第88回 黒色尿、再生不良性貧血 ~診断と治療について考えよう~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。偏食と貧血、黄疸を伴う貧血について一緒に勉強しました。

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本日は、黒色尿、再生不良性貧血について一緒に勉強していきましょう。

 

勉強前の問題

① 黒色尿

② 再生不良性貧血

 

 

本日は血液内科疾患について勉強してみましょう。血液内科疾患は専門性が高く手を出しにくいと考えがちですが、実際どのような疾患を鑑別にあげ、治療を行っていけばよいか考えておく必要があると思います。今回は第四弾として赤血球の異常である黒色尿、再生不良性貧血について勉強しましょう。

 

88回 黒色尿、再生不良性貧血 ~診断と治療について考えよう~

 

本文内容は主に『レジデントのための血液教室 宮川義隆著』を参考に記載しています。この本はレジデント向けに書かれていますが、なんといっても読みやすいです。血液疾患の勉強の最初のとっかかりにしてみてはいかがでしょう。

レジデントのための血液教室〈ベストティーチャーに教わる全6章〉

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① 黒色尿

 日常診療で遭遇するような女性の肉眼的血尿は赤色であり、細菌性膀胱炎を疑います。患者がコカ・コーラのような黒色尿を訴えた場合は血管内溶血を強く疑います。

 血管内溶血を起こす疾患として寒冷凝集素症(CAD)と発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)があります。いずれも国の難病指定されている疾患です。

・診察のポイント

 非発作時の尿所見は正常であり、黒い尿を写真撮影し持参してきてもらうようにする。膀胱炎とは異なり下腹部の違和感や頻尿、残尿感は有りません。貧血が進行すれば動悸や息切れ、易疲労感などを訴えます。

PNHはウイルス感染症、妊娠、手術など補体経路が活性化するときに溶血発作を起こしやすいです。

CADの約半数に感染症マイコプラズマサイトメガロウイルス、EBウイルス)、膠原病悪性リンパ腫を合併します。CADに脾腫を合併すると悪性リンパ腫の合併を疑います。CADの患者は冷たいものに触れると指先の血流障害が起きて皮膚が青白くなり、痛みを伴います。これはPNHに認めない症状であり、鑑別診断に役立ちます。

・検査

【PNH】

 血算、網状赤血球増加、間接ビリルビン高値、LDH高値、血清ハプトグロブリン低値、クームス試験陰性、末梢血フローサイトメトリーでPNH血球(CD55/CD59陰性)増加。フローサイトメトリー検査を行えば不要であるが、赤血球の補体感受性亢進を調べる古典的な検査としてHam試験(酸素化血清溶血)砂糖水試験があります。尿中ヘモグロビントウロビリノーゲン、尿沈渣のへモジデリンは陽性となります。

【CAD】

 Hb低下、網状赤血球増加、寒冷凝集素高値、LDH高値、間接ビリルビン高値、血清ハプトグロブリン低値、直接クームス試験(IgG陰性、補体C3bが陽性)。CADでは基礎疾患の検索のためsIL-2R悪性リンパ腫)、マイコプラズマ抗体、抗核抗体を調べます。尿中ヘモグロビンとウロビリノーゲン、尿沈渣のヘモジデリンは陽性になります。

・鑑別診断

 貧血、間接ビリルビンLDHの高値があれば、溶血性貧血を疑います。補助診断として、網状赤血球の増加と血清ハプトグロブリン低値があればかなり疑わしいです。次に直接クームス試験が陽性であれば温式自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と診断します。AIHAでは尿の色が濃くなる(麦茶色)になることはあっても、黒色にはなりません。CADは直接クームス試験のうち、抗IgG抗体が陰性、補体C3d陽性であれば強く疑い、寒冷凝集反応陽性により診断が確定します。PNHはクームス試験陰性で、フローサイトメトリー検査でCD55/CD59抗原陰性の赤血球が好中球が1%以上に増えていれば診断が確定します。

・治療

 特発性CADの標準治療は寒冷暴露を避けることです。冬季には外に出かけない、夏場もクーラーが効いている場所を避けるといったことが推奨されます。二次性のCADは基礎疾患の治療により軽快します。

 PNHの軽症例は経過観察とします。貧血が進行したら赤血球輸血を行います。輸血依存になる場合には抗補体C5モノクローナル抗体製剤エクリズマブを開始すれば輸血が不要になります。

 

② 再生不良性貧血

 成人に発症する再生不良性貧血は後天性の造血不全症で、造血幹細胞が自己免疫の異常により破壊されることで発症します。先天性の再生不良性貧血であるFanconi貧血の国内患者数は約200名と極めて少ないです。再生不良性貧血の重症例では日和見感染による敗血症、血小板減少に伴う深部出血で致死的になることがあります。年齢と重症度により、治療は造血幹細胞移植、免疫抑制療法、輸血と造血因子製剤による支持療法から選択します。

・診察のポイント

 貧血症状、免疫不全に伴う感染症、出血傾向を確認します。貧血は眼瞼結膜の白色化に加え、立ちくらみ、労作時の息切れと動悸、疲れやすさを問診します。好中球が著しく減少するため細菌と真菌による感染症を合併しやすいです。口腔内と腟カンジダ症を確認します。発熱が続くようであれば、胸部聴診に加えて歯槽膿漏、肛門周囲膿瘍がないか精査を行います。

・検査

 血液検査(血液像、網状赤血球)、クームス試験、ビタミンB12葉酸、骨髄検査(穿刺、生検)、腰椎MRI検査。

・鑑別診断

 再生不良性貧血の診断は、二次性の造血不全を除外診断することから始まります。具体的には薬剤(抗がん剤、抗リウマチ薬、抗菌薬、抗てんかん薬、解熱消炎鎮痛薬)、放射線膠原病など血球減少を来す原因がないことを確認します。ビタミンB12葉酸を測定し、巨赤芽球性貧血をあらかじめ除外診断しておきます。

 初診外来で網状赤血球が著しく減少していれば再生不良性貧血の可能性が高く、骨髄生検(穿刺、生検)を行います。骨髄穿刺は脂肪髄のため吸引しても骨髄液を吸えないことが多いです。もしくは強い圧をかけて吸引すると健常人と比べて赤色の検体が得られます。骨髄検査の病理報告書には低形成骨髄または末梢血混入と書かれることが多いです。次に骨髄生検を行います。2cm程度の検体をしっかり採取すると、脂肪に置換された白い骨髄を肉眼で見ることができます。病理報告書で重度の造血不全、脂肪髄との記載があれば診断が確定します。

・治療

 40歳以下で、HLA一致同胞ドナーがいる重症例は造血幹細胞移植を行います。良性疾患のため成功率は9割と高いです。(急性白血病の移植後聴器生存率は4割にとどまります)

 移植ドナーがいない、もしくは40歳以上の中等症患者には、抗ヒト胸腺免疫グロブリン療法、免疫抑制療法(副腎皮質ステロイド、シクロスポリン)、造血因子(G-CSF製剤、トロンボポエチン受容体作動薬)を併用します。

 いずれの治療適応もない症例(例えば高齢者)は輸血による支持療法を行います。慢性疾患のため、輸血の開始基準はHb 7g/dL、血小板 5,000/μLとされますが、症状をもとにQOL改善のための治療目標を高めにしても良いとのことです。輸血依存例では鉄過剰症になることが多く、血性フェリチンが1,000 ng/mLを超えたら鉄キレート剤デフェラシロクス(ジャドニュ顆粒分包)を処方します。

 

いかがでしたか。次回は『赤芽球癆、無顆粒球症』の勉強を行います。