第72回 熱中症 ~これは本当に返していい熱中症?~

 

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。シアン中毒について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

 本日は、熱中症について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 熱中症

 ・分類

 ・診断

 ・所見

 ・治療

 少し季節違いですが本日は熱中症です。夏場の救急外来に熱中症らしき患者さんが運ばれてくることは多いでしょう。病院に運ばれてきた患者さんが発熱、倦怠感で運ばれてきて熱中症ではないかと思うことは多いかもしれません。重症な熱中症は対応が急がれます。どのように対処すればよいか一緒に考えていきましょう。

 

第72回 熱中症 ~これは本当に返していい熱中症?~

 

本文内容は主に『季節の救急 山本基佳』を参考に記載しています。救急医療に関して携わるときもちろん季節を考えまがら診断を決めているのではないかと思います。例えば夏場なら熱中症が多いだとか、冬なら心筋梗塞が増えるかなあなどです。今回は秋ということで秋にまつわる救急疾患を勉強してみましょう。

季節の救急─Seasonal Emergency Medicine【電子版付】

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① 熱中症

 熱中症重篤になる前に早期介入が必要な疾患です。まずは分類から。

・分類

 2000年代から用語の統一がすすめられ、熱中症に統一され、重症度分類は3つに分類されました。

新分類

重症度

従来の分類

症状

治療

Ⅰ度

軽症

熱痙攣

筋肉痛、筋痙攣

現場での冷所安静、

経口水分、塩分補給

軽症

熱失神

めまい、大量の発汗、欠神

同上

Ⅱ度

中等症

熱疲労

頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感

集中力や判断力低下

入院治療

Ⅲ度

重症

熱射病

下記3症状のうちいずれか1つ

1,中枢神経症

2,肝・腎機能障害

3,血液凝固異常

集中治療

診断

 それまで元気に運動していた人が、高温環境で具合が悪くなったのであれば熱中症と診断できるが、目撃者がいない場合や、夏以外に発症した場合、気温や運動負荷がそこまで高度でないと思われる場合、病院に来るまでにすでに冷却されて体温が下がっている場合などは難しいこともあります。

・所見

 熱中症に特異的な検査はありませんが、初期評価で多臓器不全を起こしていないか、肝機能、腎機能、凝固機能、心血管系の評価などを行います。初期評価だけでなく体温が40℃を超えていたり、意識障害があれば再度時間をおいて評価する必要があります。体温を測る時には必ず直腸温を測りましょう

・治療

 Ⅰ度熱中症では涼しい場所に移動し安静臥床と経口的な水分補給で改善します。筋痙攣の症状では、それに加え喪失分の塩分の補給と適度なストレッチが有効です

 Ⅱ度熱中症では、経口摂取が難しいことがありその場合点滴を要します。回復が早い場合を除き、やや長い経過観察や入院管理が望ましいとされます。

 Ⅲ度熱中症の治療は、救命のABCや脱水補正に加え一刻も早い冷却の開始が大切です。

冷却方法

 まずは脱衣により皮膚周囲に空気の流れを作り体温を下げます脱衣させたらそこに冷たい水をかけます。また、扇風機やうちわで風を送り熱を冷ます。室内は冷房をかけ除湿します。

 まとめると現実的な方法として患者を脱衣させ、ぬるま湯を霧吹きなどで吹付け、扇風機やうちわで風を送ります。保冷剤は首、腋窩、鼠径部など主要血管が体表近くを走るところを狙い撃ちして冷やすのがよい。

 冷却を中止する目標体温は38.3~39.0℃程度とされています。これ以上冷却を続けるとそのまま低体温症を引き起こす可能性があります。

薬剤

 解熱剤は使用しない。

・参考

 一つ熱中症に関する裁判の判例をお示しします。

熱射病に対する治療(クーリングの方法)[福岡地裁H15.10.6判決・判時1853号120頁]

 高校の野球部の練習中に体調不良となった生徒が病院に搬送され、熱射病の可能性もある重篤熱中症と診断されてクーリングなどの処置がされたものの、肝機能が増悪し、脳死状態となって事故から約2週間後に多臓器不全により死亡した事案です。

 裁判所は、搬送先の病院において、体温が39.9度もあるにもかかわらず、2時間以上経過してからクーリングを開始したことについて、素早くクーリングを開始しなかったことに過失が認められるとし、さらに、当該医師が行っていた「氷嚢法」というクーリング方法について、冷却速度が遅く効率的ではないとし、「蒸発法」に変更するか、冷却した輸液を使用する方法を追加するなどして冷却の効果を上げるべきであったとして、この点についても注意義務違反を認めました。

 スポーツの現場は、通常の医療施設に比べると、設備や機器、備品といった点において十分ではありませんし、自分の専門分野に関する怪我以外も診断し治療を施さなければなりません。また、スタッフも限られています。

 こうした限られた条件において、医師として最善の医療行為を尽くす必要があるのはもちろんですが、仮にその場で診断を下すために必要な各種検査ができない場合や、治療を施すことが難しい場合には、適切な医療を提供できる医療機関に救急搬送することも、現場の医師には求められています。

(Sportsmedicine (0916-359X)31巻5号 Page34-35(2019.07))

 上記の判例では冷却方法についても議論されたようですが、実際にどのような冷却法が効率的で、人命救助に役立つか実際のところRCTなどの論文では定かではないです。しかしこのような判例がでることを鑑みますと少なくとも、効率的である冷却方法を常に考えて置かなければなりません。ただ、その手法が本当に裁判で理解されうる手法であるかどうかはわからず、医療現場では判断の難しさを覚えます。

 

いかがでしたか。次回は『熱傷』の勉強を行います。