第14回 女の子の腹痛の救急対応 ~産婦人科の先生。助けて~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。
前回は、頭痛について勉強しましたね。
今回は救急対応の勉強を少し休みにして、女性の腹痛について一緒に勉強していきましょう。今回の記事に関しては『女性の救急外来ただいま診断中!(井上、柴田編)』をもとに記載しています。滅茶苦茶読みやすく勉強になる本なので精読あれ。
勉強前の問題
① 女性の腹痛の問診。まずは、、、?
② 女性の腹痛の鑑別は?
③ 異所性妊娠について
④ 卵巣嚢腫茎捻転について
⑤ 卵巣出血について
⑥ PIDについて。また、虫垂炎との鑑別
⑦ Fitz-Hugh-Curtis症候群について
⑧ 緊急避妊について
- ① まずは、女性を見たら、、、
- ② 次は、Ret Flagの有無を確認。
- ③ 女性の腹痛における鑑別
- ④ 異所性妊娠
- ⑤ 卵巣嚢腫茎捻転
- ⑥ 卵巣出血
- ⑦ 骨盤内炎症性疾患(PID)
- ⑧ Fitz-Hugh-Curtis症候群
- ⑨緊急避妊(EC)
- 理解度チェック(女性の下腹部痛)
救急で若い女性が来院したら。『妊娠の可能性はありますか』と聞いて『わかりません』となると終了って先生もいらっしゃるかもしれません。今回は女性の腹痛について一緒に学んでいきましょう。
第14回 女の子の腹痛の救急対応 ~産婦人科の先生。助けて~
① まずは、女性を見たら、、、
まずは、妊娠の可能性の有無から。
患者さんは妊娠していることに気づかないこともあります。そのため必ず質問をするようにします。
もう皆さんも耳タコのフレーズですね。もし疑わしければ、妊娠反応検査を行いましょう。検査前の確認事項などを③で扱っています
また、問診事項については産婦人科特有の問診があります。以下に記します。
問診
月経 初経・閉経の年齢、最終月経、月経周期と期間(整・不整含めて)、月経痛・月経量、
婚姻歴
妊娠歴(G_P_、自然妊娠、人工授精)
これらに関しては、女性に関して特有かと考えます。確認しましょう。
(参考)
正常月経の定義
初経発来時期 :12歳前後(早発月経:10 歳未満、遅発月経15歳以上)
周期 :25~38日(頻発月経:24日以内、稀発月経39日以上)
出血持続期間 :3~7日間(過短月経:2日以下、過長月経8日以上)
出血量 :20~140mL(ナイト用ナプキンを1時間おきに換えるのは過多月経)
随伴症状 :なし~軽度
② 次は、Ret Flagの有無を確認。
以下の4つのRed flagがあった場合は必ず産婦人科の先生にコンサルトしましょう。
妊娠反応陽性の腹痛・出血 →異所性妊娠、切迫流産
突然発症の下腹部痛+超音波で腫瘤 →卵巣嚢腫茎捻転
持続する下腹部痛+超音波で腹腔内出血 →卵巣出血
性活動のある女性の帯下異常+発熱+下腹部痛 →PID・STD
③ 女性の腹痛における鑑別
1,妊娠検査が陽性なら
異所性妊娠・切迫流産
2,妊娠検査陰性の場合は経腹超音波でFASTを行って鑑別する。
FAST陽性なら →卵巣出血
FAST陰性+腫瘤なら →卵巣嚢腫茎捻転・筋腫変性
3,妊娠検査陰性+発熱ありなら
PID・STD・筋腫変性・卵巣卵管膿瘍
また、腹痛の部位からの鑑別も考えましょう。
右下腹部:卵巣腫瘍破裂、異所性妊娠、卵巣腫瘍茎捻転、PID、排卵痛
左下腹部:卵巣腫瘍破裂、異所性妊娠、卵巣腫瘍茎捻転、PID、排卵痛
両側同じ疾患のリスクですね。
(レジデントノート Vol.14 No.16(2月号)2013)
④ 異所性妊娠
異所性妊娠のリスク因子は?
a.異所性妊娠の既往、b.卵管結紮術後、c.子宮内避妊器具の使用、d.不妊、e.PIDの既往歴、f.複数の性的パートナー、g.喫煙、h.腹部手術歴など。
異所性妊娠を疑う症状は?
月経異常、性器出血、下腹部痛
妊娠反応検査について
妊娠反応検査は自費で2000~3000円かかる。妊娠反応検査は前回の月経から次の月経開始頃には妊娠していれば、基本的には陽性となる。可能であれば経腟エコーで子宮内胎嚢構造を確認する。
生殖補助医療による妊娠の場合は内外同時妊娠の確立が上昇するため注意が必要。
⑤ 卵巣嚢腫茎捻転
・症状;突然発症の変速の下腹部の激痛(持続痛)。悪心、嘔吐を伴う。
・リスク因子;5cm以上の卵巣嚢腫があること。妊婦にも多く、閉経後は発症率が下がる。
・要因;性行為や激しい運動がきっかけで捻転することがある
→夜中の救急室に激痛で救急車で運ばれてくることが多い
・診察;妊娠反応検査が陰性を確認し、経腹超音波で痛みの部位に腹腔内腫瘤を確認する。
・治療;緊急手術による捻転解除
参考)卵巣腫瘍破裂
卵巣腫瘍破裂は、無症候のことも多いが、典型的には性交や激しい運動後に起こる片側性の下腹部痛です。軽度の性器出血を伴うこともあるが、ショックとなることはまれです。(レジデントノート Vol.14 No.16(2月号)2013)
⑥ 卵巣出血
・症状;急性発症の持続する下腹部痛(鈍痛)
・月経周期;黄体期に多い(最終月経から15-28日[卵胞が育ってきた頃]に発症した腹痛)
・要因;性行為や激しい運動がきっかけになることがある。病歴聴取は難しいね。
・診察;妊娠反応検査が陰性を確認し、経腹超音波にて腹腔内に出血を認める
・治療;バイタルが落ち着いており出血量が少なければ保存的に経過をみることも可能
ただし、当直帯では入院させ経過をみることが必要。(参考:臨婦産73 巻4 号・増刊号)
⑦ 骨盤内炎症性疾患(PID)
・リスク因子;若年、PIDの既往、複数の性的パートナー、コンドームなしの性行為、子宮内避妊具
・症状;下腹部痛、帯下の性状の変化、発熱、性交時痛、不正性器出血
・治療;軽症の場合は経口抗菌薬・重症の場合は抗菌薬の静脈投与
パートナーも必ず治療
・抗菌薬
外来 セフトリアキソン 250 mg筋肉注射1回+ドキシサイクリン100 mg✕2回/日 14日間
点滴 クリンダマイシン900 mg✕3回/日+ゲンタマイシン3~5mg/kg/日✕14日間
アンピシリン/スルバクタム3g✕4回/日+ドキシサイクリン100mg✕2回/日✕14日
第3セフェム系点滴抗菌薬+ドキシサイクリン100mg✕2回/日✕14日
・PIDと虫垂炎の鑑別
問診
虫垂炎は食欲低下、月経14日目以降は虫垂炎が疑わしい。PIDは虫垂炎と比較し痛みが移動しないし、両側の腹部圧痛があり、悪心・嘔吐がない。この3つが揃えばPIDがかなり疑わしい。
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PID |
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受診までの痛み |
1度のエピソードで受診 |
何回かのエピソードあり |
痛みの性質 |
時間とともに増強 |
くり返す |
痛みの場所 |
右下腹部へ局所化 |
放散したまま |
身体所見
・CMT(cervical motion tenderness:子宮頸部可動痛)は腹膜刺激徴候の1つで,PIDの診断において感度が高い(97%)
(参考:レジデントノート Vol.14 No.16(2月号)2013)
PID鑑別診断のためのフローチャートも参照してください。(下記URL p30)
http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2017.pdf
*妊娠中の虫垂炎ではMRIで診断する。もし、MRIが取れないならCTも考慮。
⑧ Fitz-Hugh-Curtis症候群
クラミジア頸管炎が腹腔内に進展し、肝周囲炎を起こしている状態。
診断 ;右季肋部の圧痛所見が感度100%, 特異度99.4%
確定診断 ;造影CTの早期相で肝臓被膜の濃染像が特徴的と言われている。
治療 ;アジスロマイシン 1g/日単回投与またはミノサイクリン点滴100 mg✕2/日✕3-5日間
⑨緊急避妊(EC)
性交後72時間以内に来院であればLevonorgestrel(ノルレボ)1.5 mg単回内服。
→禁忌は妊婦、重篤な肝障害、薬剤への過敏症
*もし72時間以上経過している場合は120時間(5日間)LNG 1.5mg内服が可能。
(LNG;レボノルゲストレル)
処方時には『ノルレボ錠1.5 mgを処方します。薬を受け取り次第すぐに内服してください。保険は使えず当院では15000円かかります。内服して2時間以内に嘔吐してしまった場合は再度内服が必要なので連絡ください。正しく服用しても2%の確率で妊娠してしまいます。妊娠が疑わしければ産婦人科に受信してください。』
治療後は必ず月経日の確認をする。月経が7日以上遅れた場合は妊娠検査の必要があります。今後の避妊、性感染症(STI)予防に活かす。
理解度チェック(女性の下腹部痛)
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1,女性を見たらまず、何の有無を確認?次に、何の有無を確認?
2,腹痛+妊娠反応が陽性といえば?
3,腹痛+妊娠反応が陰性+FAST陽性といえば?
4,腹痛+妊娠反応が陰性+FAST陰性といえば?
5,妊娠検査陰性+発熱ありといえば?
Ans. 1妊娠の有無、Red Flagの有無
2 異所性妊娠・切迫流産
3 卵巣出血
4 卵巣嚢腫茎捻転、筋腫変性
5 PID、STD、筋腫変性、卵巣卵管膿瘍
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いかがだったでしょうか。次回は女性特有の疾患を勉強をしたいと考えています。