第94回不明熱の鑑別診断、1ヶ月の発熱+リンパ節腫大 ~鑑別診断と治療について考えよう~

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 こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。汎血球減少、好塩基球増多症について一緒に勉強しました。

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 本日は、不明熱の鑑別診断、1ヶ月の発熱+リンパ節腫大について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

① 不明熱の鑑別診断

② 1ヶ月の発熱+リンパ節腫大

 

本日は血液内科疾患について勉強してみましょう。血液内科疾患は専門性が高く手を出しにくいと考えがちですが、実際どのような疾患を鑑別にあげ、治療を行っていけばよいか考えておく必要があると思います。今回は第十弾として不明熱の鑑別診断、1ヶ月の発熱+リンパ節腫大について勉強しましょう。

 

94回不明熱の鑑別診断、1ヶ月の発熱+リンパ節腫大 

       ~鑑別診断と治療について考えよう~

 

本文内容は主に『レジデントのための血液教室 宮川義隆著』を参考に記載しています。この本はレジデント向けに書かれていますが、なんといっても読みやすいです。血液疾患の勉強の最初のとっかかりにしてみてはいかがでしょう。

レジデントのための血液教室〈ベストティーチャーに教わる全6章〉

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① 不明熱の鑑別診断

 血液培養、CTを含む画像検査で異常がないと紹介を受けても感染性心内膜炎、HIV感染症、リンパ節炎、腫瘍、がん、膠原病を見落としていることがあります。

・診察のポイント

 不明熱の3大原因は、感染症、がん、膠原病です。固形がんに発熱を伴うことは稀であり、悪性リンパ腫(ホジキンリンパ腫、びまん性大細胞型Bリンパ腫)、キャッスルマン病を疑ったら、表在性リンパ節と脾臓腫大を確認します。

 頸部リンパ節が腫れている不明熱患者において、リンパ節の圧痛があれば壊死性リンパ節炎を疑います。痛みなく、ゴムボールのような弾力があれば悪性リンパ腫、キャッスルマン病、結核性リンパ節炎を疑います。妊娠可能な女性で微熱、吐き気、食欲低下があれば妊娠を疑い最終月経と性体験の有無を問診して妊娠反応検査を案内する。

 膠原病の鑑別診断として、発熱に加えて日光過敏症、関節炎、皮疹などがあればSLE、口内炎と陰部潰瘍などがあればベーチェット病を疑います。成人発症Still病はスパイク状の高熱が連日続き、他の膠原病、がん、感染症の除外をもとに診断します。発熱時にピンク色の皮疹がでるのが特徴です。

 感染性心内膜炎の典型例は、歯科治療を受けて口腔内の常在細菌が僧帽弁に疣贅を作り、高熱の原因となるものです。聴診で心雑音を聴取でき、血液培養でグラム陽性球菌が検出されます。不明熱の原因となる膿瘍の部位は、腹腔内、後腹膜(腸腰筋)、歯槽です。単純CTでは膿瘍の診断がつかないことが多く、造影検査を行います。

・検査

 不明熱の3大原因である感染症、がん、膠原病の検査をすすめます。感染症については問診(時期、渡航歴、熱型、随伴症状)、画像検査、培養検査(血液、痰、尿)を行います。がんはCT検査、内視鏡検査を必要に応じて行います。膠原病は、抗核抗体、特異抗体を提出します。

・鑑別診断

 感染症、がん、膠原病を鑑別します。原因がわからないまま副腎皮質ステロイドを始めてはいけません。原因がわからなくなるばかりか細菌感染症が隠れている場合は病状が悪化する危険性があります。性生活についても問診が必要となります。妊娠に加えて同性間性交渉と不特定多数のパートナーがいる場合はHIV感染症のリスクを考慮します。診断が難しい疾患として、骨髄炎、血管内リンパ腫があります。骨髄炎は血液培養と造影MRI検査で精査します。血管内リンパ腫は、悪性リンパ腫腫瘍マーカーsIL-2Rの異常高値、脾臓と肝臓の腫大、血球貪食症候群を合併します。ランダム皮膚生検で血管内に大型の異型リンパ球を見つけることにより確定診断に至ります

・治療

 感染性心内膜炎と膿瘍に対しては抗菌薬を開始します。結核には抗結核薬、HIV感染症とAIDSには抗HIV治療薬を投与します。膠原病は副腎皮質ステロイドを開始後、数日以内に解熱します。悪性リンパ腫には化学療法を行います。ホジキンリンパ腫の生命予後は良好で化学療法のみで9割は長期生存を期待できます。キャッスルマン病にはIL-6受容体に対する抗体医薬品トシリズマブ(アクテムラ)が有効です。

 

② 1ヶ月の発熱+リンパ節腫大

 血液がんで最も多い病気が悪性リンパ腫です。そのうち9割は高齢者に多い非ホジキンリンパ腫であり、残りの1割が若年者にも発病するホジキンリンパ腫です。いずれも発熱、リンパ節腫大をきっかけに診断に至ることが多いです。化学療法の進歩により長期生存が期待できる疾患であり診断と専門医への紹介を急ぎます。

・診察のポイント

 悪性リンパ腫を疑う場合、全身を診察し、リンパ節と脾臓が腫れていないかを確認します。圧痛があれば、ウイルス感染による頸部リンパ節炎を疑います。一方、悪性リンパ腫によるリンパ節はゴムボールのような弾力があり、圧痛はなく可動性があります。咽頭原発であれば扁桃腺の腫大、副鼻腔に病変があれば副鼻腔炎症状を示します。

 造影CT検査と身体所見から大きさ2cm以上の表在リンパ節を選び、外科医にリンパ節生検を依頼します。ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫の一部は、発熱、体重減少、当館を合併することがあり、この場合は腫瘍量が多いと考えられます。

・検査

 特異的な検査項目はないが、悪性リンパ腫患者の多くで増加する腫瘍マーカーsIL-2Rが参考になります。sIL-2Rはリンパ球の活性化を反映するため、感染症膠原病、固形がんでも上昇することに注意します。悪性リンパ腫の増殖が早いとLDHが高値になることがあります。確定診断のためにはリンパ節生検が必要になります。鼠径リンパ節は健常人でも1cm程度に腫れていることがあります。診断には他の表在リンパ節を使用しましょう。悪性リンパ腫と診断されたら病期診断のための骨髄生検と腰椎穿刺を行います。頭部画像検査は、中枢原発悪性リンパ腫を疑わなければ必須ではないです。

・鑑別診断

 不明熱であれば、感染症膠原病、がん、薬剤熱などの鑑別診断となりますが、リンパ節腫大がある場合は、悪性リンパ腫、がん、結核、サルコイドーシスなどの鑑別を進めます。結核は胸部X線とT-SPOT検査により調べます。サルコイドーシスは両側肺門部リンパ節腫大、脾臓に加えて、血清ACE高値が参考となります。造影CT検査でリンパ節内部が低信号(壊死)となっている、あるいは結核の既往患者は結核性リンパ節炎を強く疑う。岩のように固くて、表門がゴツゴツしているリンパ節は固形腫瘍の転移を疑います。

・治療

 地域医療において血液内科がいない一般病院は多いが血液専門医と連携して化学療法を行うことは可能です。国内で最も多いびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫には、R-CHOP(抗体医薬リツキシマブとシクロフォスファミドの併用)レジメンを行います。低悪性度リンパ腫の場合、脱毛と心毒性がないBR(ベンダムスチン、リツキシマブ)レジメンを選択します。病期により化学療法の回数を減らして、放射線治療を併用することもあるので、血液専門医、放射線専門医と相談します。

 

いかがでしたか。次回は『血液がん患者の緩和医療、病的骨折の予防と疼痛管理』の勉強を行います。