第41回 カリウム異常値の対応 ~Kの補正はできるだけ素早くね~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回はナトリウムの異常値の対応について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

本日は電解質異常シリーズの第2段です。カリウムの異常値の対応を一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

カリウム血症

 1, 高K血症の定義

 2, 高K血症の疫学・病態

 3,高K血症の症状

 4,高K血症の鑑別

 5, 高K血症の治療

カリウム血症

 1,低K血症の定義

 2,低K血症の疫学・病態

 3,低K血症の症状

 4,低K血症の鑑別

 5,低K血症の治療

カリウムの異常値は非常に危険な病態と捉えておく必要がある症候ですね。高K血症でも低K血症でも、早急に対処し心臓の不整脈が起こらないように上手に対処できるようになりたいですね。一緒に勉強していきましょう。

 

41回 カリウム異常値の対応 ~Kの補正はできるだけ素早くね~

 

本文内容は主に『重症患者管理マニュアル(平岡栄治、則末泰博、藤谷茂樹 編)』を参考に記載しています。集中治療室での治療方針をわかりやすく書かれており、さっと開けて持ち運びも簡単な本になっています。ご一読を。

 

① 高カリウム血症

1, 高K血症の定義

 血中K濃度が5.5 mmol/L以上のものと定義されます。

 

2, 高K血症の疫学・病態

 高K血症はICUで頻度の高い電解質異常です。K高値は死亡リスクを上昇させる要因として知られているため適切な管理が必要です。まず、高K血症をみたら偽性高K血症ではないかを確認しましょう。

偽性高K血症の原因

 ・採血時の長時間の吸引圧が高すぎたことによる溶血

 ・骨髄増殖性疾患で、高度の血球異常(白血球10万/μl以上, 血小板40 万/μl以上)

 ・遺伝性球状赤血球症(低温下で凝固)

食事からの摂取

 日本人が一般的な食事から摂取するKの量は1日2.5 g(60 mEq)と言われます。通常、この程度の摂取量で高K血症をきたすことはまれです。腎機能が正常であれば1日200 mEqのKを尿中に排泄できるので、短時間に大量のK摂取をしない限り高K血症をきたすことはありません。

尿への排泄

 腎臓はK排泄の95%を担っており、血中K濃度のコントロールにおいて最も重要な役割を担っています。高K血症は鉱質コルチコイドの不足がAKIに合併した場合に生じやすいということになります。また、慢性腎不全におけるACE阻害剤での高K血症でもこのような病態生理から生じます。

細胞内からの移行

 体内のKの98%は細胞内に存在し、細胞内のK濃度は130 mEq/Lです。そのため、僅かな細胞内外のKの移動が血中K濃度の大きな変化をもたらします。短時間で生じた急激なK濃度の変化は細胞内外の移動により生じたものと考えられ、細胞内外から生じた急激な血清K血症は、Kの濃度勾配が低いため、心筋の興奮性が高く、不整脈のリスクが高まります。

 原因としては、β遮断薬、アシデミア、高血糖、薬物(ジギタリスやサクシニルコリンなど)があります。細胞破壊や横紋筋融解症でも、細胞内Kが細胞外に移動し、高K血症を生じます。

 

3,高K血症の症状

 高K血症において最も注意すべき合併症は心電図異常です。心電図はテント状T波からwide QRS、P波の消失を経て正弦波(sine wave)変化を来たし、心室細動、心停止に至ります。

 高K血症の症状は軽度の脱力から完全な弛緩性麻痺まで、様々な筋力低下をきたします。通常は下肢に強く現れ、深部腱反射は低下または消失します。一方で横隔膜が麻痺に至ることは稀であり、呼吸筋は維持されます。脳神経障害や感覚障害は来さないことが多いです。

 

4,高K血症の鑑別

 血算、血清Cr、血液ガス、尿中K、尿中Crが原因検索に必須の検査であり、尿細管K濃度勾配(TTKG)を計算する方法もあります。

TTKG (transtubular K concentration gradient)

 TTKG=(尿中K/血漿K)÷(尿浸透圧/血漿浸透圧)

 アルドステロン活性度と比例すると言われています。例えば、高K血症ではKの排泄が促進されてアルドステロン活性が上昇している(TTKG>7-8)はずですが、不適切に低下している場合(TTKG<5)はレニン・アルドステロン系の障害が起きていると考えいます。

病態別の鑑別

TTKG<5

腎臓からの排泄低下

代謝性アシドーシス、高血糖、β遮断薬内服

細胞内からの移動

腫瘍崩壊症候群、外傷、クラッシュ症候群、低体温の復温、激しい運動

高浸透圧状態

薬物によるもの

腎からの排泄障害

β遮断薬、ACE阻害薬、ARBスピロノラクトン、レニン阻害薬、NSAIDs、

ヘパリン、抗真菌薬、カルシニューリン阻害薬

細胞内取り込み阻害

トリアムテレン、ST合剤、ペンタミジン

K含有量の多い薬物

K製剤、調理用食塩、漢方、輸血

 

5,高K血症の治療

4つのステップを意識して治療を勧めます。

Step 1) 膜の安定化 *K>7 mEq/L以上または心電図変化

グルコン酸カルシウム(カルチコール)もしくは塩化カルシウム

 投与方法:10mL=3.9 mEqを10分かけて塩化カルシウムの場合は20 mL=20 mEqなので用量に注意。

 効果発現はすぐで、持続時間は30~60分

Step 2) 細胞内移行

インスリン

 投与方法:ヒューマリンR4単位+50%ブドウ糖液40 mLをボーラス投与。その後は必ず血糖チェック。

 効果発現は20分で、持続時間は4~6時間

β2刺激薬

 投与方法:サルブタモール(ベネトリン) 2~4 mLを吸入。

 効果発現は数分~30分で、持続時間は2時間

Step 3) 尿中への排泄

フロセミ

 投与方法:20~40 mg静注。

 効果発現は15分で、持続時間は2~3時間

炭酸水素ナトリウム(メイロン、フソー)

 50 mEqを5分程度で

 効果発現は1時間で、持続時間は数時間

Step 4) 腸管への排泄

 陽イオン交換樹脂(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(ケイキサレート))

 投与方法:30~60 g

 効果発現は数時間後で、持続時間は排便まで。

 

② 低カリウム血症

1,低K血症の定義

 血中K濃度が3.5 mEq/L未満のものと定義されます。

2,低K血症の疫学・病態

 低K血症はICUでは奥遭遇しますが、高K血症と同様にKを制御している機構のどこで障害が生じているかを考えます。

食事からの摂取

 Kの多くは細胞内に存在するため、食事摂取不足から臨床的に問題となる低K血症をきたすのは極めてまれです。

尿への排泄

 以下のすべてが傷害されるとはじめて低K血症となります。

 皮質集合管へのNaの十分な流入

 十分なアルドステロン濃度

 管腔内の陰性荷電

 電解質の調整機構が正常に保たれていれば皮質集合管へのNa濃度が上昇してもそれがアルドステロンの分泌を抑制します。

細胞内からの移行

 Kの細胞内への取り込みを更新する要素には、インスリン、β2刺激薬、アルカローシス、浸透圧低下が挙げられます。K濃度勾配が大きくなると、細胞膜電位は過分極傾向となり、興奮性が過度に抑制されます。

 

3,低K血症の症状

 神経筋では、細胞の過分極状態を惹起するため、筋力低下をきたします。軽度の脱力感から四肢麻痺まで程度は様々で、呼吸筋障害による低換気をきたすこともあります。また、細胞障害から横紋筋融解症に至ることもあります。周期性四肢麻痺は運動や過食により惹起されることが多いです。心血管系では、QT延長や房室ブロックから徐脈を生じ、期外収縮心室不整脈をきたします。

4,低K血症の鑑別

 原因検索に必須の検査として血清Cr、血清Mg、血液ガス、尿中K、尿中Cr、尿中Clが挙げられます。低K血症の患者をみたらKの喪失が腎性かどうかの検索を行います。24時間の蓄尿が最も正確ですが、時として困難なことが多いです。そこで随時尿中K濃度を測定し20 mEq未満の場合は腎外性喪失(摂取量不足、消化管からの喪失、細胞内への移行)を考え、20 mEq/L以上の場合は腎臓からの喪失を考えます。

機序

疾患

食事からの摂取低下

リフィーディング症候群、下痢、嘔吐、胃液ドレナージ

腎臓からの再吸収低下

アルドステロン活性上昇、利尿薬、尿細管性アシドーシスⅠ型・Ⅱ型

細胞内への移行亢進

インスリン、低体温療法、甲状腺機能亢進症

薬剤性

ビタミンB12、G-CSF製剤、β刺激薬、アドレナリン、利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド径利尿薬、アセタゾラミド)、抗菌薬(ペニシリン、アムホテリシン、アミノグリコシド系抗菌薬)、甘草(偽性アルドステロン症をきたす)

家族性

家族性周期性四肢麻痺

 

5,低K血症の治療

 原疾患の治療とK補充をします。治療に伴う高K血症を防ぐために、可能なら経口的にKを補充することが大切です。また、高度の低K血症に対しては経中心静脈的に補充する場合には、心電図モニタリング下でⅠ時間あたり20 mEq/Lを超えない速度でゆっくりと補充することが推奨されます。

 低Mgの治療を行わなければ、低K血症の補正は困難となるため、併存する低Mg血症があれば、そちらの治療を忘れずに行いましょう。

 

 治療方針としてK<3mEq/L未満なら経口では30~40 mEq内服、経静脈なら30~40 mEqを2~4時間で投与します。またK3~3.5 mEq/Lなら経口では20 mEq内服、経静脈なら20~30 mEqを1~2時間で投与します。

点滴

・塩化カリウム

 Ⅰ時間で20 mEq以内におさえます。末梢なら40~60mEq/L(添付文書では40mEq/L以下)に、中心静脈なら100~200mEq/Lで投与します。血管痛を起こします。

 点滴の効果はK20, 30, 40 mEq/Lで1時間かけて常駐すると0.5, 0.9, 1.1 mEqの上昇を期待できる。

・経口製剤

 スローK 1錠8 mEq

 グルコン酸K 1錠4 mEq

 アスパラカリウム 1錠1.8 mEq

 経口の効果は40~60 mEqでは1~1.5 mEq/L程度の上昇が期待できます。

 

いかがだったでしょうか。次回はカルシウム異常値の対応について勉強をしたいと考えています。