第116回 便秘症 ~どのような鑑別診断をあげますか?~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。動悸について一緒に勉強しました。
本日は、慢性下痢症ついて一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① 便秘症
② 器質性便秘
③ 機能性便秘
④ 便秘における直腸診の役割
⑤ 便秘薬
⑥ 消化器疾患と漢方
本日は臨床推論の勉強をしたいということで、臨床推論の本をもとに勉強を進めていきたいと考えています。実臨床ではどのように臨床推論を進めていけばいいのか、snap diagnosisだけでなくいろんな鑑別診断を上げながら、診断をしていけるように勉強していきましょう。
第116回 便秘症 ~どのような鑑別診断をあげますか?~
本文内容は主に『内科診断リファレンス 上田剛士著』を参考に記載しています。この本は臨床治験のエビデンスから鑑別診断を絞っていく方法が書かれており、わかりやすいです。特に症候学はもちろん各診療科についても書かれており勉強になります。是非読んでみてください。
① 便秘症
・便秘症の疫学
便秘の定義は主観的なものであるが、3日に1回の排便までは正常とすることが多いです。ただし、便秘には明確な定義はなく、便の回数が少なくなったり、硬くなったりすることで、快便ではない状態を指します。自称便秘の60%は毎日排便があるともされます。人口の5%で見られ、女性に2~3倍が多いと言われます。その理由として腹筋が弱いこと、羞恥心のため排便習慣が乱れやすいこと、胆汁酸分泌が少ないこと、黄体ホルモンが超完全道を抑制することがあげられます。
② 器質性便秘
まず除外すべきは大腸癌と腸閉塞です。50歳以上の便秘患者では2年未満の発症・進行性増悪・体重減少・貧血・便狭小化・腹部所見に特に注意します。全身疾患として薬剤、代謝性、便潜血陽性、腹部所見に特に注意します。全身疾患としては薬剤、代謝性疾患、神経疾患の3つを考えます。薬剤としては抗コリン薬、抗うつ薬、精神病約、モルヒネ、ビンカアルカロイド、Ca拮抗薬が重要です。代謝性疾患としては低K血症、高Ca血症、甲状腺機能低下症が重要です。神経疾患としてはParkinson病や自律神経障害、馬尾症候群が重要です。
③ 機能性便秘
便秘の多くは機能性便秘です。3大機能性便秘は、ストレスで腸管が動きすぎる若年者に多い痙攣性便秘では、腹痛・兎糞・間欠的な下痢が見られます。女性や高齢者に多い腸管運動の停滞する直腸性便秘は、弛緩性便秘と似ており合併も多いです。排便を我慢する習慣で発症し、直腸内に大量に糞便が存在するが便意を認めません。入院患者や旅行中では環境変化・生活変化による一過性単純性便秘がよく見られます。
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痙攣性便秘 |
弛緩性便秘 |
直腸性便秘 |
便性状 |
兎糞状または軟便 間欠的な便秘と下痢 粘液あり |
固く太い 持続的に便秘 粘液なし |
固い 一部、分割便 |
他の特徴 |
便意強い 腹痛あり 胃・結腸反射強い |
便意弱い 腹痛なし 胃・結腸反射弱い |
便意なし 弛緩性便秘と合併 直腸内圧が異常拡大、糞便残留 |
患者背景 |
若年者に多い 心理的要因強い |
高齢者・女性 浣腸・下剤乱用 腹壁筋力低下 |
度重なる便意の抑制 下剤・浣腸乱用 |
治療 |
浸透圧性下痢 →他の被刺激性薬剤 |
(浸透圧性下痢) →大腸刺激性薬剤 →腸管運動促進薬 |
新レシカルボン坐剤 浣腸・排便 |
④ 便秘における直腸診の役割
視診で自覚・裂孔、anal winkをチェックします。痔核、裂孔は疼痛による便貯留・二次性便秘を生じえます。触診で疼痛、直腸内便残留、腫瘤、肛門括約筋のトーヌスを確認します。努責をさせて腫瘤、肛門括約筋の子癇、恥骨直腸筋の後方移動を確認し、最後に付着便の性状と便潜血をチェックします。
⑤ 便秘薬
まずは排便習慣と食餌の指導をした上で下記の薬剤を選択します。
浸透圧性薬剤:酸化マグネシウムは腎不全患者以外では、副作用・耐性の問題から最も使用しやすい薬剤で、腸管運動に関わらず第一選択薬です。同様な薬剤でもマグコロールは即効性があり、薬物中毒や前処置に使用します。腎不全患者や単剤でコントロール不良な場合は、ベンコールの他、保険適用外ですが、D-ソルビトールやラクツロースなどが選べます。
大腸刺激性薬剤:腸管運動が弱い弛緩性便秘に対しては第1・2選択となりますが、痙攣性便秘では避けます。ラキソベロンが適度に調節しやすく刺激も少ないですが、錠剤を好む患者もいます。
腸管運動促進薬:大腸刺激性薬剤に効果は劣るため使用することは少ないです。痙攣性便秘(IBS)に対して、ガスモチンは効果が期待できます。
区分 |
代表商品名 |
効果発現 |
コメント |
浸透圧性 |
酸化マグネシウム |
8-10時間 |
腎不全で高Mg血症を来しうる |
マグコロール |
0.5-3時間 |
腎不全で高Mg血症を来しうる |
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D-ソルビトール |
24-48時間 |
腹部膨満を来しうる |
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浸軟性 |
ベンコール |
8-12時間 |
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大腸刺激性 |
7-12時間 |
腸管刺激薬の中では比較的緩徐に効いてくる |
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センナル |
8-10時間 |
作用強いが、耐性生じやすい。赤~橙色の尿がでる |
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大黄甘草湯 |
6-10時間 |
大黄=センナで長期使用で両者とも大腸melanosisを来す 甘草の作用で低K血症を来しうる |
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腸管運動促進 |
ワゴスチグミン |
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コリン作動薬で、コリン性クリーゼに注意 |
ベサコリン |
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コリン作動薬 |
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パントシン |
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効果は不明 |
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サイトテック |
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プロスタグランジンの作用を利用 |
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1-3日 |
5-HT4受容体アゴニスト |
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直腸刺激 |
新レシカルボン坐剤 |
5-30分 |
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グリセリン浣腸 |
15-60分 |
頻回の使用は避ける |
⑥ 消化器疾患と漢方
・六君子湯
上部消化管愁訴の改善に有効性が高く,医学的にも薬学的にも研究されている薬が六君子湯である.胃痛,胃もたれ,悪心,食欲不振など多くのディスペプシア症状に対して用いられます。虚弱な体質の高齢者に多い機能性ディスペプシア患者や,抑うつ・不安状態による上部消化管愁訴患者に有効です。六君子湯単独投与で食道運動機能を改善して症状を軽減します。
・半夏潟心湯
強い胃痛ではないが,心窩部のつかえ感、吐気、消化不良などの愁訴に半夏潟心湯は効果があります。特にストレスが起因の上部消化管症状によい適応があります。上部消化管愁訴だけではなく,下部消化管症状である腹鳴や下痢にも改善効果があります。半夏潟心湯は抗がん剤による吐気,下痢,口内炎に対して有効性が高く,がん患者のQOL向上に役立ちます。
・半夏厚朴湯
半夏厚朴湯は喉の違和感,異物感,つまり感を訴える咽喉頭違和感症やヒステリー球の症状緩和に有効です。この咽喉頭症状は,長期にストレスや不安状態が続いた患者に起こる場合が多く,健康状態や生活不安に悩む高齢者でしばしばみられます。
・大建中湯
機能性便秘や便秘型過敏性腸症候群など慢性便秘症の排便促進や症状緩和,パーキンソン病患者における排便促進効果などが報告されています。
・潤腸湯
潤腸湯も便秘症に用いられる漢方薬です。大建中湯は慢性便秘症に有効ですが,病悩期間が長期で重症化した患者や,既に刺激性下剤を連用して大腸平滑筋収縮が低下している患者には効果が薄いことがあります。そのような症例に,刺激成分である大黄の含有量が1日量2.0 gと比較的少なく,便を軟化させる作用もある潤腸湯が有効である場合が多です。
(Geriatric Medicine Vol.57 No.62019-6)
いかがでしたか。次回は『急性腸管虚血』の勉強を行います。