第91回 オンコロジックエマージェンシー、化学療法の副作用対策 ~対策を万全に~  

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。血球貪食症候群伝染性単核球症について一緒に勉強しました。

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 本日は、オンコロジックエマージェンシー、化学療法の副作用対策について一緒に勉強していきましょう。

 

勉強前の問題

① オンコロジックエマージェンシー

② 化学療法の副作用対策

 

 本日は血液内科疾患について勉強してみましょう。血液内科疾患は専門性が高く手を出しにくいと考えがちですが、実際どのような疾患を鑑別にあげ、治療を行っていけばよいか考えておく必要があると思います。今回は第七弾として以前勉強しましたオンコロジックエマージェンシーと化学療法の副作用対策について血液内科の観点から勉強しましょう。

 

91回 オンコロジックエマージェンシー、化学療法の副作用対策 ~対策を万全に~

 

本文内容は主に『レジデントのための血液教室 宮川義隆著』を参考に記載しています。この本はレジデント向けに書かれていますが、なんといっても読みやすいです。血液疾患の勉強の最初のとっかかりにしてみてはいかがでしょう。

レジデントのための血液教室〈ベストティーチャーに教わる全6章〉

レジデントのための血液教室〈ベストティーチャーに教わる全6章〉

 

① オンコロジックエマージェンシー

 がん患者の様態が数時間~数日以内に急変するリスクがある状態をオンコロジーエマージェンシーと呼びます。急性白血病(初発)、腫瘍崩壊症候群、高カルシウム血症、脊髄圧迫、上大静脈症候群があります。腫瘍細胞の大量破壊に伴う多臓器不全(急性腎不全、電解質異常、不整脈)を腫瘍崩壊症候群と呼びます。

 固形がんと比べて、血液がんの細胞増殖速度は速く、数時間以内に治療を始めないと死亡、または重度の後遺症を残す病態もあり、気を抜いてはならない。

・急性白血病(初発)

 特に若年者の急性白血病(初発)は、治療を始めないと数日以内に白血病細胞が急速に増加して、後述する腫瘍崩壊症候群や、血小板減少による脳出血重篤感染症、DICを合併することがあります。このため骨髄検査で芽球(白血病細胞)が20%以上に増えていることを確認したら、速やかに抗がん剤による寛解導入法を開始します。

 一方、高齢者の白血病は増殖速度が遅いことが多く、染色体検査の結果を待って治療戦略を決めることもあります。

・腫瘍崩壊症候群

 抗がん剤によって大量の腫瘍細胞が急激に破壊された結果、高尿酸血症、高カリウム血症、高リン血症をおこし急性腎不全、不整脈、突然死を合併します。これを腫瘍崩壊症候群と呼びます。バーキットリンパ腫急性リンパ性白血病悪性リンパ腫は腫瘍崩壊症候群を起こしやすいと言われています。高リスク群には尿酸を排泄するラスプリカーぜ(ラスリテック)の投与を検討しても良いです。

高カルシウム血症

 高カルシウム血症の主な症状は悪心、嘔吐、倦怠感であり重症例では意識障害を伴います。多発性骨髄腫や成人T細胞性白血病/リンパ腫(ATLL)の患者が高カルシウム血症による意識障害で救急搬送され、その後、血液癌と診断されることがあります。治療は脱水を補正する生理食塩水(1日2~3L)、ビスフォスフォネート製剤のゾレドロン酸(ゾメタ)、カルシトニン製剤(エルシトニン)があります。ゾレドロン酸は効果発現に24時間かかるため、補液とカルシトニン製剤で最初は治療します。

・脊髄圧迫

 多発性骨髄腫による圧迫骨折や悪性リンパ腫の椎体・髄腔内への浸潤により、脊髄が圧迫され、強い疼痛と脊髄麻痺を生じることがあります。診断は深部反射の亢進、歩行障害、間隔低下などの神経学的所見と、MRIが有用です。局所の放射線照射を始めます。固形がんの脊髄圧迫に対しては手術で減圧を行う場合がありますが、悪性リンパ腫と多発性骨髄腫は放射線ステロイドに対する感受性が高いため手術は行いません。

・上大静脈症候群

 縦隔にできた腫瘍が上大静脈を圧迫して血流が止まり、頭痛、頭部のうっ血とむくみ、重症例では意識障害を合併します。患者数としては小細胞肺がんが最も多いです。血液内科では。悪性リンパ腫の縦隔腫瘍に合併することがおおいです。速やかに病理診断をつけて化学療法を行います。

 

② 化学療法の副作用対策

抗がん剤治療を開始するにあたって

 がん患者と家族は、とても不安があります。がんの告知に驚き将来訪れる死の恐怖に怯え、寝れない、早朝に目が覚めるなどの睡眠障害や、抑うつ気分、食欲と味覚の低下、便秘は、ほとんどの患者にあらわれます。癌を告知される患者にとっては不安が生じます。看護師、薬剤師、精神科医ソーシャルワーカーなどとも協力して心のケアに努めましょう。

・悪心・嘔吐

 抗がん剤による悪心嘔吐は発現時期により、急性、遅発性、予測性の3つに分類されます。急性は抗がん剤投与から数時間以内に発生し24時間以内に軽快します。遅発性は数日後に悪心・嘔吐が生じるため、半減期が長い第二世代のセロトニン受容体阻害薬(パロキセチン[アロキシ])やサブスタンスPの受容体であるNK1受容体拮抗薬(アプレピタント[イメンド])と副腎皮質ステロイドデキサメタゾン)が併用されます。予測性は抗がん剤投与の前から悪心嘔吐が始まります。この場合は看護師、精神科医緩和医療チームによるカウンセリング、個室での外来治療、必要に応じて抗不安薬の投与も検討します。

口内炎、口腔内合併症

 抗がん剤口内炎を合併することは多い。特にメソトレキセート(葉酸拮抗剤)とシクロホスファミド(アルキル化薬)が高リスクです。抗がん剤を開始してから7~10日後に口内炎を合併しやすい。大きな虫歯や歯槽膿漏感染症のリスクとなるため化学療法を始める前に全例を歯科・口腔外科に口腔ケアを依頼することが望ましいです。口内炎が多発したら生理食塩水など刺激が少ないもので口腔内洗浄を行い、痛みはリドカインによるうがいと医療用麻薬で対応します。抗がん剤で免疫力が低下するため、口腔内カンジダ症、単純ヘルペスウイルスによる口内炎を合併することもあります。

・消化管潰瘍

 癌の闘病生活においては大きなストレスと抗がん剤の影響で十二指腸潰瘍を引き起こします。胃酸の分泌を抑えるH2受容体拮抗薬やPPIの投与を検討しましょう。

・下痢・便秘

 抗がん剤の副作用として下痢・便秘は多いのでがん患者は精神的ストレスと運動不足から、機能性胃腸障害を合併することが多く、適切なカウンセリングと胃腸薬で対応します。

・血球減少

 抗がん剤により好中球数が1,000/μL以下になると細菌感染症を合併しやすくなります。このため、造血因子製剤フィルグラスチム投与が行われます。貧血はHb 7g/dL、血小板は2万/μLを輸血開始基準として適宜輸血を行います。輸血の治療目標値は、患者の年齢、ライフスタイル、合併症より設定します。抗体医薬リツキシマブを投与すると約半年に渡りBリンパ球と血清IgGが減少します。仮に肺炎を予防するため、ST合剤を予防投与します。

・腫瘍崩壊症候群

 予防の基本は、十分な補液(1日2~3L以上)と、尿酸を下げる治療です。尿酸降下薬として、安価なアロプリノール、適応はあるが高価なフェブキソスタット(フェブリク)があります。巨大な腫瘤があり、LDHと尿酸が高値の悪性腫瘍の患者は高リスク群であり、尿酸の分解を促進するラスプリカーぜ(ラスリテック)の併用が推奨されます。

抗がん剤の血管外漏出

 殆どの抗がん剤は血管外に漏出すると皮膚の発赤、水疱形成、重症例では壊死に至ります。このため抗がん剤を血管外に漏出させてはいけないです。末梢の血管が細くて漏出のリスクが高ければ、中心静脈カテーテルを考慮します。特に悪性リンパ腫の化学療法に使うドキソルビシンなどアントラサイクリン系の皮膚障害は重篤になります。アントラサイクリン系の抗がん剤が漏出した場合、6時間以内にデクスラゾキサン(サビーン)を点滴投与すると、皮膚障害が軽減します。

 点滴中に血管漏出を起こしたら。直ちに点滴を中止し、漏出液を注射器で穿刺吸引し、ステロイドとリドカインを皮下注射して24時間、局所の冷却を行います。エトポシド、ビンクリスチンの漏出はヒアルロニダーゼの皮下注射して温めます。

 

いかがでしたか。次回は『末梢血に芽球が出現、骨髄生検』の勉強を行います。