第75回 高血圧緊急症 ~高血圧緊急症の定義は?~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。肺塞栓症について一緒に勉強しました。

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 本日は、高血圧緊急症について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 高血圧緊急症(hypertensive emergency)とは

 ② 高血圧緊急症の機序 ~血圧が上がる仕組みとは~

 ③ 高血圧緊急症の治療

 ④ 高血圧緊急症の治療 ~高血圧+臓器障害別~

高血圧緊急症は名前もあまり耳にしない先生もいらっしゃるかもしれません。高血圧緊急症は高血圧の中でもすぐに対処を要する疾患の一つです。緊急時にもすぐに対応できるように勉強していきましょう。

 

75回 高血圧緊急症 ~高血圧緊急症の定義は?~

 

本文内容は主に『Dr竜馬のやさしくわかる集中治療 循環・呼吸編』を参考に記載しています。田中竜馬先生の教科書は非常に読みやすく明快な本が多くいつも出版されるとすぐに手を付けてしまします。救急医療やICU管理の教科書がたくさん出ていますので是非読んでみてください。

Dr.竜馬のやさしくわかる集中治療 循環・呼吸編〜内科疾患の重症化対応に自信がつく!

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① 高血圧緊急症(hypertensive emergency)とは

収縮期血圧(SBP)≧180 mmHgまたは拡張期血圧(DBP)≧120 mmHgに上昇した状態を総称してhypertensive crisisと呼びます。さらにhypertensive crisisのうち臓器障害があるものをhypertensive emergency、ないものをhypertensive urgencyと呼びます。hypertensive emergencyは1時間以内に血圧を10~20%下げるのを目標にしますが、hypertensive urgencyでは2~3日かけて血圧を下げます。

 

臓器障害とは

・中枢神経

高血圧による中枢神経への障害には脳梗塞、頭蓋内出血(脳出血クモ膜下出血)、高血圧脳症があります。高血圧脳症とは血圧が自動調節能の範囲を越えて高くなるために起こります。高血圧性脳症の症状としては頭痛や悪心・嘔吐、意識障害があります高血圧性脳症らしい症状を示していてもほかの中枢性疾患を除外する必要があります。

・心臓

 心臓への障害には急性冠症候群心不全の2つがある。いずれも心臓の負荷を減らすために血圧を早急に下げる必要があります。高血圧緊急症で起こる心不全は、血圧が上がることによる後負荷の増大が主な原因となります。

・腎臓

 腎臓への障害では急性腎障害が起こります。クレアチニンが上昇し、顕微鏡的血尿がみられるのが特徴的です。ただ、高血圧の既往のある患者さんはこれらの所見が血圧上昇前から存在することもあり、区別するのが難しいことも少なくないです。

・血管

 血管への障害といえば大動脈解離です。高血圧緊急症のなかでもより大幅に血圧を下げなければならない状態です。

  • hypertensive emergencyでの検査

 収縮期血圧SBP≧180 mmHgまたは、拡張期血圧(DBP)≧120 mmHgくらいに血圧が上がっているのをみたら以下の項目を検査します。

必須:血算、生化学、心筋逸脱酵素、尿検査、胸部X線、心電図

  • 高血圧緊急性と治療の緊急度

 高血圧緊急症では、血圧を1時間以内に10~20%下げるのを目標にする。これ以上に急激に血圧を下げてしまうと灌流が減少して臓器不全をかえって悪化させてしまう恐れがあります。最初の1時間以降は24時間かけてもう10%くらい血圧を下げるようにします。

ただし以下の2つの例外は必ず確認してください。

・大動脈解離

20分以内に収縮期血圧を100~120mmHgまで下げる

脳梗塞

脳潅流を保つため逆に血圧は高いままにする。収縮期血圧220mmHg。拡張期血圧120 mmHgを超えるまでは治療しません。

 

② 高血圧緊急症の機序 ~血圧が上がる仕組みとは~

  • 循環のおさらい

静脈系は抵抗が小さく容量が大きいため、循環血液量の60~80%が静脈にある。静脈には巨大な血液の貯蔵庫があると考えることもできる

  • 血管と血圧の関係

平均動脈圧-中心静脈圧=心拍出量✕体血管抵抗

体血管抵抗が上昇することで血圧が上昇します。血圧が下がる方のショックでは、種類によってどちらか一方または両方が下がるので平均血圧が下がります。

  • 血管と心拍出量の関係

体血管抵抗を決めるのは主に動脈系です。

動脈系;体血管抵抗が下がって動脈圧が下がると後負荷が低下し心臓が楽に収縮できるようになります

静脈系;静脈の循環血液量の貯蔵庫が大きくなるので心臓へ変える血液量は減少し、前負荷が低下します。

    心拍出量の減少から血圧は低下する。

  • 高血圧緊急症の機序

自動調節能の異常のために勝手に血管攣縮することで、体血管抵抗が上昇して血圧が高くなると考えられます。血管攣縮によって血圧が上昇すると血管内皮の傷害が起こり、血小板や凝固因子が活性化されます。これによって血管が狭窄したり、詰まるとさらに悪循環を来します。高血圧緊急症では、血圧が自動調節能の範囲を超えて高くなっているため、脳浮腫が起き高血圧脳症を引き起こすと考えられています。

  • 高血圧緊急性と循環血液量

高血圧緊急症での循環血液量について考えると循環血液量の増加よりも血管抵抗の上昇が問題と考えられています。高血圧緊急症では血圧上昇によるナトリウム利尿が起こるために循環血液量はむしろ減少していることが多い。治療のためにむやみに利尿薬を投与すると臓器障害を帰って悪くさせる恐れがある。

 

③ 高血圧緊急症の治療

 高血圧緊急症の治療では速く切れる速く切れる薬に限定されるので、カルシウム拮抗薬のニカルジピン、β遮断薬のエスモロール、硝酸薬のニトロプルシドとニトログリセリンに限られます。

  • 知っておきたい薬剤

・ニカルジピン

高血圧緊急症ではカルシウム拮抗薬の中でもジヒドロピリジン系と呼ばれるものを用いニカルジピンはこのグループに含まれます。血管平滑筋にあるカルシウムチャネルに作用して血管を拡張させる。血管平滑筋は動脈に多いのでジヒドロピリジン系の作用場所も主に動脈です。動脈系の血管収縮を下げること以外に、冠動脈と脳血管に選択的に作用することが知られています。

ニカルジピンの使用方法は5mg/時で開始し目標血圧に達するまで5分おきに2.5 mg/時ずつ増量していきます(最大15mg/時)。血管炎をおこしやすいことが知られているため1日1回は静注場所を変えるようにします。

エスモロール

エスモロールはβ遮断薬で心拍数と心収縮力を低下させることで心拍出量を減少させます。使用は大動脈解離や拡張不全による心不全といった心拍数を積極的に下げたい場合です。心筋梗塞のような酸素需要を減少させるためにも使われます。

コカインやアンフェタミンの使用、または褐色細胞腫のようなα作用もβ作用も両方亢進しているときはβ作用だけを遮断するとα作用により血管収縮作用が増強されてしまいます

初回投与500μg/kgを1分で静注。その後25~50μg/kg/分で持続静注(最大300μg/kg/分)

ニトログリセリン

ニトログリセリンは主に静脈に作用して血管拡張する。ニトログリセリンによる降圧効果は血管抵抗の低下ではなく、静脈拡張による静脈還流の減少(前負荷の低下)とそれによる心拍出量の減少です。ニトログリセリンは前負荷を減らして心筋の酸素需要を減らしつつ、冠動脈血流を増やして酸素供給を増やすため急性冠症候群の治療に用いられます。顔面動脈や硬膜動脈も拡張させるため顔面紅潮や頭痛といった副作用が起こることがある。ニトログリセリンによるもう一つの副作用に、血管拡張による反射性頻脈がある。そのためエスモロールのような心拍数を下げる薬剤と併用する。

5μg/kg/分から開始し、3~5分おきに5μg/kg/分ずつ増量します。20μg/kg/分を超えれば20μg/kg/分ずつ増量してよい。

<その他の薬剤>

・ニトロプルシド

静脈だけでなく動脈への強力な血管拡張茶寮があり、心臓の前負荷と後負荷の両方を減らす働きがある。副作用に脳血管への血流を減らして、かつ脳圧を上昇させることがあります。そのため、高血圧性脳症や脳梗塞などの病態では状態を悪化させる恐れがあるため現在はほとんど使用されていません。

0.25~2μg/kg/分

ヒドララジン

ヒドララジンは動脈を拡張させて血管抵抗を下げることで血圧を下げます。静注すると5~20分ほどで作用を発揮するが、作用持続時間が12時間にもなることがあり調節が難しいのが難点です。概ねヒドララジンは高血圧緊急性の治療薬には向いておらず、使用は妊婦の高血圧症例に限られると考えられています

10~20 mgを30分おきに静注

・フェントラミン

褐色細胞腫の切除術中の血圧コントロールに使われることがある薬です。褐色細胞腫ではカテコラミン作用により血圧が上がるので、それに対して歴史的に純粋なα遮断薬のフェントラミンがよく使われてきました。カテコラミンに過剰になっている場合と同様に最近ではカルシウム拮抗薬のニカルジピンでも安全に血圧をコントロールできることが示されています

 5~15 mgを適時静注

・ラベタロール

海外ではニカルジピンと並んで最もよく高血圧緊急性の治療に使用される薬剤です。日本では経口薬しかないので高血圧緊急性の治療には使えません。

 

④ 高血圧緊急症の治療 ~高血圧+臓器障害別~

ニカルジピンで治療する。脳梗塞ガイドラインではラベタロール(静注)と並んで第一選択薬として推奨される

使用する薬剤;ニカルジピン

  • 急性冠症候群

急性冠症候群では、心筋の酸素需要に比べて酸素供給が少なくなっているので、心筋の酸素需要を減らしつつ、冠動脈への酸素供給を保つような治療が必要になる。

使用する薬剤;

エスモロール + ニトログリセリン

      ニカルジピン +/- ニトログリセリン

心不全という心筋収縮能が弱っていて、そのせいで循環血液量が過剰になっている状態を思い浮かべるかもしれませんが、心不全を呈する高血圧緊急性の患者では心筋収縮能は保たれており、拡張不全が原因と考えられ、ます。

 使用する薬剤;

        収縮不全;ニカルジピン+ループ利尿薬 +/- ニトログリセリン

        拡張不全;エスモロール+ループ利尿薬 +/- ニトログリセリン

  • 腎不全

ニカルジピンで治療する。腎障害を呈する高血圧緊急賞では注意深く血圧を下げても腎機能がすぐに回復するとは限らない。

 使用する薬剤;ニカルジピン

  • 大動脈解離

大動脈解離では、血圧の値はもちろんですが、収縮期にどれくらい勢いよく血圧が上がるかも重要です。そのため、血圧を下げるだけでなく心拍数も下げるようにします。

 使用する薬剤;ニカルジピン+エスモロール

 

⑤ 予後・フォローアップ

 緊急症の状態から改善した場合は,二次性高血圧症についてスクリーニングされるべきです。また病院から退院後血圧が経口薬によって安全で安定したレベルに落ち着いた後においても,最適な血圧目標に到達するまでは,頻繁に,少なくとも月に1回は専門的な施設を訪問し,専門的なフォローアップを長期にわたりおこなうことが推奨される.(血圧 26(4): 219-222, 2019.)

 

いかがでしたか。次回は『COPD』の勉強を行います。