第74回 肺塞栓 ~呼吸が苦しいんですけど~

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 こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。熱症について一緒に勉強しました。

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本日は、以前少しふれました肺塞栓症について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 肺塞栓(PE)の診断方法

 ② 臨床診断

 ③ D-ダイマ

 ④ 造影CT

 ⑤ 造影CTをとれない場合

 ⑥ massive PEとは

 ⑦ massive PEの初期治療

 ⑧ massive PEへの血栓溶解療法

肺塞栓症は皆さんもご存じ緊急疾患です。肺塞栓症を疑えばできるだけ早く対応を行いましょう。といっても、実際は先にその知識を入れておく必要がありますね。緊急時にもビックリしないように勉強していきましょう。

 

74回 肺塞栓 ~呼吸が苦しいんですけど~

 

本文内容は主に『Dr竜馬のやさしくわかる集中治療 循環・呼吸編』を参考に記載しています。田中竜馬先生の教科書は非常に読みやすく明快な本が多くいつも出版されるとすぐに手を付けてしまします。救急医療やICU管理の教科書がたくさん出ていますので是非読んでみてください。

① 肺塞栓(PE)の診断方法

 PEの症状・徴候は非特異的なことが多くまた、見逃すと死に直結するため診断の確定或いは除外は慎重に行います。一般にPEの診断は臨床診断、生化学(Dダイマー)、画像(造影CT、V/Qスキャン、下肢静脈ドップラー)の3本立てで行います。

 

② 臨床診断

 臨床診断は一般に修正Wellsスコア、もしくは簡易Genevaスコアを用いて行います。医師の主観で診断するのは特異度にかけることが示唆されています。実際にはいろいろ迷う時間はないので、修正wells criteriaについて記載しておきます。

修正wells criteria

DVTの臨牀症状

3.0

PEがほかの鑑別診断と比べてより濃厚

3.0

心拍数>100/分

1.5

過去4週間以内の手術もしくは3日以上の長期臥床

1.5

DVTもしくはPEの既往

1.5

喀血

1.0

悪性疾患

1.0

 

0~4点であればPEはなさそうと判断し、5点以上であればPEの可能性ありと判断します。

臨床診断からPEがありそうであればD-dimerを測定せず造影CTを行います。PEがなさそうでもD-dimerを測り正常値であれば造影CTはなしとします。

 

③ D-ダイマ

 皆さんもD-ダイマーの基準についてはどこが閾値かといった議論になることを経験されたかたもいらっしゃるかと思います。正常では<500 ng/mL閾値に考えて除外診断にしましょう。ただし高齢者に対してはそのほかの指標が挙げられています。また、50歳超では「年齢×μg/L」、60歳以上では「750μg/L」を用いるのが安全な除外に結びつくという見解が2012年のBMJ誌に報告があったとのことです。

 D-ダイマー(高齢者):https://www.carenet.com/news/journal/carenet/28730

 

④ 造影CT

 現在では胸部造影CTがPEの標準的な画像診断方法になっています。PIOPED ⅡではWellsスコアを用いて臨床的な診断の可能性を低、中、高と3つに分けました。臨床診断が低、中の場合はCTで陰性となる割合がそれぞれ96%、89%であったのに対し、臨床診断が高と診断された場合にはCTが陰性でもCTの陰性的中率は60%でした。逆にCTが陽性だった時に実際にPEが存在する割合は臨床診断が高、中の時は高いですが(92~96%)、臨床診断が低の場合では58%でした。この結果からCTで最終診断とするのではなく臨床診断も含めて考える必要があるのではないかということが考えられます。

 

⑤ 造影CTをとれない場合

 腎不全や造影剤アレルギーのため造影剤が使えなかったり、血行動態が不安定なためにCT室へ搬送が危険であるような場合は、下肢静脈ドップラーを用いてDVTの有無から判断しましょう。DVTが見つかればPEと同じ治療をできるので判断が早いです。

 

⑥ massive PEとは

 massive PEとはPEの患者の中で低血圧(収縮期血圧<90 mmHg)の場合を指します。massive PEを理解する前に、肺血管の仕組みについて学んでみましょう。肺血管は体循環系と逆で低酸素で収縮するという作用があります。これを低酸素性肺血管収縮(hypoxic pulmonary vasoconstriction)といいます。このように体循環と肺循環では酸素に対する血管の反応が正反対になっています。肺塞栓では血液が通りにくくなり、酸素交換ができないためさらに肺動脈が収縮してしまいます。

 肺血管が収縮すると肺血管抵抗が上昇するため右室の後負荷が上昇します。右室は基本的に肺にのみ血液を送るため右室壁は薄く圧は低いです。そのため右室はすぐに拡張してしまいます。右室が高負荷になると右室拡大のため左室は小さくなり前負荷が低下します。そのためさらに心機能は低下します。

 つまり、massive PEでは閉塞性ショックになります。そのことにより右心不全と左心不全の両方が生じるようになります。

 

⑦ massive PEの初期治療

  • 呼吸の初期治療

低酸素血症があるときは酸素投与します。重度のガス交換異常のため酸素投与だけでは不十分な場合には気管挿管と人工呼吸器が必要になるときがあります。人工呼吸器を使用する場合には設定に注意しましょう。肺胞が過膨張すると、肺血管を圧迫して肺血管抵抗を上昇させる恐れがあるので、過剰なPEEPや一回換気量は避けましょう

  • 循環の初期治療

輸液

病態より右室負荷がかかっており緊張性気胸心タンポナーデといった他の閉塞性ショックの場合と同様にまずは輸液投与を行います。ただし、右室に多大な負荷がかかることがあるので、輸液は少量ずつ(500 mL程度)行い効果がなければ昇圧薬を開始する。

昇圧薬

ガイドラインでは定まってないので使い慣れたノルアドレナリンを使い、必要に応じて強心薬を追加しましょう。

強心薬

心収縮力を上げるのを目的に強心薬を使うこともあります。代表的な薬剤はドブタミンだが、ホスホジエステラーゼⅢ阻害薬のミルリノンを変わりに使用することがあります。

*昇圧薬や強心薬は血圧を安定させ冠動脈への血流を保つために使用しますが一方で使用すると心筋の酸素需要が増え、それによって酸素需要と供給のバランスが崩れる危険性もあります。適応を選んで使用しましょう。

 

⑧ massive PEへの血栓溶解療法

  • 血栓溶解療法を行うメリット

血栓溶解療法のメリットは、治療開始後早期(24時間以内)の血栓の消退が早まることです。ヘパリンによる抗凝固療法だけでは治療開始後24時間経過しても肺血流には変化がなく、1週間経って血栓の65~70%が消退し、2~3週間でようやく右心系の圧が正常に近くなるくらいまで血栓がなくなります。このような長い期間がかかってしまうため、massive PEでは血栓溶解療法を用います

実際血栓溶解療法を用いると治療開始後24時間で血栓の30~35%が消退し、ヘパリン単独の場合と比べて血栓の量が著明に少なくなります。血栓溶解療法群の方が血栓がより少なくなるというわけではなく、ヘパリンだけでの治療でも次第に追いつき、一週間たった時点では両者に差はなくなります。

  • 適応

肺塞栓での血栓溶解療法の適応はmassive PEのみです。それ以外では治療によるデメリットのほうがメリットよりも大きくなります。肺塞栓に保険適応があるのはモンテプラーゼで日本の肺塞栓ガイドラインでは体重によって13,750~27,500単位/kgを2分間で静注するのが推奨されています。また、血栓溶解療法については必ず禁忌の項目を確認しましょう。

 

⑨ submassive PE

  • submassive PEとは

 血圧が正常でも、トロポニンやBNPが上昇していたり、心エコーで右室負荷の所見があるような場合でかつ、血圧が正常の患者をsubmassive PEといいます。血圧が低下していればmassive PEですね。Submassibe PEでもその後にショックになったり死亡したりといったリスクが高いと考えたリスク分類です。

  • submassive PE血栓溶解療法を行うべきか?

 Submassive PEに対してPEITHO試験の結果では血栓溶解療法を用いた場合、7日以内の死亡または血行動態の悪化を合わせると血栓溶解療法を用いたほうが低いという結果になっていますが、死亡率には有意差はなかったという結果になっています。また血栓溶解療法を行ったほうが有害事象が多く報告され出血性梗塞を起こした患者では10例中4例が死亡しています。そのため、Submassibe PEではルーチンに血栓溶解療法を行わないようにしましょう。

もし、Submassibe PEでは血行動態が悪化したら、その時点でmassive PEに移行したと考え、血栓溶解療法を行いましょう。

 

いかがでしたか。次回は『高血圧緊急症』の勉強を行います。