕動痛ではまず感染性腸炎を、慢性の蠕動痛なら過敏性腸症候群を考えましょう。

 

いかがでしたか。次回は『嘔気・嘔吐』の勉強を行います。