第36回 ICUでのストレス潰瘍予防 ~潰瘍予防は必要ですか?~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は重症患者での心房細動の治療について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

本日はICUでのストレス潰瘍予防について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① ストレス潰瘍のリスク因子とは?

 ② ストレス潰瘍予防に有効な薬剤とは?

 ③ ストレス潰瘍予防の副作用とは?

 ④ ストレス潰瘍予防は必要なのか

 ⑤ まとめ

ICUでのストレス潰瘍予防に関してエビデンスはどれくらいあるのでしょうか。ストレス潰瘍予防に関してICU管理の患者さん全員に予防的治療は必要なのでしょうか。今回これらの疑問に関して臨床で対応できるように勉強していきましょう。

 

36回 ICUでのストレス潰瘍予防 ~潰瘍予防は必要ですか?~

 

本文内容は主に『集中治療ここだけの話(田中竜馬 編)』を参考に記載しています。集中治療室での治療方針を最新のエビデンスをもとに書かれており、また読みやすい内容になっています。ご一読を。

 

① ストレス潰瘍のリスク因子とは?

 2015年に発表された11カ国での観察試験によると、3つ以上の併存疾患、肝疾患の併存、腎代替療法、臓器不全スコアが臨床的に有意な消化管出血のリスクであるという結果になっている。さらに、小規模研究までみると、敗血症、外傷、熱傷、頭部外傷、高用量ステロイドの使用、アルコール中毒1週間以上のICU滞在もリスクになるとされており、これらをすべて含めると結局のところ重症患者の多くに何らかのリスク因子があることになります。

ストレス潰瘍予防に関するガイドラインで代表的なものは1999年のASHPガイドラインです。このガイドラインでは下記を重症患者のストレス潰瘍予防の適応としています。

 1, 人工呼吸器管理期間>48時間

 2, 重篤な凝固異常(PT-INR>1.5倍、APTT>正常上限の2倍、血小板数<5万/μL)

また、以下のリスク因子が2つ以上ある場合にも、薬物によるストレス潰瘍予防を考慮すべきとしています。

【リスク因子】

 敗血症・敗血症性ショック

 長期のICU滞在(>7日)

 肝不全、腎不全

 頭部外傷でGCS<10

 多発外傷

 広範囲の熱傷(>体表面積の35%)

 臓器移植早期(肝移植、腎移植)

 胃・十二指腸潰瘍の既往(ICU入室1年以内)

 高用量ステロイド使用(ヒドロコルチゾン>250 mg/日)

 脊髄損傷

 

② ストレス潰瘍予防に有効な薬剤とは?

 ストレス潰瘍予防(SUP)においてPPIH2ブロッカーのどちらかの効果が高いのかはっきりしていないが、人工呼吸器を要するICU患者に対するSUPにおいてPPIH2ブロッカーの効果を比較する大規模RCTのPEPTICが現在進行中です。以下はPEPTICの関連記事です。

 

  PEPTIC: ICUの人工呼吸器患者において、PPIとH2RAを比較して、90日全死亡を改善するかのサンプルサイズ8000人の多施設クラスタークロスオーバーRCT。人工呼吸器患者の8割で潰瘍予防が行われており、多くはPPIでH2RAも多い。PPIの方がH2RAよりも潰瘍予防効果は高いという仮説を検証。PPIは院内肺炎とCDIがH2RAよりも多いかもしれないため有害事象としてこれを収集する。

(引用http://www.kameda.com/pr/intensive_care_medicine/post_38.html

 

③ ストレス潰瘍予防の副作用とは?

 ストレス潰瘍予防によく使われているPPIは長期に渡って使用すると慢性腎疾患や大腿骨骨折、繰り返すクロストリジウム腸炎のリスクと相関することが指摘されています。重症患者に対する短期間の副作用としては、胃での殺菌作用を弱めて細菌のコロナイゼーションを増やすことによって肺炎とクロストリジウム感染の頻度が増える危険性が懸念されています。RCT研究ではPPIは人工呼吸器使用中の患者において消化管出血の頻度がH2ブロッカーや、スクラルファート群よりも高い傾向にありました(有意差はなし)。pHを上げる働きが強い薬剤ほど肺炎やクロストリジウムの頻度が高くなる可能性があるが、現時点では明らかではありません。

 

④ ストレス潰瘍予防は必要なのか

 ストレス潰瘍予防が標準的治療となる根拠となった研究は1980-1990年代はじめに行われ、このころはICUでは絶飲食にするというのが一般的でした。しかし、その後栄養療法に対する考え方が大きく変わり、現在では早期より経腸栄養を行うようになっています。48時間以上人工呼吸を要したICUに対する観察研究で経腸栄養を開始された患者において消化管出血が減少することが示されています。また、最近発表された小規模RCTでは人工呼吸を要するICU患者であっても、PPIによる消化性潰瘍予防を行った群はプラセボ群と比較して消化管出血の頻度を減らさないという結果となった。

 本文中にはSUP-ICUとREVISEという臨床研究が進行中と書かれていましたが2018年のNEMJにSUP-ICUの結果が掲載されたそうです。以下その内容を2つのHPより簡易的にまとめます。

 亀田総合病院HP;http://www.kameda.com/pr/intensive_care_medicine/post_41.html

 EARLの医学ノート;https://drmagician.exblog.jp/27614520/

SUP-ICUですが『ストレス潰瘍による消化管出血のリスクがある成人ICU患者において、パントプラゾールはプラセボと比較して、消化管出血を抑制するが院内感染や心筋虚血を増やすか』ということに対するCQに対して行われた試験です。結果としては消化管出血リスクを有する成人ICU患者において,90日死亡や臨床的に意義のある事象数は,パントプラゾール群とプラセボ群とで同等であった。という結論に至っています。ICU患者のストレス潰瘍予防に漫然とPPIを処方する時代は終了するかもしれません。

 

⑤ まとめ

 現在のICU診療においてはストレス潰瘍予防をすることが一般的ですが、ストレス潰瘍予防の効果・副作用、さらにはそもそもストレス潰瘍予防が必要かどうかもはっきりと決着がついているわけではありません。実際の臨床では原則としてICU患者にはPPIでストレス潰瘍予防を行うようにします。

薬剤の効果や副作用のリスクについてPPIH2ブロッカーのどちらが優れているのか、あるいは安全なのかはまだわかっていません。利便性(PPIは1日1回投与、H2ブロッカーは1日2回投与で腎機能に応じた容量調整が必要)や、コスト(PPIのほうが安い)も考慮してPPIを使用されることも多いです。

患者の状態が改善するについてれストレス潰瘍のリスク因子は解決するのでICUから一般病等に転床するときには消化性潰瘍予防は中止して良いと考えます。

 

いかがだったでしょうか。次回はICUでの輸血の勉強をしたいと考えています。