第44回 ICUでの筋弛緩薬の使用
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。P, Mg, Clの異常値の対応について一緒に勉強しました。
本日はICUでの筋弛緩薬の使用について一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① 筋弛緩薬の適応
② ARDSにおけるに対する筋弛緩薬使用について
③ 筋弛緩使用時の注意点
④ 薬物の選択
⑤ モニタリング
⑥ 合併症
⑦ 副作用
⑧ 作用拮抗
ICUで意識がなく挿管されて入室という患者さんも多いかと思います。そんななか、挿管後の人工呼吸管理に関して筋弛緩の使用について悩むことも多いかと思います。本日はICUでの筋弛緩薬の使用について一緒に勉強していきましょう。
第44回 ICUでの筋弛緩薬の使用 ~その筋弛緩薬本当に必要ですか~
本文内容は主に『重症患者管理マニュアル(平岡栄治、則末泰博、藤谷茂樹 編)』を参考に記載しています。集中治療室での治療方針をわかりやすく書かれており、さっと開けて持ち運びも簡単な本になっています。ご一読を。
① 筋弛緩薬の適応
手技における筋弛緩薬は、以下のような状況で、筋のトーヌスや体動が手技の妨げになる場合に用いられます。
迅速導入気管挿管(RSI)
気管切開術
人工呼吸器管理下での気管支鏡(体動や咳嗽が手技の妨げになる場合のみ)
人工呼吸器管理下での消化管内視鏡(体動が手技の妨げになる場合のみ)
下記の状況で適切な鎮静および鎮静にも関わらず、目的が達成できない時は、持続的な筋弛緩薬の使用を考慮します。
低体温療法時のシバリング予防
咳き込みや人工呼吸器との非同調などにより上昇するICPの管理
ARDSにおける人工呼吸器との呼吸同調の改善
② ARDSにおけるに対する筋弛緩薬使用について
Papzian studyでは重症ARDS(P/F<150)に対して、急性期の48時間のみ筋弛緩薬(cisatravurium)を使用したところ、90日生存率および人工呼吸器装着期間が短縮し、ICU関連筋力低下(ICUAW)の増加は認められなかったという。日本ではcisatraburiumは使用できません。可能な筋弛緩薬はアミノステロイド系のみであるため、よりICUAWをきたしやすい可能性があり、安易に使用すべきでないという考えもあります。
③ 筋弛緩使用時の注意点
筋弛緩薬を投与することは、すなわち自発呼吸を失うことと認識することは重要です。挿管目的での使用では必ずマスク換気ができることを確認して使用します。ベクロニウムやロクロニウムは投与後30~40分間効果が持続します。RSIに使用した場合、挿管直後に投与した鎮静薬のみでは「目が覚めているが動けない」という金縛り状態になっている可能性があるため、挿管後1時間は鎮静薬を適宜追加します。
④ 薬物の選択
脱分極性筋弛緩薬
サクシニルコリンは唯一の脱分極性筋弛緩薬であり、アセチルコリン受容体に結合してイオンチャネルを開き、脱分極を起こさせることで筋弛緩作用を及ぼします。投与量は1~1.5 mg/kgです。
非脱分極性筋弛緩薬
ベンジルイソキノリウム atracurium, cisatracurium
アミノステロイド ベクロニウム、pancuronium、ロクロニウム
|
初期投与量 (mg/kg) |
作用発現 (min) |
作用持続 (min) |
持続静注 (μg/kg/min) |
ロクロニウム (エスラックス) |
0.6~1.0 |
1~1.5 |
30 |
10~12 |
ベクロニウム (マスキュラックス) |
0.08~0.1 |
3~5 |
35~45 |
0.8~1.2 |
ロクロニウムが禁止感までに要する時間が60~90秒と短く、半減期も短いため、単回投与でRSI、持続静注で長時間の筋弛緩に用いられることが多いです。
⑤ モニタリング
PADガイドラインには、「筋弛緩中の鎮静モニターとして、AEP、BIS、NI、PSI、SEなどを使用する」とのみ記載があります。鎮静深度をモニタリングする機器を用いない場合、原因不明の血圧上昇、頻脈、冷感などが認められた場合には鎮静が浅く、「金縛り状態」で苦しんでいる可能性を考えます。
Train of four (TOF)は筋弛緩薬の効果をモニタリングし、筋弛緩薬の使用量を採用源に抑えるために用いられます。TOFの四連刺激を用いる場合、筋弛緩の程度は筋弛緩薬の維持量が決まるまでは2~3時間おきに、維持量が設定できた後は8~12時間おきに評価します。通常、尺骨神経を2Hz 50~90mAで4回刺激し、1~2回母子が内転するように筋弛緩薬を調整します。
⑥ 合併症
重篤な合併症としてICUAWがあります。ICUAWとはICU-acquired weaknessのことでICU在室中に生じる急性のびまん性筋力低下を指します。重症患者における筋力低下の原因として、軸索障害型の神経障害や筋原性のものが知られていたが,ICUAWはこれらを統合する概念です。ICUAWの予防目的に,理学療法や筋電気刺激が行われています。(引用 https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=6529)
予防として、1日1回筋弛緩薬を中止し、筋力の回復を確認し、継続が必要かを判断することが推奨されています。筋弛緩薬の使用にあたっては月餅症の予防が必要です。
人工呼吸器が外れないよう管理 |
はずれれば致命的となる |
適切な痰の吸引 |
咳嗽ができず、無気肺を生じやすいため、痰のこまめな吸引が必要 |
角膜潰瘍予防 |
目が閉じないため、人工涙を2~4自家の期に使う、もしくはアイパッチを貼付する |
皮膚損傷や褥瘡の予防 |
適切な体位交換が必要である |
深部静脈血栓症(DVT)予防 |
|
VAP予防 |
咳嗽反射がなくなるため後円のリスクは高くなります。VAP予防としてヘッドアップが必要です |
瞳孔観察 |
唯一観察可能な神経初見になるため細かく観察します。 |
⑦ 副作用
筋弛緩薬中止後に筋弛緩作用が遷延することがあります。特に高齢者、腎不全患者、肝不全患者で起こります。
スガマデクス(ブリディオン)はアミノステロイド系に特異的に拮抗し、深い筋弛緩でも十分に拮抗できるようになりました。浅い筋弛緩状態には2 mg/kg、深い筋弛緩状態には4 mg/kg、ロクロニウムに対する緊急の回復には16 mg/kgを使用します。
いかがだったでしょうか。次回はステロイドの使用方法について勉強をしたいと考えています。