第13回 頭痛の救急対応

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回はしびれについて一緒に勉強しましたね。

med-dis.hatenablog.com

 本日はしびれについて一緒に勉強していきましょう。

勉強前のチェック

 ① 頭痛の問診は?

 ② 頭痛の身体診察は?

 ③ 頭痛の検査は?

 ④ 救急外来での対処は?

 ⑤ 救急外来から帰すときの注意点は?

 ⑥ 頭痛の鑑別はどのように行えばよい?

 ⑦ 一次性頭痛

 救急で頭痛の患者はよく見る症候だと思います。しかし、頭痛と言われると緊急に処置しないといけない疾患が複数あり、なかなか鑑別は難しいですよね。また、一次性の頭痛は似たような疾患が多く鑑別が難しいですね。今日は一緒に頭痛について勉強しましょう。

 

13回 頭痛の救急対応 ~危険な頭痛かなぁ?~

 以下の文章内容は『研修医 当直御法度 寺沢修一著』を参考にして記載しています。すごくわかりやすい本ですので、もし外来をされている先生なら一度手にとってみてください。

 

① 頭痛の問診

頭痛をみた時は、まずくも膜下出血髄膜炎から考えます。クモ膜下出血を見つける2つの問診を覚えましょう。くも膜下出血を見つける2つの問診を覚える。2つともYesなら頭部CTを取りましょう。

  1. すごく突然、痛み出したのですか

 もし、「頭痛が起きたときには何をしていましたか?」にはっきり言える場合、超急性と考えましょう。

  1. こんなにひどい頭痛は初めてですか

『これまでにない強い頭痛』と『ゆっくり発症』と『発熱』がそろった場合は髄膜炎を疑います。

  ピットフォールは、溺水や重症熱傷で運ばれてくるくも膜下出血があるということ。事故の原因・状況が不自然、意識が戻ってから頭痛を訴える、本人は事故のときの記憶がないなどの話があれば、必ず髄膜炎を疑いまましょう。

 

② 頭痛の身体診察

 項部硬直は発症して早く病院に受診した場合は少ないので、あてにしてはいけない。意識正常でも瞳孔を見てみると、頭痛だけの緑内障が見つかることがある。眉間、眉上部の圧痛が前頭洞炎を疑う。側頭動脈の圧痛があれば、側頭動脈炎(50歳以上)を疑う。失明の可能性を忘れずに。頭皮に水疱性皮疹が集簇していれば帯状疱疹の可能性を疑う。

 項部硬直の取り方は、左右の動きや疥癬と比較すると高齢者のrigidityと鑑別しやすくなります。Kernig徴候やBrudzinski徴候は特異度は高いが、感度は低いです。皆さんよくご存じのjolt accentuationは書籍などでも感度が高いとされていますが、否定的な文献も出ているようです。これだけで判断することはやめましょう。発熱、意識障害、悪心・嘔吐、項部硬直、羞明のうち2つあれば腰椎穿刺を行うべきと言われています。(夜間外来であわてない 上田剛士著 参照)

 

③ 頭痛の検査

 一般医が頭部CTスキャンで見逃すくも膜下出血があると心得る。読影に自身がなければ必ず即、脳外科コンサルテーションしましょう。くも膜下出血腰椎穿刺は最後の手段です。もし、疑いが強い場合は必ず行いましょう。出現には4~12時間が必要ですが、出現すれば2週間は陽性となります。発症時間の確認は必ずしてくださいね。キサントクロミーの色もついでにHPで確認してしまいましょう。脳脊髄液の赤血球が2000×10^6/L未満、かつキサントクロミーが見られない場合はくも膜下出血は否定的とされています。

キサントクロミー :https://tsunepi.hatenablog.com/entry/2014/12/23/040000

 

 頭部CTスキャンで専門医師が見てもはっきりしなくて、突然の痛み、人生最悪の頭痛なら、血性髄液なら必ず3本採取しましょう。1本は脳外科医は信じないと心得る。くも膜下出血は多彩な心電図変化で急性心筋梗塞と誤診される場合があります。「今、胸がつらい」にだまされてはいけません。CPKは上昇してもCPK-MBは動かず心電図変化は早く正常化するのが特徴とのこと。発症6時間以内の雷鳴様頭痛の場合、CTのくも膜下出血発見の感度は98.7%、特異度は99.9%です。

 

④ 救急外来での対処

 くも膜下出血を疑う2つの質問にYesなら、頭部CTスキャン前から収縮期血圧160mmHg以下にコントロール開始します。降圧剤の選択はその施設の脳外科医の方針に合わせる。細菌性髄膜炎を疑ったら、腰椎穿刺の結果を待たずに、来院30分以内に抗菌薬開始したい。抗菌薬の選択の一例を⑥の髄膜炎の部分に記載しました。一読あれ。

 

⑤ 救急外来から帰すとき

 頭痛の原因が頭蓋内以外のこともある。眼痛、視力障害が出現したら緑内障疑いで眼科へすぐにコンサルトする。眉間痛なら前頭洞炎疑いで耳鼻科へコンサルトする。遅れて発疹が出たら帯状疱疹疑いで皮膚科へコンサルトする。同じ環境に戻ってすぐ悪化するなら、暖房器具点検、団体で頭痛が発症の可能性があり一酸化中毒を疑う。

 

⑥ 頭痛の鑑別

 まずは雷鳴様頭痛、新規発症頭痛、慢性頭痛に分けましょう。雷鳴様頭痛は数分かけて発症する場合があることを知る。

 二次性頭痛のRed Flagは以下の通りです。皆さんも一度は聞いたことがあるでしょう。

SNOOP

 Systemic symptoms・signs(全身性の症状・徴候:発熱,筋痛,体重減少)

 Systemic disease(全身性疾患;悪性疾患, AIDS )

 Neurologic symptoms or signs(神経学的症状や徴候)

 Onset sudden(突然の発症:雷鳴頭痛)

 Onset after age 40 years(40 歳以降の発症)

 Pattern change(頭痛発作間隔が次第に狭くなる進行性の頭痛,頭痛の種類の変化)

 (参考:https://blog.goo.ne.jp/pkcdelta/e/da5bc9d216e7273839e9f74d92dd7040

雷鳴頭痛

 一次性雷鳴頭痛は突然に出現し,1分未満で痛みの強さがピークに達する重度の頭痛です.1時間〜 10 日間持続しますが,発症後の数週〜数ヵ月にわたって,定期的な再発はありません.雷鳴頭痛には、突然発症だけでなく、数分の経過で発症するものも含みます。もし、上級医の先生に雷鳴頭痛って何と聞かれたら、『数分以内に最大に達する頭痛です。』っと自信をもって答えましょう。

雷鳴頭痛の半数で頭蓋内病変に異常がみつかりくも膜下出血も鑑別に上がるため必ずCTを取ります

 雷鳴様頭痛は、脳静脈洞血栓症、頸動脈解離、下垂体卒中、低髄液圧症候群、可逆性後頭葉白質脳症(RCVS)、片頭痛、性交時頭痛などでも生じます。

ここで理解しなければいけないのが警告出血です。くも膜下出血の40%で認められ、半数が医療機関を受診し、16~60%が見逃されます。痛みの強さが『最悪の頭痛』と言わない程度の痛みでなかなか、くも膜下出血を疑うことが難しいです。

 画像検査は頭部CT、頭部MRIですが、一時間以内に最強に達する頭痛では頭部CTを取るのは妥当と考えられます。頭部CTは6時間以内では感度100%ですが、6時間以降ですと感度は85.7%と低下します。頭部MRIのFLAIR画像はCT陰性のくも膜下出血の2/12例しか陽性にならないので、腰椎穿刺のほうが良いとのことです。

 

新規発症頭痛

 髄膜炎

 雷鳴頭痛でない頭痛のうち新規発症、あるいは性状の変化のある場合は、多くは画像診断を必要とはないけれども、腰椎穿刺を考慮します。この場合は見逃したくない疾患として細菌性髄膜炎を疑います。頭痛、悪心・嘔吐、羞明があれば髄膜炎の可能性が高くなります。

 また、炎症の波及により、巣症状(麻痺、感覚障害、言語障害、脳神経症状など)を呈したり、痙攣を生じることもあります。

 細菌性髄膜炎と診断したら、抗菌薬で治療を開始します。現在出ている最新の細菌性髄膜炎ガイドラインは2014年のもののようです。

  細菌性髄膜炎診療ガイドライン http://www.neuroinfection.jp/pdf/guideline101.pdf

  ガイドラインでの治療の説明  神経治療 Vol. 33 No. 2(2016)

・免疫能が正常と考えられる16歳~50歳未満

 カルバペネム系抗菌薬である「PAPM/BPまたはMEPM」を推奨する。効果が得られない場合、VCMを追加とする。なお、VCMが耐性や副作用で使用できない場合、linezolid(LZD)を推奨する。

 ・免疫能が正常と考えられる50歳以上の成人例

 MRSAを含むブドウ球菌リステリア菌も念頭に置く。従って、リスクのない50歳以上では、「ABPC+VCM+第3世代セフェム」または「MEPM+VCM」の両者を推奨した。

   

慢性頭痛

 慢性頭痛の場合は、頭蓋内の異常は1%程度であり、以下のred flagを問診しましょう。

  群発頭痛タイプ

  神経学的異常

  典型的な片頭痛や緊張型頭痛頭痛ではない前兆を伴う頭痛

  運動やValsalva法で増悪する頭痛。

  嘔吐

 これらを認めた場合は要注意です。もし、なければ一次性頭痛や緊急性の少ない二次性の頭痛と考えまずは対処療法でよいと考えます。

 

⑦ 一次性頭痛

 『ジェネラリストのための内科外来マニュアル(金城光代 等編)』より抜粋して記載しています。

片頭痛

 片頭痛かなっと思ったら「POUNDing」チェック

POUNDing criteria

 Pulsating

 hOur duration 4-72時間

 Unilateral

 Nausea

 Disabling

 4個以上あれば片頭痛と診断してよい片頭痛でも拍動性なのは半数のみです。光過敏、音過敏は必ず聞く。

 治療は、急性期はなるべく早く内服すると効果が高いので、中等度以上痛ければトルバプタン製剤で加療開始する。

 急性期治療薬

  A, アセトアミノフェン 400-600 mg内服4時間おき

  B, ロキソプロフェン60 mg内服を8時間おき、などNAIDs

  C, トリプタン製剤

    ソマトリプタン 50 mg内服、または20 mg点鼻、皮下注製剤もある

    ゾルミトリプタン 2.5 mg内服、口腔内崩壊剤もある

    アマージ 2.5 mg(持続性あり)

    マクサルト10 mg内服(効果発現速いが再発も多い)

 4回以上あるときや、薬物依存性頭痛になっている場合には、片頭痛予防薬をすすめる。

 予防薬

  A, ミグシス(カルシウム拮抗薬) 5 mgを1日2回

  B, プロプラノロール(β遮断薬) 10 mgを1日3回

  C, アミトリプチリン(三環系抗うつ薬)10 mgを1日3回、または25 mg就寝前

  D, バルプロ酸(抗痙攣薬)100 mgを1日2回から

  E, トピラマート 25 mgを1日1回から

緊張型頭痛

 頻度的には最多だが、本人が自覚していながらも受信しないことが多い。

 緊張型頭痛の診断

  頭頸部の両側性頭痛

  非拍動性(圧迫感や締めつけ感)

  程度は軽度から中等度であり、日常生活を妨げない

  歩行や階段の昇降のような日常的動作で悪化しない

  上記のうち2項目を満たす場合に診断となる。

 急性期治療は鎮痛薬と非ステロイド系消炎鎮痛薬です。

   アセトアミノフェン500 mg

   アスピリン 500-1000 mg

   イブプロフェン 200-800 mgなど

 予防療法は、反復性緊張型頭痛および、慢性緊張型頭痛は中枢性疼痛メカニズムが関与しているため、心理的ストレスや感情障害なろによる疼痛抑制機能不全が根底にあると推察されている。

 抗うつ薬

  三環系:アミトリプチリン5-75 mg/日、クロミプラミン75-150 mg/日

  四環系:マブロチリン 75 mg/日、ミアンセリン 30-60 mg/日

 抗不安薬

  アルプラゾラム 0.4-1.3 mg/日、エチゾラム 0.5-1 mg/日

 詳しくは以下のガイドラインに記載されています。

  緊張型頭痛 http://www.jhsnet.org/GUIDELINE/gl2013/189-213_3.pdf

群発頭痛と三叉神経・自律神経性頭痛

 三叉神経・自律神経性頭痛の代表的な疾患である群発性頭痛はまれな疾患。必ず片側であり、発作は15分~3時間で、発作が起こると何度も繰り返し1~2ヶ月持続。その後は長い寛解期がある。治療は、酸素7-12Lを15分リザーバーフェイスマスクで投与することで劇的に改善するがトリプタンも有効です。トリプタン製剤に関しては3mg皮下注が勧められる。スマトリプタン点滴液 20mg/doseによる鼻腔内投与および、ゾルミトリプタン5-10 mgの経口投与による有効性は報告されているが、エビデンスは確立されておらず、保険適応外とのことです。

 治療に関してはガイドラインも出ています。2013年日本頭痛学会より慢性頭痛診療ガイドラインが紹介されています。ご一読を。

  http://www.jhsnet.org/GUIDELINE/gl2013/215-238_4.pdf

  

薬剤性・離脱に伴う頭痛

 Ca拮抗薬や亜硝酸薬、シロスタゾールやニコランジルのように血管拡張などによって頭痛を起こすものがあるが、注意すべきなのは薬物乱用頭痛である。

 

 いかがだったでしょうか。頭痛は鑑別も多く、危険な疾患も多いため難しく感じるかもしれません。しかし、実際に危険な頭痛を除外できれば帰宅可能ですし対処療法で経過観察という手もあるかと思います。

 

 次回は救急対応を一度お休みして、女性の診療について勉強したいと思います。