第70回 一酸化炭素中毒について ~一酸化炭素中毒を一度は考えましたか?~

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 こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。低体温症、凍傷について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

 本日は、一酸化炭素中毒について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 一酸化炭素(CO)中毒

  ・症状

  ・検査

  ・ヘモグロビンの呼称

  ・遅発性の神経学的後遺症について

  ・心筋虚血

  ・ジクロロメタン

  ・治療

 今回は一酸化炭素中毒について。救急外来ではほとんどみたことのない一酸化炭素中毒と思っている先生方も多いのではないのでしょうか。実際には冬に何人か一酸化炭素中毒で外来に来てもかぜなどと誤診されている可能性があります。一緒に勉強してみましょう。

 

70回 一酸化炭素中毒について ~一酸化炭素中毒を一度は考えましたか?~

 

本文内容は主に『季節の救急 山本基佳』を参考に記載しています。救急医療に関して携わるときもちろん季節を考えまがら診断を決めているのではないかと思います。例えば夏場なら熱中症が多いだとか、冬なら心筋梗塞が増えるかなあなどです。今回は秋ということで秋にまつわる救急疾患を勉強してみましょう。

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① 一酸化炭素(CO)中毒

 救急外来に冬季に頭痛、倦怠感、気分不良の人がやってきてもまたインフルエンザかと考え検査をして、もし陰性だったらただの風邪として帰宅させたりしていないだろうか。このような患者さんの中にも一酸化炭素中毒は潜んでいるといいます。

 一酸化炭素中毒が生じるエピソードとして、焚き火、不完全燃焼を起こした暖房器具の使用はもちろん、焼き肉をしていたら全員一酸化炭素中毒、急な降雪のため車内で段を取っていたら車の排気口がふさがっていたとか考えればいろんな原因が考えられます。

一酸化炭素はヘモグロビンに結合しやすく、ヘモグロビンの一つにサブユニットに結合するとその他のサブユニットにも酸素が結合しにくくなります。

 

・症状

 救急外来で一酸化炭素中毒を見逃す理由に患者はwalk inで来院することも多く、症状は頭痛、めまい、気分不快、倦怠感と非特異的です。冬に多いため、先程の症状は風邪やインフルエンザを想起させやすく患者さんもそうではないかと考えそれが誤診のもととなります。

 検査もCO-Hbを測定しないと診断できないので、疑って問診し検査を行わなければ全ての患者さんにCO-Hbの測定するのはナンセンスだといえます。症状はcheery red(皮膚や亢進が赤くなること)が有名ですが、感度は低くそれで診断できることはほとんどないと考えます。

 

・検査

 検査はできる施設とできない施設があり、CO-Hbが測れない場合もあります。またCO-Hbが高いからといって一酸化炭素中毒とすぐに考えてはいけず、喫煙者や慢性閉塞性肺疾患は血中のCO-Hbが上がる一因となることを念頭に入れておく必要があります。喫煙者では10%程度まで上昇すると言われています。

 COの半減期は、空気で約300分、高流量酸素マスクで約90分、100%高圧酸素で約30分と言われています。CO-Hbが低くてもすでに大量のCOに暴露されている可能性があります。そこで血液ガスでCO-Hbを測定しますが、採血は動脈でも静脈でもどちらでもよいです。

 

・ヘモグロビンの呼称

 酸化ヘモグロビン、酸素ヘモグロビンは混同されやすいのでここに記載します。酸素ヘモグロビンはヘモグロビンに酸素が結合したものです。また酸化ヘモグロビンとはヘモグロビンが酸化されているということで実際にはヘモグロビンの活性中心にある鉄が酸化されているのです。

 

・遅発性の神経学的後遺症について

 一酸化炭素中毒の厄介なところは、急性障害だけでなく遅発性の神経学的後遺症がおこるということです。これをDNA (delayed neuropsychiatric syndrome)と呼ばれることがあり、長時間の暴露や高度の暴露によって生じるとされており、CO暴露後数日~1年以内に出現します。症状は認知機能障害や、パーキンソニズムといった神経、精神障害です。検査としてCTやMRIなどで淡蒼球や深部白質に異常を見つけることがあります。必ずフォローしましょう。

 

・心筋虚血

 CO中毒と診断したら虚血性心疾患の評価も忘れずに行いましょう。CO中毒により酸素が運ばれなくなった場合、酸素消費量が大きい脳と心筋にはダメージが残る場合があります。少なくとも心電図を撮って心筋梗塞の精査は行いましょう。

 

ジクロロメタン

 ジクロロメタン(塩化メチレン)は、工業的に溶媒や溶剤として使用されています。ジクロロメタンを吸入、もしくは誤飲されると肝臓でCOに代謝されます。そのため大気中にCOがなくてもCO中毒になってしまいます。

 

・治療

 治療は大量の酸素でCOを洗い流すことが大切です。

 もし、CO中毒のハイリスクの患者さんであれば高気圧酸素療法も考慮されます。一般的には以下の症状がある場合には使用が推奨されます。

 ハイリスク患者

意識障害、神経学的異常所見、臓器障害(心電図異常、pH<7.1)、CO-Hb>25%, CO-Hb>20%(妊婦)

 

・参考 (HBO療法)

 急性 CO 中毒における HBO 療法の有用性について2002年にランダム化比較試験(RCT)にて HBO の明らかな有効性が示され,HBO療法が標準的治療法とされています。しかし,HBO 療法を有する医療機関も減少の傾向にあり,物理的にも全ての急性 CO 中毒症例に対して HBO 療法を行なうのは不可能と言えます。また,遅延性神経症状における予防効果としてのHBO 療法に対する考え方も賛否両論あり,その有効性については未だ明確解答は得られていないのが現状です。

血中の CO-Hb の半減期は、4~5時間、100%酸素吸入量違法で60~90分であり,HBO療法(O2:100%)で2ATA の条件下で半減期は23分,3ATA では16分との報告もあります。このことからも CO 除去には HBO 療法が最も有効であると言えます。また,CO 暴露から治療開始時間が重要であり,HBO を有する施設での早期治療が必要であると示唆されています。

(日本農村医学会雑誌 (0468-2513)65巻1号 Page1-8(2016.05))

 

いかがでしたか。次回は『シアン中毒』の勉強を行います。