第86回 スポーツ貧血、鉄過剰症 ~診断と治療について考えよう~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は鉄欠乏性貧血、慢性疾患に伴う貧血について一緒に勉強しました。

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 本日は、スポーツ貧血、鉄過剰症について一緒に勉強していきましょう。

 

勉強前の問題

① スポーツ貧血

② 鉄過剰症

 本日は血液内科疾患について勉強してみましょう。血液内科疾患は専門性が高く手を出しにくいと考えがちですが、実際どのような疾患を鑑別にあげ、治療を行っていけばよいか考えておく必要があると思います。今回は第二弾として赤血球の異常であるスポーツ貧血、鉄過剰症について勉強しましょう。

 

86回 スポーツ貧血、鉄過剰症 ~診断と治療について考えよう~

 

本文内容は主に『レジデントのための血液教室 宮川義隆著』を参考に記載しています。この本はレジデント向けに書かれていますが、なんといっても読みやすいです。血液疾患の勉強の最初のとっかかりにしてみてはいかがでしょう。

レジデントのための血液教室〈ベストティーチャーに教わる全6章〉

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① スポーツ貧血

 スポーツ選手の貧血は、健常人と比べて男女ともに2倍多い。その主な原因は汗から鉄が失われる鉄欠乏性貧血です。アイススケート長距離走、新体操選手は体が軽い。食事制限は鉄不足になりやすく、理想は食餌の見直しですが、鉄を含むサプリメントまたは補助食品の利用も行われています。このこともあり欧米のシリアル、乳製品には鉄、ビタミン剤が制作的に強化されています。

 長距離選手においては少量の消化管出血と足裏の血管内での振動により赤血球が破壊されて溶血を起こすこと(行軍ヘモグロビン尿症)が貧血の原因になることが知られています。

・診察のポイント

 問診で貧血症状を確認します。スポーツ選手といえども、貧血がすすめば、動悸、息切れ、めまい、立ちくらみを感じます。それに加えて記録が伸びないことから気がつくことも多いです。貧血に加えて、味覚障害、脱毛、口内炎があれば亜鉛欠乏を疑います。

・検査

 ヘモグロビン低値、血清フェリチン低値があれば、鉄欠乏性貧血と診断します。初期は正球性貧血ですが、慢性経過とともに小球性貧血となる。

・鑑別診断

スポーツ貧血の多くは血清ヘモグロビンとフェリチンが低値となる鉄欠乏性貧血であるが、亜鉛欠乏症の合併についても鑑別をすすめます。長距離走の選手においける溶血性貧血は行軍ヘモグロビン尿症と呼ばれ足裏の物理刺激により血管内溶血が起き、重症例では尿が赤くなる。

・治療

 食事療法が基本です。鉄欠乏性貧血であれば、鉄剤の内服を開始します。約4週間ではヘモグロビンは上昇し始めますが、スポーツ選手の鉄喪失は一般人よりも多く、フェリチン値の正常化には数ヶ月かかることもあります。安易な鉄剤の静脈内注射をしてはいけない

 

② 鉄過剰症

 再生不良性貧血、骨髄異形成症候群などの骨髄不全で輸血依存の患者に鉄過剰症が起きやすい。赤血球輸血量が20単位以上、かつ血清フェリチン500 ng/mL以上を鉄過剰症と診断します。1年以上の余命が期待できる症例は、血性フェリチン1000ng/mL以上であれば鉄キレート剤を始めます。

 人体が1日に排泄できる鉄は1 mgとされます。赤血球製剤1単位には鉄100 mgが含まれており、繰り返す輸血により鉄過剰症となります。体内に蓄積した過剰な鉄は各臓器に蓄積し、線維化が進みます。影響を受けやすい臓器として、皮膚、肝臓、心臓、内分泌腺があり、症状は皮膚の色素沈着、肝硬変、心不全、糖尿病と下垂体機能低下です。

・診察のポイント

 基礎疾患による貧血症状(めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ)があります。鉄過剰症が進行すると皮膚の色素沈着(茶褐色、重症例では緑色)、肝硬変による浮腫と出血傾向、心不全による浮腫、糖尿病合併症(しびれ、立ちくらみ、皮膚潰瘍)などを認めます。下垂体機能が低下すると、低体温、低血糖、活力の低下などを伴います。

 過去の総赤血球輸血量を確認します。20単位以上は鉄過剰症になる危険性が高く、40単位以上は鉄キレート剤が必要になる可能性が高いです。

・診断と治療開始基準

 総赤血球輸血量20単位以上で、血清フェリチン500 ng/mL以上であれば、鉄過剰症です。総赤血球輸血量40単位以上で、血清フェリチン1,000 ng/mL上であれば、鉄キレート療法を開始します。

・治療

 鉄キレート剤であるデフェロラシロクス(ジャドニュ顆粒)を検討します。1日当たり約12000円という高額な薬剤です。国内ではデフェロキサミン(デスフェラール)注射剤があるが、半減期が数時間と短く、毎日投与しないと治療効果は乏しいです。そのため、デフェロラシロクスが実用化されてから使われる機会が少なくなりました。

 

いかがでしたか。次回は『偏食と貧血、黄疸を伴う貧血』の勉強を行います。