第84回 急性膵炎 ~膵炎を診断したらどう対処する?~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は食道静脈瘤について一緒に勉強しました。
本日は、急性膵炎について一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① 急性膵炎の診断
② 急性膵炎の原因
③ 急性膵炎の重症度分類
④ 急性膵炎の初期治療
⑤ 急性膵炎の形態分類
⑥ 局所合併症
急性膵炎はかなりメジャーな疾患でどの病院でも必ず経験する疾患ですね。もうなれている先生も多いかもしれませんが、再度疾患の概念と対処について確認してみましょう。結構エビデンスがあるようでないような治療が用いられていることもあります。一緒に勉強していきましょう。
第84回 急性膵炎 ~膵炎を診断したらどう対処する?~
本文内容は主に『Dr竜馬のやさしくわかる集中治療 内分泌・消化器編』を参考に記載しています。田中竜馬先生の教科書は非常に読みやすく明快な本が多くいつも出版されるとすぐに手を付けてしまします。救急医療やICU管理の教科書がたくさん出ていますので是非読んでみてください。
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① 急性膵炎の診断
急性膵炎の診断
1,典型的な腹痛(背部に放散する上腹部痛)
2,膵酵素の上昇(正常値上限の3倍以上)
3,腹部CTでの急性膵炎に合致する所見
のうち2つがあれば急性膵炎と診断する
症状
急性膵炎の典型的症状といえば、なんと言っても腹痛ですね。特徴としては持続的で、上腹部またはへそ周囲に位置し、背部や胸部、側腹部、下腹部に放散する痛みです。その他に悪心・嘔吐や腹部膨満を呈することも多いですが、これは腹膜炎や腸蠕動低下によって起こります。
膵酵素
内分泌と外分泌の両方の機能を持ちます。診断に用いられるのはアミラーゼ、リパーゼです。その他の膵酵素はプロテアーゼによる分解がはやく診断には向きません。アミラーゼは急性膵炎以外にもDKA、腎不全、妊娠、腹膜炎、腸閉塞、子宮外妊娠破裂など多彩な原因で上昇するためより特異的なリパーゼを使います。
画像
最適な腹部造影CTは発症後72~92時間たったあとと言われます。膵臓及び膵周囲の壊死像が明確になるのに72時間はかかることや、早期のCTが予後予測に有用ではなく予後を良くするというエビデンスがないことが根拠として挙げられています。
血液検査
Ht上昇、BUN上昇;血管透過性亢進によります。重症度と相関すると考えられています。
高血糖、低カルシウムが生じます。
② 急性膵炎の原因
急性膵炎の原因は胆石とアルコールで7割を占めます。胆石は小さい方が大きいものより急性膵炎を起こすリスクが高いです。胆石性膵炎の特徴的な所見としてALTの150 IU/L以上の上昇があります(特異度が高い)。アルコールは何年も飲み続けていることが必須条件です。一回に大量に飲むだけでは急性膵炎にはなりません。
薬剤としては主なものに、ジフェニルスルホン、エナラプリル、フロセミド、ペンタミジン、スタチン、バルプロ酸などがあります。
そのほかに、ERCP、外傷などがあげられます。
③ 急性膵炎の重症度分類
重症度は臓器不全の遷延有り無しで重症、中等度重症、軽症を判断します。臓器不全は修正マーシャルスコアをつけて判断します。臓器不全が48時間以上遷延すれば重症、48時間以内であれば中等度重症とします。臓器不全がなくても局所合併症または全身性合併症があれば中等度重症です。臓器不全、局所合併症、全身性合併症のいずれもなければ軽症に分類されます。以下の急性膵炎のガイドラインのp123に修正マーシャルスコアが掲載されています。必要な方は確認をお願いします。
マーシャルスコアHP(p123) http://www.suizou.org/APCGL2010/APCGL2015.pdf
局所合併症は膵臓そのものに起こる合併症を指します。局所合併症としては急性膵周囲液体貯留(APFC)、膵仮性嚢胞、急性壊死性貯留(ANC)、被包化壊死(WON)の4つです。
全身合併症は、冠動脈疾患や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの基礎疾患が急性膵炎のために急性増悪をした状態を指します。重症度分類に用いた臓器不全とは区別されます。
急性膵炎の病期
改訂アトランタ分類では、急性膵炎の病期は次の二つに分類されました。
早期;SIRSのような全身性の症状が前面に出ている時期で、たいていは1週間、長い場合には2週間程度続きます。この時期の重症度は臓器不全で決まります。軽症の急性膵炎はこの早期のみで終わり、次の後期には入りません。
後期;膵臓の局所合併症が前面に出てきます。後期にまで症状が続くのは中等度重症か重症の急性膵炎の場合のみです。この時期の死亡は主に感染症によるもので特に膵臓の局所管理が重要になります。
④ 急性膵炎の初期治療
輸液
細胞外液;初期輸液にはリンゲル液が推奨される。
5~10 mL/kg/時(体重60kgだと300~600 mL/時)
もしくは20 mL/kgを急速投与した後に3 mL/kg/時で持続
敗血症と同様に急性期(特に最初の12~24時間)はきっちり入れて、その後はあまりだらだら入れ続けないようにしましょう。
鎮痛薬
モルヒネがOddi括約筋をしめますが、コクランのメタ解析では急性膵炎の鎮痛にはオピオイドは使用して大丈夫となっています。
栄養
早期にトライツ靭帯よりも先に入れたチューブを用いて、経腸栄養を開始する。伝統的には24~48時間以内に開始となっていますが、そこまで早くなくてもよいという臨床試験もあります。
軽症では経腸栄養は必要なし。患者が腹痛がおさまり、空腹を訴えれば経口で食事を開始します。
経腸栄養の種類には影響しない。成分栄養を使う必要はないといわれています。
チューブの位置は空腸に成分栄養を投与した場合と経鼻胃管で胃に投与した場合で違いはありません。
タンパク分解酵素阻害薬
ガベキサート、アプロチニン
静注 ;急性膵炎に対するタンパク分解酵素阻害薬静注の効果は示されていない
局所動注;急性膵炎に対するタンパク分解酵素阻害薬の局所動注療法は標準治療ではない
胆石膵炎に対するERCP
胆石膵炎では、胆管炎または総胆管閉塞を合併しているときのみ早期にERCPと乳頭切開を行う
⑤ 急性膵炎の形態分類
急性膵炎の形態的分類
間質性浮腫性膵炎;浮腫によって腫大した膵炎。膵実質に壊死はなく比較的均質に見える。ときに急性膵周囲液体貯留(APFC)を伴う。APFCが4週間以上経過すると膵仮性嚢胞となる
壊死性膵炎;急性膵炎の5~10%程度に起こり膵実質か膵周囲組織、あるいは両方の壊死を伴う。発症から72~92時間は経過した後に造影CTをとる。4週間以内に膵実質の壊死巣も含まれた急性壊死性貯留(ANC)を形成する。4週以上経過すると壊死部が被包化されて被包化壊死(WON)となる。
⑥ 局所合併症
局所合併症
局所合併症は4つの急性膵炎のタイプト出現時期によって分けられます。
・急性膵周囲液体貯留(APFC)
間質性浮腫制膵炎で急性膵炎発症から4週間以内に合併します。膵臓の周囲に溜まった液体で膵実質は含みません。また明瞭な被包化を認めません。治療をしなくても自然に消退することが多いですが、まれに膵仮性嚢胞となります。
・膵仮性嚢胞
先のAPFCが4週間以上遷延してできるのが膵仮性嚢胞です。壊死は伴っておらず嚢胞の中は均質な液体です。APFCとは異なって被包化を伴っているのが特徴的です。
・急性壊死性貯留(ANC)
APFCと同様に急性膵炎発症から4週間以内の合併症ですが、こちらは壊死性膵炎に合併して起こります。貯留部分には膵実質の壊死巣も認めます。被包化を伴っていないことから次の被包化壊死とは異なります。APFCとは異なり自然消退することは少なく被包化壊死に進みます。
・被包化壊死(WON)
急性膵炎発症から4週間以上経過して、壊死部分が被包化されものが被包化壊死です。中身は膵実質と膵周囲組織が壊死したものです。
・まとめ
間質性浮腫性膵炎:急性膵周囲液体貯留→膵仮性嚢胞
壊死性膵炎:急性壊死性貯留→被包化壊死
治療
抗菌薬予防投与
ガイドラインでは予防投与はしないとされています。
感染性膵壊死の治療
感染症が疑われれば抗菌薬はカルバペネムを使い、後にde-escalationを行います。
追加の治療に関してはStep-upアプローチを用います。まずはCTガイド下で経脾ドレーン留置か内視鏡下で経鼻ドレーン留置を行います。それで感染のコントロールがつかなければ次にビデオガイド化で後腹膜デブリードメントを行います。つまりなるべく侵襲を抑えた治療から行うようにします。
胆嚢摘出術
軽症の場合;同じ入院期間中に治療します。胆嚢摘出を平均40日間待つとその間に胆石関係の合併症を起こし8%が胆石膵炎を再発します。重症の場合;炎症が治まってから(6週間が1つの目安)。
いかがでしたか。次回は『鉄欠乏性貧血、慢性疾患に伴う貧血』の勉強を行います。