第30回 急性膵炎の対処方法 ~急性膵炎の治療どれがエビデンスあるの?~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は嘔気・嘔吐について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

 本日は急性膵炎の対処方法について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 急性膵炎の診断基準

 ② アミラーゼの上昇をきたす代表的な疾患

 ③ 急性膵炎の原因

 ④ 急性膵炎の銃手度と予後

 ⑤ 急性膵炎の治療

 ⑥ 重症急性膵炎の治療法

 ⑦ 急性膵炎の合併症

救急外来で急性膵炎の患者さんを見ることは多いと思います。お酒飲んでしばらくしてから急にお腹が痛いといって救急外来受診されることが多いかと思います。急性膵炎に対する治療薬は対処療法が多いですがどれがエビデンスがあってないのか意識しながら動けるように勉強してみましょう。

 

30回 急性膵炎の対処方法 ~急性膵炎の治療どれがエビデンスあるの?~

 

本文内容は主に『集中治療ここだけの話(田中竜馬 編)』と『内科レジデントの鉄則(聖路加国際病院編)』を参考に記載しています。『集中治療ここだけの話(田中竜馬 編)』は集中治療室での治療方針を最新のエビデンスをもとに書かれており、また読みやすい内容になっています。ご一読を。

 

① 急性膵炎の診断基準

 急性膵炎の診断は、腹痛でアミラーゼが高いことではありません。急性膵炎の診断基準として以下の基準が、厚生労働省難治性水疾患に関する調査研究班2008年より出されています。

急性膵炎の診断基準

 1, 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある

 2, 血中または尿中に膵酵素の上昇ある

 3, 超音波、CTまたはMRIで膵に急性膵炎を疑う異常がある

 上記の3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎とします。慢性膵炎の急性増悪も急性膵炎に含めます。つまり急性増悪も急性膵炎と同じ治療を行うということですね。

 

② アミラーゼの上昇をきたす代表的な疾患

 病棟でルーチンにアミラーゼを測定する病院もあると思います。しかし、お腹も痛くないし膵炎を疑う所見やエピソードは全く無いにもかかわらずアミラーゼの上昇をみる患者は多いと思います。その原因として以下の疾患が挙げられています。

アミラーゼを上昇させる原因

 膵疾患、唾液腺疾患(流行性耳下腺炎、外傷、放射線照射)、消化管疾患(消化管穿孔、腸間膜動脈閉塞、腸閉塞)、婦人科疾患、腎不全、マクロアミラーゼ血症、熱傷、妊娠、薬剤性(モルヒネ、利尿薬、ステロイド)、神経性食思不振

 アミラーゼは感度が高いが特異度が低く、膵アミラーゼ(P-AMY)やリパーゼは特異度が高いため、これらの値が上昇していればより膵炎が疑わしいと考えられます。

 

③ 急性膵炎の原因

 急性膵炎の原因の頻度を以下に記します。最も多いのが胆石とアルコールです。胆石の場合には急性閉塞性化膿性胆管炎も合併していることがあります。胆石性膵炎は膵炎の中でも胆管炎や胆道通過障害の有無によってERCPを施行するかどうかの判断が必要となるため初期評価が重要です。

原因

頻度

診断の手がかり

胆石

40%

胆石、胆泥、肝胆道系酵素の異常

アルコール

30%

慢性膵炎の増悪もあり、膵石灰化

高トリグリセリド

2-5%

空腹時トリグリセリド>1000mg/dl

薬剤

<5%

ベザフィブラート、スタチン、アセトアミノフェンコデイン、エナラプリル、フロセミド、イソニアジド、メトロニダゾール、ST合剤、バルプロ酸、アザチオプリン、DPP-4阻害剤、GLP-1作動薬

自己免疫性

1%

閉塞性黄疸、IgG4

遺伝子

不明

再発性、慢性

ERCP

ERCP施行者の5-10%

アミラーゼの上昇

外傷

<1%

頭部外傷

感染

<1%

CMV、流行性耳下腺炎、EBV、マイコプラズマ結核トキソプラズマ

術後

人工心肺を使用した手術の5-10%

術後経過

 

④ 急性膵炎の重症度と予後

急性膵炎重症度判定基準(2008

A.予後因子

 原則として発症後48時間以内に判定することとし,以下の各項目を各1点として,合計したものを予後因子の点数とする。

 1.BE≦-3mEqまたはショック

 2.PaO2≦60 mmHg(roomair)または呼吸不全

 3.BUN≧40 mg/dL(またはCr≧2.O mg/dL)または乏尿

 4.LDH≧基準値上限の2倍

 5.血小板数≦10万/mm3

 6.総Ca値≦7.5 mg/dL

 7.CRP≧15mg/dL

 8.SIRS診断基準における陽性項目数≧3

 9.年齢≧70歳

臨床徴候は以下の基準とする.

 ・ショック:収縮期血圧が80mmHg以下

 ・呼吸不全:人工呼吸を必要とするもの

 ・乏尿:輸液後も一日尿量が400mL以下であるもの

SIRS診断基準項目:

 (1)体温>38℃あるいは<36℃

 (2)脈拍>90回/分

 (3)呼吸数>20回/分あるいはPaCO2<32 mmHg

 (4)白血球数>12,000/mm3か<4,000 m3または10%超の幼若球出現

B.造影CT Grade

 原則として発症後48時間以内に判定することとし,炎症の膵外進展度と,膵の造影不良域のスコアが,合計1点以下をGrade 1, 2点をGrade 2, 3点以上をGrade 3とする。

1.炎症の膵外進展度

 (1)前腎傍腔:0点

 (2)結腸間膜根部:1点

 (3)腎下極以遠:2点

2.膵の造影不良域:膵を便宜的に膵頭部,膵体部,膵尾部の3つの区域に分け,

 (1)各区域に限局している場合,あるいは膵の周辺のみの場合:0点

 (2)2つの区域にかかる場合:1点

 (3)2つの区域全体をしめる,あるいはそれ以上の場合:2点

C.重症度判定

 予後因子が3点

 

 最近は急性膵炎の重症度分類をアプリで点数がつけられるようになっています。以下のHPに飛んでその情報をゲットしてください。

急性膵炎重症度分類(アプリ)

 

 https://blog.goo.ne.jp/mtoshi0521/e/098c6c63fd835ce4ab9341d6deab23c5

 

⑤ 膵炎の治療

 急性膵炎の治療について簡単に項目ごとに記載します。

輸液

 150-600 mL/hrの速度で細胞外液(生理食塩水もしくは乳酸リンゲル液投与開始します。補液が足りているかの指標として、平均血圧65 mmHg、尿量0.5mL/kg/hr以上を維持します。

疼痛コントロール

 ペンタゾシン(ペンタジン)15mg静注、ブプレノルフィン(レペタン)0.2 mg静注。4,5時間おきに追加する。疼痛コントロールが困難であればフェンタニルの投与も考慮します。

感染予防

 感染予防に抗菌薬投与は進められていません。⑥参照してください。

栄養管理

 腸蠕動がなくても診断後48時間以内に経腸栄養を少量から開始します。低脂肪、低残差のものから開始します。

CS(腹部コンパートメント症候群)

 大量補益・体液貯留で腹腔内圧が上昇することによる臓器障害を指します。腹部膨満、腹水貯留、大量補液が必要な場合は膀胱内圧のモニターをします。

 

⑥ 重症急性膵炎の治療法

急性膵炎は壊死性膵炎に侵攻すると予後不良です。以前は膵壊死に至る機序として、活性化膵酵素による膵の融解壊死と考えられていましたが、近年では微小血栓や血管攣縮による膵虚血が膵壊死に関連するとされています。

動注療法

 動注療法は動脈内(腹腔動脈や上腸間膜動脈)に留置したカテーテルから蛋白分解酵素と抗菌薬を持続的静注する治療法です。動注療法は2010年のポーランドの重症膵炎に対するRCTで有意に死亡率、手術率を減少させる結果であった。ただし、日本では動注療法は保険適応外の治療であり、急性膵炎のガイドラインでも動注療法はあくまでの臨床研究の実施が望ましいとされています。

 

蛋白分解酵素阻害薬(静注)

 蛋白分解酵素阻害薬は膵腺房臍オブ内外の活性化膵酵素を抑制することで膵炎予後を改善すると考えられています。膵腺房細胞内では活性化トリプシノゲンを阻害し、発症を阻止すること、膵腺房細胞内ではトリプシノゲンを阻害し発症を阻止すること。膵腺房細胞外では膵臓への血流障害改善、微小血栓による虚血改善、虚血再灌流障害に対する臓器保護の3つの機序により膵虚血から膵壊死へ進行を防ぐことが期待されています。

 急性膵炎に対する保険適用の蛋白分解酵素阻害薬は3つありますが、臨床的な有効性は示されていない。ナファモルスタットメシル酸塩(フサン)、ガバキサートメシル酸(エフオーワイ)、ウリナスタチン(ミラクリッド)であるが、予後を改善する効果は認めてられておらず、蛋白分解酵素の使用は慎むべきとの警鐘が鳴らされています

 NSAIDsはERCP後の膵炎に関してはすべてのメタアナリシスにおいて優位にERCP後の膵炎を抑制する結果であり、特に内視鏡直前のNSAIDsの直腸投与は最も信頼性が高いとされています。「ERCP直前または直後のインドメタシンまたはジクロフェナク50、100mgの経肛門的投与が推奨されるが、日本人におけるNSAIDsの投与量に関しては今後の検討が必要である(ERCP膵炎ガイドライン2015年)

 

予防的抗菌薬

 急性膵炎の感染の騎乗は、腸管内常在のグラム陰性桿菌などが絶食に伴う腸管壁の透過性の亢進により膵壊死組織へ移行し(バクテリアルトランスロケーション)壊死組織で増殖することによると考えられています。

 早期予防的後期役投与に着目して比較した試験では死亡率、侵襲的処置率の有意な改善は認めませんでした。予防的抗菌薬はたとえ早期に投与したとしても壊死性膵炎を含めた重症急性膵炎において予後を改善する根拠は乏しいです。

 また、予防的抗菌薬の投与によって真菌感染のリスクが上がり、患者にとって有害な可能性も示唆されています。日本のDPCのデータからは早期予防抗菌薬投与からクロストリジウム乾癬を上昇させた可能性が示唆されています

 膵炎自体で38-39度の発熱と、CRP20-40 mg/dl、プロカルシトニンも10-20 ng/mlと上昇し、感染が重なっているかどうかの判定は難しいです。ですので、血液培養の採取をし、翌朝に筋が確認できれば抗菌薬を投与するという方法もよいのではないかと考えられます。

 

早期経腸栄養

 急性膵炎に対する治療として絶飲食が、長年進められてきました。絶飲食が膵酵素の分泌を抑制し膵臓を安静に保つことで予後改善につながると思われてきたからです。しかし、最近では重症急性膵炎に対して早期経腸栄養が積極的に行われるようになってきています

 消化態栄養剤(ペプタメンやエレンタールなど)の経胃的投与を24時間以内に開始することを目指します臨床試験の結果では経腸栄養は入院後48時間以内に始めることに関しては有効性が確立しています。またガイドラインでも勧められています。24時間以内か24-48時間かについては臨床試験が行われていないため分かりませんが、筆者らは24時間以内に開始するデメリットは少ないため24時間以内に開始しているとのことです。

 投与ルートですが、経胃栄養か、経空腸栄養を選択するのかどちらが良いかというメタアナリシスがあり、どちらの群に関しても有意差はなかったとの報告でした。

 経腸栄養の種類は何が良いかということですが、経腸栄養の消化態栄養剤が半消化態栄養剤に比較して入院期間と体重減少が有意に少なかったということが示されています。

 

⑦ 急性膵炎の合併症

 急性期を過ぎて隊員が近くなってきたら、亜急性期~慢性期の局所合併症に注意します。急性膵炎では亜急性期~慢性期にかけて局所の液体貯留を分類する必要があります。2012年改訂アトランタ分類において下記のように分類されています。

急性膵炎の種類

発症4週まで

発症4週以降

間質性浮腫性膵炎

(膵実質の造影あり)

急性膵周囲液体貯留

膵仮性嚢胞

壊死性膵炎

(膵実質の造影なし)

急性壊死性貯留

被方化壊死

実際には再検した造影CTで壊死流域の有無を判断して、壊死があれば壊死性膵炎としてフォローします。

 

いかがだったでしょうか。次回は急性肝不全の対処方法について勉強をしたいと考えています。