第38回 ICUでの凝固/止血異常 ~DICに治療介入は必要?~  

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回はICUでの輸血について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

本日はICUでの凝固/止血異常について一緒に勉強していきましょう。

 勉強前の問題

 ① 敗血症性DICの診断は必要か。診断するならばその診断基準は。

 ② 急性期DIC診断基準

 ③ 敗血症性DICに対する治療介入は必要か

 ④ 抗凝固療法として使用可能な薬剤は

 ICUでは、血小板減少や凝固異常がみられるケースは少なくないです。DICは代表的な疾患ですがDICの治療は必要でしょうか?また、血小板数や凝固系の検査での異常値ではどのような値の時に介入が必要でしょうか。

今回はそのようなことを焦点にICUでの凝固/止血異常について勉強していきましょう。

 

38回 ICUでの凝固/止血異常 ~DICに治療介入は必要?~

 

本文内容は主に『集中治療ここだけの話(田中竜馬 編)』を参考に記載しています。集中治療室での治療方針を最新のエビデンスをもとに書かれており、また読みやすい内容になっています。ご一読を。

 

① 敗血症性DICの診断は必要か。診断するならばその診断基準は。

 DICの診断には検査所見や臨牀所見の複数の項目をスコア化してその合計点を算出するスコアリングシステムが用いられており、以下の4つの診断基準があります。

厚生労働省DIC診断基準(1979年作成、1988年改定)

・ISTH(international Society on Thrombosis and Haemostasis) – overt DIC診断基準

 (2001年、国際血栓止血学会)

・急性期DIC診断基準(2005年、日本救急医学会)

・日本血栓止血学会(JSTH :Japanese Society of Thrombois and Hemostasis)診断基準

(2014年暫定案、2017年改訂)

敗血症のDICに関して、使用しやすいのは急性期DIC診断基準であると筆者らは述べています。ただし、残念ながら急性期DIC診断基準の診断特異度は、ほかの基準に比べて低いという報告が散見されます。したがって、使いやすい反面、不必要な地様介入が増えてしまう懸念もあります。

 

② 急性期DIC診断基準

スコア

SIRS

血小板数(/μL)

PT

FDP (μg/mL)

1点

3項目以上陽性

8万≦<12万

あるいは

24時間以内に30%以上の減少

1.2≦

10≦<25

 

2点

 

 

 

 

3点

 

<8万

あるいは

24時間以内に50%以上の減少

 

25≦

(4点以上でDICと判断)

http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1605_02.pdf

 

③ 敗血症性DICに対する治療介入は必要か

 2013年に行われたJSEPTICの「感染に起因するDIC」に起因するアンケート結果では、「治療は必要である」と解答した割合が47%、「治療は不要である」と解答した割合が49%とほぼ2分する形となった。治療の必要はないと考えている側の意見としては以下の3点があげられています。

 1) 敗血症性DIC患者に対して有益性を示した大規模なRCTがないこと

 2) 敗血症患者の大部分で出血のリスクを増加させること

 3) 凝固・血栓に関連した病原体クリアランス(immunothrombosis)が抗凝固療法によって損なわれる可能性があること

 抗凝固薬に対して各種ガイドラインはコンセンサスを見渡しても強固な裏付けは見当たらないそうです。しかし、近年このimmunothrombosisiという病態が注目されております。感染症の局所の炎症が惹起されるとサイトカインやマクロファージが動員され血管内に血栓が作られ食い止めるという非常に重要な働きを持っているということがわかってきました。感染が制御できなければ、この反応が過剰になることで、血栓痙性が増強されて全身の臓器障害を呈して敗血症性DICになり、その場合にはこの過剰反応を抑制する目的で抗凝固療法という戦略が成り立つ可能性があります

 

④ 抗凝固療法として使用可能な薬剤は

・ヒト遺伝子組み換えトロンボモジュリン製剤(rhTM)

 トロンボモジュリン(TM)は血管内皮上に存在している膜糖蛋白質で、血液中に形成されたトロンビンが活性化されたあとTMと結合することで直接的にトロンビンの作用を抑制するだけでなく、この複合体がプロテインCを活性化させて間接系にも抗凝固作用をもたらします。

 Yamakawaらは敗血症性DICに対するrhTMの効果についてシステマティックレビューを報告しています。結果、RCTは3つしかなく死亡率改善に対して有意差は出せなかった。また、トロンボモジュリンの第二相試験では投与群がプラセボ軍に対して28日間の死亡率はコントロール群に比較して低い傾向にあったが有意差は認めませんでした。また、最近、三相試験の結果も、同様に有意差が出なかったとの結果が報告されています。

 第三相試験でもエビデンスにかけることからトロンボモジュリンを敗血症性DICに対するに使用するには現状エビデンスに乏しいと考えます。

・アンチトロンビン(AT)

 アンチトロンビンは肝臓で安静される糖タンパク質で、トロンビンやそれ以外の凝固因子と結合することで抗凝固作用を発揮します。また、抗凝固作用以外に直接的な抗炎症作用や、近年では、血管透過性を制御していると考えられている血管内皮のグリコカリックス保護作用を有することが報告されています。2015年のコクランレビューでは、生存率に有意な改善を見ることはなく出血性合併症が増加したと結論づけており、海外ではAT製剤の投与は推奨されていません。2016年の日本版敗血症ガイドラインでは、その後に発表されたAT群では有意に死亡率を改善したとするサブグループ解析を含め慎重に検討を重ねた結果、海外と異なり弱い推奨となっています。

 

いかがだったでしょうか。次回はICUでのVTE予防の勉強をしたいと考えています。