第34回 心原性ショックの治療 ~心原性ショックはどうやって対処しましょう?~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は急性心不全について一緒に勉強しました。

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 本日は心原性ショックの治療について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 心原性ショック(CS)の定義

 ② 心原性ショックについて

 ③ 心原性ショックの病態

 ④ 心原性ショックの治療

 ⑤ 心原性ショックに対して強心薬・昇圧薬は有効?

 ⑥ 心原性ショックに対してIABP/PCPSを使用するか

 ⑦ 心原性ショックに対する血行再建術

 ⑧ 心原性ショックの実際の対応

救急外来でショックの患者さんをみた時は4つの分類でした。4つの分類をしたときに一番困るのが心原性ショックですね。心原性ショックは循環器の領域ですので精通しているのはなかなか難しいです。かといって、急いで対応しないと、次の瞬間には命を奪われかねません。ですので、今回は心原性ショックについて現在の治療方針について勉強していましょう。

 

34回 心原性ショックの治療 ~心原性ショックはどうやって対処しましょう?~

 

本文内容は主に『集中治療ここだけの話(田中竜馬 編)』を参考に記載しています。集中治療室での治療方針を最新のエビデンスをもとに書かれており、また読みやすい内容になっています。ご一読を。

 

① 心原性ショック(CS)の定義

 心原性ショックは、十分な体液量(左室充満圧)にもかかわらず組織低灌流の所見を呈する低血圧(収縮期血圧 90 mmHg以下)と定義されます。実際の臨床では組織低灌流をどのように定義するのかについて明確な指標はありません。組織低灌流の指標として乳酸値を用いることも多いです。そこで、より具体的な測定可能な血行動態的指標を参考とすることで、以下の定義となります。

・心係数の低下(サポートなしで<1.8L/min/m2もしくはサポートありで<2-2.2 L/min/m2

・遷延する低血圧(収縮期血圧<80-90 mmHg, もしくは平均動脈圧がベースラインより30 mmHg以下)

・左室充満圧の上昇(例えば左室拡張末期圧18 mmHgもしくは右室拡張末期圧 10-15 mmHg

 しかしこれらの指標はあくまでも血行動態の指標であり、組織低灌流の指標でないことを念頭に置きましょう。間違いやすい点として左室駆出率が低い=心原性ショックではないということです。血行動態的指標を更に複雑化させることが多いのが末梢血管抵抗(SVR)です。心原性ショックは上記のように定義されていますのであくまでもSVRは付属的な指標と考えておきましょう。

 上記に記しましたとおり、心原性ショックの定義は複雑であり、きっぱりとした指標がありません。医療においては診断と治療を共通認識のもと滞りなく行うためのものですが、今回の定義はベッドサイドですぐに使用できるものではないのであくまでも臨床的な観点から病態把握に基づく診断が必要と考えます。

 

② 心原性ショックについて

 心原性ショックをきたす第一の原疾患は急性心筋梗塞AMIであり、その約80%は広範囲梗塞に伴うポンプ失調です。過去にはST上昇型心筋梗塞の20%までがショックに至ると考えられていたが、近年の臨床試験や観察研究では5-8%程度と報告されています。また、その予後に関しては経皮的冠インターベンション(PCI)により院内死亡率は依然高率はあるが、経年的に減少傾向であるといいます。(ICUとCCU 42(5):305~311,2018 p305-)

 

③ 心原性ショックの病態

 ショックの病態を把握するためにRUSH examという方法があるのを聞いたことがある方も多いかと思います。RUSH examの紹介に関しては以下のHPに譲ります。ここでは心原性ショックの原因となる病態についてまとめておきます。

 RUSH exam https://www.dtod.ne.jp/ohtablog/images/article10_pdf_003.pdf

       https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsem/20/3/20_499/_pdf/-char/ja

心原性ショックの原因となる病態はRUSH examで評価可能です。

心原性ショックの原因

検査

治療介入

急性虚血

心電図,心筋マーカー,超音波での心室壁の評価

CAG,PCI

乳頭筋断裂

心尖部を最強点とし腋窩に放散する全収縮期雑音,超音波

IABP,血管拡張で後負荷を軽減し,早期の手術療法を実施する

心室隔壁穿孔

心電図での新規Q波,全収縮期雑音,超音波,カテーテルでのシャントの評価

IABPと血管拡張薬で後負荷を軽減し,補助循環の使用,早期手術

β遮断薬,カルシウムチャネル遮断薬の多飲

内服歴,徐脈

グルコン酸カルシウム,塩化カルシウム

難治性の心室頻拍

心電図でのQT延長,Brugada症候群,ICDの確認

アミオダロン,リドカイン,アブレーション

タコツボ型心筋症

ストレス要因の有無,心電図,超音波での心尖部のバルーニング,CAGで冠動脈疾患が除外される

血圧の補助,カテコラミンへの拮抗としてβ遮断薬の使用

心筋炎

直近のウイルス感染を示唆する病歴,低電位の心電図,全周性の壁運動低下

支持療法,IABPを含む補助循環,高用量ステロイド

タンポナーデ

Beckの三徴(JVDの上昇,低血圧,心音の低下),奇脈,超音波での心嚢液

補液,経皮的あるいは外科的心嚢穿刺

(Heart View Vol.21 No.12(増刊号), 2017 p127-)

 

④ 心原性ショックの治療

 一般的に血管内volumeを至適に保つために平均血圧≧65 mmHgが必要とされています。血管内に十分なvolumeがあるにも関わらず血行動態が維持できない場合にはカテコラミンが使用されてきました。ノルアドレナリンドパミン、ドブタミンの検討がなされますが、強力なα1作用を持つノルアドレナリンは昇圧作用が高いです。また、ドパミンに比べ心拍数を挙げにくい特徴を持ち、現在のガイドラインでも心原性ショックの昇圧にはノルアドレナリンが推奨されています。

ICUとCCU 42(5):305~311,2018 p305-)

 

⑤ 心原性ショックに対して強心薬・昇圧薬は有効?

 心原性ショックの治療方針は、大きく分けて2つあります。

 ・血行動態安定化による重要臓器の保護

 ・原因検索と介入による血行動態安定の維持

 そこで血行動態の不安定な症例では、早期から強心薬・昇圧薬が使用されます。しかし、強心薬・昇圧薬の特性から心筋障害を助長させたり、末梢血管抵抗を高めて後負荷を増悪させるリスクを考慮すると、適切な強心薬・昇圧薬の使用というのは難しいと考えられます。実際に循環器専門医の先生でも、できれば使用したくないという考えがあるとのことです。

 薬剤として日常診療で用いられているのはドブタミン、ミルリノンです。これらの一般的注意としてはこれらは昇圧薬ではなく、末梢血管を拡張させるためショック患者における低血圧を改善させないことは留意が必要です。これらの薬剤の使用ではRCTでその短期的、長期的な予後を改善すると示せた研究は現在のところありません

 日本では2017年急性・慢性心不全診療ガイドラインが新たに出されています。これまでは血圧不安定な場合の第一選択としてドパミンを推奨していましたが、今回の改訂でドブタミンとノルアドレナリンの併用を推奨しています。

日本循環器学会ガイドライン

ガイドライン

強心薬

昇圧薬

推奨度

付記

急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)

ドブタミン

ノルアドレナリン

ClassⅡa

Level B

・体液貯留を認めない患者では補液を試みる

・両心不全・β遮断薬投与中の患者ではPDEⅢ阻害薬は選択肢となる

STEMI

(2013年版)

ドブタミン

2-15 mcg/kg/分

ドパミン

2-15 mcg/kg/分

記載なし

 

単剤で効果不十分の場合は両者を併用

→更に循環動態が維持できない場合はノルアドレナリン(0.03-0.3 mcg/kg/分)併用

           


⑥ 心原性ショックに対してIABP/PCPS
を使用するか

 大動脈内バルーンパンピング(IABP)や経皮的心肺補助(PCPS)は心原性ショックの機械的補助の代表例です。IABP収縮期血圧の低下と大動脈の拡張期血圧上昇に寄与し、心負荷軽減と拡張期の冠血流量を増加させることができます。心臓カテーテルや血行再建術を予定している患者の血行動態安定に役立ちます。ESCのガイドラインでも複数の薬剤を試みるよりも補助装置を使用するように推奨されています。ただし、近年のIABP-SHOCKⅡtrialでIABP仕様による予後改善が認められなかったことから、ルーチンでのIABPの使用は推奨しないと記載されています

 PCPSはIABPを用いても循環補助が不十分な場合に考慮されます。PCPSは経皮的に挿入可能であり、救急外来のベッドサイドでも挿入できるデバイスであり、根本的治療、もしくは急性増悪の状態が去るまでの橋渡しの武器として重要です。

 以上より心原性ショックに対するIABPやPCPSの立ち位置としては昇圧薬・強心薬と同様の橋渡し治療と捉えるのが妥当です。しかし、血行動態が不安定で補液や薬剤に反応しない症例には躊躇せずに使用を検討すべきです。

 

⑦ 心原性ショックに対する血行再建術

 血行再建術はACSに合併した心原性ショックの治療の根本的治療です。血行再建術の適応がある場合は、橋渡しの対応を行い血行再建術を行います。責任病変がはっきりとした心原性ショックを合併するSTEMIの患者においてはあまり迷うことはないと思います。

 ただ、臨床的に難しいのは心原性ショックをきたすようなACSで多枝病変や責任血管以外にも狭窄を認める症例を多く経験することです。三枝病変もしくは左冠動脈主幹部の狭窄を伴う重症ACS症例ではCABGを基本とし、多枝病変でも責任血管が明瞭である場合は責任血管のみのPCIも選択しに入りますが、PCIチームのスキルや再灌流率、心臓血管外科の迅速性の施設要因にも影響されるため、必ず循環器チームで相談することが大切です。

 

⑧ 心原性ショックの実際の対応

 心原性ショックは病態の早期把握と治療介入が予後改善に重要です。ですので、橋渡し治療から根本的治療に繋げる必要があり、循環器専門性の高い治療が要求されます。ショックは組織低灌流の所見として乳酸値上昇(2 mmol/L, 18 mg/dL)は非常に有用であり、意識障害や尿量低下も初期の臓器障害所見として有用です。心原性ショックとして診断した場合は、循環器チームを主軸として対処してきます。まず薬物療法としては昇圧薬にノルアドレナリンを使用し、乳酸値が上昇傾向もしくは末梢冷感が強くなるようであれば、ドブタミンを開始します。また、IABPやPCPSの使用も検討します。カテーテル治療が必要な場合にはスワンガンツカテーテルを用いることが多く、この時点で血行動態の評価が可能となります。

 

いかがだったでしょうか。次回は高ナトリウム血症の勉強をしたいと考えています。