第110回 嘔気・嘔吐

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。腹痛について一緒に勉強しました。

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本日は、嘔気・嘔吐ついて一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

① はじめに

【Step 1】 患者の全身状態はどうか

【Step 2】 お浮きを伴うのか、突然嘔吐してしまったのか

【Step 3】 嘔気・嘔吐以外の随伴症状を聞き出す

【Step 4】 消化器疾患か、非消化器疾患か

【Step 5】 頻度について

【Step 6】 具体的な問診術

 本日は臨床推論の勉強をしたいということで、臨床推論の本をもとに勉強を進めていきたいと考えています。実臨床ではどのように臨床推論を進めていけばいいのか、snap diagnosisだけでなくいろんな鑑別診断を上げながら、診断をしていけるように勉強していきましょう。


 

110回 嘔気・嘔吐 ~どのような鑑別診断をあげますか?~

 

本文内容は主に『外来を愉しむ 攻める問診』を参考に記載しています。この本は系統的に問診から鑑別診断を絞っていく方法が書かれており、わかりやすいです。臨床能力をあげたいと考える先生は是非読んでみてください。

外来を愉しむ攻める問診 (Bunkodo Essential & Advanced M)

外来を愉しむ攻める問診 (Bunkodo Essential & Advanced M)

 

① はじめに

 嘔気・嘔吐を訴える患者との医療面接では、診察中に患者が吐く可能性位があるということに注意しましょう。吐物による気道閉塞の可能性を考慮し、場合によっては気道確保の必要性があります。また、冬の嘔吐、下痢はノロウイルス感染症が原因であることが多いです。医療従事者の感染を防ぐためマスクの装着や診察後の手洗いを励行します。

 

【Step 1】 患者の全身状態はどうか

 まずは第一印象から。歩けるのか、その歩き方はどうか、表情はどうかなどを見ながら、意識、バイタルサインを確認しましょう。

 

【Step 2】 お浮きを伴うのか、突然嘔吐してしまったのか

 ムカムカして吐きそう、なんとなく気持ち悪い、食べ物を吐いた、胃液を吐いたなどの訴えで受診します。嘔吐はほとんどの場合、嘔気を伴いますが、頭蓋内圧亢進がある場合は嘔気を伴わず突然嘔吐することがあります

 

【Step 3】 嘔気・嘔吐以外の随伴症状を聞き出す

 嘔気・嘔吐の原因は様々であるうえに、嘔気・嘔吐は特異性の低い症状のため、それだけで疾患を絞り込むのは難しいです。患者の訴えが嘔気・嘔吐のみであることは少なく、多くは頭痛、めまい、腹痛などの症状を伴うことから、これら随伴症状の有無や組み合わせに注目し診断の手がかりとします。

緊急性を要する疾患を否定したら、次に高頻度でありかつ死亡率も高い肺炎を除外します。

頭痛

クモ膜下出血、頭蓋内出血、脳腫瘍、髄膜炎、偏頭痛、群発頭痛

めまい

脳出血、小脳梗塞、脳幹梗塞、耳鼻科疾患

胸痛

急性心筋梗塞、大動脈解離、特発性食道破裂

腹痛

イレウス、急性胆嚢炎、胆管炎、急性膵炎、虫垂炎、憩室炎、大動脈破裂、腸間膜動脈閉塞、精巣(卵巣)捻転、子宮外妊娠

腰痛

尿路結石、大動脈解離、腹部大動脈瘤破裂

発熱

感染症髄膜炎、肺炎、胆道感染症、尿路感染症

下痢

急性胃腸炎

食欲不振

急性胃腸炎、急性肝炎

食欲あり

食道狭窄、胃幽門部狭窄

 

【Step 4】 消化器疾患か、非消化器疾患か

 嘔気・嘔吐の患者ははじめに頻度が高い消化器疾患を考えます。消化器症状(腹痛、下痢)がれば消化器疾患が疑われます。次に閉塞性疾患(繰り返す嘔吐、腹痛)かどうかを判定します。非消化器疾患では頭頸部疾患(頭痛、神経学的異常)、耳鼻科疾患(めまい、難聴、耳鳴)、心疾患(胸痛)、代謝性疾患(多飲、多尿、やせ、発汗、意識障害)、泌尿器科疾患、婦人科疾患があげられます。

 

【Step 5】 頻度について

 冬季の低年齢児や高齢者、施設入所者によく見られるのが嘔吐下痢症でノロウイルスロタウイルスが原因となります。細菌性食中毒は夏場に多いのに対して、嘔吐下痢症は冬場に多い。片頭痛、良性発作性頭位眩暈症も頻度が高いです。また、高齢者になると内服の種類、量の増加に伴い薬剤性の嘔気・嘔吐の頻度が高くなります

 

【Step 6】 具体的な問診術

[病歴]

・症状が始まる時間と変動

日内変動、増悪・寛解因子、食餌との関係(直前に摂取したもの、摂取してから症状出現までの時間)を確認します。

・嘔吐の回数

 10回以上の嘔吐では脱水や電解質異常を合併しているかもしれません。

・吐物の性状

 色・におい、食物残渣、血液、異物の有無を確かめます。

 吐血があれば消化性潰瘍、胃がん、食道静脈瘤破裂、Mallory-Weiss症候群を考慮し、血管ルートの確保と上部緊急内視鏡検査の適応を考えます。2回目以降の嘔吐から吐血があればMarolly-Weiss症候群の合併を考えます。

[随伴症状]

 発熱、頭痛、めまい、胸痛、腹痛、腰背部痛、便秘、下痢、視力障害

[曝露歴]

・思い当たる誘因はないか

 食餌、飲酒、薬剤、薬品(有機溶剤、化学薬品)

・家族と同じものを食べているか

 生魚、鶏肉、卵、牛肉など最近1週間の食生活も確認します。

 ノロウイルスは感染力が強いので近くに同じような症状の人がいるはずです。

病原体

性質

原因食品

潜伏期間

治療

黄色ブドウ球菌

毒素型

にぎり飯

3時間

対症療法、抗菌薬無効

腸炎ビブリオ

感染型

刺身

12時間

対症療法・キノロン

サルモネラ

感染型

食肉、卵、鶏卵

8~48時間

対症療法・キノロン

ボツリヌス

毒素型

いずし、辛子蓮根

12~36時間

催吐・全身管理

カンピロバクター

感染型

鶏肉、生乳

2~5日

マクロライド

ノロウイルス

感染型

貝類(カキ)

1~2日

対症療法

ロタウイルス

感染型

飲料水、食物

2日

対症療法

[妊娠の可能性]

 前々回の月経まで聴取することが重要です。最終月経、月経周期を聞きます。

 最終性行為の時期と避妊法の確認をします。患者本人が否定しても妊娠していることがあります。

[既往歴]

・嘔気嘔吐を来す疾患の既往はないか

・高血圧、心疾患、糖尿病、内分泌疾患、婦人科疾患はないか

・手術歴:虫垂炎の手術や帝王切開などしていないかを確認します。覚えていないこともありますので診察時に手術痕の有無を確認します。腹腔内手術の癒着により腸閉塞になっているかもしれません。胃や食道を摘出し、再建を行っている場合は再建方法を確認します。

・ダイエット、食事に対する嫌悪感、拒食症、過食症の確認

[薬剤歴]

お薬手帳の確認と実際の服用状況について確認します。体調によって、あるいは食事の摂取状況によって自己中断している薬はないか、また大量服薬や重複した内服処方はないかなども確認します。糖尿病患者が食事を摂取せずに内服、注射ができずに糖尿病ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖症候群を起こしている可能性もあります。

[社会歴]

・アルコールの摂取状況はどうか

有機溶剤と関わる職業ではないか。最近職場や自宅の海藻屋新築への引っ越しはなかったか、職場に同様の症状を訴える人がいないか確認します。

[旅行歴]

・国内外を問わず尋ねる。海外旅行していれば、細菌性赤痢コレラ、腸チフスも考慮します。温泉旅行でレジオネラ肺炎になることもあります。レジオネラ肺炎は腹部症状を伴うことがあります。

 

いかがでしたか。次回は『関節痛』の勉強を行います。