第87回 偏食と貧血、黄疸を伴う貧血 ~診断と治療について考えよう~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回はスポーツ貧血、鉄過剰症について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

 本日は、偏食と貧血、黄疸を伴う貧血について一緒に勉強していきましょう。

 

勉強前の問題

① 偏食と貧血

② 黄疸を伴う貧血

 

 

本日は血液内科疾患について勉強してみましょう。血液内科疾患は専門性が高く手を出しにくいと考えがちですが、実際どのような疾患を鑑別にあげ、治療を行っていけばよいか考えておく必要があると思います。今回は第三弾として赤血球の異常である偏食と貧血、黄疸を伴う貧血について勉強しましょう。

 

87回 偏食と貧血、黄疸を伴う貧血 ~診断と治療について考えよう~

 

本文内容は主に『レジデントのための血液教室 宮川義隆著』を参考に記載しています。この本はレジデント向けに書かれていますが、なんといっても読みやすいです。血液疾患の勉強の最初のとっかかりにしてみてはいかがでしょう。

レジデントのための血液教室〈ベストティーチャーに教わる全6章〉

レジデントのための血液教室〈ベストティーチャーに教わる全6章〉

 

① 偏食と貧血

 核酸合成に必要なビタミンB12葉酸が欠乏するとMCV>120の巨赤芽球性貧血を発症します。ビタミンB12は動物性食品に含まれるためビタミンB12欠乏性貧血が発症します。葉酸欠乏による貧血は妊婦に起こりやすいが野菜を食べないアルコール依存症にも多いです。

・診察のポイント

 ビタミンB12が欠乏する病態として、ベジタリアン、胃切除後、悪性貧血があります。問診で肉を食べない菜食主義者かを確認します。中高年で慢性的に胃部不快感がある患者において、大球性貧血があれば悪性貧血を疑います。その病態は自己免疫性の萎縮性胃炎であり、抗胃壁細胞交代により胃酸と内分泌が減少し、ビタミンB12の吸収が低下します。

・検査

 MCV>120であれば、大球性貧血と診断します。次に問診結果を参考にビタミンB12葉酸を測定します。胃切除歴がないビタミンB12欠乏症では抗胃壁細胞抗体抗内因子抗体が補助診断として有用です。ビタミンB12葉酸が低値であれば良性の血液疾患であり骨髄検査は不要です。

 一方、ビタミンB12葉酸正常な大球性貧血は、高齢者に多い骨髄異形成症候群(MDSが強く疑われます。この場合は次に骨髄生検を考えます。

・鑑別診断

 ビタミンB12が欠乏すると、末梢神経障害による手足のしびれ脊髄後索の障害によるふらつきハンター舌炎を認めることがあります。

 ハンター舌炎の画像:https://www.jmedj.co.jp/premium/treatment/2017/d190105/

葉酸欠乏では神経障害を認めないことから神経症状の有無で両者を鑑別することができます。さらに葉酸は妊娠、慢性炎症(がん、感染症膠原病)など代謝が亢進する基礎疾患持つことが特徴です。

 アルコール依存症では肉と野菜の摂取量が少なく、まず体内の貯蓄が少ない葉酸が欠乏します。その後に体内のビタミンB12も枯渇して葉酸とビタミンB12の欠乏による大球性貧血となります。

 摂食障害による貧血は、患者の体重、食事内容(量と中身)から簡単に診断をつけられます。拒食症の重症例にみられる汎血球減少の原因は不明ですが、骨髄検査では再生不良性貧血のような脂肪髄となります。

・治療

 ベジタリアンの貧血は肉を食べれば治りますが、実際には難しくビタミンB12の内服を提案します。胃切除後の貧血や悪性貧血はビタミンB12の筋肉注射を行います。アルコール依存症の患者には葉酸を処方し必要に応じて、管理栄養士を紹介し肉と野菜をとるように指導してもらいます。

 拒食症患者のライフスタイルを変えるのは困難ですが、不足している鉄、ビタミンB12葉酸サプリメントとして提案します。

 

② 黄疸を伴う貧血

 目が黄色い貧血患者が来院したら溶血性貧血を疑います。自己免疫性溶血性貧血(AIHA)は後天性の自己免疫疾患であり、赤血球に対する自己抗体により溶血を起こします。赤血球に対する自己抗体の種類により、溶血を起こす温度に差があります。IgG抗体が原因になる場合は室温で溶血する温式AIHA寒冷時にIgM抗体が溶血発作を起こす冷式AIHA(寒冷凝集素症)に分けられます。

・診察のポイント

 貧血症状として、労作時の息切れと動悸、めまい、倦怠感を聴取します。眼瞼結膜の貧血、眼球結膜の黄染を認めます。慢性化すると胆石症(ビリルビン結石)を合併します。

・検査

 貧血、網状赤血球の増加、関節ビリルビン高値、LDH高値、血性ハプトグロブリン低値、尿ウロビリノーゲン陽性がみられる。直接クームス試験で赤血球にIgG抗体が結合していることが証明できれば温式AIHAと診断できます。

・鑑別診断

 黄疸を伴う貧血は溶血性貧血を疑います。中でも温式AIHAが最も多いです。寒冷凝集素症は寒冷凝集素が陽性となります。発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、特有のPNH血球(CD55陽性、CD59陰性の顆粒球、赤血球)が陽性となります。遺伝性球状赤血球症は末梢血塗抹標本で球状の赤血球を観察し、赤血球浸透圧抵抗性試験で壊れやすいこと、家族歴があることから診断します。

・治療

 温式AIHAの治療は、副腎皮質ステロイドが第一選択です。プレドニゾロン1 mg/kgを開始して2~4週間で溶血反応が抑制され、貧血が改善する有効性は8割と高いです。直接クームス試験が陰性化するまでプレドニゾロンを継続する必要性はわかりません。

 再発難治例は脾臓摘出術を検討します。海外ではリツキシマブが使用されます。

 

いかがでしたか。次回は『黒色尿、再生不良性貧血』の勉強を行います。