第71回 シアン中毒について

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。一酸化炭素中毒について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

 本日は、シアン中毒について一緒に勉強していきましょう。

 勉強前の問題

 ① シアン中毒

  • 病歴
  • 症状・所見
  • 検査
  • 治療戦略
  • 対応の注意点
  • 治療

 前回は一酸化炭素中毒について勉強しました。今回は中毒つながりということでシアン化中毒です。シアン化中毒はなかなか診る機会ないかもしれません。しかし、シアン中毒の場合は対応を急がなければならない場合もあり先に勉強し頭の中に入れておく必要があります。一緒に勉強してみましょう。

 

71回 シアン中毒について ~シアン中毒の対応言えますか?~

 

本文内容は主に『季節の救急 山本基佳』を参考に記載しています。救急医療に関して携わるときもちろん季節を考えまがら診断を決めているのではないかと思います。例えば夏場なら熱中症が多いだとか、冬なら心筋梗塞が増えるかなあなどです。今回は秋ということで秋にまつわる救急疾患を勉強してみましょう。

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① シアン中毒

 シアン中毒は青酸カリによる中毒といえば想像しやすいでしょう。青酸カリとはすなわち、青酸カリウム、シアン化カリウムのことですね。シアン中毒は一刻も早く治療しなければ死に至ります

 シアン中毒の病態は細胞内の呼吸が障害されることによって生じます。こちらはミトコンドリア内の電子伝達系でATP産生時に使用される回路でその中の酵素であるシトクロムオキシダーゼの鉄はFe3+です。シアンはFe3+との親和性が高くこの性質からシトクロムオキシダーゼのFe3+を奪ってしまう。これによって細胞内でエネルギー(ATP)が作れなくて死んでしまう。なのでいくら息を吸ったり吐いたりしてもシアン中毒では細胞内のATP産生機構が破綻しているため意味がないのである。

  • 病歴

 火災は工場や、建材の合成樹脂が燃えるとシアンガスが発生することがあります。食物では青酸配糖体を含んだものに気をつけます。青梅などの未熟な果実、種子類に含まれていることがあります。エピソードとして、工場で突然人が倒れた、火災現場からの搬送、服毒自殺疑い、原因不明の意識障害、アニオンギャップ開大性アシドーシス、集団発生などがあります。

  • 症状・所見

 シアン中毒は酸素の利用障害なので、酸素に感受性の高い組織である中枢神経、心血管系が早期に症状を呈します。頭痛、めまい、悪心、呼吸困難、肺水腫、痙攣、意識障害、ショック、心肺停止など非特異的です。

  • 検査

 酸素が使えず嫌気性代謝による乳酸産生が認められる。酸素の利用ができなくなるため静脈で酸素飽和度が上昇するので静脈でのSpO2を確認するのもヒントになるかもしれません。ただし、決定打にはなりません。

  • 治療戦略

 治療はシトクロムオキシダーゼのFe3+に強力にくっついているシアンを取り除きます。そのために、亜硝酸塩を使用します。亜硝酸はヘモグロビンの鉄をFe3+に変換することでメトヘモグロビンに変えて、こちらにシアンをトラップしてしまうという方法です。シトクロムオキシダーゼよりもメトヘモグロビンのほうが親和性が高くシトクロムオキシダーゼにくっついたシアンを引き剥がすことができます。ただしシアン化メトヘモグロビンからシアンを無毒化する必要があります。これには体に存在するロダネーゼという酵素が働き硫黄をもちいてチオシアン酸塩に変換し尿中へ排泄します。ここで用いられる硫黄はこの反応が進むにつれて不足します。そこでチオ硫酸ナトリウムを補充します。

  • 対応の注意点

 シアンは消化管からだけでなく、肺、皮膚、粘膜からも吸収されます。医療従事者の二次被害や二次災害にも気をつけましょう。一部のシアンは呼気からも排泄されるため換気も必ず行ってください。ヒトの経口推定致死量はシアン化ナトリウムで200~300mg、シアン化カリウムで150~200mg、シアン化水素で50 mgと言われています。数分で吸収されて致死的となります。高濃度のであれば短時間でも意識障害、心肺停止を認めることがあります。

  • 治療

ABCの安定化

 まずはABCを安定化しましょう。酸素投与を開始し気管内挿管はほぼ必須でしょう。合わせて除染と二次被害の防止をし、中毒センターへ問い合わせて専門家の情報収集も行います。

 中毒センター電話番号記載HP: https://www.j-poison-ic.jp/110serviece/service-guide-medical/

 シアン化物は毒性が極めて高いので、経口摂取時であれば胃洗浄の積極的な適応になります。活性炭への吸着は少ないが少しでも吸着を期待して投与することが多いです(成人50 g, 小児で1g/kgが目安)

亜硝酸塩によるメトヘモグロビン化

まず、亜硝酸アミル(0.25 mL/1A)を1アンプルガーゼなどに染み込ませて吸入させます。これを1分間につき30秒間吸入させます。亜硝酸アミル吸入で形成されるメトヘモグロビンは3~5%程度と言われます。

 次に亜硝酸ナトリウムを投与します。成人では3%亜硝酸ナトリウム液(300 mg/10 mL) 10 mLを5分以上かけてゆっくり静注する。小児では6~10 mg/kgをゆっくり静注する(300 mgを超えないように)。ただし亜硝酸ナトリウム溶液は市販されていないので院内調剤が必要です。注射様蒸留水20 mL亜硝酸ソーダ0.6gを溶解します。薬剤科との連携が大切です。血圧的かに注意して30分以内に症状が改善しなければ半量ずつ追加投与します。

チオ硫酸ナトリウム

 成人では10%チオ硫酸ナトリウム120mL(デトキソール静注液 6A12g)を静注小児では400mg/kgを静注します。改善しない時は半量を追加投与します(総量25gまで)。小児投与量は成人を超えないこと。

  • 参考:室内火災

 シアン中毒におけるシアンの吸収経路は,青酸カリ(KCN)や青酸ソーダ(NaCN)の経口吸収が多いですが,シアン化水素(HCN)の経気道吸収の場合もあります。HCNは羊毛,羽毛,絹などの動物繊維やナイロン,レーヨン,アクリルなどの化学繊維など,窒素を含んだ物質が燃焼するときに発生します。火災現場で衣類,寝具,絨毯,カーテン,ウレタンフォーム(断熱材)の建材などが燃えると一酸化炭素ホルムアルデヒド,硫黄化合物,窒素酸化物,塩化水素,HCNなどが発生します。室内火災による傷病者では,一酸化炭素中毒については,COHbが簡単に測定できることもあり,問題視されることが多いが,同時に発生するHCNの吸入によるシアン中毒については,わが国では診断,治療されることは少ないです。

日本救急医学会雑誌 (0915-924X)25巻10号 Page797-803(2014.10))

 

いかがでしたか。次回は『熱中症』の勉強を行います。