第40回 ナトリウム異常値の対応 ~Na補正し過ぎは医師免許剥奪の危機~  

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回はICUでのVTE予防について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

本日からは電解質異常シリーズに移ります。まずはナトリウムの異常から一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

高ナトリウム血症

 1, 高Na血症の定義

 2, 高Na血症の疫学・病態

 3,高Na血症の症状

 4,高Na血症の鑑別

 5,高Na血症の検査

 6, 高Na血症の治療

低ナトリウム血症

 1,低Na血症の定義

 2,低Na血症の疫学・病態

 3,低Na血症の症状

 4,低Na血症の鑑別

 コラム:体液量正常の低張性低Na血症について

 5,低Na血症の治療

 6,低Na血症の注意すべき疾患

 意識障害で運ばれてきた患者さんがナトリウム異常値だったなんてことを経験することもあるかと思います。そんな時に対応方法を考える間もなく、ナトリウム補正しほかの救急対応へ呼ばれて行ってしまう。次の日の朝、血液検査で補正されすぎていたら、危険ですね。国家試験の禁忌肢が現実に、、、。そうならないように補正の仕方を勉強しましょう。

 

40回 ナトリウム異常値の対応 ~Na補正し過ぎは医師免許剥奪の危機~

 

本文内容は主に『重症患者管理マニュアル(平岡栄治、則末泰博、藤谷茂樹 編)』を参考に記載しています。集中治療室での治療方針をわかりやすく書かれており、さっと開けて持ち運びも簡単な本になっています。ご一読を。

 

① 高ナトリウム血症

1, 高Na血症の定義

 血中Na濃度が145 mmol/L以上のものと定義されます。

2, 高Na血症の疫学・病態

 高Na血症(Na>150 mEq/L)はICU入室患者の7-16%にみられるとされ、入院時死亡率のリスクともいわれています。自由水の喪失かNa過剰負荷のいずれかで生じます。通常血清Na濃度の上昇は口渇から飲水行動を惹起しますが、ICU患者は気管挿管され、自身で飲水行動を取ることが難しいことがあり、高Na血症をきたしやすいです。

3,高Na血症の症状

 慢性高Na血症では明らかな症状を来さないことも多いです。急性の高Na血症では神経症状として認知機能や筋力の低下、振戦・固縮などをきたすことが多いです。また、細胞内液が細胞外に漏出するため、脳細胞の虚脱から脳の急激な萎縮を生じ、架橋する血管が破綻し、脳出血を起こすこともあります。しばしば発症時期が不明のため、症状から急性経過化慢性経過化を判断する必要があります。

4,高Na血症の鑑別

 自由水喪失

  尿崩症(腎性、中枢性)

  浸透圧利尿(高血糖、マンニトール)

  急性腎不全回復期の利尿期

  薬物(トルバプタン、ループ利尿薬)

  尿路閉塞解除後

  嘔吐、下痢、胃管ドレナージ

  発汗、不感蒸散

  熱傷

  不適切な飲水制限

  高齢者による口渇中枢の機能低下

 Naの過剰負荷

  高Na輸液[炭酸水素ナトリウム(メイロン)]

  原発性アルドステロン症

  鉱質ステロイド投与

  海での誤飲、溺水

5,高Na血症の検査

  血清浸透圧、血清Cr尿素、血糖、Ca、K、尿中Na、尿浸透圧

 

不適切に少ない水分摂取

尿崩症

浸透圧利尿

腎外性の水分漏出

Naの過剰摂取

浸透圧

高値

Uosm<Posm

Uosm>Posm

高値

高値

尿中Na

<25 mmol/L

<25 mmol/L

>25 mmol/L

<25 mmol/L

>25 mmol/L

尿量

無尿から乏尿

多尿

多尿

乏尿

正常~やや多め

Posm:血漿浸透圧、Uosm:尿浸透圧

6, 高Na血症の治療

 急性か慢性かが不明な場合、神経学的症状があれば急性として対応すべきです。

・原疾患の治療

 高Na血症で最も重要なのは原因検索とその治療です。補液による補正を行いながらさらなる悪化を防ぐために原因の除去に努めます。不適切な飲水であれば、自由水の飲水を促すようにすべきで、点滴の内容を見直す必要があります。

 もし、ICUで飲水できない状況の時は以下の対処法を行います。

 1,胃管チューブでの自由水の注入や5%グルコースの点滴

 (例:水道水200 mLを4時間おきに胃管に注入し、もしくは5%グルコース80 mL/hr

 2,4~6時間毎にNa採血で確認します。

・水欠乏の補正

 高Na血症をきたしても、自由水喪失により血管内ボリュームが不足し、循環が不安定になっている場合は、生理食塩液などの等張液の投与を躊躇してはいけない。最も大切なのは組織還流の維持です。投与量算出には以下の式が一般的に用いられます。一緒に確認しましょう。

 まず、患者さんの自由水の欠乏量を計算します。

  自由水欠乏量(L)=体内の総水分量✕(血清Na濃度-140)/140

  (体内の総水分量=体重✕0.6(女性や高齢者は0.5

 続いて、補正に入る前に1Lの自由水を投与したときに低下するNa濃度を予測式(Adrogue-Madiasの式) を使って計算しましょう。

  血清Na濃度の変化=(輸液中のNa濃度+輸液中のK濃度―血清Na濃度)/(体内の総水分量+1)

  ボリューム(L)=desired Δ[Na]s/Δ[Na]s (+1 L)

 慢性高Na血症における補正速度は0.5 mEq/L/hr (10-12 mEq/L/日)が勧められているが、急性に進展して意識障害等を伴う例では2 mEq/L/hrまでは許容できるとする報告もあります。

 慢性高Na血症を急激に補正すると、脳浮腫をきたし、意識障害や無気力、筋力低下、昏迷などの神経症状を生じます。経静脈投与であれば、最初の24時間で必要量の半量を投与します。その間、自由水槽室が続いている場合はそれを考慮することを忘れないようにしましょう。自由水は5%ブドウ糖を用いましょう。

 

② 低ナトリウム血症

1,低Na血症の定義

 血中Na濃度が135 mmol/L以下のものと定義されます。

2,低Na血症の疫学・病態

 臨床上、最もよく遭遇する電解質異常です。入院時ばかりでなく、入院後に発生することも多いです。重度の低Na血症の半数は入院後に出現したとの報告があります。低Na血症は死亡率と関連するとの報告があります。

3,低Na血症の症状

 慢性か急性かと低Na血症の程度により異なります。48時間以内に生じた場合に症状が出現すると言われる一方で、慢性で軽度の低Na血症であっても、転倒、歩行障害などのリスクを認め、補正により改善したとする報告もあります。

 主な症状として、消化器症状は嘔気・嘔吐、食欲不振、中枢神経系の症状としては傾眠傾向、痙攣、昏迷、頭痛、昏睡があります。

4,低Na血症の鑑別

 低Na血症の診断はしばしば困難を伴います。低Na血症の鑑別は多岐にわたりますので、一定のアルゴリズムで鑑別するほうが良いと考えられます。

 鑑別の方法のHP https://www.openhp.or.jp/staffs/manual/pdf/balance_03.pdf

・高張性低Na血症

 浸透圧物質により細胞内液が血管内に移動し、Naが希釈され、低Na血症を引き起こします。Naの量は変化していないため、浸透圧物質が除去されるとNa濃度は正常化します。代表的な例が高血糖です。血糖が100 mg/dL上昇すればNa濃度は1.6 mEq/L低下すると言われています。

・低張性低Na血症

 まずは体液量の評価を行います。体液量の評価において正確な測定ができる単一の評価は存在せず、丁寧な問診と身体所見で推測することが重要です。

 病歴では下痢や嘔吐、水分摂取の状況、体重変化の有無を聞きましょう。また、身体所見では血圧、脈拍の起立性変化、口腔粘膜や腋窩の乾燥、浮腫の有無を調べましょう。検査は、胸部X線で心胸郭比、下大静脈系と呼吸性変動、中心静脈圧、SpO2モニターの波形動脈圧の呼吸性変動について調べましょう。

・体液量正常の低張性低Na血症

 浸透圧物質摂取量と自由水摂取量のミスマッチによって起こります。正常な腎機能をもち、正常な浸透圧物質摂取をしていても、600÷50=12 Lの尿量産生が限界であり、12Lを超える自由水摂取は低Na血症を引き起こします(水中毒)。逆に浸透圧物質を150 mOsm/kg・H2O程度しか摂取しなければ、150÷50=3 L程度を超える自由水摂取で低Na血症が起こります。また、尿の希釈脳が傷害されれば、より少ない自由水摂取で低Na血症が起こります。

 また、甲状腺機能低下症や副腎不全では、その他の典型的な症状が現れる前に低Na血症が初発の症状となることがあるため注意します。

 

コラム:体液量正常の低張性低Na血症について

 水中毒は、飲水過剰の習慣や口渇中枢の異常のために腎臓が正常に機能して最大限に希釈した尿を排泄しても追いつかないほどの大量の水を摂取したことにより生じます。腎臓の希釈尿は最大でも50 mOsm/Lであり、1日の溶質摂取が600mOsm/日とすると最大希釈尿は多くても12L/日程度です。つまり、12L以上飲水すると水中毒による低Na血症になります。上記の数値の意味が少し理解できたかと思います。

 また、beer potomaniaとは過剰なビール飲みでみられ、ビールだけ飲んでほとんど食事を取らないため、溶質摂取不足により尿量が減少してしまい低Na血症を起こしてしまう病態です。それと同様にtea and toastとは、高齢者が紅茶とパンのような少量の経口摂取しかしないと同様に低Na血症になってしまうことです。

 

5,低Na血症の治療

 欧州ガイドラインの推奨では以下のように治療を行うよう推奨しています。

 低Na血症で重度の症状を呈する場合は、急性/慢性を問わず3%食塩液での治療を行います。重篤な症状の場合には、3%食塩液を20分間で150mL投与して血清Na濃度を評価し、5mEq/L上昇するか、症状の改善がみられなければ繰り返し投与します。

 血清Na濃度の上昇は浸透圧性脱髄症候群(ODS)を防ぐために、24時間あたりの血清Na上昇は8-10 mEq/L内に抑えることとしています。ODSのリスクが高い症例では急速に血清Na上昇を認めた場合には5%ブドウ糖液を点滴投与して血清Na濃度の上昇を防ぎます。また、デスモプレシン投与の方法も提唱されています。

3%食塩液の作り方

生理食塩液(0.9% NaCl) 400 mLに10%食塩液120 mLを加える。

 低Na血症を早く補正しすぎるとODSをきたし、四肢麻痺意識障害、痙攣、言語障害、振戦、精神障害などの様々な症状を起こします。過剰な補正が起こった場合は、補正速度の上限まで再度下げるとODSを防げるという報告があります。原因がわからない場合は、unresolved hyponatremicとして診断を見送るようにしてください。

 また、内科レジデントの鉄則には低Na血症をみたらまず血漿浸透圧を測定し、高張性、等張性、低張性に分けて、低張性のみが治療対象としています。

 

6,低Na血症の注意すべき疾患

・中枢性塩類喪失症候群(CSWS)

 中枢神経疾患に合併する(特にクモ膜下出血に多い)低Na血症で、多尿と血管内水分量低下を伴います。時として抗利尿ホルモン不適合分泌との鑑別が困難となります。

・鉱質コルチコイド反応性低Na血症(MRHE)

 加齢に伴い、腎近位尿細管でのNa再吸収が低下し、尿中Na再吸収が低下し、尿中Na排泄が増加し、体液量が低下します。レニン・アルドステロン系の低下、集合管のアルドステロン感受性の低下が起きます。これにより尿中Naが増加します。これらの結果、体液量が低下して反応性にADH分泌が増加し、これもNa濃度低下の原因となります。

・ODS

 補正速度についてはODSを起こした症例の87%が、最初の24時間で12 mmol/Lまたは46時間で20 mmol/Lを超えていたと報告されています。補正速度以外に、アルコール中毒、低K血症、栄養不良状態の患者、肝障害のある患者、熱傷患者、抑うつ患者がリスク因子とされます。

・勝手に治る低Na血症

 病棟でよく見かけるのはNa130 mEq/L前後の軽度な低Na血症です。僅かなNa低下でも死亡率上昇がみられているため、介入しなくてもプロブレムには挙げましょう。自然に改善する低Na血症か判断するのに、尿中Na+Kを目安にすることができます。

 尿中Na+K>血清Na なら、自由水の排泄障害があり、低Na血症は進行します

 尿中Na+K<血清Na なら、自由水の排泄があり、低Na血症は改善します

自尿で、自由水の排泄があれば、補正は行わずに血清Naをフォローしても良いようです。自由水の排泄がない場合、あるいは自由水の排泄があるはずなのに血清Naが改善しない場合は生理食塩水での補正が必要になります。

 

いかがだったでしょうか。次回はカリウム異常値の対応について勉強をしたいと考えています。