第54回 NPPV ~NPPV使用できますか?~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。抗ウイルス薬について一緒に勉強しました。
本日はNPPVについて一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① NPPVの構造
② NPPVはBilevel 設定
③ NPPVの適応・開始基準
④ NPPVの設定モード
⑤ NPPVの圧設定用語
⑥ S/Tモードの一般的な開始条件
⑦ マスク装着
⑧ NPPV中の鎮静
⑨ COPD患者におけるNPPV
- ① NPPVの構造
- ② NPPVはBilevel 設定
- ③ NPPVの適応・開始基準
- ④ NPPVの設定モード
- ⑤ NPPVの圧設定用語
- ⑥ S/Tモードの一般的な開始条件
- ⑦ マスク装着
- ⑧ NPPV中の鎮静
- ⑨ COPD患者におけるNPPV
救急外来で呼吸困難を訴える患者さんは多いかと思います。ただ、NPPVの適応があるのか、挿管の必要があるのか判断に困ることがあるかと思います。今回はNPPVを勉強してみようと考えています。NPPVを理解することで、挿管とのすみわけを理解しさらに使用方法をマスターしましょう。
第54回 NPPV ~NPPV使用できますか?~
本文内容は主に『こういうことだったのか!! NPPV 小尾口邦彦 著』を参考に記載しています。NPPVに関して基礎から実際の使用方法まで細かく書かれています。すごくわかりやすいのでもし、興味があれば手に取ってみてください。
① NPPVの構造
NPPVの構造を理解しようとHPを調べてみると、以下のHPが出てきました。
HP http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse2086.pdf
こちらは先ほど紹介した本(こういうことだったのか!! NPPV 小尾口邦彦 著)の第一章でした。私が文字だけで説明するより、こちらのHPからアクセスし勉強するとわかりやすいので説明は割愛しますね。
② NPPVはBilevel 設定
汎用人工呼吸器の換気モードは設定イメージがPEEPをかけながら吸気、呼気をコントロールするといったイメージです。それに比較してNPPVでは、IPAP, EPAPを設定しますが、こちらはEPAPが呼気時の最低圧を示し、IPAPが吸気時の最高圧を示します。吸気時に空気を送るため圧を外からかけ、吸気時には空気を送る量を減らすことでその差分で外に空気を吐き出すといったイメージです。つまり、IPAPとEPAPの差で呼吸をアシストします。
③ NPPVの適応・開始基準
NPPVの適応は、エアウェイに問題がないことと、重症度が高すぎないことが重要です。また、意識が比較的清明であることもNPPVの施工時には重要であり、COPD患者のCO2ナルコーシスによる意識障害を除くと(この病態は非常に良い適応です)、本来、意識障害はNPPVを避けるべきです。
NPPV開始の基準(どれかがあればNPPVの適応チェックに進む)
高濃度の酸素投与が必要である(マスクまたはリザーバーマスクで10L/分以上)
低酸素による症状がある(呼吸困難、不穏、発汗)
努力呼吸で疲弊しそうである(呼吸数>35/分が5分以上継続、呼吸補助筋を使用している)
気管チューブ抜管後で呼吸不全の発生が予想されるもの(65歳以上、心不全、APACHEⅡ 12点等で気管挿管による人工呼吸を受けた例)
NPPVの適応チェック(すべてを満たしたらNPPVを開始する)
緊急気管挿管の必要性がない(上気道閉塞の症状はない)
フェイスマスクを使用できる(頭部・顔面の外傷や異常がない)
循環動態が安定している(血圧>90mmHg、心拍数<140回/分でドパミン<5μg/kg/分、重症不整脈や心筋虚血がない)
喀痰を喀出できる
誤嚥、嘔吐の危険性がない(上部消化管出血がない)
NPPVより侵襲的人工呼吸を選択すべき状況
心肺停止
重度の心室性不整脈・高濃度カテコラミンを必要とし血行動態不安定
上気道閉塞
喀痰が多く頻回の喀痰が必要
非協力的・不穏状態
顔面の変形や創傷などによりマスクを装着できない
NPPVの適応疾患
強いエビデンスがありNPPVの絶対適応と言える4疾患が以下のものです。術後呼吸不全の治療と予防やCOPD、心不全の抜管失敗の予防は赤丸急上昇・エビデンス集積中であり推奨される疾患への移動の可能性高いとのことです。
推奨される疾患 |
考慮される疾患 |
COPD急性増悪 心原性肺水腫 免疫不全に伴う急性呼吸不全 COPDの抜管およびウィーニング |
挿管拒否 緩和手段としての終末期使用 COPDの市中肺炎 術後呼吸不全の治療と予防 喘息における急性増悪予防 |
NPPVの適応は48~72時間以内に回復が見込まれる病態であるかが1つの目安になります。
・気管支喘息について
気管支喘息発作の治療はあくまで、軽症、中等症、重症を問わず推奨されるのは、短時間作用性β2刺激薬(SABA)吸入です。改善が試られず重症度が高ければアドレナリンの皮下注射も考慮します。NPPVは適応はありますが、COPDとは違い直接的な治療とはならないことを理解しましょう。
実際は喘息に対してNPPVの適応があるか否かについては議論があるそうです。その理由には大きく二つがあり、1つ目に細い気道にエアを押し込むには高圧が必要ですが、NPPVによる達成は難しいことがあげられます。二つ目に患者の呼気のみならず吸気流速が低下し、呼気・吸気双方のトリガー(自発呼吸感知)がうまくできなくなります。気管支喘息の適応はあくまでも喘息における急性増悪予防です。使えるのなら早めに使いましょう。
著者らは気管支喘息発作と診断されているがCOPDとオーバーラッピングする要素がある高齢患者、特に喫煙歴のある高齢喘息患者に対してNPPVを試す価値があると考えるとのことです。
④ NPPVの設定モード
V60ベンチレータにはS/T、CPAP,PCV、VAPSモードがあります。
Sモード (spontaneous mode)
患者吸気をトリガーとするとIPAPに移行し、患者呼気をトリガーとするとEPAPに移行します。
Tモード(Time)
換気回数と吸気時間を設定します。自発呼吸とは無関係に強制換気が行われます。
S/Tモード (Spontaneous/ Timed)
急性期NPPVにおいてはS/Tモードが使われることが多いです。設定方法はSモードとTモードを合わせたものです。吸気を感知し換気をスタートし、吸気を感知し換気を終了します。自発呼吸が遅れると、あるいはないとTモードが作動し、自発呼吸を換気するとSモードに戻ります。
PCVモード (Pressure Control Ventilation)
S/Tモードは吸気時間が常に固定されたものです。PCVモードにおいては、呼気トリガーをオフし吸気時間を固定します。固定された吸気時間中に患者がはきたくなったときにファイティングを起こすことがあります。
CPAPモード
このモードはCPAP(=PEEP)と同じです。
⑤ NPPVの圧設定用語
NPPVにおいては、bilevel PAP (bilevel positive airway pressure)と呼ばれる換気法を用います。高圧のほうはIPAP (inspiratory positive airway pressure)、低圧のEPAP (expiratory positive airway pressure)と呼びます。EPAPはPEEPとおなじイメージを持ちます。EPAPをあげると酸素化が改善し、下げると酸素化が悪化するといったイメージです。
⑥ S/Tモードの一般的な開始条件
酸素濃度:患者の疾患・状態に応じて50~100 %程度で開始します。
IPAP 8 cmH2O, EPAP 4 cmH2O:換気量とPEEPが決まります。まずは患者さんに慣れてもらいます。
換気回数12回/分:もしくは患者回数よりも10~20%少なく設定します、換気時間1秒
⑦ マスク装着
マスク装着はいきなりマスクをつけてさらに、ヘッドギアをつけるなどのことをすると患者さんはなかなか受け入れがたいことがある場合があります。もし可能であれば、COPDや心不全治療時に先にNPPVの使用について説明を行っているとよいかもしれません。また、マスクは通常最初につけたときには同期せず苦しい思いをすることも多いので必ず暫くすると呼吸が楽になりますから少しがんばって見ましょうとお声掛けするのも大切かもしれません。
⑧ NPPV中の鎮静
NPPVは鎮静を必要としません。日本での調査では56%において鎮静が使用されています。しかし、NPPVの最大の強みは鎮静を必要とせず、意識を保つことができ、咳反射が温存でき、誤嚥のリスクが減ります。
意識レベルが低い患者に対してあるいはあえて鎮静薬を使用し意識レベルを下げてNPPVを使用するというのであれば、経腸栄養はストップします。
デクストメデトミジンは軽い鎮静を保つことや呼吸への影響が少ないことから、NPPVの鎮静薬としてもちいる施設は多いです。せん妄も起こしづらいとされます。
デクストメトミジン(プレセデックス)の持続投与速度
|
初期負荷量 |
維持量 |
時間 |
10分 |
10分~ |
投与速度 |
6 mcg/kg/時 (患者の状態に合わせて適宜減量) |
0.2~0.7 mcg/kg/時 (患者の状態に合わせて適宜減量) |
NPPV開始後30~120分のチェック
・意識レベルの悪化がない
・呼吸数が改善した
・酸素化が改善した
・アシデミアまたはPaCO2が改善した
・心拍数、血圧が改善した(頻脈、高血圧または低血圧の改善)
・新たな心電図異常の出現がない
・症状の悪化がない(呼吸困難、不隠、発汗)
NPPV開始後12~24時間のチェック
・意識レベルの悪化がない
・呼吸数の悪化がない
・酸素化の悪化がない
・アシデミアまたはPaCO2の悪化がない
・心拍数、血圧の悪化がない
・新たな心電図異常の出現がない
・症状の悪化がない(呼吸困難、不隠、発汗)
⑨ COPD患者におけるNPPV
COPD急性増悪管理ガイドラインが2017年に欧州呼吸器学会と米国胸部学会が共同で発表したガイドラインです。推奨が7つあり、うち3つが呼吸リハビリに関するものであり割愛し残りを以下に記します。
・COPD急性増悪を呈する外来患者に対して、短期間(14日以内)の経口ステロイド投与をすすめる。
・COPD急性増悪を呈する外来患者に対して、抗菌薬投与をすすめる。
・COPD急性増悪を呈する入院患者に対して、消化器機能が保たれているなら経静脈ステロイド投与により、経口ステロイド投与をすすめる。
・急性あるいは慢性疾患の急性増悪による呼吸不全を伴うCOPD急性増悪を呈する入院患者に対して、非侵襲的人工呼吸を推奨する。
気流が極めて少ないCOPD急性増悪を患者にNPPVを使用するときには注意が必要です。SモードやTモードを単独で選択できるNPPVを専用機もありますが、V60ベンチレータはSモード、Tモード単独で持たず、あくまでもS/Vモードです。通常、自発呼吸回数>換気回数と設定します。
しかし、吸気の開始をトリガーできないときがあります。モニターの呼吸回数=設定換気回数で気づくことができます。換気は行われますが、自発呼吸回数>換気回数と設定しているのでNPPVの換気回数が少なく分時換気量は満足できないものとなるかもしれません。この時は、換気回数>自発呼吸回数とすることを考えます。主にTモードで作用するようになります。
また、吸気の終了をトリガーできないときがあります。IPAP時間が長くEPAPに移行しません。長いIPAP時間はグラフィックからわかるときがあります。患者の吸気が終了しているにも関わらず人工呼吸器がからの送気が長く続きます。対応方法は、1、PCVモードに変更する方法と2,換気回数>自発呼吸回数とする方法があります。
末期COPD急性増悪における挿管・人工呼吸器の使用に関して考えてみましょう。在宅酸素療法を要するCOPDを重症COPDとし、それが急性増悪し侵襲的人工呼吸(挿管を伴う人工呼吸)を行った患者の1年後の予後は非常に悪いです。COPD末期は“死より悪い”と表現されることがあります。
・長期人工呼吸を必要とする多くの疾患は気管切開に伴い鎮静薬をオフすることができるが、真の呼吸不全末期においては呼吸苦が強く鎮静薬オフなどできないことは少なくない。
・COPDの末期に挿管や気管切開を伴う人工呼吸を行ったが回復が思わしくないケースは、一方で人工呼吸により生命維持をギリギリ可能とする酸素化はなされるため、時間をかけてなくなるケースが多い。
いかがでしたか。今回紹介させていただいた内容は上記著書のごく一部です。本には多彩な図やNPPVの際の注意点、ネーザルハイフローとの比較などについても触れられています。もしこのブログを読んで興味を持たれましたら是非とも本を手にとって勉強してみてください。
次回は『酸素療法』について勉強をしたいと考えています。