第93回 汎血球減少、好塩基球増多症 ~鑑別診断と治療について考えよう~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。末梢血に芽球が出現したら、骨髄生検について一緒に勉強しました。

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 本日は、汎血球減少、好塩基球増多症について一緒に勉強していきましょう。

 

勉強前の問題

① 汎血球減少

② 好塩基球増多症

 

 本日は血液内科疾患について勉強してみましょう。血液内科疾患は専門性が高く手を出しにくいと考えがちですが、実際どのような疾患を鑑別にあげ、治療を行っていけばよいか考えておく必要があると思います。今回は第九弾として汎血球減少、好塩基球増多症について勉強しましょう。

 

93回 汎血球減少、好塩基球増多症 ~鑑別診断と治療について考えよう~

 

本文内容は主に『レジデントのための血液教室 宮川義隆著』を参考に記載しています。この本はレジデント向けに書かれていますが、なんといっても読みやすいです。血液疾患の勉強の最初のとっかかりにしてみてはいかがでしょう。

レジデントのための血液教室〈ベストティーチャーに教わる全6章〉

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① 汎血球減少

 汎血球減少とは、赤血球、白血球、血小板の全てが減少している病態を言います。高齢者では血液がんの骨髄異形成症候群(MDS)を鑑別に上げる必要があります。再生不良性貧血はMDSと異なり若者にも発症します。薬剤(抗がん剤、抗てんかん薬、抗リウマチ薬、鎮痛消炎薬)、放射線被曝でも汎血球減少が生じえます

・診察のポイント

 まず、年齢と自覚症状を確認します。高齢者であれば、MDS)も鑑別にあげ、骨髄検査を行います。問診で胃全摘の既往があれば巨赤芽球性貧血を疑います。ビタミンB12の体内貯蓄は鉄と比べて豊富にあるため、術後5年以降に発症することが多いです。ビタミンB12欠乏が重症かつ長期に渡ると、ハンター舌炎(舌乳頭の萎縮、平滑化と痛み)と亜急性連合性脊髄変性症(四肢のしびれ、下肢の振動覚の低下、深部反射の亢進、病的反射の出現)を認めます。汎血球減少においては。免疫力低下、貧血症状、出血傾向を認めます。

・鑑別診断

 最終的に骨髄検査が必要ではありますが、末梢血検査である程度は絞り込めます。例えば大球性貧血があれば、巨赤芽球性貧血とMDSを疑います。巨赤芽球性貧血の原因は胃全摘または悪性貧血によるビタミンB12欠乏症と葉酸欠乏症があります。いずれの疾患も無効造血をきたすため、LDHが高値、間接ビリルビン優位の黄疸、血清ハプトグロブリン低値を示すことがあります。MDSの腫瘍マーカーとして特異性は高くないが良性疾患との鑑別に有効な末梢血WT1 mRNA定量検査があります。

 再生不良性貧血は網状赤血球が極度に低下しますので、MDSとの鑑別は簡単にできます。骨髄生検で細胞数が極度に減り、脂肪組織に置き換わっている状態(脂肪髄)であれば確定診断できます。腰椎MRIで脂肪髄を補助診断できます。発熱を伴う女性患者では、全身性エリテマトーデス、成人発症Still病なども鑑別に上げる必要があります。

・治療

 ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血であれば、ビタミンB12製剤を筋肉内注射します。大酒家は禁酒すれば血球数が回復することがありますが、禁酒自体がすぐには期待できないことがあります。

 

② 好塩基球増多症

 好塩基球が増えている患者は滅多にはいませんが、みられた場合は慢性骨髄性白血病を疑いますCMLはPh(フィラデルフィア)染色体異常によるbcr-abl遺伝子が、がん細胞の増殖を刺激して発症します。CMLは真性多血症、本態性血小板血症、骨髄線維症と同じく慢性骨髄増殖性腫瘍に分類されます。2005年にチロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ:グリベック)が登場し、9割が外来治療で行えるようになった。

・診察のポイント

 慢性期のCMLには症状がありません。そのため健康診断やかかりつけ医の検査で偶然見つかることが多いです。急性白血病とは臨床経過が大きく異なります。約30%に軽度の脾腫を認めますが、リンパ節と肝臓は腫れません。

・検査

 血算と血液像の再検査に加え、LDH、末梢血のPCR遺伝子検査を提出します。bcl-abl陽性であれば、CMLと確定診断します。貧血または血小板減少がある場合は、急性白血病に移行している可能性が高く、骨髄検査を行います。骨髄中の芽球が20%以上であれば、急性白血病と診断します。好中球顆粒のアルカリフォスファターゼ染色によるNAPスコアが低下するとされていますが、遺伝子検査が普及しており、提出は不要です。

・鑑別診断

 CMLでは好塩基球が10%以上に増えることがあります。好中球主体の増加であること、未熟な芽球に加えて、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球、分葉核球と各段階の白血球が増加していることが最大の特徴です。これに対し、白血病裂孔は急性白血病にみられる検査所見で未熟な芽球が増え、中間段階の細胞はなく成熟した分葉核球が存在する状況です。CMLは好塩基球に加えて血小板も増えていることが多いですが、好塩基球の増加に乏しい場合、CMLと本態性血小板血症を血算だけで鑑別するのは困難です。CMLは末梢血のbcl-abl融合遺伝子、本態性血小板血症は約半数でJAK2のV617Fが変異により診断が可能です(いずれも保険適応で外注が可能です)。

・治療

 チロシンキナーゼ阻害薬の内服によりCML(慢性期)の9割に治療効果を認めます。急性白血病と異なり、入院せずに外来で治療を完結できるため、他の血液がんと比べて負担が少ないと言えます。ジェネリックのあるイマチニブは10年を超える治療実績があり、有効性と安全性が確立しています。2世代のチロシンキナーゼ阻害薬はイマチニブと比べてより速く白血病細胞を減らすことが知られていますが、費用がこと、副作用がふえること、生存期間を有意に延長させるデータがないことから使い分けは主治医の判断によるのが現状です。

 

いかがでしたか。次回は『不明熱の鑑別診断、1ヶ月の発熱+リンパ節腫大』の勉強を行います。