第117回 急性腸管虚血 ~どのような鑑別診断をあげますか?~

f:id:Med-Dis:20190901073042j:plain

こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。慢性下痢症について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

 本日は、急性腸管虚血ついて一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

① 急性腸管虚血

② 上腸間膜動脈塞栓症(SMA塞栓症)・上腸間膜動脈血栓症(SMA血栓症

③ 非閉塞性腸間膜動脈虚血

④ 虚血性結腸炎

⑤ 急性腸管虚血の血液検査

本日は臨床推論の勉強をしたいということで、臨床推論の本をもとに勉強を進めていきたいと考えています。実臨床ではどのように臨床推論を進めていけばいいのか、snap diagnosisだけでなくいろんな鑑別診断を上げながら、診断をしていけるように勉強していきましょう。

 

117回 急性腸管虚血 ~どのような鑑別診断をあげますか?~

 

本文内容は主に『内科診断リファレンス 上田剛士著』を参考に記載しています。この本は臨床治験のエビデンスから鑑別診断を絞っていく方法が書かれており、わかりやすいです。特に症候学はもちろん各診療科についても書かれており勉強になります。是非読んでみてください。

① 急性腸管虚血

 突然始まる激しい腹痛であるにも関わらず腹部診察所見が軽微であれば急性腸管虚血を考えます。50歳以上で動脈硬化のリスク要因があり、激しい腹痛が2時間以上続けば造影CTの適応があります。急性腸管虚血の1/3を占める非閉塞性腸管虚血や静脈血栓症は亜急性の経過をとりえます。

 

② 上腸間膜動脈塞栓症(SMA塞栓症)・上腸間膜動脈血栓症(SMA血栓症

 突然発症する激しい腹痛を特徴とするSMA塞栓症は心房細動などの心疾患がリスク要因です。SMA塞栓症では他部位における同時塞栓症が2/3で見られ、中大脳動脈猟奇の脳梗塞、腎梗塞、脾梗塞、下肢動脈塞栓が多いです。SMA血栓症では1/3の症例で食後に腹痛の既往(腹部アンギナ)があります。動脈硬化や低血圧、凝固能亢進がリスク要因です。SMA塞栓症では心疾患(91%)心筋梗塞(27%)心不全(45%)を認めることが多いです。急性心筋梗塞の経過中はSMA塞栓症を起こすことがあります。心筋梗塞脳梗塞などの既往はSMA塞栓症・血栓症双方のリスク要因で、両者の鑑別には有用ではありません。

 

③ 非閉塞性腸間膜動脈虚血

 低血圧・脱水・心不全などの循環不全とジギタリス製剤・α刺激薬・βブロッカーによる腸間膜動脈攣縮により起こります。発症時期がはっきりせず、緩徐に進行することも多く、症状もはっきりせず1/4の症例では腹痛も認めません。

 

④ 虚血性結腸炎

 NOMIの軽症型との考えもありますが、臨床的には全く異なる描像を呈します。左半結腸が虚血に陥り、左腹痛~下腹部痛に続き24時間以内に下血します。細菌性腸炎との鑑別には高齢・透析・高血圧・低栄養・糖尿病・便秘といったリスク要因が重要です。大腸癌による腸管狭窄が口側の腸管拡張・壁進展を介して虚血性腸炎を惹起することがあります。腸管壁肥厚が1.5 cmを超える場合は悪性腫瘍を強く疑います。白血球増多・LDH高値・乳酸アシドーシスは予後不良因子です。超音波による血流確認が予後予測に有用です。

 

⑤ 急性腸管虚血の血液検査

 腸管壊死が進行すればCKが上昇しますが総機関別に有用とは言えません。CKの上昇は3-6時間で上昇し12時間以内にピークに達します心筋梗塞とは異なりCK-BBも上昇するのが特徴です。乳酸アシドーシスは腸管壊死に至る前の虚血は捉えることができ、感度はある程度高いですが特異的ではありません。SMA血栓症・塞栓症であればDダイマーは高頻度に高値なりますが特異性に欠けます(Dダイマー>1.0 mcg/mLで感度96%、特異度18% 除外に使えそうです)。造影CTではSMA/SMV血栓、smaller SMV sign、腸管壁/門脈内ガス、腸管壁/実質臓器造影欠損の所見が診断に有用です。塞栓部位がSMA起始部であれば血栓症、起始部から3-8 cmであれば塞栓症。起始部から8cmまでの閉塞起点が同定できなければNOMIと考えます。SMAの狭窄病変にはドップラーエコーは有用で、特に慢性腸間膜動脈虚血においてCT-angiographyの代用として期待できます。

 

いかがでしたか。次回は『腹水』の勉強を行います。