第32回 急性腎不全(AKI)の対処方法

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は急性肝不全について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

 本日は急性腎不全の対処方法について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 急性腎不全の定義と診断基準は

 ② 腎前性と腎後性AKIの鑑別

 ③ AKIの治療と予防(RRT以外)

 ④ 造影剤腎症の予防法は

 ⑤ RRT(腎代替療法)について

 入院患者さんの中で、治療中に急性腎不全を起こしてしまう患者さんもたくさんいらっしゃるでしょう。実際に患者さんを見て急性期に腎機能の悪化を認めても、輸液で経過観察すると勝手に腎機能が回復してくる患者さんをよく見かけます。本当にそのような方法で腎臓の予後はよいのでしょうか。適切なエビデンスのもとに治療方針を考えてみましょう。

 

32回 急性腎不全(AKI)の対処方法 ~AKIの治療は?~

 

本文内容は主に『集中治療ここだけの話(田中竜馬 編)』を参考に記載しています。集中治療室での治療方針を最新のエビデンスをもとに書かれており、また読みやすい内容になっています。ご一読を。

 

① 急性腎不全の定義と診断基準は

 AKIの発症は有意に死亡率を上昇させることが数多くの疫学研究にて明らかにされています。AKIには早期診断・早期介入が必要と考えられています。AKIの診断基準は2012年KDIGOにより発表されたKDIGO基準が国際標準として認識されています。

 定義は以下のようになっています。

定義

 1, 48 時間以内に SCr 値が㱢0.3 mg/dl 上昇した場合

 2, SCr値がそれ以前 7 日以内に判っていたか予想される基礎値より1.5倍以上の増加があった場合

 3, 尿量が 6 時間にわたって0.5 ml/kg/時間に減少した場合

重症度分類

病期

血清クレアチニン

尿量

1

基礎値の 1.5-1.9 倍または
≥0.3mg/dl の増加

6-12 時間で<0.5ml/kg/時

2

基礎値の 2.0-2.9 倍

12 時間以上で<0.5ml/kg/時

3

基礎値の 3 倍
または
≥4.0mg/dl の増加
または
代替療法の開始
または、18 歳未満の患者では eGFR<35ml/min/1.73m2 の低下

24 時間以上で<0.3ml/kg/時
または
12 時間以上の無尿

 ただしAKIの診断基準における問題点も言われています。例えばベースラインの血性クレアチニン値からの増加率が採用されているが受診歴がない場合などでは評価できません。また、腎機能正常者におけるAKI新規発症と慢性腎臓病(CKD)、そしてCKDの急性増悪との区別ができないという問題点があります。また、

 

② 腎前性と腎後性AKIの鑑別

 AKIの病型分類としては腎前性・腎性・腎後性に分けられます。腎後性については主に泌尿器科的疾患による尿路閉塞が原因であること、遅延のない閉塞解除により腎機能の回復が期待できることから腎前性および腎性とは区別して考えたほうがよいです。

 腎前性と腎性については臨床において数多く生じる病態があり、鑑別は容易ではありません。腎前性の場合は腎臓の組織障害が生じていない可逆的な段階で、急激かつ一過性の腎底潅流を来した状態です。適切な血行動態に改善することで尿量が増加すれば腎前性であったと解釈できます。尿量のみならず血性クレアチニンにおいても同様で、特にBUN/Cre比が高い状態での血性クレアチニンの増加はprerenal azotemiaと呼ばれ、腎組織潅流圧の低下を示唆します。臨床的に問題となる腎実質の組織学的障害がどの程度生じているかは、尿量と血清クレアチニンでは判断できません。FENa, FEUN, BUN/Cre比、尿比重がこのような状況で有用であるとされていましたが、決定的な判断材料にはなりえないと上記の本の筆者は考えています。

 

③ AKIの治療と予防(RRT以外)

輸液

 輸液に波趣旨津駅と、膠質液があります。晶質液には生理食塩水と緩衝晶質液(リンゲル液)があります、生理食塩水が最もよく使用されてきましたが、高Cl性代謝性アシドーシスを引き起こし、腎血管収縮に伴う糸球体濾過量の低下を起こしうることがわかってきました。

 ICUでの検討でCl制限群のほうがAKI発症リスクやRRTの使用を優位に減らすかどうかはまだ結論はついていませんが、大量輸液の場合は緩衝液を用いるほうが望ましいと考えられます。

 膠質液ですが、SSCG2016では「敗血症の初期蘇生でアルブミンを用いないことを弱く推奨(grade 2C)。大量の晶質液を必要とする場合はや低アルブミン血症がある場合にはアルブミン製剤の投与を考慮してもよい(エビデンスなし)」と記載されています。アルブミン製剤は安全ではありますが、生存率を改善する効果はなく、感染やコストを考慮すると第一選択としての使用は推奨されないそうです。

 AKIの水分過多は死亡の独立したリスクファクターであることがわかっています。水分過多が腎臓に悪影響を及ぼす機序としては、腎静脈圧や間質圧、尿細管圧の上昇、腎血管抵抗の上昇、腹腔内圧の上昇、RAS系の亢進が考えられています。

利尿薬

 フロセミドはAKIにおいては体液過剰の是正という目的以外の例えば、AKIの予防や治療としてフロセミドを使用すべきではないとのことである。

心房性ナトリウム利尿ポリペプチド(ANP)はKDIGOのガイドラインでは「AKIの予防(Grade 2C)または治療(Grade2B)目的ではANPを使用しないことが望ましい」とのことです。ただ、心臓術後においてはAKIの進行を減らすことが示されています。

 

④ 造影剤腎症の予防法は

輸液の必要性(炭酸水素なトリム、生理食塩水)

 炭酸水素ナトリウムは近年の研究において使用の根拠に乏しいといわれています。しかし、多くの研究で炭酸水素ナトリウムの短期投与が生理食塩水と比較して使用する根拠が乏しいと考えられます。HYDRAREA studyでは生理食塩水の短期投与と差がなく、生理食塩水の短期投与でも代用できると考えられます。

 そもそも輸液の必要性があるのかということに対してAMACING trialで評価した結果、輸液の使用の有無にかかわらず造影剤腎症の発症率に差はなかったとのことです。

Nアセチルシステイン(NAC

 NACは酸化ストレスを減らし、腎臓の血行動態を改善させ造影剤腎症を予防する可能性が示唆されていました。しかし、PRESERVE trialではNACの有効性を示すことができず、ACC/AHAのガイドラインでは頸動脈的に造影剤が投与される際のNAC投与は推奨されないとしています。NACはルーチンに使用することを支持するほどの強いエビデンスが無いとされています。

造影後の透析

 造影剤は比較的分子量が小さく、蛋白結合しないといった特徴から透析で除去されやすく造影剤腎症の予防に有効ではないかと考えられていました。しかし、実際は予防的透析は造影剤腎症の発症を減らさないという結果でした。透析で造影剤を除去できるにも関わらず造影剤腎症の発症を予防できない機序としてはRRT-related toxicityというものが知られています。透析によって炎症反応や凝固系が活性化することや、血液と透析膜の接触に関連するサイトカインの影響で低血圧や腎虚血が起こるといった可能性が指摘されています。

まとめ

 輸液の種類については晶質液ではリンゲル液を用い、アルブミンの値が低く晶質液では血圧の維持が難しい場合はアルブミンを考慮します。血圧に関しては以前の血圧を参考にMAPを65 mmHg付近に設定します。ノルアドレナリン0.3γでMAP維持できなければバソプレシンを追加します。体液過剰の場合は、内科的治療としてフロセミド、ANPを使用します。ANP投与開始した場合は低血圧に注意しましょう。

 造影剤におけるAKIの影響は少ないと考えられるために積極的な予防対策は行いません。

 

⑤ RRT(腎代替療法)について

 こちらの項目については新たに、新しい記事で勉強したいと思っています。

 

ちなみに、診療ガイドラインは以下のHPで手に入ります。また、勉強してみてください。

 AKIガイドライン https://cdn.jsn.or.jp/guideline/pdf/419-533.pdf

 

いかがだったでしょうか。次回は急性心不全の治療の勉強をしたいと考えています。