第69回 低体温症、凍傷 ~寒いときにお酒を飲まないで~

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 こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。破傷風について一緒に勉強しました。 

med-dis.hatenablog.com

 本日は、低体温症、凍傷について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 低体温症

 ② 凍傷

最近は少しずつ気温も下がってきて少しずつ秋の様相を示すようになってきました。もう少しすれば冬の季節も到来しますね。今回は冬にたまにみる、でも必ず一人はやってくる低体温症の患者さんと凍傷の患者さんについてです。一緒に勉強してみましょう。

 

69回 低体温症、凍傷 ~寒いときにお酒を飲まないで~

 

本文内容は主に『季節の救急 山本基佳』を参考に記載しています。救急医療に関して携わるときもちろん季節を考えまがら診断を決めているのではないかと思います。例えば夏場なら熱中症が多いだとか、冬なら心筋梗塞が増えるかなあなどです。今回は秋ということで秋にまつわる救急疾患を勉強してみましょう。

季節の救急─Seasonal Emergency Medicine【電子版付】

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① 低体温症

 深部体温が35℃以下の状態を低体温症といい、軽度(32~35℃)、中等度(28~32℃)、重度(<28℃)に分けられます。”偶発性”というのは意に反してという意味らしいです。特に深部体温32℃以下になると震えは消失し、深部体温30℃以下で心室細動のリスクが上昇することは覚えておくと便利です。

 

軽度

中等度

重度

深部体温

32~35℃

28~32℃

<28℃

震え

35℃以下で出現

32℃以下で消失

意識障害

軽度から中等度

重度

深昏睡

脈拍

頻脈後に徐脈化

徐脈

徐脈

心電図

ほぼ正常

30~32℃で心房細動、

J波(Osborn波)出現

心室細動

30℃以下で心室細動のリスク上昇

心停止

呼吸

頻呼吸後に減少

減少

呼吸停止

Paradoxical behavior

 Paradoxical behaviorは逆説的な行動という意味で、低体温症で救急搬送になるような人たちの中には雪の中に体を潜らせたり、服を脱いで半裸になったりして発見されるような人たちがいます。これは低体温症になると視床下部の体温中枢が障害されて、実際は冷たいのに体が暑く感じてしまうらしいです。

原因

 低体温症が起こる主な機序は、「熱喪失が増えた場合」、「熱産生が減った場合」「体温調節障害が起きた場合」の3つです。

熱喪失が増えた場合

低温環境下(寒冷、浸水など)

血管拡張(アルコール、薬物など)

皮膚疾患(熱傷、皮膚病など)

熱産生が減った場合

活動量低下

筋肉量低下

低血糖、低栄養

内分泌・代謝疾患(副腎不全、甲状腺機能低下症、下垂体疾患など)

体温調節障害が起きた場合

末梢神経障害(糖尿病、脊髄損傷)

中枢神経障害(視床下部障害、脳血管障害、パーキンソニズム、薬剤性など)

 

治療

 復温方法は受動的体外復温法、能動的体外復温法、能動的体内復温法など様々な復温法があるそうです。まず、受動的体温復温法は患者に対して、毛布をかけたり濡れた衣服を取り除くようにして、患者の熱喪失を防ぐ方法です。この方法はあくまでも補助的な方法です。中等度以上の低体温症で復温するのは難しいです。

 能動的体外復温法は、外から患者に熱を与えて暖める方法で、暖房、温浴、各種加温装置などがあります。加温装置には電気毛布、温水循環マットや、温風対流式加温装置などがあり1時間に1℃程度の復温が期待できます。

 能動的体内復温法は体内に直接熱を与えて暖める方法で、42℃の加温した輸液、加温加湿酸素、温水による体内洗浄(胃、膀胱、胸腔、腹腔など)があります。

 

加温時の注意事項

 低体温の治療で加温中に急変することがあるということを気に留めておかなければならない。体表を加温すると深部体温がむしろ下がったり(after drop)、ショック(rewarming shock)が生じたりすることを知っておく。体表面を加温することで血管拡張が生じる、そのため末梢の冷たい血液や老廃物が中枢に流れてしまうことが原因です。このことを防ぐには体幹から加温を始めます。また復温されるまではむやみに体に衝撃を与えないように気をつけます。

低体温と血圧低下

 低体温症では寒冷利尿が起こります。そのため脱水になり血圧が下がります。低体温でお酒を飲むのは避けるように指導しましょう。お酒により低体温を助長し利尿をすすめ低血圧になってしまうからです。

 

参考

 低体温下の臓器は,薬剤に対する反応性が悪いです。心臓では、薬剤に対する反応性だけでなく,除細動に対する反応性も悪いため,除細動は復温後に施行するのがよいとされています。また,不整脈に対する抗不整脈薬の効果も少ないです。不整脈に対する最も効果的な治療法は復温であす。低体温では,除脈と血圧の低下は必発であるため,30°Cでは収縮期血圧は80mmHg,心拍数は40回/分前後でよいです。必要に応じて,昇圧薬を使用する.肝臓では薬剤に対する代謝が低下しているため,薬剤の使用方法や使用量には注意を要します。一般に,低体温症に陥っても心停止がなければ,予後は良好です。

 (日本臨床 (0047-1852)76巻増刊7 老年医学(下) Page663-667(2018.08))

② 凍傷

組織が凍結されると凍傷を起こします。凍傷には組織の凍結による障害ばかりでなく、末梢の微小血管の閉塞や循環閉塞が関与しています。雪山で多い凍傷は濡れた手袋や雪の入った靴を乾かさずに放置した場合の凍傷です。

 分類として以下のように4つに分類されています。

分類

深度

所見・特徴

Ⅰ度

浅在性

表皮

発赤、浮腫

Ⅱ度

浅在性

真皮

水疱、疼痛、瘙痒感、感覚低下

Ⅲ度

深在性

皮下組織

血疱、皮膚壊死

Ⅳ度

深在性

筋・骨

黒色化、浸軟(初期)、ミイラ化(後期)

治療

 加温方法は患部を42℃程度のお湯に約30分つける、途中でお湯が冷めないように注意します。温浴は早ければ早いほうがよいです。その後は保温に努め、再冷却に備えます。摩擦やマッサージは体温を上げる効果が乏しいだけでなく組織を痛めるので禁忌です。

 局所処置として加温後、軟膏や被覆材を用います。初診時に重症度が読めないことが多いため適切にフォローアップができるようにしましょう。

 プロスタグランジンE1は血管拡張作用と血小板凝集抑制作用があるので凍傷治療に最適ですが保険適用がありません。

凍傷の増悪因子

 喫煙は禁忌です。凍傷の病態の一つとして微小血管閉塞があり喫煙により血管を収縮させないよう気をつけましょう

 

参考

治療は,保存療法を基本とする.1度凍傷(凍瘡)の治療法は ビタミンEなどの血行促進薬の内服やビタミンE軟膏あるいはヘパリン類似物質含有軟膏などの血行促進外用薬の塗布が有効であす。しかし,重要なことは予防。手袋や耳当て,厚い靴下などの着用は有効です。また,入浴時に患部のマッサージあるいはお湯と水で交互に刺激するのも効果的です。

2度凍傷では,水庖を可能な限り温存します。感染に注意し,分泌液が多い時には,濃度の薄い消毒液(ヒビテン液やイソジン液など)で温浴します。水庖を温存することで,皮下組織も保護されます。局所凍結している場合には,40~42°Cの温浴を行い急速に復温します(rapid rewarming)。患部の末梢部まで,十分に赤みが戻るまで温浴を行う.温浴中の自動運動は望ましいが,マッサージは組織の新たな損傷を生じる可能性があるので避けるべきである.現在のところ,急速加温は寒冷による細胞傷害を最小限にとどめる治療法であると考えられています。解凍後は循環障害が生じるため,発赤,浮腫,灼熱痛などが出現し,通常鎮痛剤の投与が必要になります。3,4度凍傷では,初期の段階で壊死領域を決定することは困難です。初期は,感染に注意しながら,2度凍傷と同様な処置をする.受傷後約2~3週間で壊死組織と生存組織の分解線が明瞭となるため,デブリドマンを施行します。患部が壊疽に陥っている場合には,壊疽部を切断して断端形成術を施行します。適切な時期にリハビリテーションを開始することも重要です。

 ( 日本臨床 (0047-1852)76巻増刊7 老年医学(下) Page663-667(2018.08))

 

いかがでしたか。次回は『一酸化炭素中毒』の勉強を行います。