第43回 P, Mg, Cl異常値の対応 ~電解質の異常ほっといていいの~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回はカルシウムの異常値の対応について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

本日は電解質異常シリーズの第4段です。P, Mg, Clの異常値の対応を一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

P代謝の異常

 1, 高P、低P血症の定義

 2, 高P、低P血症の疫学・病態

 3, 高P、低P血症の症状

 4, 高P、低P血症の鑑別

 5, 高P、低P血症の治療

Mg代謝の異常

 1, 高Mg、低Mg血症の定義

 2, 高Mg、低Mg血症の疫学・病態

 3, 高Mg、低Mg血症の症状

 4, 高Mg、低Mg血症の鑑別

 5, 高Mg、低Mg血症の治療

Cl代謝の異常

 1, 高Cl、低Cl血症の定義

 2, 高Cl、低Cl血症の疫学・病態

 3, 高Cl、低Cl血症の症状

 4, 高Cl、低Cl血症の鑑別

 5, 高Cl、低Cl血症の治療

 

 P, Mgを定期的に測定している先生はなかなかいらっしゃらないかと思います。しかし、たまたまP、Mgを測定して異常値だったなんてことになった場合の対処法がすぐに出てくる先生はいないかと思います。また、Clについてはルーチンで測っている先生も多いハズ。しかし、異常値が出ても無視してしまうなんてことも、、、。そのような電解質の異常について補正が必要なのかについても一緒に勉強していきましょう。

 

43回 P, Mg, Cl異常値の対応 ~電解質の異常ほっといていいの~

 

本文内容は主に『重症患者管理マニュアル(平岡栄治、則末泰博、藤谷茂樹 編)』を参考に記載しています。集中治療室での治療方針をわかりやすく書かれており、さっと開けて持ち運びも簡単な本になっています。ご一読を。

 

① P代謝の異常

1, 高P、低P血症の定義

 Pの正常値は2.5~4.5 mg/dLとされ、それを逸脱する場合には高P血症、低P血症と定義されます。

 

2, 高P、低P血症の疫学・病態

 Pの主な機能はATPの原料、リン脂質や拡散の構成要素、cAMPなどの細胞内伝達物質など体内の恒常性維持に必要不可欠な要素です。成人は平均800~1,500 mg/日のPを摂取し、尿中排泄量は1,000mg/日、便中排泄は200 mg/日とされ、体内Pの維持に重要な役割を担っています。

 

3,高P、低P血症の症状

・高P血症

 単独では通常無症状であるが、Ca血症をきたすことがあります

・低P血症

 呼吸器系 呼吸筋機能低下による呼吸不全(呼吸器離脱困難の原因となる)

 心血管系 心筋障害・収縮能低下による低血圧(VTのリスクともなる)

 神経系  意識障害、痙攣、感覚異常や振戦、Guillain-Barre症候群様の症状をきたすこともあります

 骨格筋  筋力低下、筋痛、禁煙(横紋筋融解症に進展することもあります)

 血液   溶血(ATPの枯渇が膜の維持と変形能を阻害します)

 中心静脈栄養投与中の患者では、低P血症、低Mg血症を認める場合が多く、集中治療領域での注意が必要です。

 

4,高P、低P血症の鑑別

 

高P血症

低P血症

腸管からの吸収

上昇ビタミンDの過剰症、P酸塩性下剤の乱用

低下:アルコール依存、慢性下痢、ビタミンD欠乏症

細胞内外の移動

細胞内からの流出:横紋筋融解症、腫瘍崩壊症候群、急性白血病、低体温からの復温

細胞内取り込み;高血糖治療後、リフィーディング症候群、呼吸性アルカローシス

腎臓での代謝

腎臓からの排泄低下:高度腎不全

腎臓からの喪失:AKIからの回復過程の利尿期、副甲状腺機能亢進症、腎移植後、FGF23活性上昇

 低Mg血症は低P血症、低K血症を起こすことがある。

 

5,高P、低P血症の治療

・高P血症

 腎機能が正常な場合には、補液により十分量の尿量を確保すれば、自然と低下が期待できます。

・低P血症

 経口補正が最も安全です。牛乳にはPが豊富です。

 静脈注射

リン酸Na補正液 0.5 mmol/mL 1A: 20mL, P 10mmol(20 mEq)2時間以上かけて投与します

  リン酸2カリウム 1A: 20mL, P 10mmol(20 mEq)2時間以上かけて投与します

 

② Mg代謝の異常

1,高Mg、低Mg血症の定義

 血中Mg濃度の正常範囲は1.8~2.6 mg/dLとされ、それを逸脱する場合は高Mg血症、低Mg血症と定義されます。

 

2,高Mg、低Mg血症の疫学・病態

 Mgは体内で4番目に多い陽イオンです。細胞内ではKの次に多いです。Mgは食事から摂取され、半分が腸管より吸収され、3割が蛋白質と結合し、7割が腎臓で濾過されます。

 

3,高Mg、低Mg血症の症状

・高Mg血症は通常無症状で、血中Mg濃度5mg/dL以上では嘔気・嘔吐を生じ、7mg/dLを超えると筋力低下、腱反射低下、PR間隔並びにQRSの延長をきたします。10mg/dLを超えると完全房室ブロックや呼吸筋麻痺を呈します。

・低Mg血症は基本的には低Ca血症に類似します。

 神経・筋 筋力低下、気管支収縮、痙攣、テタニーなどを引き起こす

 心血管系 不整脈、心収縮力不全、冠動脈攣縮、突然死の原因となる。ジギタリス中毒にもなりやすい

 その他  低K、低Caなどの電解質異常の原因となる

 

4,高Mg、低Mg血症の鑑別

・高Mg血症

 腎機能障害による排泄障害または過剰不可のいずれかが原因となります。過剰負荷の場合は医原性が多く、腎機能障害があるところに酸化マグネシウム製剤などのMg含有製剤が漫然と処方された場合に多いです。

・低Mg血症

 Mg濃度の低下は経口摂取の低下、腸管からの排泄増加、腎臓からの排泄増加の3つの軸から考える。

 腎臓からの排泄の増加

  サイアザイド系利尿薬やループ利尿薬はMgの尿中排泄を促します。

 薬物

  アミノグリコシド系抗菌薬、シスプラチン、タクロリムス等は、尿細管からのMgの再吸収を阻害します。

 

5,高Mg、低Mg血症の治療

・高Mg血症

 ICUで治療が必要になるほどの高Mg血症はほぼ医原性です。透析患者や末期腎不全患者で酸化マグネシウム製剤を使用するときには注意しましょう。

・低Mg血症

 不整脈など有症状の低Mg血症は、経静脈投与で補正します。Mg 2Aを30分以上かけて投与します。Mgは一時的に投与しただけでは腎臓から排泄され低Mg血症に戻ってしまうため、1日2回以上の投与を繰り返す必要があります

 無症状では、経口で補正する。経口投与の目安はMg量にして30~60 mEq/日(酸化マグネシウム1000 mg前後)程度とされます。

・低Mg以外でMg投与する疾患

 便秘(経口で)

 Torsades de pointes       2g静注、止まらなければ2g追加

 妊娠高血圧腎症(静注:痙攣予防)           4gを10~15分、その後1g/hr

 破傷風(静注;筋のスパスム軽減、循環動態の安定化)40 mg/kgを30分、その後1.5~2 g/hr

 重症喘息           2gを30分かけて

 

③ Cl代謝の異常

1,高Cl、低Cl血症の定義

 低Cl血症は95 mmol/L以下、高Cl血症は110 mmol/L以上のものと定義されます。

 

2,高Cl、低Cl血症の疫学・病態

 Clの異常はICU患者の25%程度に見られ非常によく見る電解質異常です。しかし、Cl異常はしばしば見逃され積極的な治療対象になりにくいです。しかし、近年高Cl血症が患者の死亡率の上昇と入院期間の延長に関与しているという報告がなされ注目されています。

 体内Clを調節するのに重要な要素は、酸塩基平衡、腸管からの排泄、腎臓からの排泄の3つです。

 

3,高Cl、低Cl血症の症状

 Cl異常のみで症状をきたすことはあまりないです。

 

4,高Cl、低Cl血症の鑑別

・高Cl血症

Clの過剰投与

Clの多い補液(生理食塩水など)、TPN

自由水欠乏

不感蒸散、発熱、代謝亢進、腎性喪失、尿崩症(中枢性、腎性ともに)

自由水喪失がCl喪失より多い状態

下痢、熱傷、高浸透圧利尿、閉塞解除後の多尿、腎疾患

尿細管からの再吸収亢進

尿細管性アシドーシス、DKA回復期、早期腎不全、アセタゾラミド、尿路変更術後、呼吸性アシドーシスの改善期

・低Cl血症

Cl喪失

利尿薬投与(主にループ利尿薬)、胃管から大量ドレナージ、慢性呼吸性アシドーシス

自由水の取り込みがClを上回る場合

うっ血性心不全、SIADH、医原性(Clの摂取不足)

 

5,高Cl、低Cl血症の治療

 原疾患治療に準じます。ICUで最もみられるCl異常は、生理食塩水などClを大量に含有した輸液製剤の大量投与による高Cl性代謝性アシドーシスです。そのため、アシドーシス予防の観点からはCl含有量が少ないリンゲル液が望ましいです。

 

いかがだったでしょうか。次回はICUでの筋弛緩薬の使用について勉強をしたいと考えています。