第31回 急性肝不全の対処方法 ~肝臓治療はむずかしい?~  

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は急性膵炎について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

本日は急性肝不全の対処方法について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 急性肝不全の定義とは

 ② 急性肝不全の原因

 ③ 急性肝不全の問診事項

 ④ 急性肝不全の管理

 ⑤ 肝性脳症の治療

 ⑥ 特発性細菌性腹膜炎(SBP)

 救急搬送で急性肝炎を起こして病院に運ばれてくる患者さんも見ることがあるでしょう。肝炎は病態が複雑で対応がなかなか迷ってしまう先生もいらっしゃるのでしょうか。私も急性肝炎などの診断のときどのように対処するか知識を深めたいと常々思っていました。本日は急性肝炎の対処方法について勉強してみましょう。

 

31回 急性肝不全の対処方法 ~肝臓治療はむずかしい?~

 

本文内容は主に『集中治療ここだけの話(田中竜馬 編)』を参考に記載しています。集中治療室での治療方針を最新のエビデンスをもとに書かれており、また読みやすい内容になっています。ご一読を。

 

① 急性肝不全の定義とは

急性肝不全の定義と診断基準として、「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班の研究報告が知られてい

 ます。正常肝ないし肝予備能が正常と考えられる肝に肝障害が生じ、初発症状出現から8週間以内に高度の肝機能障害に進行し、PTが40%以下或いはPT-INR値が1.5以上を示すものとされました。

 急性肝不全における意識障害非昏睡型と肝性脳症を呈する昏睡型に分類される。昏睡型急性肝不全は初発症状出現から昏睡Ⅱ度以上の肝性脳症が出現するまでが10日以内であれば急性型、11日以上56日(8週間)以内を亜急性型と分類しています。肝性脳症の分類は以下のようにされています。

肝性脳症の重症度

 Ⅰ度:昼夜逆転、何となくぼうっとしているなど、気づかれないことも多い

 Ⅱ度:傾眠、身体所見として羽ばたき振戦

 Ⅲ度:著名な精神混乱

 Ⅳ度:昏睡。羽ばたき振戦は消失

 

② 急性肝不全の原因

 急性肝不全において発症原因はウイルス感染、呼吸・循環障害、自己免疫、薬剤などの関与を評価し治療につなげます。

ウイルス性の要因として、IgM-HAV, HBs抗原、IgM-HBC抗体、HBV-DNA、HVC抗体、HCV-RNA、IgA-HEV、およびEBV、CMVなどを評価する。

自己免疫性肝炎は、自己抗体の検出パターンで1型と2型に分類されています。日本では1型自己免疫性肝炎が多く、抗核抗体または抗平滑筋抗体が陽性となる特徴があります。2型自己免疫性肝縁では抗LKM-1やPD-1などの自己抗体と血性IgGの高値を評価します。自己免疫性肝炎は50~60歳代の女性に発症し、慢性肝炎となりやすいが、メチルプレドニゾロンによるステロイドパルス療法で効果的に抑制できる可能性があります。

 

③ 急性肝不全の問診事項

 飲酒、薬物の使用(漢方薬サプリメント経口避妊薬、市販薬を含む)、生もの摂取歴(特にイノシシ、シカ、ブタ、魚介類)。

 性行動、海外旅行、黄疸や危険因子を持つ人との接触

 不衛生な注射針の使用、過去の手術歴、輸血歴、職業、血液への接触、針刺し事故

 肝疾患の家族歴、過去の検診での肝機能障害の指摘

 

④ 急性肝不全の管理

感染症の管理

 肝不全では免疫低下を評価するとともに、管理における接触感染予防策を徹底します。経腸栄養が行われていない場合などでは、腸管免疫も減弱している可能性もあり、バクテリアルトランスロケーションや誤嚥性肺炎に伴う菌血症や敗血症に注意します。ただ、抗菌薬は予防的に使用してはいけません。

意識障害の管理

 意識管理では、まず肝性脳症の昏睡度を評価し等が胃内圧の上昇に注意します。特に肝性脳症がⅢ度以上では脳潅流圧を維持することが大切であり、ICPが上昇している可能性がある場合は血液浄化療法で原因物質の除去を試みる。

浮腫、胸水、副膵の管理

 肝不全では浮腫、胸水、腹水などの3rdスペース形成が生じやすいです。この原因として、腎血流低下によるレニン・アンジオテンシン系の不活化と代謝の減弱による高アルドステロン症が存在する可能性があり、ナトリウムやカリウムなどの電解質異常や酸塩基平衡の合併にも注意して対応します。肝硬変における利尿や肝性腹水などにはフロセミドにトルバプタンを併用する場合があります。トルバプタン3.75 mg/日や7.5 mg/日は血清アルブミン値にかかわらず腹水量を減少させ、体重を減少できます

凝固・線溶の管理

 急性肝不全においては肝臓での凝固因子産生が低下するために出血合併症に注意し、フィブリノーゲン、PT-INRおよびAPTT比を1.5以下を目標として新鮮凍結血漿(FFP:fresh frozen plasma)を補充します。

栄養療法

 急性肝不全においては、アンモニア尿素窒素が上昇しやすいために、たんぱくを含む栄養制限する傾向があるが低栄養状態を避けるために25 kcal/kg/日を目標とした適切な栄養管理ができるとよい。

急性肝不全の薬物療法

 ウイルス病態では抗ウイルス薬と免疫グロブリン療法、自己免疫性病態ではステロイド療法、大量免疫グロブリン療法、血漿交換法を検討する。肝機能低下については、ウルソデオキシコール酸(1日600 mg、1日最大量900 mg、3分割、経管投与)、強力ネオミノファーゲンシー(1日最大100 ml静注)を併用します。

 

⑤ 肝性脳症の治療

 肝性脳症の治療は、誘引除去、蛋白制限、ラクツロースの3つで治療します。蛋白質や窒素代謝物の腸管からの吸収を抑制し、血中アンモニア濃度を低下させます。食事は蛋白制限をし、安静で腸管血流の改善を促します。

 ラクツロースは非吸収性の二糖類で浸透圧性下剤で、腸内で乳酸が産生され、pHが低下するとアンモニアイオンがアンモニアに変換されN源の吸収が低下します。

 処方ラクツロース65%シロップ1回10-20 mLを経口もしくは経管で投与 1日2-3回で軟便が2-3回/日に調整

 分岐鎖アミノ酸は肝性脳症改善までの期間を短縮する可能性があると言われています。

 処方アミノレバン 500 mL 3-4時間かけて点滴静注

 

⑥ 特発性細菌性腹膜炎(SBP

 発熱、腹痛のある腹水患者をみたら腹水穿刺をします。腹水中の白血球>500/μlもしくは多核白血球≧250μlの時はSBPを疑います。診断は、2000年のInternational Ascites Clubのコンセンサスミーティングで『腹水中の好中球増加(250/mm3 以上)を認め,かつ細菌培養陽性の場合』と定められました。SBPは致死率が高い疾患であるが、早期に抗菌薬を投与することで救命が可能な疾患です。腹水穿刺後は、培養結果を待たずに抗菌薬を投与し始めましょう。

 SBPは細菌感染でありながら、その診断においては起因菌の検出でなく腹水中の多核白血球数が主役となっているという特殊性を有しています。

 治療は以下の抗菌薬を投与します。

  セフォタキシム 2g, 8時間ごと、セフトリアキソンを2 g24時間毎でもよい。5日間投与

  1.5 g/kgのアルブミンを6時間以内に1回、3日目に1g/kgを1回投与することも腎機能、生存率を改善すると言われています

 

いかがだったでしょうか。次回はICUにおける急性腎不全の勉強をしたいと考えています。