第57回 浮腫 ~手足がむくむんです~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。酸素療法②について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

本日は症候学に移りまして浮腫について一緒に勉強していきましょう。

 

勉強前の問題

 ① 圧痕性浮腫と非圧痕性浮腫

 ② 限局性浮腫

   静脈うっ滞性浮腫

   リンパ浮腫

 ③ 全身性浮腫

 ④ 好酸球増多を伴う血管浮腫

   non-episodic angioedema with eosinophilia

 ⑤ 非病的浮腫

   特発性浮腫

   就下性浮腫

 ⑥ 高齢者の浮腫

 症候学については学生時代には授業はあるが、実際に症候学をテストなどで出されることは少ないかと思います。ただ、実際の臨床では症候学から疾患を絞っていく話はすごく面白いと思います。みなさんもテレビで総合診療医といえば問診、身体所見、検査とどんどん疾患を絞っていき最終診断を行うことの面白さを目の当たりにしているかと思います。本日は浮腫についてです。一緒に勉強しましょう。

 

57回 浮腫 ~手足がむくむんです~

 

本文内容は主に『内科診断リファレンス 上田剛士著』を参考に記載しています。この本はエビデンスベースで症候学をわかりやすく解説しています。すごく論理的にまとまっており勉強になります。研修医の先生はぜひ手にとってみてください。

① 圧痕性浮腫と非圧痕性浮腫

 前脛骨部の圧痕性浮腫が出現すれば3kg(50 mL/kg)の体液量増加が推測されます。発症後3か月以内の浮腫に対して、10秒圧迫して浮腫回復までに40秒以上ならば低アルブミン血症以外の原因を考えます。指で1~2秒圧迫して2~3秒以内に浮腫回復するといわれています。つまり、数秒以内に圧痕が肉眼的に改善するfast edemaは低アルブミン血症による浮腫を考えます。組織液のタンパク濃度が低アルブミン血症で1g/L以下で浮腫を保つことができないために起因します。

 

② 限局性浮腫

 限局性浮腫ならば静脈潅流不全(静脈弁不全・深部静脈血栓・悪性腫瘍による圧排)、リンパ浮腫、炎症疾患を考えるが、両側下肢浮腫の場合は全身性浮腫の原因も考えられます。片側性下肢浮腫で72時間以内の急性発症ならば、深部静脈血栓、慢性であれば静脈弁不全であることが多いです。静脈うっ帯性浮腫は朝方改善、皮膚の色素沈着、静脈瘤の存在が特徴的です。リンパ浮腫は悪性腫瘍の術後に遅れて発症するものが多い。治療に抵抗性で慢性化すると皮膚は固く疣贅状・乳頭腫状となり圧痕を生じなくなり、第2趾の付け根の皮膚がつまめなくなります。1肢に疼痛を伴う浮腫があれば感染症や深部静脈血栓、反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)を考えます。

【静脈うっ滞性浮腫】

 夜寝た後に改善することや褐色のヘモジデリン沈着があれば疑いが高くなる。心不全の有病率は1%だが、静脈弁不全は30%と高頻度である。治療は下肢挙上、圧迫ストッキング、静脈性皮膚潰瘍があれば少量アスピリン325mgで開始します。

リンパ浮腫

外科手術後のリンパ浮腫が最も多い原因です。末梢のリンパ管障害が徐々に進行してから発症するためか術後早期には少なく、乳癌術後20年間の解析ではリンパ浮腫を呈した77%は術後3年間で発症したが残りは20年にわたり1%/年の頻度で発症しているとのこと。

身体所見としては第二趾の付け根の皮膚がつまめなければリンパ浮腫を考えます。非圧痕性浮腫の場合、限局性浮腫であれば、リンパ浮腫や血管性浮腫、全身性浮腫であれば粘液水腫を考えます。リンパ浮腫の治療は徒手的リンパドレナージ、弾性ストッキング、リンパ管静脈吻合術です。

 

③ 全身性浮腫

 全身性浮腫があればまず、心・腎・肝の症状および所見を探します。咳や労作時呼吸困難、頚静脈怒脹があれば心不全の可能性が高くなります。肥満患者やいびき、早朝の頭痛がある場合は睡眠時無呼吸症候群による右心不全の可能性も考えます。眼瞼のむくみがあれば腎疾患を疑います腹水や肝硬変の徴候を認めれば肝疾患の可能性が上がる

その後にその他の全身性浮腫を起こす疾患を考えます。甲状腺機能低下症も甲状腺機能亢進症も初発症状が浮腫であることがあり、これは圧痕があってもなくてもよい。薬剤の中でもCa拮抗薬とNSAIDs、甘草は浮腫の原因として重要です。低栄養による浮腫を疑う場合には脚気も考えます。四肢末梢が暖かい場合や感覚障害を伴う場合も同様です。

また、手足のむくみを主訴にした高齢者でしばしば認め、関節リウマチ(RA)やPMRの亜型であることが多いです。著名な圧痕性浮腫を起こします。慢性炎症による正球性貧血、低アルブミン血症が合併することがあります。赤沈の亢進が診断の鍵になることも多いとのことです。

 

④ 好酸球増多を伴う血管浮腫

 日本人では若年女性に起こるnon-episodic angioedema with eosinophiliaが多く、少量のステロイドに良好に反応します。

【non-episodic angioedema with eosinophilia】

 35例全例が女性で平均25.9歳で原因は不明ですが69%が9-11月に発症します。関節痛、蕁麻疹、四肢末梢以外の浮腫を伴い得ます。白血球数は17000/μL、好酸球は51%で絶対数は9488/μLです。

 

⑤ 非病的浮腫

 生殖可能年齢の女性では月経や妊娠に関連する浮腫や特発性浮腫も考えます。特発性浮腫は血管透過性亢進による浮腫で、立位での浮腫増悪が顕著で体重の日内変動が1.4 kg以上認められます。高齢者における非特異的な下腿浮腫は就下性浮腫として知られ、生活指導でよい。

【特発性浮腫】

 おもに生殖可能年齢女性に起こります。血管透過性亢進により浮腫が生じ、循環血症両が減少することでさらに二次性高アルドステロン状態が重なることが推測されています。就寝前の体重は早朝と比較して少なくとも0.7kg、典型的には1.4 kg以上増加します。治療は塩分制限、炭水化物制限、下肢挙上などです。

【就下性浮腫】

 心臓よりも低位置にある部位にできる浮腫で特に原因が特定されないものを指します。塩分制限、弾性ストッキング着用、下肢挙上という生活指導が治療の中心となります。

 

⑥ 高齢者の浮腫

 高齢者の下肢の浮腫は,多くの場合,末梢還流不全による浮腫である場合が多い。しかし,心不全や腎不全の要因が浮腫を増悪させている場合もまれではないので,重大な疾患を見逃さないためにも,まず最初に,その浮腫が局所性か全身性かを見極めることが大切である。

全身性浮腫を除外するためには,BNP,胸部X 線写真,心エコー図,甲状腺機能,肝機能,腎機能を測定する。両側性の浮腫であっても,心性や腎性浮腫であるとは限らない。心不全(心エコー,BNP),腎不全(蛋白尿と血清クレアチニン値),肝硬変(肝機能と血漿アルブミン値)を除外すれば,局所性浮腫を疑うことになります。

一般にリンパ浮腫は片側性と思われていますが,高齢者にみられる末梢還流不全によるリンパ浮腫は両側性に出現することもまれではありません。この浮腫は,起床時には目立たないが,午後になるにつれて目立ってくることが多いです。軽症のうちは,下肢の挙上により軽快します。一般に,浮腫だけで皮膚が変色することはありません。変色や熱感を伴っている場合には蜂窩織炎の合併を考えます。

 

次回は『リンパ節腫脹』の勉強を行います。