第37回 ICUでの輸血 ~輸血何単位投与しましょうか?~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回はストレス潰瘍予防について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

本日はICUでの輸血について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① ICUでのヘモグロビン値の目標は?

 ② 心疾患の輸血戦略

 ③ 敗血症の輸血戦略

 ④ 消化管出血の治療選択

 ⑤ 外傷に対する大量輸血

 ⑥ 外傷におけるトラネキサム酸

 ⑦ 周術期のトラネキサム酸

 ⑧ 遺伝子組み換えⅦa因子製剤の適応

 ⑨ まとめ

 ICUでは、外傷や消化管出血、術後の出血などで輸血が必要な患者さんを管理することはよくあることですね。実際、ICUの患者さんではどれくらいのHbを目標に輸血をしますか?ざっくりと10を目標にして、それよりも少し多めになんてことしたりしていますか?どのくらいのHbから輸血をはじめてどのくらいの値を目標にすればよいでしょうか。

 

37回 ICUでの輸血 ~輸血何単位投与しましょうか?~

 

本文内容は主に『集中治療ここだけの話(田中竜馬 編)』を参考に記載しています。集中治療室での治療方針を最新のエビデンスをもとに書かれており、また読みやすい内容になっています。ご一読を。

 

① ICUでのヘモグロビン値の目標は?

 2014年の米国の集中治療領域での主要4学会によるThe Choosing Wiselyトップ5リストの1つとして「血行動態の安定した出血のないHb7g/dL異常のICU患者に赤血球輸血をするな」という項目が入れられているとのこと。2016年のコクランレビューでも輸血制限群は31のRCTにおいて、赤血球輸血を43%減少させ、30日死亡率はHb8-9 g/dL群とHb 9-10 g/dL群で差はなかったとのこと

 

(参考)赤血球輸血製剤について

赤血球輸血製剤はMAPと呼ぶのは間違いです。MAPは赤血球保存用の添加液の名称であり、正確ではないとのこと。2014年以前はRCC (赤血球濃厚液: red cells concentration)と呼ばれていましたが、現在はRBC (red blood cells)に名称が変更されています。照射赤血球液-LR(Ir-RBC-LR: irradiated red blood cells, leucocytes reduced)が正式な名称で、GVHDを予防する目的で放射線が照射され、白血球を除去した製剤となっています。

 

② 心疾患の輸血戦略

 集中治療医がHb 7 g/dL以上での輸血を制限すると、循環器の先生から新機能が悪いのでHbの管理は少し高めでお願いしますと言われることがあると思います。実際にHbを少し高めに保つことに意味があるのでしょうか。実際のRCTではHbを輸血で高く維持しても、低めに維持しても死亡率などの複合アウトカムでは有意差を認めなかった。急性冠症候群、心臓外科手術中・術後とした輸血制限千尺は安全である可能性が高いです。死亡率が変わりなくとも、輸血料や輸血患者数を減らすことができれば輸血に伴う合併症を減少させる可能性だけでなく、医療費の低下、善意で提供される輸血製剤の節約に繋がります。

 

③ 敗血症の輸血戦略

 以前の敗血症診療国際ガイドライン(SSCG)では、初期蘇生はEGDT(early goal-directed therapy)によりプロトコル化することを推奨していました。この中では最初の6時間で初期輸液を行っても、ScvO2<70%であればHt≧30%まで赤血球輸液を行うとされていました。一方で初期蘇生終了後は、心筋虚血、著名な低酸素血症、急性出血がなければHb<7.0g/dLを赤血球輸血閾値とし、Hb 7.0-9.0 g/dLを目標とすると2つの目標値が提示されていました。

 現在の最新のSSCG2016で治療タイミングに関わらず、成人で心筋虚血、重度低酸素血症、急性出血がなければHb<7.0 g/dLのときのみ赤血球輸血を行うよう推奨しています。担癌患者では輸血寛容群のほうが制限群に比較して28日死亡率、90日死亡率が低下しました。輸血制限戦略は安全に実施できそうですが輸血寛容群も悪いわけではなく、また敗血症の時相や合併疾患により至適域が異なる可能性があります。

 

④ 消化管出血の治療選択

 消化管出血に対しては2013年のNEJMに掲載されたRCTがあります。重症の急性上部消化管出血(吐血、下血、胃管からの血性排液のいずれかがある)患者921人を対象とし、輸血制限群(赤血球輸血域値Hb<7g/dL)と寛容群(輸血域値Hb<9 g/dLとした群)に分け45日の死亡率を比較しました。輸血を受けなかった患者は制限群で有意に多く、6週間後の生存確率も輸血制限群で有意に高かったとのことでした。

 

⑤ 外傷に対する大量輸血

 バイタルサインが崩れている外傷初期における輸血は、大量輸血の適応となります。大量輸血の定義は国によって違いますが、24時間以内にRBC10単位異常とすることが多いです。日本では、単位数の計算が違うため20単位となります。また大量輸血プロトコルRBCだけではなく、新鮮凍結血漿FFP)や、血小板(PC)も一定の割合で準備した大量輸血プロトコル(MTP: massive transfusion protocol)が近年一般的になっています。RCTの結果ではFFP:PC:RBCが1:1:2よりも1:1:1のほうが出血死が有意に低いことが示されました。

 実際の臨床ではFFPは溶解するのに時間がかかり、PCは院内在庫が十分でないこともあり、輸血オーダーから患者に投与されるまでタイムラグがあります。このことから臨床では細かい比率よりもRBCだけでなくより早期にFFPやPCを輸血することを意識することが肝要です。

 

⑥ 外傷におけるトラネキサム酸

 トラネキサム酸は2011年のCRASH-2試験で、大量出血を伴う、もしくはそのリスクのある受傷後8時間以内の成人外傷患者を対象としたRCTで受傷後3時間以内では出血死が減少するが、3時間以上たつとむしろ有害であるという結果でした大量出血を伴う外傷患者に早期にトラネキサム酸を投与したほうが良いという結果となっています

 

⑦ 周術期のトラネキサム酸

 心臓外科領域ではエビデンスが多く2017年のNEJM誌に掲載された周術期合併症リスクの高い肝動脈手術患者にトラネキサム酸を検討した結果があります。術後30日以内の死亡、血栓性合併症、心筋梗塞脳卒中、肺塞栓、腎不全、消化管梗塞を複合アウトカムとした場合に、トラネキサム酸で複合アウトカムが減少したとのことです。ただし、トラネキサム酸の投与群では痙攣が有意に多かったとのことです。

 心臓外科周術期のトラネキサム酸の使用は、出血・再手術、輸血量制限のメリットと、痙攣のリスクを天秤にかけて判断することとなります。

 

⑧ 遺伝子組み換えⅦa因子製剤の適応

 遺伝子組み換えⅦa因子製剤、商品名ノボセブンはわが国では先天性・後天性血友病、先天性第Ⅶ因子欠乏症、グランツマン血小板無力症にのみ適応があり、これは海外でも同様です。血友病以外の出血に対する止血効果を検証された試験では動脈血栓症が有意に上昇し、また出血後の解析でも死亡率の低下を示すことができなかった。

 輸血節約効果と動脈血栓性合併症のリスクを天秤にかけることになりますが、血友病患者での出血を除いて、現状では積極的に使用する理由はないと考えられます。

 

⑨ まとめ

 基本的には病態にかかわらず、赤血球輸血の域値は7 g/dL(目標7-9 g/dL)としています。心疾患を持つ患者も例外ではありませんが、複合リスクがある場合は少し高めの8g/dLを輸血域値に設定します。この場合の至適輸血域値・維持目標は明らかではありません。

 

いかがだったでしょうか。次回はICUでの凝固/止血異常の勉強をしたいと考えています。