第89回 赤芽球癆と無顆粒球症 ~診断と治療について考えよう~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。黒色尿、再生不良性貧血について一緒に勉強しました。

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本日は、赤芽球癆、無顆粒球症について一緒に勉強していきましょう。

 

勉強前の問題

① 赤芽球癆

② 無顆粒球症

 

 本日は血液内科疾患について勉強してみましょう。血液内科疾患は専門性が高く手を出しにくいと考えがちですが、実際どのような疾患を鑑別にあげ、治療を行っていけばよいか考えておく必要があると思います。今回は第五弾として赤血球の異常である赤芽球癆と無顆粒球症について勉強しましょう。

 

89回 赤芽球癆と無顆粒球症 ~診断と治療について考えよう~

 

本文内容は主に『レジデントのための血液教室 宮川義隆著』を参考に記載しています。この本はレジデント向けに書かれていますが、なんといっても読みやすいです。血液疾患の勉強の最初のとっかかりにしてみてはいかがでしょう。

レジデントのための血液教室〈ベストティーチャーに教わる全6章〉

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① 赤芽球癆

 赤芽球癆(PRCA)は文字通り赤芽球だけが消える不思議な病気です。先天性はダイアモンド・ブラックファン貧血、後天性には原因不明の特発性と続発性があります。内科医がみる赤芽球癆は後天性で、正球性正色素性貧血、網状赤血球と骨髄赤芽球の著減を特徴とします。有名なのはヒトパルボウイルスB19の初感染と薬剤性(フェニトイン、イソニアジド、アザチオプリン)による急性赤芽球癆です。慢性化しやすい後天性赤芽球癆の約3割に、胸腺腫またはリンパ系腫瘍(大顆粒リンパ球白血病悪性リンパ腫)を合併します。慢性に経過する後天性赤芽球癆は難病に指定されています。特発性赤芽球癆の生命予後は10年生存率が9割と良好です。

・診察のポイント

 主な症状は貧血(息切れ、立ちくらみ、疲れやすさ)であり、後天性赤芽球癆に特異的な臨床所見は有りません。

・検査

 Hb<10 g/dLの正球性貧血、網状赤血球<1%、骨髄赤芽球<5%(特発性後天性赤芽球癆の診断基準)。白血球数と血小板数は正常です。ヒトパルボウイルスB19-IgM抗体、体部CT検査(胸腺腫、悪性リンパ腫の検索)、抗核抗体

・鑑別診断

 ヒトパルボウイルスB19の初感染は、発熱、赤芽球癆に加えて、血清ヒトパルボウイルスB19-IgM抗体が陽性であれば診断がつきます。約2割に合併する胸腺腫は胸部CTまたはMRI検査にて診断します。薬剤性の被疑薬はアザチオプリン、フェニトイン、イソニアジドが有名ですが、抗菌薬、エリスロポエチン製剤の報告もあります。女性患者では膠原病の有無を検索します。

・治療

 ヒトパルボウイルスB19感染による急性赤芽球癆は、数週間以内に自然軽快します。薬剤性では被疑薬中止後、4週間以内に貧血が改善します。例外としてエリスロポエチン製剤に対する自己抗体による続発性は遷延します。原因不明の特発性はシクロスポリンで治療を行います。

 胸腺腫に伴う赤芽球癆に対して胸腺摘出を行っていた時代もありましたが、有効性が低いことが判明し、近年は免疫抑制剤(シクロスポリン、副腎皮質ステロイド)が選択されています。シクロスポリンの有効性は約8割と高く、ステロイドよりも良好です。

 大顆粒リンパ球白血病は名前は恐ろしいですが慢性に経過する疾患で、10年生存率は9割と高いです。赤芽球癆合併例は免疫抑制剤により治療します。

 

② 無顆粒球症

 好中球が1,000/μL以下になると細菌感染症を合併しやすいです。37.5℃以上の発熱と好中球500/μL以下、または1,000/μL以下で48時間以内に500/μL以下になることが予測された場合、発熱性好中球減少症(FN)と診断します。無顆粒球症の原因として最も多いのはウイルス感染症です。麻疹、風疹、EBウイルスに加えて、AIDS患者でも好中球が減少します。重症細菌感染症でも好中球が消費されて減少することがあります。

 薬剤性の好中球減少は、甲状腺薬、抗てんかん薬、抗がん剤、抗菌薬、向精神病薬、抗胃潰瘍薬、免疫抑制剤などで起こりやすいです。SLE、関節リウマチなどの膠原病で好中球減少症を合併することも多いです。ビタミンB12葉酸など栄養素の不足でも好中球が減少します。

・診察のポイント

 好中球減少の患者を診たら、感染症、服薬状況、膠原病の有無を最初に確認します。例えば、発熱と皮疹があればウイルス感染を疑い、精査を進めます。同時に服薬状況を確認します。好中球減少の原因になりやすい薬剤を内服していれば、中止または他薬に変更します。血液疾患患者においては、治療に用いる免疫抑制剤、抗ウイルス剤でも好中球減少が起こりえることに注意します。

・検査

 好中球現症患者が発熱していれば、敗血症性ショックの危険性があります。速やかに感染の原因を調べ血液培養2セットを提出の上、広域抗菌薬を開始します。膠原病を疑う症例では抗核抗体、特異抗体を調べます。薬剤性好中球減少については、被疑薬を用いたリンパ球刺激試験(DLST試験)も考慮します。

・鑑別診断

 まずウイルス感染症、重症細菌感染症の有無を確認します。発熱など感染症を疑う症状がなければ薬剤性を疑い服薬状況を確認します。疑わしい薬剤はできるだけ中止または他薬に変更します。数日以内に好中球が回復すれば、薬剤性の可能性が高いです。

 高齢者は複数の薬剤を服用しており、同時にすべて中止すると被疑薬の特定が難しいです。理論的には1つずつ中止して原因を同定することが可能ですが、実際にはそのような対応は難しく、一挙に中止することも仕方がないと考えます。女性患者で発熱、関節痛、日光過敏症、皮膚症状などがあれば、膠原病を疑い精査を進めます。被疑薬を中止し、感染症膠原病、栄養不足を否定しても好中球減少が遷延する場合は高齢者であれば骨髄異形成症候群(MDSも鑑別に上げます。

・治療

 無症状であれば、経過観察により自然回復を待ちます。発熱がある患者は、発熱性好中球減少症診療ガイドラインを参考に、速やかに広域抗菌薬による治療を開始します。重症度に応じて抗菌薬の予防投与、好中球減少症治療薬(フィルグラスチム)の投与を検討します。

 

いかがでしたか。次回は『血球貪食症候群伝染性単核球症』の勉強を行います。