第76回 呼吸不全の原因とCOPD ~COPDの治療方針は?~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。高血圧緊急症について一緒に勉強しました。
本日は、COPDについて一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① 呼吸不全の原因
② COPDのガス交換異常―PaCO2が上昇するしくみ
③ COPD急性増悪の治療① ~人工呼吸器以外編~
④ COPD急性増悪の治療② ~人工呼吸編~
⑤ Bi-level PAPの設定まとめ
⑥ NPPVの評価 ~早めの見極めが大事~
- ① 呼吸不全の原因
- ② COPDのガス交換異常―PaCO2が上昇するしくみ
- ③ COPD急性増悪の治療 ~人工呼吸器以外編~
- ④ COPD急性増悪の治療② ~人工呼吸編~
- ⑤ Bi-level PAPの設定まとめ
- ⑥ NPPVの評価 ~早めの見極めが大事~
COPDは呼吸器内科では非常によく見る疾患ですが、患者数も多いので呼吸器内科以外の先生にも必ずと言っていいほど見なくてはならない疾患の一つだと思います。対応方法について勉強していきましょう。
第76回 呼吸不全の原因とCOPD ~COPDの治療方針は?~
本文内容は主に『Dr竜馬のやさしくわかる集中治療 循環・呼吸編』を参考に記載しています。田中竜馬先生の教科書は非常に読みやすく明快な本が多くいつも出版されるとすぐに手を付けてしまします。救急医療やICU管理の教科書がたくさん出ていますので是非読んでみてください。
Dr.竜馬のやさしくわかる集中治療 循環・呼吸編〜内科疾患の重症化対応に自信がつく!
- 作者: 田中竜馬
- 出版社/メーカー: 羊土社
- 発売日: 2016/02/05
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
① 呼吸不全の原因
・呼吸の見方-ガス交換と呼吸仕事量で考える
酸素化 皆さんよくご存知のPaO2です。
換気 いかに体から二酸化炭素排出できているかを示します。指標としてPaCO2, pHがあります。
呼吸仕事量(work of breathing; WOB) 呼吸回数の増加や呼吸補助筋の使用、奇異呼吸などがあります。
・呼吸不全の原因 呼吸を構成する3つの役割分担
1コントロール系:中枢神経系で延髄にある呼吸中枢のこと。
呼吸中枢が障害される状態なので呼吸回数が少なく、PaCO2が上昇するのが特徴です。
最も多いのは薬剤性による抑制です。モルヒネのような麻薬系薬剤や、ベンゾジアゼピン系の鎮痛薬などが代表です。内分泌疾患の粘液水腫(甲状腺機能低下症)も呼吸中枢を抑制します。
2駆動系:末梢神経から呼吸筋、胸壁、気道までを含む部分。
駆動系が障害されると肺への空気の出入りが減るのでPaCO2が上昇します。呼吸中枢は正常なのでPaCO2上昇を何とか食い止めようと呼吸回数は多くなります。
末梢神経障害の原因としてはギランバレー症候群、重症筋無力症があります。
3ガス交換系:肺。
肺が原因の呼吸不全の特徴として酸素化が悪いことが挙げられます。酸素飽和度やPaO2が低下するのですが,換気は初期にはPaCO2は低下するのですが、重症になると呼吸筋がつかれて重度の低酸素血症+PaCO2上昇は肺が原因の呼吸不全のなれの果てです。重度の低酸素血症+PaCO2上昇は肺が原因の呼吸不全のなれの果てです。
・血液ガスの見方 酸―塩基平衡を考える
【代償のルール】
1 PaCO2とHCO3-は同じ向きに動く
2 pHは正常に近づくが、肝前に正常化はしない
3 肺による代償は速く、腎による代償は遅い
・代償の目安~呼吸性異常の場合~
呼吸性アシドーシス
|
|
PaCO2 |
→ |
HCO3- |
呼吸性 アシドーシス |
急性 |
10mmHg上昇 |
|
1 mEq/L上昇 |
慢性 |
10mmHg上昇 |
|
3.5 mEq/L以上 上昇 |
|
呼吸性 アルカローシス |
急性 |
10mmHg下降 |
|
2 mEq/L下降 |
慢性 |
10mmHg下降 |
|
4 mEq/L以上 下降 |
Acute on chronicの呼吸性アシドーシス
→慢性呼吸性アシドーシスに急性呼吸性アシドーシスを合併した時
② COPDのガス交換異常―PaCO2が上昇するしくみ
COPD急性増悪では、重度の低酸素血症が起こることはまれで、もしそのような状態が見られたらCOPD以外の疾患を検索する必要があります。つまりCOPDは酸素化障害よりも換気障害の程度が強いです。
COPD急性増悪での酸素化障害の機序はV/Qミスマッチ(低酸素血症の程度は強くない)と言われており、酸素を投与すれば容易に改善します。
COPD急性増悪での換気障害の機序にはさまざまな要因がかかわっています。要因としてはコントロール系、駆動系、ガス交換系の観点から説明します。
③ COPD急性増悪の治療 ~人工呼吸器以外編~
・酸素投与
酸素飽和度88~92%を目標に酸素流量を調節
低酸素血症は治療する必要はありますが、大量に酸素を投与せず上記に数値を目標に投与しましょう。
・吸入β刺激薬
サルブタモール
ネブライザー 2.5 mg
MDI (metered dose inhaler, 定量噴霧式吸入器) 4~8吸入(スペーサーを用いて)
最初は1時間おきに、次第に間隔を伸ばして4時間おきに投与する。
・吸入抗コリン薬
COPD急性増悪においてβ刺激薬と併用されることが多い吸入薬。
2~4吸入(スペーサーを用いて)
4時間おきに投与
・ステロイド
用量
初期;メチルプレドニゾロン 60 mg静注 6時間おき
状態安定あるいは経口摂取可能になったら:プレドニゾロン 40mg経口1日1回
期間
合計5~7日(漸減せずに中断する)
・抗菌薬
COPD患者で多いのは、インフルエンザ桿菌、モラクセラ・カタラーリス、肺炎球菌の3つ。
たびたび入院を繰り返していたり、以前の培養で緑膿菌が検出されているような場合には緑膿菌もカバーする。
投与期間:5~10日
・ルーチンで使用しない薬剤
呼吸刺激薬:末梢化学受容体を介して呼吸中枢を刺激する薬剤であるドキサプラムは最初の数時間は血液ガス結果をよくするかもしれませんが、それ以外に入院期間や人工呼吸回避へどのような効果があるかは明らかではありません。
去痰薬:COPD急性増悪患者に対してN‐アセチルシステインのRCTでは効果なしとの結果になっています。
テオフィリン:NPPVを必要としないCOPD急性増悪患者を対象にしたRCTでは効果はなかったという結論になっています。
④ COPD急性増悪の治療② ~人工呼吸編~
NPPV (Non-invasive Positive Pressure Ventilation)非侵襲的人工呼吸
呼吸仕事量がまかなえなくて苦しい呼吸をしている場合や、COPD急性増悪のようにPaCO2が高くなっている場合には、酸素を投与するだけでは改善しません。このような患者には人工呼吸器で呼吸を助ける必要があります。
<適応>
疾患;心原性肺水腫、COPD急性増悪、COPD患者の人工呼吸器離脱、免疫不全患者の急性呼吸不全
呼吸筋負荷>呼吸筋力
・頻呼吸 ・呼吸補助筋の使用 ・奇異呼吸
ガス交換異常
・pH<7.35, PaCO2>45 ・PaO2/FiO2<200
<禁忌>
気管チューブが必要 :上気道閉塞がある、気道確保できない、気道分泌物が多い
マスクを着けられない・耐えられない :顔面熱傷、外傷、手術または奇形、不安、閉所恐怖症
呼吸・全身状態が不安定 :呼吸停止または心停止、ショック
圧による合併症の懸念 :最近の上気道あるいは上部消化管の手術
<モード>
Bi-level PAPとCPAPがある。低酸素血症の呼吸不全ではCPAPを使用すると考えます。一方で、COPD急性増悪をはじめとするPaCO2が上昇した呼吸不全でBi-level PAPを使います。
Bi-level PAP;COPD急性増悪をはじめとするPaCO2が上昇した呼吸不全
二相性の圧を用い呼吸させる。高二酸化炭素血症の改善を主な目的。
IPAP (inspiratory positive airway pressure);高いほうの圧
EPAP(expiratory positive airway pressure);低いほうの圧
CPAP;心原性肺水腫をはじめとする低酸素血症性の呼吸不全
吸気と呼気を通じて持続的に同じ圧を気道にかけるモード。低酸素血症の改善を主な目的。
- シャントを減らす;肺胞の虚脱を減らし、酸素化を改善する
- 肺を膨らみやすくする;コンプライアンスの低下作用
- 前負荷を減らす;肺が膨らむと胸腔内の圧が高くなるので、静脈から胸腔内の心臓へと血液が戻ってきづらくなり前負荷が軽減する
- 後負荷を減らす;胸腔内圧が上がり、かつ呼吸による陰圧は小さくなるので、左室内の圧と胸腔内圧の差は小さくなり、後負荷は低下して心室の筋肉の負担が小さくなる
<設定>
Bi-level PAPdでのEPAP、またはCPAPでのCPAPの圧設定について説明します。
【EPAP】
1 酸素化の改善
肺が虚脱しているような状態ではCPAPやEPAPはシャントを減らして酸素化をよくすると同時に、コンプライアンスを改善することで肺を広がりやすくして呼吸仕事量を軽減します。このような場合の設定は5~10 cmH2Oにします。
2 auto-PEEPに対するEPAP
COPDの患者さんではEPAPの分だけ楽に呼吸できるようになります。この場合はEPAPを高くしすぎないよう5 cmH2Oに設定します。
【IPAP】
EPAPよりも息を吸うときに高い圧をかけて、患者さんンが息を吸うのを助けるのがIPAPです。IPAPの設定はEPAP+5~10 cmH2Oになることが多いです。設定が適切であれば患者さんの呼吸回数は低下して、呼吸補助筋を使うような呼吸パターンにはならなくなります。IPAPが20 cmH2Oを超えると下部食道の圧を上回って胃へ流れる空気が増えてしまうので注意が必要です。その場合は迷わず挿管しましょう。
⑤ Bi-level PAPの設定まとめ
EPAP/ CPAPの設定
1 酸素化と呼吸仕事量の改善が目的(心原性肺水腫など)→5~10 cmH2O
2 auto-PEEPによる吸いにくさの改善が目的(COPDなど)→5 cmH2O
IPAPの設定
・EPAP + 5~10 cmH2O
・楽に呼吸できるように調節
・高すぎるのもよくない
⑥ NPPVの評価 ~早めの見極めが大事~
NPPV開始後1~2時間以内に血液ガスでPaCO2とpHを確認。
NPPVの効果判定
・本人の訴え
・バイタルサイン、呼吸回数、心拍数
・呼吸パターン、努力呼吸の消失
・ガス交換 酸素化;経皮酸素飽和度 or 血液ガス、換気;血液ガス
いかがでしたか。次回は『重症肺炎・ARDS』の勉強を行います。