第15回 女性特有の疾患の対応 ~産婦人科の先生。助けて~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は女性の腹痛について勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

 本日は女性特有の疾患について一緒に勉強していきましょう。今回の記事に関しては『女性の救急外来ただいま診断中!(井上、柴田編)』をもとに記載しています。滅茶苦茶読みやすく勉強になる本なので精読あれ。

勉強前の問題

 ① 月経困難症

 ② 妊婦のRed Flag sign

 ③ 妊婦の発熱で除外すべき2疾患

 ④ 子宮瘤膿症・卵管瘤膿症

 ⑤ 性感染症へのアプローチ1(クラミジアスクリーニング)

 ⑥ 性感染症へのアプローチ2

 救急で若い女性が来院したら、『妊娠の可能性はありますか』と聞いて『わかりません』となるとCT画像も撮れないしなぁ、、となり、産婦人科の先生にすぐにコンサルトといった感じの先生もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

15回 女性特有の疾患の対応 ~産婦人科の先生。助けて~

 

① 月経困難症

 救急外来では月経困難症は除外診断です。必ず、異所性妊娠、切迫流産、卵巣出血、卵巣嚢腫茎捻転を除外しましょう。それでも、診断がつかないときに月経困難症を考えましょう。月経困難症は、器質的と機能的困難症に分類されます。器質的とは子宮内膜症、筋腫機能的とは子宮、卵巣に問題ない場合を言います。

 

    月経との違いですが、機能性子宮出血は破綻出血とも言われ、エストロゲンプロゲステロンのアンバランスによって起こるとされています。エストロゲンをレンガ、プロゲステロンをセメントに例えると、レンガとセメントの供給がアンバランスであることにより、形成した地盤が崩れて破綻出血をきたします。

 

月経困難症と診断した場合は、以下の対応を行います。

0) 非薬物治療

 ホットパック(39℃)、ツボ押し、電気刺激、リラクゼーション、禁煙などがあり、エビデンスも証明されています。

1) 初期対応

 ロキソプロフェンなどのNSAIDsを内服し、しばらく経過観察とする。NSIADsはプロスタグランジンの産生を抑制します。プロスタグランジンは発痛物質、子宮収縮促進作用があり痛みを起こします。NSAIDsを飲む場合は痛みが生じるよりも予め飲むほうが良いとされます。NSAIDsで軽快しない場合は必ず他の疾患を疑う(PIDなど)

2) 不正性器出血

 不正性器出血を止めるためにはメドロキシプロゲステロン 100mg✕10日間内服してもらうと、その後しばらくして消退出血を認めます。メドキシプロゲステロンは副作用が少なく使用しやすい。脳梗塞、DVT、心筋梗塞のリスクは上がらないとされている。

 3) 月経痛の改善のために

 OC 経口避妊薬、LEP ホルモン剤を用います。エストロゲン低用量とプロゲステロン低用量製剤で、効果としては月経量を少なくし、月経痛を軽減します。機序はレンガとセメントを少量ずつしか用いないので、形成される地盤が小さくなるからです。

1相性と3相性のものがあります。1相性のほうが効果が高いとされており、ルナベル(ノリニール、シンフェーズ)、ヤーズがあります。

 添付文書上は原則1日目から飲むとなっていますが、妊娠がないと断言できれば、いつから始めても大丈夫です。21日間連続して飲んで、7日間休む。休薬期間中に消退出血が起きます。副作用が多いため、開始前に低用量ピル初回時問診チェックシートを用います。

 日本産科婦人科学会HPより

 http://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/jigyo/JYOSEI/PILL/doctor/sheet.pdf

 *喫煙者、高血圧の患者には禁忌です。気をつけてください。

 低用量ピルの副作用として、3ヶ月以内に消失する軽症なものと、重篤な副作用があります。

 軽症な副作用として、不正性器出血、頭痛、悪心、浮腫がありますが、3ヶ月以内に消失します。重篤な副作用として1年以内に、血栓症が起こる可能性があります。以下のACHESを確認しましょう。

 OC/LEP服用時の静脈血栓塞栓症の症状 ”ACHES”

  A ;abdominal pain

       C ;chest pain

       H ;headache

       E ;eye/ speech problem

       S ;severe leg pain

      OC/LEPの併用注意薬→抗てんかん薬、抗結核薬、HIV治療薬

 

② 妊娠中のコモンプロブレム

  妊婦のRed Flag sign

  1,子宮収縮;下腹部の痛み、生理痛のような絞られる痛み

  2,破水感   ;水が流れ出る感じ、水溶性帯下の増加

  3,性器出血;付着程度の少量であっても一度産科に診察を依頼したほうが良い

  4,胎動減少;30分以上全く胎動を感じない場合は異常と考える

 

③ 妊婦の発熱で除外すべき2疾患

1、絨毛膜羊膜炎

 絨毛膜羊膜炎は膣内の細菌などが子宮内に侵入し絨毛膜や羊膜に感染が及んだ状態。胎児感染のリスクと早産のリスクがある。子宮内感染が疑われた場合は、早期に分娩誘発や帝王切開をすることもある。

2,劇症型溶血性連鎖球菌感染症

 妊婦・褥婦はGASの感染リスクが高く、急激に進行する。集学的治療を行っても敗血症性ショック、DICから母体の・胎児死亡に至る可能性が高い。

治療は、本疾患を疑った段階から抗菌薬大量投与による初期治療を介することが極めて重要

 ビクシリン(ABPC) 2g✕6回/日+クリンダマイシン(CLDM) 600~900 mg✕3回/日

 スクリーニング陽性妊婦に対する妊娠中の抗菌薬投与は新生児GBS感染の予防に成果を上げることができなかったとのこと。これは治療しても容易に再感染が起きるため、分娩時の保菌率をコントロールすることができなかったためです。ですので、分娩時の新生児感染予防には母体に抗菌薬を投与してから分娩まで少なくとも4時間は経過していることが望ましく、薬剤の投与は分娩進行時よりできるだけ早期に開始します。

 

④ 子宮瘤膿症・卵管瘤膿症

 寝たきりなどの高齢者で, focus不明の熱源として子宮・卵管流膿症が原因のことがある。無症状のことがある。膣からの上行感染が主な感染経路です。子宮内、卵管内に膿が溜まった状態で超音波やCTで見つかることがある。

 治療は、膿汁ドレナージが基本ですが、以下の選択肢があります。

  1,抗菌薬のみで対処する場合

    アンピシリン・スルバクタムなどの嫌気性菌カバーできる抗菌薬を選択する。

  2,子宮口からドレナージを行う場合

  3,手術を行う場合

    子宮口からのアプローチの場合は穿孔の危険性があるため気をつける。

 

⑤ 性感染症へのアプローチ(クラミジアスクリーニング)

 10代女子の性交渉経験者はリスクが高いと言われている。PID、卵管炎のリスクも上がるためできるだけクラミジアのスクリーニングをしましょう。尿検体によるクラミジアのスクリーニングは頸管粘液とほぼ同じく感度 93%、特異度 99%です。尿検査でも十分に対応できます。

 陽性なら、アジスロマイシン1000mg投与し、1週間の禁欲を指示し3~6ヶ月後に再検査を行います。

 再検査でも陽性反応であれば再感染と考えてアジスロマイシン1000mg投与。他のSTIも検査します。検査項目は、淋菌、梅毒HBVHCVHIV、トリコモナスです。

  (参考;ケアネットTV 女性のミカタ)

 

⑥ 性感染症へのアプローチ2

 1)性感染症の症状

 淋菌、クラミジアはともにほぼ無症状。

 症状として、帯下増加、匂いの変化、不正性器出血、下腹部痛、会陰部不快感

2)性感染症の検査

 内診しなくても、尿検査、自己検査で可能

3)治療

 淋菌の耐性化に注意。ニューキノロン系は使えない。

  クラミジア:アジスロマイシン1 g単回投与

  淋菌          :セフトリアキソン1 g静脈注射、単回投与

  同時感染は10%程度なので、同時治療も考慮

ポイントは以下の三点。

 ・パートナーの治療(過去60日位以内のパートナーの治療)

 ・治療終了まで行為は控えるか、コンドームの使用(治療期間7日間)

 ・治療後再検査(治療完了から3週間後に再検査)

 

理解度チェック(女性特有の疾患)

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 1,月経困難症の初期対応は?

 2,静脈血栓塞栓症の症状 ”ACHES”とは?

 3,妊婦の発熱で除外すべき2疾患は?

 4,劇症型溶血性連鎖球菌感染症はなぜ怖い?

 5,子宮瘤膿症・卵管瘤膿症の治療は?

 

 Ans. 1NSAIDs処方

     2 本文参照してください。

             3 絨毛膜羊膜炎、劇症型溶血性連鎖球菌感染症

             4 急速に進行し死亡する場合がある

             5 膿汁ドレナージが基本

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いかがだったでしょうか。次回は妊婦さんとくすりの勉強をしたいと考えています。