第42回 カルシウム異常値の対応 

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回はカリウムの異常値の対応について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

 本日は電解質異常シリーズの第3段です。カルシウムの異常値の対応を一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

高カルシウム血症

 1, 高Ca血症の定義

 2, 高Ca血症の疫学・病態

 3,高Ca血症の症状

 4,高Ca血症の鑑別

 5,高Ca血症の治療

低カルシウム血症

 1,低Ca血症の定義

 2,低Ca血症の疫学・病態

 3,低Ca血症の症状

 4,低Ca血症の鑑別

 5,低Ca血症の治療

Ca異常の鑑別は多岐に渡り、私達の頭を悩ませる一員ですね。Ca異常をみた場合どのように鑑別を勧めていったら良いでしょうか。また、Ca値については補正をするのを忘れがちになります。実際に正常値に見えても補正をすると高Caだったなんてことも。なぜそのような補正が必要なのかについても一緒に勉強していきましょう。

 

42回 カルシウム異常値の対応 ~Caの補正はできるだけ素早くね~

 

本文内容は主に『重症患者管理マニュアル(平岡栄治、則末泰博、藤谷茂樹 編)』を参考に記載しています。集中治療室での治療方針をわかりやすく書かれており、さっと開けて持ち運びも簡単な本になっています。ご一読を。

 

① はじめにCa測定

 一般的には血清Ca濃度の基準値は8.5~10.0 mg/dLであり、そのうちの約40%がAlbなどの蛋白質と結合し、10%がクエン酸・リン酸などの陰イオンと複合体を作りイオン化Caとして50%存在します。測定する血清Caはイオン化CaとAlb結合したCaの総和であり、低Alb血症時にはイオン化Caの割合が高くなります。低Albのときには以下の補正式を用いてイオン化Caの濃度を計算してください。

 補正Ca濃度(mg/dL)=測定Ca濃度(mg/dL)+(4-Alb濃度(g/dL))

 

② 高カルシウム血症

1, 高Ca血症の定義

 補正Ca濃度は参考値として捉え、主軸は血液ガス分析によりイオン化Ca濃度で考えます。血清Ca濃度が10.5 mg/dL以上のものと定義されます。

 

2, 高Ca血症の疫学・病態

 高Ca血症は通常、軽度~中等度にとどまり、ICU入室となるような重症症例は珍しいです。ほとんどが副甲状腺機能亢進症か悪性腫瘍に伴うものです。

Caの制御はPTHにより血清Ca上昇と血清Pの低下、もしくは1, 25(OH) VitDにより血清Ca上昇、血清P上昇のどちらかによります

 

3,高Ca血症の症状

・12 mg/dL未満

 無症状の場合や倦怠感アンドのはっきりしない症状が多い

・12~14 mg/dL

 慢性ではほぼ無症状であることが多いが、急性の上昇では、多尿や食欲不振、嘔吐や脱力などをきたす

・14 mg/dLを超える

 有症状の場合が多くなる(代表的な症状:消化器症状、中枢神経症状、腎障害)

 上記の話からすると高Ca血症になっても、なかなか症状が出現するまでは時間がかかるということですね。

 

 症状としては、以下のものがみられることがあります。

 消化器症状:嘔気・嘔吐、便秘、腹痛、食欲不振等が一般的によくみられます。

 中枢神経症状:抑うつ症状、疲労感、不安感などの漠然とした症状から、意識障害、痙攣、昏睡まで、様々な程度の中枢神経障害をきたします。

 腎障害:尿中Ca排泄量が増加するため、集合管上皮にCaが沈着し、アクアポリン-2の発現を抑制し、腎性尿崩症をきたします、尿路滑石の原因にもなり、結石をきっかけに判明する高Ca血症もあります。その他にも高血圧やQT短縮といった心血管系へ影響や筋力低下をきたします。

 

4,高Ca血症の鑑別

 体内のCaの殆どは骨に貯蔵されており、骨から血中への移行が主な原因となります。そのため骨の代謝経路に沿って鑑別すれば良いとのことです。悪性腫瘍に伴う高Ca血症をきたした患者の50%は、1ヶ月以内に死亡します。

原発副甲状腺機能亢進症

一次性副甲状腺機能亢進症、二次性副甲状腺機能亢進症

悪性腫瘍に伴うもの

PTH関連蛋白産生腫瘍、溶骨性骨転移、ビタミンD上昇

肉芽腫性病変

サルコイドーシス、結核

家族性

低Ca尿症性高Ca血症、多発性内分泌腫瘍(MEN)-Ⅰ、Ⅱa

薬剤性

ビタミンD製剤、ビタミンA、Ca製剤、サイアザイド系利尿薬、リチウム、テオフィリン、タモキシフェン

その他

甲状腺機能亢進症、副腎不全、寝たきり、長期臥床、多臓器不全、SIRSなど

 

5,高Ca血症の治療

 治療の目的は体外排泄もしくは骨への取り込みを促進させることです。

輸液

・~150 mL/hr

・適宜ボーラス投与

(1日トータル3~6L有効)

高Ca血症の多くは脱水です。CaはNaと一緒に排泄されるので、生理食塩液やリンゲル液などを選択します。

カルシトニン

エルシトニン40単位筋注、もしくは1~2時間かけて静注(1日2回まで)

数時間で効果が出現します。(数日で脱感作により効果が出なくなります)

ビスホスホネート

パミドロン酸(アレディア)2~3A(60~90 mg)+生食500 mLを4時間以上かけて静注。

ゾレドロン酸(ゾメタ)1A(4 mg)+生食100 mLを15分以上かけて静注

数日で効果が発現し、2週間程度持続します。腎代謝であるため、腎不全の患者には使用できません。

ステロイド

プレドニゾロン

血液悪性腫瘍やサルコイドーシスによる高Ca血症には、効果がある可能性があります。

血液透析

Ca濃度の低い透析液を用いると良い。

乏尿性のAKIなどをきたしている場合には有効です。

 

③ 低カルシウム血症

1,低Ca血症の定義

 血中Ca濃度が8.5 mg/dl以下のものと定義されます。

 

2,低Ca血症の疫学・病態

 ICU患者の15~50%は低Ca血症を呈します。その多くは副甲状腺機能などの問題ではなく、敗血症によるサイトカインの放出による一時的なPTHの分泌低下やアルカローシスと言われています。

 

3,低Ca血症の症状

 神経・筋 テタニーが最も知られた症状として生じます

 気管痙攣 これが生じると、喘息発作に似た症状になることもあります

 易刺激性 Chvostek徴候やTrouseau徴候として知られます

 循環器系 QT延長や房室ブロック、徐脈や心拍出量低下による低血圧をきたします。イオン化Caが0.65 mg/dL以下で重症な症状が出現すると言われます。

 

4,低Ca血症の鑑別

副甲状腺機能低下症

特発性、遺伝性、先天性、後天性(副甲状腺摘出、頸部放射線照射など)

他疾患による機能低下(ヘモクロマトーシス、Wilson病、サラセミア、HIV感染)もみられる

偽性副甲状腺機能低下症

PTH反応性の低下(発達障害や遺伝性が多い)

ビタミンD欠乏症

摂取不足、日光に当たらない、重度肝不全、原発性胆汁性胆管炎(PBC)、慢性腎不全、腸管での吸収不良、低栄養

代謝の促進による

副甲状腺摘出、甲状腺摘出、ビタミンD欠乏症、ビタミンD欠乏性骨軟化症、くる病に対するビタミンD補充後など

薬剤性

フロセミド、フェニトイン、ガドリニウム造影剤、シスプラチン、5-FUなど

アルカローシス

イオン化Caの減少をきたす

輸血、血漿交換

クエン酸化合物とCaが結合するために起こるが、クエン酸代謝が速やかに起こるため、ルーチンのCa投与は必ずしも必要なし。

低Mg血症

PTHの分泌と活性の双方を低下させます

膵炎

予後不良因子とされます

腎不全

活性化ビタミンDの減少によります

敗血症

原因ははっきりしていません

腫瘍崩壊症候群や

横紋筋融解症

組織内のPが析出し、Ca濃度が低下します

 

5,低Ca血症の治療

 症候性の低Ca血症と、無症候性でも重度の低Ca血症(補正Ca濃度<7.5 mEq/L)はCaを補充します。

【Ca製剤(急性期)】

・8.5%グルコン酸カルシウム(カルチコール)10 mL=80 mg

 生食100 mL+グルコン酸カルシウム20 mL(1~2 mg/kgもしくは100 mg~200 mg)を5~10分かけて投与。0.5~1 mg/dL程度上昇します。投与後30分で低下し始め数時間でもとに戻るため、持続静注を開始するか6時間おきに投与を切る返す必要があります。

 持続静注は生食 500 mL+カルチコール64 mL(1mg/mL)を25~100 mL/hrで投与します。Ca濃度の補正は個人差が大きいため必ず頻回の採血でフォローします。

・10塩化カルシウム 10 mL = 273 mg

 カルチコールの投与方法に準じますが、製剤濃度が大きく違うことに注意します。

アスパラギン酸カルシウム 1錠300 mg

 6錠分3で投与

ビタミンD製剤(慢性期)】

・1, 25(OH)VitD:カルシトリオール(ロカルトロール

 静注:1回0.25~0.5 mcg 12時間おき

 効果発現に1~2日かかる。半減期4~6時間。高Ca血症になったら速やかに中止する。数日で正常化する。

 内服:0.5~1 mcg分1

・1(OH)VitD:アルファカルシドール(アルファロール)

 1~4mcg分1

 効果発現1~2日(カルシトリオールよりやや遅い)

マグネシウム製剤】

硫酸マグネシウム(1A=20 mEq)

1Aを30分ほどかけて静注。経口なら、Mg 300 mg分3くらい

 

いかがだったでしょうか。次回はP, Mg, Clの電解質の異常値の対応について勉強をしたいと考えています。