第77回 重症肺炎・ARDS ~ARDSに特別な治療は必要なのか?~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回はCOPDについて一緒に勉強しました。
本日は、重症肺炎・ARDSについて一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① 酸素療法 ~流量を意識する~
② 重症患者の気道管理 ~循環にも注意する~
③ ARDSの診断
④ ARDSの治療 ~人工呼吸以外編~
⑤ ARDSの治療② ~人工呼吸器編~
⑥ 人工呼吸器の設定と調節 ~換気と酸素化に分けて考える~
- ① 酸素療法 ~流量を意識する~
- ② 重症患者の気道管理 ~循環にも注意する~
- ③ ARDSの診断
- ④ ARDSの治療 ~人工呼吸以外編~
- ⑤ ARDSの治療② ~人工呼吸器編~
- ⑥ 人工呼吸器の設定と調節 ~換気と酸素化に分けて考える~
重症肺炎やARDSという疾患は皆さんもなじみがあると思います。この疾患にかかって亡くなっていく患者さんはかなり多く、どの病院でも必ず内科の先生は見る疾患であると考えます。一緒に勉強していきましょう。
第77回 重症肺炎・ARDS ~ARDSに特別な治療は必要なのか?~
本文内容は主に『Dr竜馬のやさしくわかる集中治療 循環・呼吸編』を参考に記載しています。田中竜馬先生の教科書は非常に読みやすく明快な本が多くいつも出版されるとすぐに手を付けてしまします。救急医療やICU管理の教科書がたくさん出ていますので是非読んでみてください。
Dr.竜馬のやさしくわかる集中治療 循環・呼吸編〜内科疾患の重症化対応に自信がつく!
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① 酸素療法 ~流量を意識する~
酸素療法の種類には低流量システムと高流量システムがあります。
1, 低流量システム
1) 鼻カニューレ
鼻カニューレ1~5L/分の酸素を投与する。
1L/分ならFiO2は24%
2L/分ならFiO2は28%
3L/分ならFiO2は32%
5L/分異常では鼻粘膜の乾燥や不快感を起こします。
ただし、低流量システムでのFiO2はあくまでも目安で、容易に変化します。
2) マスク
マスクでは酸素流量は5L/分以上に設定します。これは患者さんの呼気を再吸入しないための最低限の量といわれています。
3) リザーバーマスク
10~15L/分で酸素を流すとFiO2は60~90%になるといわれています。リザーバーマスクを使えば100%に近いFiO2を達成できると考えがちですが、実際のFiO2は60~90%程度です。
2, 高流量システム
1) ベンチュリマスク
患者さんが吸う息をすべて提供する。
呼吸回数が30回/分を超えるような場合、ベンチュリマスクによる流量は足りない
2) high-flow nasal oxygen
最大60L/分という高流量で流しても不快感がありません。
FiO2を正確に知ることができます。
② 重症患者の気道管理 ~循環にも注意する~
重症患者の気道管理を行う際には以下のような循環に対する注意が必要です。
・重症患者では、気管挿管+人工呼吸器導入の後に低血圧になることが多い
・重症患者の気管挿管では、循環の治療もできるように準備しておく
・重度の低酸素血症は挿管困難のリスク因子と考えて、準備しておく
③ ARDSの診断
・ARDSの定義
ARDSの定義は2012年のベルリン定義です。以下にその定義を示します。
ベルリン定義 |
|||
発症 |
ARDSの原因から1週間以内 |
||
画像 |
両側浸潤影 (胸水、肺虚脱、結節影では説明がつかない) |
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肺水腫の原因 |
心不全、循環血液量過剰では説明のつかない呼吸不全 (ARDSの原因が不明なら、心エコーなどの客観的心機能評価が必要) |
||
酸素化 |
軽症 200<P/F≦300 |
中等症 100<P/F≦200 |
重症 P/F≦100 |
(PEEPまたはCPAP≧5 cmH2Oにて) |
・ARDSの原因
ARDSとは様々な原因によって引き起こされる肺障害に共通する最終的な病態像です。肺障害を引き起こす原因には多数あり、現在までにARDSの原因として60以上報告されています。その中でも頻度が高いものとして、肺炎、誤嚥、敗血症です。
|
直接傷害 |
関節傷害 |
頻度の高いもの |
・肺炎(細菌、真菌、ウィルス、非定型) ・胃内容物の誤嚥 |
・敗血症 ・胸部以外の重度の外傷や熱傷(特にショックと大量輸血を伴う場合) |
頻度の低いもの |
・重度の胸部外傷 ・脂肪塞栓 ・溺水 ・吸入障害(煙、酸素、塩素、ホスゲンなど) ・再潅流肺水腫(肺移植や肺塞栓摘出術後) |
・心肺バイパス術 ・大量輸血(通常15単位以上) ・薬物中毒(アヘン剤、パラアルデヒド、パラコートなど) ・急性膵炎 ・輸血関連急性肺障害(TRALI) ・播種性血管内凝固(DIC) |
・ARDSの鑑別
ARDSの鑑別として同じく肺が白くなるものとして、急性間質性肺炎(AIP)、急性好酸球性肺炎(AEP)、特発性器質化肺炎(COP)、びまん性肺胞出血(DAH)、急性過敏性肺臓炎などがあげられます。検査として気管支肺胞洗浄や肺生検を追加して鑑別します。
④ ARDSの治療 ~人工呼吸以外編~
ARDSの治療方針
特異的な治療はありません。以下の3つを行いましょう。
1, 原疾患を同定・治療
2, 呼吸に対する補助
3, 予防・補助的治療
輸液についてですが、ARDSの肺水腫の原因は血管透過性の亢進です。心不全による肺水腫は静水圧の上昇によるものですが、それと比較して血管透過性の亢進の場合は輸液を投与するようにします。そして、血行動態が安定すれば輸液を絞り気味にするようにします。
アルブミンですが、ARDSに対するRCTの結果では両群間の死亡率、人工呼吸日数に有意差はないという結果になっています。つまり現時点では有効性は見いだせていない状態です。
⑤ ARDSの治療② ~人工呼吸器編~
ARDSのように胸部X線で白くなる肺の特徴です。コンプライアンスが低いと人工呼吸器を使うと高い圧が必要になります。シャントがあり重度の低酸素血症を引き起こします。
人工呼吸器の設定
・人工呼吸器は肺を傷つけないように使う
1回換気量 6~8 mL/kg(ARDSでは6 mL/kg)、プラトー圧≦30 cmH2O
・プラトー圧=吸気終末の肺胞内圧
・人工呼吸器は診断にも使える
ピーク圧↑、プラトー圧→ ➡気道抵抗上昇
⑥ 人工呼吸器の設定と調節 ~換気と酸素化に分けて考える~
1, 1回換気量・呼吸回数の設定
1回換気量の目安は以下の設定を用います。ただし、体重は理想体重で計算します。
理想体重は
男性:50+0.91✕(身長cm-152.4)
女性:45+0.91✕(身長cm-152.4)
呼吸回数の目安も以下の表のとおりです。
原則として、換気は1回換気量、呼吸回数で、酸素化はFiO2, PEEPで調節します。
病態・疾患別の1回換気量と呼吸回数の目安
病態・疾患 |
1回換気量(mL/kg) |
呼吸回数(回/分) |
①気道確保、神経筋疾患 |
6~8 |
10~16 |
②肺炎、肺水腫 |
16~24 |
|
③喘息・COPD急性増悪 |
8~12 |
|
④ARDS |
6 |
~35 |
2, 換気・酸素化の目標
血液ガスを正常にするのを目標にしないようにしましょう。以下の数値を目標に設定しましょう。
換気→重症ならpH>7.2を保てればOK(高二酸化炭素許容人工換気)
酸素化→PaO2 60~80 mmHg, SaO2(SpO2) 90~95%
いかがでしたか。次回は『DKA・HHS』の勉強を行います。