第47回 ワルファリンの使用方法
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。動脈血液ガス分析の結果の解釈について一緒に勉強しました。
本日はワルファリンの使用方法について一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① 止血のメカニズムの確認
② 二次止血を調べる検査
③ 凝固振興阻害因子(3つの経路)
④ 抗凝固療法・血栓溶解で用いられる薬剤
抗凝固薬1:未分画ヘパリンヘパリン
抗凝固薬2:低分子ヘパリン クレキサン(エノキサパリン)
抗凝固薬3:Ⅹa因子阻害薬:フォンダパリナックス、ダナパロイド
抗凝固薬4:直接トロンビン阻害薬 スロンノン(アルガトロバン)
抗凝固薬5:ワルファリン系抗凝固薬 ワルファリン
⑤ 血栓溶解療法で用いられる薬剤
救急外来や外来に来る患者にはすでにワルファリンを飲んでいる患者さんは大勢いますね。ただ、このワルファリンは適切に管理されていなければ出血傾向などの副作用が表に出てしまい患者さんにとっても辛いお薬となります。上手にワルファリンを使用できるように一緒に勉強していきましょう。
第47回 ワルファリンの使用方法 ~ワルファリンの使用時に注意すべきことは~
本文内容は主に『ICU/CCUの薬の考え方、使い方(大野博司著)』『内科診療フローチャート(清田雅智 監修)』を参考に記載しています。両方の本とも内用がすごく濃く勉強になる本です。ぜひ手元において患者さんの治療に役立ててください。
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① 止血のメカニズムの確認
血管障害部位ではまず血小板が活性化されて、血管内皮に血小板がくっつきます、そしてさまざまな物質を放出し、血小板同士が凝集します(一次止血)。その後、血液の凝固因子が活性化されてフィブリン塊を形成し、障害部位をすっぽりと覆うことになります(二次止血)。二次止血ではとくにⅦ、Ⅹ、Ⅴ、Ⅱが重要です。また、凝固の共通系カスケードとしてⅩ、Ⅴ、Ⅱ(プロトロンビン)、Ⅰ(フィブリノーゲン)の4つを覚えましょう。
② 二次止血を調べる検査
凝固因子(二次止血)が白湯する二次止血を調べる検査としてPT、aPTTがあります。
プロトロンビン時間(PT)
外因系の第Ⅶ因子と共通系の凝固因子群を検出します。特にPT-INRを見ます。ここで復習です。共通系の凝固因子を答えてください。
そうですね、Ⅹ、Ⅴ、Ⅱ(プロトロンビン)、Ⅰ(フィブリノーゲン)。覚え方は1×2×5=10で全て入っています。共通系はこれで覚えられましたね。PTはワーファリン投与の目安となります。
活性化部分トロンボプラスチン時間 (aPTT)
内因系の凝固因子群(第Ⅻ、Ⅺ、Ⅸ、Ⅷ因子)と共通系の凝固因子の欠乏を検出できます。ヘパリンの目安となります。
③ 凝固振興阻害因子(3つの経路)
1, アンチトロンビンⅢ → トロンビン、第Ⅹ因子をブロック
アンチトロンビンⅢは内因系と共通系の凝固因子を阻害するように働きます。第Ⅹa因子やトロンビンなどと反応し複合体を形成し凝固反応を制御します。ヘパリンはアンチトロンビンに結合してアンチトロンビンの抗トロンビン作用を1000倍増強します。
2, 活性型プロテインC/プロテインS → 第Ⅴ、Ⅷ因子をブロック
活性型プロテインC/Sは第Ⅴ、Ⅷ因子を分解し凝固反応を制御します。とくに第Ⅱ因子であるトロンビンが過剰に賦活化されると、トロンビンがトロンボモジュリンに結合します。このトロンボモジュリンがプロテインC/Sの活性亢進につながり凝固反応を制御するように働きます。
3,組織因子経路インヒビター (TFPI) → 組織因子をブロック
組織因子経路インヒビター(TFPI)は組織因子による外因系凝固カスケードの開始点を抑制します。第Ⅹa因子と結合して、第Ⅶa因子―組織因子複合体を形成します。
4,線溶系 プラスミン
血管内皮から分泌される組織プラスミノーゲン活性化因子 (t-PA)が血中のプラスミノーゲンをプラスミンに変換し、プラスミンがフィブリンを分解切断します。プラスミンがフィブリン塊を分解切断することで血管内血栓を溶解します。このプラスミンで分解・切断されたフィブリン塊が、フィブリン分解産物(FDP)やD-ダイマーです。
④ 抗凝固療法・血栓溶解で用いられる薬剤
抗凝固薬
抗凝固薬 |
作用機序 |
副作用 |
未分化ヘパリン 低分子ヘパリン クレキサン(エノキサパリン) |
未分画ヘパリン:Ⅹa因子、トロンビン阻害(Ⅸ、Ⅺ、Ⅻ因子も) 低分子ヘパリン:Ⅹa因子阻害 |
出血傾向、高K血症、ヘパリン誘発性血小板減少症 |
Ⅹa因子阻害薬 アリクストラ(フォンダパリナックス) オルガラン(ダナパルト) |
Ⅹa因子阻害 |
出血傾向、ヘパリン誘発性血小板減少症(オルガランのみ) *腎代謝 |
直接的トロンビン阻害薬 スロンノン(アルガトロバン) |
トロンビン(Ⅱ因子)阻害 |
出血傾向 *肝代謝 |
クマリン系抗凝固薬 ワーファリン(ワルファリンカリウム) |
ビタミンKを解する肝での凝固因子(Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)産生阻害 |
出血傾向、皮膚壊死 *肝代謝 |
血栓溶解薬
血栓溶解薬 |
作用機序 |
副作用 |
遺伝子組み換え t-PA グルドパ(アルテプラーゼ) t-PA誘導体 クリアクター(モンテプラーゼ) |
フィブリンに結合し、プラスミノーゲンをプラスミンに変換させる |
出血傾向 |
抗凝固薬1:未分画ヘパリンヘパリン
分子量が約3,000-35,000と種々のものが混在し、分画その他の処理を加えた低分子ヘパリン(分子量1,000-5,000)に対して、未処理のものとして未分画ヘパリンと呼ばれます。未分画ヘパリン自体は抗凝固作用はありません。未分画ヘパリンはアンチトロンビンⅢの活性を約1000倍にすることでアンチトロンビンⅢのトロンビン、Ⅹa因子作用の阻害を増強させて作用します。
ヘパリンの適応は広く大きく分けると以下の3つとなります。
1、血栓塞栓症(静脈血栓、心筋梗塞、肺塞栓、脳梗塞、四肢動脈の血栓塞栓、術中・術後の血栓塞栓など)の治療および予防
2、血液透析・人工心肺その他の体外循環装置使用時、血管カテーテル挿入時、輸血及び血液検査などでの血液凝固防止
3、播種性血管内凝固DICの治療(使用されることはまれ)
【使い方】
1、DVT予防では5000単位皮下注8~12時間ごと
2、DVT/PE予防では600~800単位/時の投与でaPTT 1.5~2.5になるようにモニタリングします。
ヘパリン投与中に聞きすぎて出血傾向が強まった時には拮抗薬である硫酸プロタミン 100 mg/10 mLを使用します。
ヘパリン誘発性血小板減少症(heparin induced thrombocytopenia: HIT)
ヘパリンと血小板の複合体への免疫反応が原因と考えられています。活性化された血小板から出る血小板第4因子(PF4)は本来ヘパリンと結合して複合体を形成し抗凝固作用を中和するが、この複合体を抗原として自己抗体ができることによります。結果として血小板減少が起こるとともに、出血ではなく全身性の血栓形成が起こります。つまり、ヘパリン投与中の患者で原因不明の血小板減少と血栓症の発症や増悪を見たら必ず疑う。
治療は、①即座にヘパリンを中止し、②ヘパリン以外の抗凝固両方を行います。国内で使用可能な抗凝固療法としてワルファリン、アルガトロバン、フォンダパリナックスがあります。アルガトロバンを持続静注しながらワルファリンを開始しワルファリンの効果が出るのを確認してアルガトロバンを中止するという方法をとります。
抗凝固薬2:低分子ヘパリン クレキサン(エノキサパリン) 2,000IU/0.2mL
低分子ヘパリンは分子量は約4000~5000です。未分画ヘパリンと異なり、アンチトロンビンⅢを必要とせず、Ⅹa因子のみを阻害し作用します。国内では投石など体外循環における凝固防止目的および深部静脈血栓症予防に使用します。
【使い方】
DVT予防:2,000IU皮下注12時間ごと
未分画ヘパリンと異なりAPTTではモニタリングは不要とのこと。
未分画ヘパリンは半減期が長く、腎不全でも使用できますが、低分子ヘパリンはCcr<30ml/分のケースでは血中濃度が上昇し出血のリスクが上昇します。
抗凝固薬3:Ⅹa因子阻害薬:フォンダパリナックス、ダナパロイド
フォンダパリナックスは合成ヘパリン誘導体であり、Ⅹa因子阻害薬です。ヘパリンのアンチトロンビンⅢに結合する部位のペンタサッカライドを完全に生合成したものでアンチトロンビンⅢに選択的に特異的に結合し抗Ⅹa因子を直接阻害し作用を発揮します。
DVT/PE予防のほかにHIT患者でのDVT予防、HIT治療に使用されています。
【使い方】
アリクストラ DVT予防:2.5 mg皮下注1回/日
オルガラン DVT予防:750単位皮下注/静注2回/日
DVT治療:2250単位静注→400単位×4時間、
もしくは300単位×4時間、150~200単位/時
抗凝固薬4:直接トロンビン阻害薬 スロンノン(アルガトロバン)
トロンビンと結合し、トロンビンを選択的に直接阻害することで抗凝固作用を発揮します。トロンビンによるフィブリン生成、血小板凝集と血管収縮を抑制します。
適応は、発症後48時間以内の脳血栓症、閉塞性動脈硬化症、バージャー病などの慢性動脈閉塞症のほか、血液透析など体外循環での凝固防止、ヘパリン誘発性血小板減少症(HIT)での血栓症発生抑制に適応があります。
【使い方】
2γ(μg/kg/分)で開始し、APTT 1.5~3.0倍になるように調整します。
アルガトロバンは半減期が30~45分と短く、中止により速やかに抗凝固活性がなくなります。
抗凝固薬5:ワルファリン系抗凝固薬 ワルファリン
1、ワルファリン
ワルファリンはビタミンKの拮抗薬で、肝臓で合成される凝固因子のⅡ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹを抑制します。また、凝固阻害で重要なプロテインC/Sも抑制されるためワルファリン開始直後には凝固に一過性に偏るといわれています。
2、ワルファリンの調節方法
ワルファリンはINR 1.5-2.5を目標に投与量を設定します。TIAでは1.6以下だと塞栓症のリスクが上昇し、2.6以上だと出血リスクが上昇します。
INRが目標に達すれば最初の1~2週間は週に2~3回INRをフォローし、INR安定後は4~6週間毎の評価を行います。新規薬剤を投与開始時、抗菌薬開始時はINRをフォローし、投与量を再調査します。
ワルファリン使用患者では食事では納豆、クロレラ、青汁などビタミンKを含む食品の摂取は禁止です。
3、ワルファリンのリバース方法
急性出血やINRの過延長ではワルファリンの休薬やリバースを考慮します。リバースで使用する薬剤は保険適応で使用できる薬剤はビタミンKおよびFFPのみです。
ワルファリンのリバースで使用する薬剤は以下の通りです。
薬剤 |
作用 |
投与量 |
作用出現までの時間 |
費用 |
ビタミンK (ケイツーN静注) |
内因性凝固因子の産生を保つ |
5-10 mg ≦1 mg/分の速度 |
4-6時間 (経口投与では12時間) |
84円/10 mg |
全凝固因子の補充 |
15-30 mL/kg |
13-48時間 |
1万8000円/240mL (2U) |
|
rFⅦa (ノボセブン) |
Ⅶ因子の補充 |
1 mg |
≦15分 |
10万円/1 mg (保険適用外) |
4F-PCC (ファイバ) |
Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子の補充 |
25-50 U/kg (Ⅸ因子量で計算) |
≦15分 |
19万円/1000 単位 (保険適用外) |
4F-PCC (ニチヤク) |
Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子の補充 |
25-50 U/kg、もしくは500-1000U |
≦15分 |
3万8000円//500単位 (保険適用外) |
⑤ 血栓溶解療法で用いられる薬剤
抗血小板薬や抗凝固薬は血栓の形成を抑制する作用を持ちますが、すでに存在している血栓に対しては作用しません。血栓溶解薬は特に緊急時に血栓により閉塞した血管を開通させるために用いられます(脳塞栓症、重篤なPE)。
組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)がプラスミノーゲンをプラスミンに変換し、このプラスミンがフィブリンを分解切断して血管内血栓を溶解し、血液の流れを確保します。また、t-PAは速やかに血管内皮細胞から分泌されるプラスミノーゲン活性化因子インヒビター(PAI)と結合して活性が抑制されます。これにより線溶系により血栓が解けすぎないようにコントロールされています。
ウロキナーゼはt-PAと異なり、フィブリンに結合しないで血液中のプラスミノーゲンを活性化するので、出血のリスクが高くなります。そのため、全身性に作用し出血傾向を来すため使用が難しいです。
いかがだったでしょうか。次回は『ICU入室患者のアセスメント』について勉強をしたいと考えています。