第85回 鉄欠乏性貧血、慢性疾患に伴う貧血 ~診断と治療について考えよう~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は急性膵炎について一緒に勉強しました。
本日は、鉄欠乏性貧血、慢性疾患に伴う貧血について一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① 鉄欠乏性貧血
② 慢性疾患に伴う貧血(ACD)
本日は血液内科疾患について勉強してみましょう。血液内科疾患は専門性が高く手を出しにくいと考えがちですが、実際どのような疾患を鑑別にあげ、治療を行っていけばよいか考えておく必要があると思います。今回は第一弾として赤血球の異常である鉄欠乏性貧血、慢性疾患に伴う貧血を勉強しましょう。
第85回 鉄欠乏性貧血、慢性疾患に伴う貧血 ~診断と治療について考えよう~
本文内容は主に『レジデントのための血液教室 宮川義隆著』を参考に記載しています。この本はレジデント向けに書かれていますが、なんといっても読みやすいです。血液疾患の勉強の最初のとっかかりにしてみてはいかがでしょう。
① 鉄欠乏性貧血
最も患者数が多い血液疾患です。
・診察のポイント
労作時の息切れ、疲れやすさ、立ちくらみ、動悸などの自覚症状を確認します。身体所見としては眼瞼結膜の貧血、青白い顔が特徴です。匙状爪(スプーン上に陥没した爪)を見ることは少ないですが『爪を伸ばせず困っていないか』と質問するとよいです。
異食症は異味症ともよばれ、海外では土、壁、チョーク、糞便、毛髪、釘を食べることがあると記載されていますが、日本では氷や茶葉を食べるのが特徴です。
女性の場合には月経過多について質問しましょう。以前と比べてナプキンの交換回数が増えた、日中でも夜様の大きなナプキンを使わないといけないなどといった場合は子宮筋腫や子宮腺筋症を疑いましょう。
男性と閉経後の女性の鉄欠乏性貧血では胃十二指腸潰瘍、胃がん、大腸癌、痔核などによる消化管出血を念頭におき、精密検査を行います。
ただし注意が必要なのは慢性経過に伴う貧血です。この場合は症状が出にくく著書内ではHb 2g/dlでも平然と歩いて外来に来るとのことです。ただ、その時にも外来対応でよいので鉄剤を処方しましょう。
・検査
血性のヘモグロビンとフェリチン値が低値であれば、鉄欠乏性貧血と診断します。血清鉄の低値と総鉄結合能(TIBC)の高値は補助診断に有効です。
鉄欠乏性貧血があり、貧血、舌炎、嚥下困難があればPlummer-Vinson症候群を疑います。胃透しや上部消化管内視鏡で食道胸部の胃粘膜ひだを確認しましょう。
・鑑別診断
慢性疾患に伴う貧血(ACD)も小球性となりますがフェリチンが低値とならず、TIBCも上昇しないので、鉄欠乏性貧血と簡単に鑑別が付きます。
小球性貧血 |
正球性貧血 |
大球性貧血 |
鉄欠乏性貧血 慢性疾患に伴う貧血 サラセミア 鉄芽球性貧血 |
急性出血 溶血性貧血 腎性貧血 |
巨赤芽球制貧血 (Vit B12欠乏、 葉酸欠乏) 骨髄異形成症候群 |
・治療
鉄剤(内服薬)を100 mg程度、血性ヘモグロビン値とフェリチン値が正常化するまで数か月間内服します。鉄剤を開始すると約1か月でヘモグロビン値は改善しますがフェリチン値が正常化するまでは貯蔵鉄を増やす必要があります。ビタミンC製剤を併用すると鉄が還元されて吸収率が高まることが期待されます。鉄剤の副作用は、胃部不快感、便秘と下痢、腹部膨満感が多いです。治療のポイントは鉄欠乏性貧血になった原因を考えます。がんや、婦人科疾患が隠れていないかは必ず検索しましょう。
② 慢性疾患に伴う貧血(ACD)
慢性疾患に伴う貧血をACDと呼びます。基礎疾患として、慢性感染症、自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス)、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、がんにおいてはしばしば原因が特定できない正球性または小球性貧血を合併します。
病態は炎症によりIL-6が分泌されそれにより肝臓でヘプシジンの産生が亢進します。ヘプシジンによりマクロファージにある貯蔵鉄の放出と腸管からの吸収を抑制するため、鉄欠乏性貧血となります。
・診察のポイント
基礎疾患に慢性炎症があるため、発熱と炎症反応(血沈CRP)高値を示します。貧血は軽度のことが多いです。
・検査
血清ヘモグロビン低値と血清フェリチン高値によりACDと診断できます。TIBCは鉄欠乏貧血で高値、ACDでは正常または低値になります。
・治療
ACDの治療は基礎疾患を対象にします。エリスロポエチンの使用は日本では適応外です。
いかがでしたか。次回は『スポーツ貧血、鉄過剰症』の勉強を行います。