第68回 破傷風の対応 ~ワクチン投与します?~

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 こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。食餌性腸閉塞、餅による窒息について一緒に勉強しました。
med-dis.hatenablog.com

 本日は、破傷風 について一緒に勉強していきましょう。

 勉強前の問題

 ① 破傷風

  ・病態

  ・症状

  ・診断

  ・治療

  ・予防

今回は破傷風について。救急外来に運ばれてきた患者さんに破傷風トキソイドの投与を使用したことがある人も多いのではないでしょうか。ただ、「なんとなく破傷風が発症しても嫌だから」なんて理由でなく、この場合は使用するなど基準を持てるといいですね。一緒に勉強してみましょう。

 

68回 破傷風の対応 ~ワクチン投与します?~

 

本文内容は主に『季節の救急 山本基佳』を参考に記載しています。救急医療に関して携わるときもちろん季節を考えまがら診断を決めているのではないかと思います。例えば夏場なら熱中症が多いだとか、冬なら心筋梗塞が増えるかなあなどです。非常にわかりやすく説明されているのでぜひ勉強してみてください。

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 ① 破傷風

 今でも破傷風は高い致死率を示します。破傷風は臨床診断です。開口障害が診断の決め手になるため絶対に見逃さないことが重要です。

病態

 破傷風菌は偏性嫌気性菌で、神経毒性であるテタノスパミン溶血毒であるテタノリジンを産生します。このテタノスパミンは自然界最強毒素のボツリヌス毒素に匹敵するといわれています。

症状

 破傷風は第一期から四期までの経過をとります。第一期は、潜伏期(開口障害が出現するまで)外傷後1から2週間を指し、全身倦怠感や、微熱を生じます。第二期は開口障害期と言われ、開口障害出現から全身痙攣出現までの数日間です。症状として、開口障害、発語障害、嚥下困難、発熱、破傷風様顔貌(痙笑)です。第3期は、痙攣持続期で数週間から2か月です。痙攣、後弓反張、呼吸障害、呼吸停止、気道分泌物増加、喉頭痙攣、交感神経活動亢進、腱反射亢進があります。第四期は回復期で数か月後までを指します。痙攣軽減、筋硬直残存があります。

診断

 診断ですがその症状から推察されるように破傷風患者は様々な診療科を受診する可能性があります。多くの場合は第二期の開口障害で診断がなされます。この段階で診断できないと数日後には第3期に入り何の対策もなされぬまま誤嚥喉頭痙攣による気道・呼吸障害、高度の自律神経障害からの心停止といった致死的な段階に突入します。

治療

 治療は、まず創処置とデブリードマンでその部位の洗浄や異物の壊死組織の除去を十分に行います。抗菌薬やTIG製剤投与から数日後に創部を切開したところ、異物とともに破傷風菌が検出されたという報告があります。 

抗菌薬は、ペニシリンGが古くから使われます。一方、ペニシリンによって、テタノスパミンの効果が増強されるという報告もあり、最近はメトロニダゾールの使用が多くなってきています

抗菌薬ペニシリンG 200万~400万単位4~6時間ごとに点滴。

    メトロニダゾールは500 mgを6~8時間ごとに点滴。

    これらの治療を7~10日続ける

破傷風ヒト免疫グリブリン(TIG):3000~6000単位筋注が推奨されています。

 全身管理も重要となります。易刺激性のため、軽い刺激(接触、雑音、すきま風など)、疼痛、不安をきっかけに痙攣が誘発されることがあります。できるだけ刺激のない状態で管理を行います。

 鎮静目的、抗痙攣目的ベンゾジアゼピン痙鎮静薬が用いられることが多いです。ミダゾラムドルミカム)が使いやすく、0.05~0.15 mg/kg/hr で持続静注したりします。ジアゼパムを用いる場合は10~30 mgを数時間ごとに繰り返して静注して使うことが多いですが、そうすると1日量が500mgにもなります、ジアゼパムの添加物にプロピレングリコールという添加物が含まれており、ジアゼパムの総投与量が多くなると、プロピレングリコールが過量投与されることになり、代謝性アシドーシスを引き起こすことがあります。

 筋弛緩薬は鎮静だけでは不十分な時に使用します。作用時間面などからはパンクロニウム(ミオブロック)を勧める記載も散見されますが、わが国ではパンクロニウムは発売中止になりました。1日1回は筋弛緩薬を中止して評価します。

 自律神経症の管理はβ遮断作用単独の薬剤では突然死を起こすことがあり、α受容体もβ受容体も両方遮断する薬剤がいいとのこと。硫酸マグネシウム(マグネゾール)はシナプス前神経からのカテコラミン放出を抑制し、カテコラミン受容体の反応を減弱させます。そして痙攣と自律神経障害に効果を発揮します。

 気道管理は、気道トラブル、換気障害、呼吸障害、呼吸不全に対して、気管内挿管、気管切開、人工呼吸管理を行うことになります。

予防

 破傷風ワクチンは小児期に予防接種を受けることになっています。こちらは定期接種となっています。定期接種は実は全員が接種しているわけではありません。接種しなくても罰則はないとのこと。小児の場合も何らかの理由で接種を拒まれている方が一定数います

 大人の場合は1968年(昭和43年)より前に生まれたヒトはワクチン接種を受けていない可能性が高い。またワクチンは接種後約10年で効果が薄れていくこともお忘れなく。

 救急外来では、上記の混合ワクチンではなく、破傷風トキソイドを用いた予防接種を行うことが多いと思います。破傷風のリスクの高い傷とは受傷から6時間以上経過した傷、1cm以上の深い傷, 複雑な傷(挫滅創、穿通創、熱傷、凍傷など)、埃、糞便、土、唾液などで汚染された傷などを指します。破傷風のリスクが低い傷とは受傷から6時間以内で単純な直線の傷で1cm以下を指します。基礎免疫をつけるためには、計3回の予防接種が必要であり、初回摂取を行った後、3~8週間後に1回摂取、その6~18ヶ月後に3回目を行うことになります。

 破傷風フロー http://ykitano5min.hatenablog.com/entry/2017/09/13/214046

 

破傷風予防を必要な創傷

 American College of Surgeons(ACS)では,破傷風罹患の高リスク・低リスクを創傷の程度・状況によって定めています。高リスクには,「受傷6時間以上」,「創面が複雑」,「1cm以上の深達度⊥「感染・異物・壊死組織を認める」などといった項目がならび,高リスク創傷のキーワードは「深い」,「狭い」,「汚い」といったことが伺える。しかし,そのような高リスク創傷以外にも,「約30%程度は軽微な創傷であった」,「20%前後が破傷風菌の侵入経路が不明」といった報告や,本邦からも破傷風発生の13.7%が微細な創傷29.5%が侵入経路不明例であった」との報告がある。また,注射薬物の使用や内痔核,予定手術創,褥瘡,ピアス穴や刺青,さらには自ら咬んだ舌の創やインスリンの自己注射や採血による感染などにより発症したという多種多様の報告も存在する。こうしたことから,どのような創傷が破傷風になり,どのような創傷が破傷風にならないかを明確に区別することは不可能であり,「破傷風をきたす創傷の定義は困難である」といえる。

ICUとCCU (0389-1194)35巻12号 Page1065-1072(2011.12))

 

いかがでしたか。次回は『低体温症』の勉強を行います。