第78回 DKA・HHS ~高血糖に対する処置は?~

f:id:Med-Dis:20190901073042j:plainこんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は重症肺炎・ARDSについて一緒に勉強しました。

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本日は、DKA・HHSについて一緒に勉強していきましょう。

 

 勉強前の問題

① DKAのしくみ ケトン体って何者

② DKAの症状と原因 3つのIで考える

③ DKAの病態1 循環血液量減少と電解質

④ ケトアシドーシス

⑤ DKAの治療①

⑥ DKAの治療② Naが上がれば輸液変更

⑦ DKAの治療③ 血糖正常、インスリン継続

⑧ DKAではの治療④ もうひとつの代謝性アシドーシスとは

⑨ DKA治療におけるその他

⑩ 高浸透圧高血糖症候群

糖尿病の罹患人口は年々増えていますが、治療方法も増えて現在では糖尿病がすごくよくコントロールされ長生きする時代になりました。高齢者で認知症を持った患者さんでは服薬コンプライアンスの問題から、異常高血糖になり救急へ搬送されることもあります。しかし血糖値の急激な低下はあまり良くないとされています。どのように治療したらよいか一緒に勉強していきましょう。

 

78回 DKAHHS ~高血糖に対する処置は?~

 

本文内容は主に『Dr竜馬のやさしくわかる集中治療 内分泌・消化器編』を参考に記載しています。田中竜馬先生の教科書は非常に読みやすく明快な本が多くいつも出版されるとすぐに手を付けてしまします。救急医療やICU管理の教科書がたくさん出ていますので是非読んでみてください。

① DKAのしくみ ケトン体って何者

 DKA高血糖代謝性アシドーシス、ケトン血症の3つが特徴です。

 

DKA

HHS

軽症

中等症

重症

血糖(mg/dL)

>250

>250

>250

>600

動脈血pH

7.25~7.30

7.00~7.24

<7.00

>7.30

血清HCO3-(mEq/L)

15~18

10~15

<10

>18

尿中ケトン体

軽度

血中ケトン体

軽度

血清浸透圧(mOsm/kg)

さまざま

さまざま

さまざま

>320

アニオンギャップ

>10

>12

>12

さまざま

意識状態

覚醒

覚醒~ぼんやり

昏迷/昏睡

昏迷/昏睡

 DKAでは、無制限に脂肪分解が起こるために、ケトン体が過剰に産生される。

 

② DKAの症状と原因 3つのIで考える

 DKAの症状は、大きく分けると高血糖によるものとケトアシドーシスによるものの2つに分けられます。

高血糖による症状;多尿、多飲、脱水

 ケトアシドーシスによる症状;悪心・嘔吐、腹痛、呼吸回数の増加(クスマウル呼吸が見られる時はpH7.2以下)

  • DKAの原因 3つのI

 DKAの3大原因は3つのIdesu。中でも頻度が高いのはインスリン不足と感染症です。薬剤として原因になるものにはステロイドがあります。最近のステロイドの開始や、増量を病歴で聴取すれば疑います。

 Insulin          インスリン不足(自己中断など)

  Infection       ;尿路感染、肺炎、胃腸炎、敗血症

  Infraction      心筋梗塞脳梗塞

 薬剤                 ;ステロイド、チアジド系利尿薬、ペンタミジン、

非定型抗精神病薬(クロザピン、オランザピン)

 

③ DKAの病態1 循環血液量減少と電解質

 DKAの病態として大事なのが1循環血漿量の減少と脱水2電解質異常3ケトアシドーシスです。これらのうちこの章では①、②について解説します。

1, 循環血液量減少と脱水

 DKAのように血糖が高いと腎臓の尿細管で再吸収が間に合わず、尿中に漏れ出してしまいます。このため、尿浸透圧が高くなり尿量が増加します。そのため循環血漿量が減少し、血糖を上げるホルモンが分泌されるという悪循環をたどる。

2, 電解質異常

 DKAでは浸透圧利尿で電解質も失われます。失われる電解質にはNa、K、Ca、Mg、Cl、Pがあります。特にカリウムは重要です。一見、血液生化学では正常に見えても絶対量は180~300 mEqも足りていません。また、カリウムとリンは同じように変化するため両者ともに体内の総量が著明に減少していると認識する必要があります。

 また、ナトリウム濃度は細胞外のグルコースの影響で細胞外の浸透圧が上昇しているので、水分のみが細胞外に引っ張られてNaは細胞内にとどまるようになります。そこで、細胞外のNaは低下します。体重1kgあたり7~10mEqの喪失があるので、60kgの人なら420~600mEqもの量が喪失していることになります。

 

④ ケトアシドーシス

  •  ケトン体とは

 ケトン体とはβヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンの3つ。アセトンは酸性ケトアシドーシスには関与しません。酸性でケトアシドーシスに関与するのはβヒドロキシ酪酸とアセト酢酸の2つです。尿検査ではケトン体はアセト酢酸、アセトンしか検出されませんDKAではβヒドロキシ酪酸が主体です。

  •  DKAでの治療目標

 DKAの治療では無尽蔵に脂肪がどんどんケトン体になってしまうのを防いでケトアシドーシスの進行を止めなければなりません。そのために、血糖だけでなくケトン体も見ながら治療します。治療ではケトン体の間接的指標としてアニオンギャップを用います。通常、DKAの治療ではアニオンギャップが正常化するよりも先に血糖値が低下します。つまり、DKAの治療目標はケトン体がなくなる(AG正常化)を目標にするため、血糖がよくなったからと言ってインスリンをストップさせてはいけません。

  •  DKAに直接関連した検査

血糖:DKAでは血糖は高くなっていますが、血糖値と重症度とは必ずしも相関しません。

ケトン体:ケトン体にはβヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンの3種類があります。このうちケトン体として測定されるのはアセト酢酸とアセトンの2つです。

トリグリセリド:脂肪分解の結果、ケトン体が上昇しますが、同時に過剰な脂肪からトリグリセリドも増えます。重度の高トリグリセリド血症が血清ナトリウム濃度の検査に影響して、実際よりも低く出ることがあります(偽性低ナトリウム血症)

電解質

ナトリウム高血糖である(ナトリウム濃度は下がるはず)にも関わらず血清ナトリウムが高値を示しているときには重度の脱水があると考えましょう

カリウム:ナトリウム同様に体内の総量は減っていますが、初診時の血清カリウム濃度は正常や、場合によっては高値になっていることも珍しくありません。インスリンを開始すると、カリウム濃度は急激に低下します。もし、初診時のカリウムがすでに低値(<3.3 mEq/L)になっている場合には、かなり重度の総カリウム量の低値がありますのでインスリンを始める前にカリウムを補正しなければなりません

リン酸:リン酸はおおむねカリウムと同様の変化をします。DKAでは体内のリン酸の総量は浸透圧利尿のために減少しています。インスリンがあれば、リン酸もグルコースとともに細胞内に取り込まれるので、インスリンが欠乏しているDKAでは細胞内へ移動できず、血清リン酸濃度は比較的保たれます。

白血球生体へのストレスを反映して上昇しています。通常は10,000~15,000/μlくらいになります。ただし、25,000/μLにまで上昇している場合には感染症を合併している可能性が高いといわれています。

酵素DKAではアミラーゼやリパーゼといった膵酵素が上昇することがよくあります。ある報告では、DKA患者でアミラーゼが上昇するのが21%、リパーゼ上昇が29%ととされています。DKAでは腹痛の症状と膵酵素の上昇があるのでそれだけでは膵炎と言い切れません。そこで腹部CTをとって画像上確認はしておきましょう。

【初診時の検査】

 ・血算

 ・電解質(血糖、BUN、Crを含む)

 ・血清ケトン体

 ・血清浸透圧

 ・尿検査

 ・(動脈)血液ガス

 

⑤ DKAの治療①

1) 輸液

DKAでは細胞内も細胞外も水不足になっています。細胞外液である生理食塩水を15-20 ml/kgを最初1時間で入れます(最初の1時間で生理食塩水1L程度入れる)。次の維持輸液は250-500 mL/で行います。途中から輸液を1/2生理食塩水(5%ブドウ糖液 500mL+生理食塩水 500mL混合、もしくは1号輸液)。

2) インスリン投与量

速効型インスリン(ノボリンR、ヒューマリンR

 調製は速効型インスリン100単位(1mL)+生理食塩水100mLにすると1単位/mLになります。

 ボーラスあり;0.1単位/kgの初期ボーラス投与をしたあとに0.1単位/kg/時間で投与

 ボーラスなし;0.14単位/kg/時間で投与

インスリンは超速攻型でも速攻型でもRCTで比較した場合には両者間で差はないという結果になっています。コストを考えれば速攻型のインスリンでよいと考えます。

インスリン開始前には

カリウムを評価を必ず行ってください。インスリンを投与するとグルコースとともに一気に細胞内に移動して血性カリウムが低下します(血性K<3.3 mEq/L)にはインスリンを開始する前にカリウムの補充を行います。

3) 電解質

カリウム

 電解質で一番重要なのはカリウムです。カリウム不足量は3~5 mEq/kgなので60 kgの人は180~300 mEqとなります。そこで最初のカリウムが低い場合(K<3.3 mEq/L)には、インスリンを始める前にまずカリウムを補充することが大事です。

3.3 mEq以下カリウム補充

 3.3~5.2 mEqカリウム補充をしながら維持輸液。

最初のボーラスで輸液1Lあたり20~30mEqを混注、維持輸液では40-60mEqを混注する。

 5.2 mEq以上:補充なし

リン酸

 リン酸も浸透圧利尿のせいで5~7 mmol/kgも失われており、カリウム同様にグルコースと一緒に細胞内に移動するので、DKAの治療が進むにつれて血清リン酸濃度は低下します。しかしRCTでリン酸の補充はDKAの回復までの時間や死亡率に有意差を認めませんでした。血清リン濃度が1.0 mg/dL(0.32 mmol/L)を下回るような重度の場合のみに行うことが推奨されています。

 

⑥ DKAの治療② Naが上がれば輸液変更

1) 輸液変更のタイミング

補正Na=血清Na+(BS-100)/100×1.6

補正ナトリウム濃度がおよそ135 mEq/L以上なら輸液を生理食塩水から低張液(1号液)に変更

・輸液の選択

最初は生理食塩水→ナトリウム濃度が上昇したら低張液(例えば1号液)

・経過中の検査

血糖 1時間おきに、

電解質、(静脈)血液ガス 2-4時間おき

2) インスリン

ボーラス投与後に0.1単位/kg/時で投与しても、ボーラスなしで0.14単位/kg/時で投与しても血糖は1時間あたり50-75 mg/dl程度低下します。もし予想通りに結党が低下しなければインスリンの量を増やします。

3) 電解質

カリウムが予想通り下がっている場合は、ひたすらカリウムを続行する。

 

⑦ DKAの治療③ 血糖正常、インスリン継続

1) 輸液

低張液を継続しますがグルコースを添加し、5%グルコース溶液ととする。

もともとグルコースの入っていない輸液であれば1Lあたり50%グルコースを100mL混ぜればできます。

2) インスリン

 血糖が下がってもインスリンの投与は終了しません。アニオンギャップを見ながら正常化するまでさらに0.02~0.05単位/kg/時(体重60kgなら1.2~3単位/時)の速度で継続します。輸液はグルコースを混ぜて使用します(1号液1000mLに50%グルコースを50mL混ぜる)。

血糖が150-200mL/dLになるようにインスリンを調製する。DKAでは高血糖が改善するまでにおよそ6時間、ケトアシドーシスが改善するまでに12時間かかります。

3) 電解質

 K補充を継続します。リン酸はルーチンで補充しませんが、1mg/dLを下回るような重度な低リン酸血症になった場合は補充しましょう。

 

⑧ DKAではの治療④ もうひとつの代謝性アシドーシスとは

 DKAからの回復の目安は以下の3つのうち2項目を満たしたときとされています。

 ・アニオンギャップ≦12 mEq/L(あるいはそれぞれの病院での正常値上限)

 ・HCO3-≧15 mEq/L

 ・(静脈血) pH>7.3

 のうち2項目を満たしたらDKAからの回復と判断して良い

 このタイミングで食事を再開してインスリンの皮下注を開始します。もともとインスリンを使用している患者さんではここで普段の容量を開始してかまいません。ただし、皮下注者を開始しても2時間はインスリン持続静注は中止してはいけません。DKAの再発の恐れがあります。

 治療後はアニオンギャップ正常代謝性アシドーシスになるということを知っておきましょう。理由は二つで、1つ目は生理食塩水過剰による高Cl-性の代謝性アシドーシスがあること。2つ目はケトン体の尿排泄による代謝性アシドーシスが生じることです。このアニオンギャップ正常代謝性アシドーシスは、腎機能が保たれている限り、特別な治療を行わなくても次第に改善します。

 

⑨ DKA治療におけるその他

DKAでのHCO3-の使用

 DKAではルーチンにHCO3-を使用しない。

DKAの予後

 DKAの死亡率は約1.0%低いです。これはHHSとは対照的ですのでDKAはきっちり治せるようになりましょう。また、合併症ですが有名なものに脳浮腫があります。しかし成人患者では脳浮腫の合併は極めて稀だそうです。

 

⑩ 高浸透圧高血糖症候群

高浸透圧高血糖症候群(HHS)とはDKAの3徴であった、高血糖代謝性アシドーシス、高ケトン血症のうち後の2つがない代わりに高浸透圧を起こし、そのために意識障害を起こした状態です。大まかにはⅠ型糖尿病の患者ならDKAになりⅡ型糖尿病の患者ならHHSになるという分類がありますが、実際にはそう簡単にはいきません。

HHSの症状はケトアシドーシスで起こる悪心・嘔吐、腹痛といったDKAの症状は起こりません。また、代謝性アシドーシスの症状であるクスマウル呼吸も見られません。その代わりに高浸透圧による意識障害が見られます。HHSでの意識障害では浸透圧は>320mOsm/kgである。

DKAとHHSでの典型的な欠乏量

典型的な欠乏量

DKA

HHS

水総量 (L)

6

9

水 (mL/kg)

100

100-200

Na+ (mEq/kg)

7-10

5-13

Cl- (mEq/kg)

3-5

5-15

K+ (mEq/kg)

3-5

4-6

PO43- (mmol/kg)

5-7

3-7

Mg2+ (mEq/kg)

1-2

1-2

Ca2+ (mEq/kg)

1-2

1-2

 

 

・HHSの検査所見

 pHは正常、HCO3-も保たれます。血糖値は高く電解質異常は進行しています。

・HHSの治療

 速効型インスリンを持続静注しつつ、輸液を行い、電解質補正をする。DKAと同じ治療法を行います。

 治療目標は浸透圧320 mOsm/kg以下と意識回復です。HHSでは血糖が300 mg/dL以下となっても意識障害が遷延していれば院スレインを継続します。

・HHSの予後

 HHSは高齢者が多いのを反映して15%近くの致死率といわれています。

 

いかがでしたか。次回は『NTIS』の勉強を行います。