第33回 急性心不全の対処方法 ~心不全、フロセミドでいいの?~  

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は急性腎不全について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

本日は急性心不全の対処方法について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 心不全の診断と問診と身体所見

 ② クリニカルシナリオを覚えましょう

 ③ Nohria-Stevenson分類

 ④ 急性心不全の原因

 ⑤ 急性心不全でおこなう検査

 ⑥ うっ血を理解する

 ⑦ 使用すべき利尿薬

 ⑧ 強心薬について

 救急外来で心不全の患者をみることは多いのではないでしょうか。しかし、心不全ときくと循環器の疾患であり、専門でない先生は、初療の場合にどう対処すればいよいかと悩んでしまう方も多いハズ。私もNPPV、フロセミドとりあえず処方し専門の先生へといったことをすることが多いですが、実際にそれだけで良いはずはありません。ですので、今回は急性期心不全について現在の治療方針について勉強していましょう。

 

33回 急性心不全の対処方法 ~心不全、フロセミドでいいの?~

 

 本文内容は前半部分は『内科レジデントの鉄則(聖路加国際病院編)』をもとに記載しています。こちらの本は病棟管理の基礎について詳しく書かれており、入門書としておすすめです。後半部分は主に『集中治療ここだけの話(田中竜馬 編)』を参考に記載しています。集中治療室での治療方針を最新のエビデンスをもとに書かれており、また読みやすい内容になっています。ご一読を。

 

① 心不全の診断と問診と身体所見

 急性心不全は呼吸困難と酸素化不良で来院することが多く、必ず他疾患との鑑別が必要です。特に肺炎と喘息はwheezeを示す疾患でかつcommon diseaseですので鑑別に挙げましょう。診断に関してはFramingham criteriaをおさえて問診と、身体所見を取りましょう。

Framingham criteria

大項目

小項目

大項目あるいは小項目

発作性夜間呼吸困難

足の浮腫

治療に反応して5日で4.5kg以上体重が減少した場合

あるいは起座呼吸

夜間の咳

頸静脈怒張

労作時呼吸困難

ラ音聴取

肝腫大

心拡大

胸水

急性肺水腫

肺活量最大量から1/3低下

III音奔馬調律

頻脈(心拍≧120拍/分)

静脈圧上昇>16cmH2O

 

循環時間≧25秒

 

肝頸静脈逆流

 

 

心不全の身体所見として、

1,Ⅲ音、Ⅳ音

 Ⅲ音は拡張早期、心室の急速充満期に発生し、心尖部、特に左側臥位で聴きやすい。

 Ⅳ音は、心房収縮により心室へ駆出された血流が心室壁で急激に阻止された音であり心尖部、左側臥位で聴きやすい。

 Ⅲ音、Ⅳ音 https://med.toaeiyo.co.jp/contents/cardio-terms/test-exam-diagnosis/4-5.html

 心音を聞けるHP  http://phio.panasonic.co.jp/kinen/phs/dictionary/1.html

2,頸静脈怒張

 軽静脈怒張は右内頸静脈で所見を確認します。見えない時は外頸静脈で代用可能です。ペンライトを使用して可視化し、頭部を30~45度挙上します。

 CVP上昇=拍動上端-胸骨角>3cm

 治療とともにうっ血が解除されてくると拍動上端は下がってくるため、日々の観察をしましょう。

以下軽静脈怒張の観察の仕方について記載がありましたのでHPを載せておきます。

http://www.mimihara.or.jp/ms/blog/%E6%9C%AA%E5%88%86%E9%A1%9E/156/

3,下腿浮腫

 Pitting-edemaの浮腫をきたしている部分を指2, 3本で約10秒間1~2 cmの深さで圧迫し、同部位がもとに戻るまでの時間(pit recovery time)を計測します。

 40 秒未満はfast edemaといい膠質浸透圧低下型の浮腫で低Alb(2.5g/dl以下)のことが多く血管内低用量であることを指します。

 40秒以上はslow edemaといい、静脈圧上昇を伴う浮腫のことが多く血管内過剰用量と言われます。

 

② クリニカルシナリオを覚えましょう

 急性心不全の初期治療は収縮期血圧を指標としたクリニカルシナリオに基づき行います。

分類

 

治療

予測される病態

CS 1

sBP>140 mmHg

NPPV

血管拡張薬(硝酸薬)

容量過負荷あれば利尿薬

びまん性肺水腫

・急激な発症

・ 全身的な浮腫は軽度(容量負荷がない)

・左室収縮能は保たれていることが多く、急激な充満圧の上昇による

・ 病態生理は血管不全

CS 2

sBP100-140 mmHg

NPPV

血管拡張薬(硝酸薬)

利尿薬(慢性的体液貯留がベースのため)

全身性浮腫

・緩徐発症、体重増加をともなう

・肺水腫は軽度

・慢性の充満圧上昇、静脈圧や肺動脈圧の上昇をともなう

・ その他の臓器障害をともなう(腎、肝、貧血など)

CS 3

sBP<100 mmHg

Volume負荷

強心薬

血管収縮薬(末梢循環不全が介入後も持続の場合)

低灌流

・ 全身性浮腫や肺水腫は軽度

・ 充満圧の上昇

・ 心原性ショックや低灌流をともなう場合も、ともなわない場合もある

CS 4

急性冠症候群

ACS対応(アスピリン、ヘパリン、血行再建)

IABP

・ 急性心不全症状および兆候あり

・ 卜ロポニンのみの上昇だけではCS4としない

CS 5

心不全

Volume過剰

→強心薬血管収縮薬(末梢循環不全が介入後も持続の場合)

Volume 不足

→補液が必要

・ 急激または緩徐な発症

・ 肺水腫はない

・ 全身性の静脈うっ血所見

 心不全では治療を開始するまでの時間が予後に影響すると言われており、このクリニカルシナリオで早急に治療介入を行いましょう。こちらの分類はあくまでも初療のための分類でありこの治療のまま入院管理をするものではないことを覚えておきましょう。

 呼吸困難とSpO2の低下がある場合には半坐位にし、酸素投与をしましょう。もしSpO2が保てなかったらNPPVの導入を行いましょう。それでも酸素化を保てなければ気管挿管を考慮しましょう。NPPVの禁忌をおさえましょう。

NPPVのの禁忌

 呼吸停止または心停止(自発ないと禁忌)、上気道狭窄・閉塞(嘔吐など)、喀痰多量、顔面挫傷、外傷、手術、奇形、マスクがつけられない場合は禁忌です。これらの場合は挿管準備をしましょう。

 

③ Nohria-Stevenson分類

 拾い上げた病歴と身体所見の情報から①うっ血と②末梢低灌流の2つの軸の病態を把握しNohria-Stevenson分類を行います。①と②の所見から4分割表に分けて病態を把握し治療方針を決めていきます。

 4分割表は以下のHPで確認しましょう。

  https://med.toaeiyo.co.jp/contents/cardio-terms/test-exam-diagnosis/4-70.html

拾い上げる身体所見をいかに記します。

低灌流所見:小さい脈圧、交互脈、四肢冷感、傾眠傾向、低ナトリウム血症、腎機能悪化

うっ血所見:起座呼吸、頸静脈圧上昇、Ⅲ音増大、浮腫、腹水、肝頸静脈逆流

 Nohria-Stevenson分類は予後予測と初期アセスメント、初期治療の指標となります。短期間での死亡例はwet-warmとwet-cold型に多いと言われています。

wet-warm:うっ血あり+末梢循環あり

 末梢血管収縮がメイン→血管拡張のうえ、利尿薬を投与

 心機能低下がメイン →利尿薬から開始し、その後血管拡張薬を考慮

wet-cold:うっ血あり+末梢循環不良

 収縮期血圧90 mmHgが保たれない場合は強心薬を併用のうえで利尿薬を投与

 

④ 急性心不全の原因

 急性心不全の原因はFAILUREとおぼえましょう

   F :Forgot meds 怠薬

   A :Arrhythmia, Anemia 不整脈、貧血

   I :Infection, Ischemia, Infraction 感染症狭心症心筋梗塞など

   L :Life style 塩分摂取過剰、ストレス

   U :Upregurators 甲状腺疾患、妊娠、脚気

   R :Rheumatic valve or valvular disease 弁膜症

   E :Embolism 肺塞栓症

 

⑤ 急性心不全でおこなう検査

1,血液検査:血算、生化学、凝固(D-dimer)、動脈血ガス

    BNPやNT-proBNP上昇の感度は高く、除外には有用だが、特異度は低いため診断時には注意が必要です。

 

BNP

NT-proBNP

カットオフ値

心不全と診断)

>400 pg/mL

50歳未満:>450 pg/mL

70-75歳 :>900 pg/mL

75歳以上:>1800 pg/mL

カットオフ値

心不全を除外)

<100 pg/mL

<300 pg/mL

     心筋逸脱酵素の提出は必須。Dダイマーの提出も必須。

2,  胸部単純X線(胸部CT)

 間質性肺水腫所見:Kerley’s B line, Kerley’s A line, peribronchial cuffing sign

 肺胞性肺水腫所見:air bronchogram, butterfly shadow

3,  心電図

 ACS不整脈の有無の確認に必要なため必ず確認

4,  心エコー

 心機能基礎疾患の検索とうっ血・血行動態の評価に有用です。

 心機能・基礎疾患の検索

  左室サイズ、左室駆出率、壁運動低下の有無、心嚢液貯留の有無、心肥大の有無、弁膜症の有無(狭窄、逆流の有無)

 うっ血の評価

  IVC(下大静脈)の径と呼吸性変動の有無 

IVC径 mm

呼吸性変動

推定右房圧 mmHg

≦21

≧50

0-5

≦21

<50

5-10

>21

≧50

5-10

>21

<50

10-20

 TRPG(三尖弁逆流圧較差)は間接的に肺動脈収縮期圧を推定できます。

  TTPG≧40 mmHgは肺高血圧と覚えておきましょう。

 

⑥ うっ血を理解する

 心不全において、呼吸困難や体重増加を問診することは心不全の診断をするのに簡便かつ有効な手段ではありますが、両者ともに臨床的うっ血の本題である心内圧上昇を的確に反映しているとは言い難いとのことです。肺動脈圧センサーの現場での実用化に伴い、より早期に「血行動態的うっ血」の検出が可能になったことでより速い段階での治療介入が可能になったことで臨床アウトカムへの改善につながったとのことです。

 

⑦ 使用すべき利尿薬

フロセミ

 ループ利尿薬であるフロセミドは心不全治療の中心的役割を担いこれまで長く使用されてきましたが、心不全症状は改善させるものの生命予後に関しては証明されておらず、むしろ、その使用量が多くなると予後が悪化するという相反する結果が出ています。また、DOSE trialの結果、フロセミドの点滴静注と急速静注では呼吸困難・新規の臨床評価スコア・腎機能に差を認めず、長期予後にも差を認めませんでした。フロセミドの使用は点滴静注でも急速静注でもどちらで使用しても良いということになります。

 日本のフロセミドの最大使用量は200mg/day以下で、海外の使用量の半分以下だそうです。フロセミドの使用量は普段経口で使用しているラシックス量とだいたい同じくらいの量を静注で投与するのがよいとのことです。

 ここで天井効果について説明します。天井量(ceiling dose)というコンセプトですが、天井量は最大なナトリウム排泄分画を反映し、ラシックスはこの天井量に達さなければ最大効果の発現が期待できません。心不全の患者では健常者と比較すると天井量が上昇しているので高用量の利尿薬投与を要するのとの事です。よって、初期投与量が20 mgであっても80 mgであっても、2時間以内にその効果がみられなければラシックスの天井量を目指して売買ゲーム形式で投与を続けていく必要があるそうです。

各ループ利尿薬の天井量(目安)

 

フロセミ

ブメタニド

トラセミ

静注

経口

静注

経口

静注

経口

腎機能正常

40

80

1

1

20

20

軽・中等度腎障害

120

240

3

3

50

50

重度腎障害

200

400

10

10

100

100

ネフローゼ

120

240

3

3

50

50

肝硬変

40-80

80-160

1

 1-2

 10-20

 10-20

心不全

40-80

160-240

 2-3

 2-3

 20-50

 20-50

トルバプタン

 日本ではANP製剤(カルペリチド)やトルバプタンを使用されている先生方も多いと思いますが、実は海外ではそれほど使用されてはいません。特にトルバプタンは欧米で心不全に対しては認可が降りておらず、その適応は低Na血症にとどまっているそうです。実際にトルバプタンの臨床試験では利尿効果は示されているものの、臨床症状である呼吸困難改善に関して有意な結果となっていません。トルバプタンを使用する意義については再度考慮し直す必要が出てきているのかもしれません。

 

⑧ 強心薬について

 強心薬は状況によっては効果を発揮する薬剤で、例えば静注強心薬は心原性ショック症例や慢性心不全の急性増悪例など心拍出量が低下した状況において、一定量の還流を保持することにより主要臓器を保護する目的で使用されたりします。

 ドブタミンはFIRSTのサブ解析で、非投与群と比較して心不全患者の死亡率が有意に高く心事故発生率も優位に高いことが示され、心不全の予後改善目的で使用することは否定的な見解となっています。日本のガイドラインでは両心不全の治療として循環血漿量の増加が主体の場合、クラスⅡa、レベルCとされています。

 ミルリノンは陽性の変力作用を有する静注の非カテコラミン製剤であり、1990年代初等に左室収縮能障害型の重症心不全に対する治療薬として登場しました。経口ミルリノン製剤を収縮不全型の慢性心不全に対し長期使用することで死亡率が上昇することが報告され、ミルリノンは症例を吟味しできるだけ短期間で使われるべきとの見解が出されています。

 ドブタミンとミルリノンの使い分けは以下のとおりです。

 ・肺動脈圧上昇例やβ遮断薬使用例に対してはミルリノン

 ・極端な低血圧や腎機能障害例に対してはドブタミン

 といったような感じですが、あくまでもエビデンスは強くないとのこと。ただし、収縮期血圧が90mmHgを切った場合はミルリノンの血圧低下作用のためドブタミンが選択されることが多い。

ドブタミンの処方例

 1μg/kg/分から開始し、10μg/kg/分(10 mL/時)まで増量可能です。

ミルリノンの処方例

 0.1μg/kg/分(1 mL/時)より開始し、最大で0.75μg/kg/分(7.5 mL/時)まで増量可能です。

 

薬剤の投与量に関しては第27回、ICUにおける循環管理の項も参照ください。

 

いかがだったでしょうか。次回は心原性ショックの治療の勉強をしたいと考えています。