第115回 慢性下痢症 ~どのような鑑別診断をあげますか?~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。動悸について一緒に勉強しました。
本日は、慢性下痢症ついて一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① 慢性下痢
② 浸透圧性下痢
③ 脂肪便・吸収不良症候群
④ 炎症性下痢
⑤ 分泌性下痢
本日は臨床推論の勉強をしたいということで、臨床推論の本をもとに勉強を進めていきたいと考えています。実臨床ではどのように臨床推論を進めていけばいいのか、snap diagnosisだけでなくいろんな鑑別診断を上げながら、診断をしていけるように勉強していきましょう。
第115回 慢性下痢症 ~どのような鑑別診断をあげますか?~
本文内容は主に『内科診断リファレンス 上田剛士著』を参考に記載しています。この本は臨床治験のエビデンスから鑑別診断を絞っていく方法が書かれており、わかりやすいです。特に症候学はもちろん各診療科についても書かれており勉強になります。是非読んでみてください。
① 慢性下痢
慢性下痢は4週間以上の下痢を言います。過敏性腸症候群が最も多いですが夜中に下痢が見られないことが特徴で体重減少・血便・貧血・脂肪便であれば精査が必要です。慢性下痢は浸透圧性、炎症性、分泌性に分けることができます。
・浸透圧性
食餌性(薬剤、経管栄養、乳糖)、消化不良(胃切除後、慢性膵炎、胆汁分泌障害)、腸管吸収障害(短腸症候群、腸管運動亢進、小腸細菌叢の異常増殖)
・炎症性
炎症性腸疾患、好酸球性腸炎、薬剤性顕微鏡的大腸炎、感染症(寄生虫)
・分泌性
薬剤性(刺激性下痢、ジギタリス、テオフィリン)、内分泌疾患(甲状腺機能亢進、副腎不全、糖尿病)、悪性腫瘍(大腸絨毛腺腫、大腸癌、内分泌腫瘍(ガストリノーマ、VIPoma、カルチノイド))
もし、肛門括約筋に問題があれば、便失禁であり区別しましょう。また脊損患者ではfecal impactionの合併症として溢流性便失禁がありえます。
② 浸透圧性下痢
夜間に下痢が軽減し、絶食(24~72時間)、被疑薬中止で軽快するなら、浸透圧を上げる薬剤・食餌が問題かそれらを消化吸収できない腸管の問題(浸透圧性下痢)と考えます。急性下痢後に乳製品摂取を続けていると相対的乳糖不耐性のため慢性下痢となりえます。浸透圧下痢は酸化マグネシウムなど浸透圧製剤、炭水化物吸収不良(典型的には炭水化物接種後90分で下痢を来す)、吸収不良症候群(乳糖不耐症・盲管症候群などの細菌増殖)、蛋白漏出性胃腸炎、短腸症候群などが鑑別としてあげられます。便中浸透圧ギャップは>100mOsm/Lで浸透圧性下痢の予測に使用できます。
浸透圧ギャップ=290-[2(Na+K)]が50-125 mOsm/L以上であると浸透圧性下痢と診断されますが、検査できる施設は殆どありません。尿定性用紙を用いて糖陽性や酸性であることが浸透圧性下痢を示唆する参考となります。Glucose ++なら特異度91%ありますが、+では特異度は59%とあまり良くありません。参考程度と考えましょう。
③ 脂肪便・吸収不良症候群
吸収不良症候群で最も吸収が障害されるのが脂肪です。常食摂取下で1日の糞便中脂肪排泄量が6g以上(小児では3g以上)を吸収不良と定義することが多いです。脂肪便は肉眼的には水に浮いたり、脂ぎって酸性臭がすることなどでわかり200g/日以上の高度の脂肪便なら簡便検査の感度は83.3%、特異度は91.1%です。
吸収不良症候群を疑えば脂肪便検査を行います。乳糖不耐症だけでは例外で脂肪便が見られないことには注意しましょう。ズダンⅢ染色の診断能は限られますが、簡便で有用な検査です。栄養障害と脂肪便が見られれば吸収不良症候群と考えます。ビタミンB12欠乏症や脂溶性ビタミン欠乏症の併発に注意します。腸管吸収障害・腸管運動亢進、小腸細菌叢の異常増殖では糖質の吸収障害も見られうるが、胃切除後(胃排泄促進)や慢性膵炎、胆汁分泌障害といった消化障害では糖質の吸収は保たれることが多いです。
④ 炎症性下痢
炎症性腸疾患は15-40歳で、家族歴、眼症状、皮疹、口内炎、痔瘻、発熱、便潜血陽性であれば積極的に疑います。薬剤性顕微鏡的大腸炎や寄生虫は採血上の炎症所見は便潜血を認めないことが多いです。薬剤性顕微鏡的大腸炎は中高年女性において、PPI、H2ブロッカー、SSRI、チクロピジン、アカルボース内服後に平均1週間以内に発症するが、中には数ヶ月遅れて発症することもあり、特にNSAIDsは半年以上の長期投与で下痢を来すことがあります。薬の中止が診断的加療となりえますが、確定診断は一見正常に見える大腸粘膜の生検によります。感染症では細菌性(偽膜性腸炎)、原虫(アメーバ)、結核、ウイルス(HIV)、寄生虫を考え、抗菌薬暴露歴、海外渡航歴、性行為歴を確認します。寄生虫は海外渡航歴とHIV)感染症が2大リスクです。寄生虫を疑えば虫卵検査を3回行います。沖縄出身の患者では糞線虫も鑑別にあげ、便の生スメアと寒天平板培地で確認します。好酸球が増えていれば好酸球性腸炎も疑いますが、糞線虫などの寄生虫感染を除外することが必須です。
⑤ 分泌性下痢
腫瘍性疾患としてはガストリノーマ、VIPoma、somatostatinoma、肥満細胞腫、カルチノイド症候群、甲状腺髄様癌(家族歴が重要)、リンパ腫、大腸癌・絨毛腺腫があげられます。慢性下痢に加えて消化性潰瘍の既往があればガストリノーマを疑います。家族歴があればMEN-1を疑います。慢性下痢に加えて皮膚紅潮発作、甲状腺機能亢進症があればVIPomaを疑います。VIPomaでは大量の水様便が見られます。慢性下痢に加えて気管支喘息様発作、肺動脈弁閉鎖不全や三尖弁閉鎖不全により右心不全徴候を示すなどがあればカルチノイド症候群を疑います。カルチノイド症候群を疑った場合は血清セロトニン高値や尿中5-HIAA排泄増加で診断します。
⑥ 過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)
下痢型IBSの診断
・問診
1,下痢や腹痛などの症状がストレス負荷時に発生・悪化するが,ストレスから解放される睡眠中には発生しない(睡眠中に下痢や腹痛で覚醒することはない).
2,腹痛や腹部不快感が排便により軽快あるいは消失する.
3,結腸反射が亢進しているため食後に便意や下痢が発生しやすい.
4,血便を伴わない(粘液便は発生する).
5,体重減少がない(IBSが重症でうつ状態を併発する場合以外は体重減少はない).
6,発熱がない.
7,血液検査で炎症の存在が否定できる(WBCやCRPが正常).
・検査
1,血液検査でWBC,HbそしてCRPに異常がないことを確認する.
2,便の潜血反応を2回検査し,陰性であること確認する.
3,上記の検査で異常が認められれば器質性疾患の可能性があるため,大腸内視鏡検査などを施行する.
・1BSの診断基準
診断基準に関してはRome Ⅳが用いられている。
Rome Ⅳ
過去3カ月間,1週間につき1回以上にわたって腹痛があり,以下の項目の2つ以上がある
1.排便によって症状が軽減する
2.排便頻度の変化と関連している
3.便形状の変化と関連している
#症状が少なくとも6カ月前から出現している.
下痢型IBSの具体的処方例
A.軽症の下痢型
処方1,コロネル(またはポリフル)500mg錠 3~6錠/日 分3,毎食後
処方2,ビオフエルミン錠 3錠/日 分3,毎食後
食後の下痢が問題になる場合には以下を併用する.
処方3,セレキノン 100 mg錠3~6錠/日 分3,毎食前
B.中等症以上の場合
男性患者:処方1,イリボー 5μg錠 1~2錠/日 分1~2,就寝前~朝食後
女性患者:処方1,イリボー 2.5μg錠 1~2錠/日 分1~2,就寝前~朝食後
必要に応じて軽症患者の処方を併用する.
C.レスキューメディケーション
下痢のレスキューメディケーションとしてはロペラミド(ロペミン⇔)を頓用で使用する.
処方1,ロペミン1mgカプセル1~2カプセル 頓用:1~2回/日
腹痛のレスキューメディケーションとしてはブチルスコポラミン(ブスコパン③)を頓用で使用する.
処方1,ブスコパン10mg錠1~2錠 頓用:1~3回/日
(治療 Vol 98,No.7 (2016))
いかがでしたか。次回は『便秘症』の勉強を行います。