第81回 副腎クリーゼ ~この症候から副腎クリーゼを疑えるか?~

f:id:Med-Dis:20190901073042j:plain

 

こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は粘液水腫について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

本日は、副腎クリーゼについて一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

① 副腎の生理学

② 副腎クリーゼの診断 ICU的副腎機能の評価

③ 副腎クリーゼの治療 初期治療は?ステロイドは?

副腎クリーゼの診断を外来などでつけられた方はいらっしゃるでしょうか。普通に診療していてもなかなか鑑別に上がってこないことも多いかと思います。診断はなかなか難しいですね。どのように疑い治療したらよいか一緒に勉強していきましょう。

 

81回 副腎クリーゼ ~この症候から副腎クリーゼを疑えるか?~

 

本文内容は主に『Dr竜馬のやさしくわかる集中治療 内分泌・消化器編』を参考に記載しています。田中竜馬先生の教科書は非常に読みやすく明快な本が多くいつも出版されるとすぐに手を付けてしまします。救急医療やICU管理の教科書がたくさん出ていますので是非読んでみてください。

① 副腎の生理学

 ご存知の通り、副腎は副腎髄質と副腎皮質に別れます。ない俗にある副腎髄質からは交感神経刺激によってアドレナリンとノルアドレナリンが分泌されます。安静時での分泌は少なく緊急時に分泌が増えます。これらのホルモンが心臓に作用することで頻脈になり血管抵抗が上昇します。

 副腎クリーゼの話の主役になるのは副腎皮質の方です。球状帯からは鉱質コルチコイドであるアルドステロン、束状帯からは糖質コルチコイドのコルチゾール、網状帯からはアンドロゲンが産生されます。鉱質コルチコイドと糖質コルチコイドは生命に関わる重篤な状態に陥ります。

 糖質コルチコイドの作用は体内の全ての臓器に作用します。抗炎症や免疫抑制のためにステロイド剤を使うことから、免疫に対する作用があります。また、その他に副腎クリーゼと関連の強い作用としては代謝と心血管に対するものがあります。

代謝コルチゾールは異化を亢進して肝臓による糖新生を促進します。なのでコルチゾールが正常に分泌されない副腎機能不全では低血糖となってしまいます。

心血管:細動脈のα1受容体を増やすことでカテコラミンへの反応を維持するという働きがあります。副腎不全ではこの作用が減弱し血管拡張から血圧低下を来します。ショックになれば血液分布異常性ショックとなります。

 

② 副腎クリーゼの診断 ICU的副腎機能の評価

・副腎クリーゼの定義(案)

 早期に治療しなければ致死的なので緊急事態であるというのは一致した意見なのですが粘液水腫もそうであったように決まった定義はありません。副腎不全による典型的で重篤な症状であって、ステロイド投与によって改善することが一つの目安になります。

A)次のうち2つ以上の症状があり、全身状態が著しく悪い

 低血圧(収縮期血圧<100 mmHg)

 悪心または嘔吐

 重度の倦怠感

 発熱

 傾眠

 低ナトリウム血症(≦132 mEq)または高カリウム血症

 低血糖

B) 糖質コルチコイド(ヒドロコルチゾン)の静注投与により改善する

 

・副腎不全の原因

 副腎不全の分類

 副腎不全の原因は大きく一次性と二次性に分けられ、一次性とは副腎そのものの障害による副腎不全で、二次性とは視床下部または下垂体機能の障害による副腎不全です。

 一次性副腎不全;副腎そのものの障害による副腎不全。

         糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドの両方の産生が障害される。

 二次性副腎不全視床下部または下垂体による障害。

         糖質コルチコイドは障害されるが、鉱質コルチコイドは保たれる。

                             アルドステロンはRAA系に関与し、視床下部、下垂体との関係は少ないため。

 一般的には副腎クリーゼは一次性の方が生じやすいと言われています。また、典型的検査所見であるとされる高K血症もアルドステロン欠乏による症状なので、一次性では起きますが二次性では起こりません。

・副腎クリーゼの症状

 症状;全身倦怠感、腹痛、悪心、嘔吐

 徴候意識障害、低血圧・ショック、発熱、腹部圧痛・筋性防御

 検査所見;低ナトリウム血症、高カリウム血症、低血糖

・副腎クリーゼの診断

 ACTH刺激試験。二次性副腎不全が積極的に疑われる場合には血漿ACTH値まで測定する。

 ACTH刺激試験について

まず血清コルチゾール値の基礎値を測定するための採血をする。その後に合成ACTH(コートロシン)250 ugを静注し、30~60分後に採血をしてコルチゾール値を再検する。施設によっても基準値が若干異なりますが、刺激後のコルチゾール値が18~20 ug/dl以上であれば正常の反応で、副腎不全は除外される。

 追加の検査

一次性副腎不全はフィードバック機構によって下垂体からのACTH分泌が増える。よって血漿中のACTHを測定すると高値になる。二次性副腎不全の場合、血漿ACTHが定値~正常になる。

 

③ 副腎クリーゼの治療 初期治療は?ステロイドは?

初期治療

 副腎クリーゼによる重症患者で一番の問題になるのはショックです。血行動態を保つように治療を行います。治療方法は敗血症性ショックのときと同じで基本は輸液と昇圧薬です。ステロイドで原因疾患の治療をするまでは補助治療が必要となります。

ステロイド

 ヒドロコルチゾンを初回は100 mg静注投与、その後は50 mgを6時間おきに静注

ACTH刺激試験の結果に影響しないよう、まずはデキサメタゾンを投与したという場合、初回投与量は4 mg静注します。ACTH刺激試験が終了すれば、ヒドロコルチゾンを6時間おきに50 mg静注に変更します

甲状腺ホルモン

二次性甲状腺機能低下症も合併している場合には甲状腺ホルモンの補充も必要になる。甲状腺ホルモンはステロイドの補充をしたあとから開始する。

ステロイド比較・換算表

 

等価投与量

(mg)

糖質コルチコイド

活性

鉱質コルチコイド

活性

生物学的半減期

(時間)

ヒドロコルチゾン

20

1

1

8~12

コルチゾン

25

0.8

0.8

8~12

プレドニゾロン

5

4

0.8

12~36

メチルプレドニゾロン

4

5

0.5

12~36

トリアムシノロ

4

5

0

12~36

デキサメタゾン

0.75

30

0

36~54

べタメタゾン

0.6

25~40

0

36~54

 

いかがでしたか。次回は『CRICI』の勉強を行います。