第29回 嘔気・嘔吐の対処方法 ~嘔気・嘔吐に対して一辺倒の対処をしていませんか~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は血糖異常について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

 本日は嘔気・嘔吐の対処方法について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 嘔気・嘔吐をみたらまず?

 ② 嘔気・嘔吐の原因

 ③ 制吐薬の種類と作用機序

 ④ 処方例

 ⑤ メトクロプラミドとドンペリドンの使用のポイント

 ⑥ ブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン)の処方

 ⑦ 化学療法による悪心・嘔吐

病棟管理の上で嘔気・嘔吐の対処方法は非常に多いかと思います。ただ、同じ嘔気・嘔吐といっても対症療法はそれぞれで違います。嘔気・嘔吐と聞いても対処方法を考えて動けるように勉強してみましょう。

 

29回 嘔気・嘔吐の対処方法 ~嘔気・嘔吐に対して一辺倒の対処をしていませんか~

 

本文内容は主に『内科レジデントの鉄則(聖路加国際病院 編)』を参考に記載しています。

 

① 嘔気・嘔吐をみたらまず?

 嘔気・嘔吐をみたら、まずはアセスメントから行います。嘔気の原因はNAVSEAとおぼえましょう。

N: Neuro 

中枢神経刺激、障害や頭蓋内圧亢進、脳循環障害:

頭蓋内圧亢進(脳腫瘍、脳出血、SAH、脳梗塞脳炎

 髄膜刺激[髄膜炎感染症・癌性)]

A: Abdominal

消化管腹膜系

胃内容物うっ滞、消化管伸展、漿膜伸展:

 腸閉塞、便秘症、胃粘膜障害、胆石発作、胆管炎、膵炎、腎盂腎炎

V: Vestibular 

前庭神経:突発性難聴、BPPV、前庭神経炎、メニエール病

S: Sympathetic,

Somatopsychiatric

交感神経・副交感神経の異常:ACS緑内障発作、心身症、神経性食思不振症、視覚嗅覚の刺激

E: Electrolyte, Endocrinologic disorder

電解質、内分泌疾患:

 高Ca血症、低Na血症、甲状腺機能亢進症、副甲状腺機能亢進症・低下症、Addison病、妊娠、ケトアシドーシス、腎不全、肝不全、誘発物質(感染によるエンドトキシン、腫瘍からのサイトカイン)

A: Addiction

薬物中毒(オピオイドジギタリス、テオフィリン、リチウム、アルコール)、化学療法、麻酔

 

嘔気・嘔吐の原因

 嘔気は消化管,前庭系,化学受容体引金帯(chernorec,eptor trigger zone:CTZ),大脳皮質,嘔吐中枢(vomiting center:VCのいずれか、または複数の刺激によって生じます。上記のNAVSEAで鑑別をあげ、臓器の焦点を決めた後、以下の表から臓器に分布する受容体の確認をしましょう。

 

存在する受容体

消化管

 

ドパミン受容体

セロトニン受容体

前庭系

ヒスタミン受容体

CTZ

ドパミン受容体

セロトニン受容体

ニューロキニン受容体

VC

ヒスタミン受容体

セロトニン受容体

アセチルコリン受容体

ニューロキニン受容体

大脳皮質

ドパミン受容体

セロトニン受容体

 (レジデントノート VoL.20 No.4(6月号)2018 p528-)

 

③ 制吐薬の種類と作用機序

1 ドパミン受容体拮抗薬:

 ・メトクロプラミド(プリンペラン

 ・ドンペリドンナウゼリン

 ・プロクロルペラジンマレイン酸塩(ノバミン)

 ・ハロペリドールセレネース

2 ヒスタミン受容体拮抗薬:

 ・ジフェンヒドラミンサリチル酸塩(トラベルミン

3 セロトニン受容体拮抗薬:

 ・グラニセトロン塩酸塩(カイトリル)

 ・オンダンセトロン塩酸塩(ゾフラン)

 ・アザセトロン塩酸塩(セロトーン)

4 ニューロキニン受容体拮抗薬:

 ・アプレピタント(イメンド)

5 アセチルコリン受容体拮抗薬:

 ・ブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン

 

④ 処方例

・メトクロプラミド(プリンペラン

 注射液:1A(10mg/2 mL)静注,頓用

 内服薬:1回5~10mg(1~2錠),1日3回,毎食前

 (禁忌)消化管出血・穿孔・腸閉塞,褐色細胞腫

 (注意)悪性症候群を誘発する可能性もある

ドンペリドンナウゼリン⑧)

 内服薬:1回10mg(1錠),1日3回s毎食前

 坐剤:/回60mg(1個),1日2回を挿肛

 (禁忌)消化管出血・穿孔・腸閉塞妊婦,プロラクチノーマ

 (注意)心室不整脈を誘発する可能性あり.QT延長の場合には注意が必要

ジフェンヒドラミンサリチル酸塩(トラベルミン⑨)

 内服薬:1回40mg(1錠),/日3~4回

 (禁忌)緑内障前立腺肥大等の尿路閉塞疾患、

*前庭系の異常における投薬

 三半規管・前庭系の異常によって起こる乗り物酔いの嘔気にはジフェンヒドラミンサリチル酸塩(トラベルミン)を投与する。前庭系に存在する受容体はヒスタミン受容体で,この受容体を拮抗する薬剤がジフェンヒドラミンサリチル酸塩(トラベルミン)である.

 イメージとして覚えましょう。乗り物酔いでもトラベルミン。乗り物に乗ってぐるぐる回った感じはトラベルミンなので、前庭神経のような頭がぐるぐる回った感じがする場合にはトラベルミンを処方と覚えましょう。

 

⑤ メトクロプラミドとドンペリドンの使用のポイント

 1,脳に届くのは?

   メトクロプラミド。ドンペリドンは届かない。

 2,注射液があるのは?

   メトクロプラミド。ドンペリドンはなし。

 3,妊婦に使えるのは?

   メトクロプラミド。妊娠中の悪阻でも使われます。

 4,授乳中に使えるのは?

   ドンペリドン。メトクロプラミドは不可です。

 メトクロプラミド、ドンペリドンどちらもドパミン受容体拮抗薬です。覚え方として妊婦には『目と黒(メトクロプラミド)』で治療します。授乳婦には出産のお祝いに『ドンペリドンペリドン)』開けちゃいましょう。

 

⑥ ブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン)の処方

・処方例

  注射液:1回10~20mg(1/2~1A)を静脈内または皮下,筋肉内に注射する.

  内服薬:1回10~20mg(1~2錠)を1日3~5回経投与する.

・禁忌

 1, 出血性大腸炎の患者

 2, 緑内障の患者

 3, 前立腺肥大による排尿障害のある患者

 4, 重篤な心疾患のある患者

 5, 麻痺性イレウスの患者

・妊婦・授乳中の対応

 妊婦または妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与できる。授乳中にも使用できるが、長期的な使用は避けるべきです。

・作用機序

 ブチルスコポラミン臭化物は,内臓平滑筋の活動亢進に伴うと思われる疼痛を軽減するときに使用します.腸閉塞・イレウス腸炎のときには症状悪化につながるため,腹痛だからと簡単に投与することは避けましょう.禁忌事項以外に必ず腸閉塞・イレウス腸炎などの症状や所見がないことを確認したうえで使用することです.投与前には必ず腹部X線で腸閉塞・イレウスを除外して投与しましょう。

・ブチルスコポラミン臭化物がよく使用される症例

 消化管の運動が亢進することによる痛み

 胆嚢収縮による痛み

 尿路結石による痛み(尿路の平滑筋を弛緩,拡張させる)

 月経困難症の痛み(女性生殖器の痙攣を抑えることによる)

 平滑筋の収縮を抑制するというイメージを持っていればなんとなく、ブスコパンを使うタイミングが想像できるかと思います。あとは何度かこのサイトを見直して頭の中に叩き込んでください。

 

⑦ 化学療法による悪心・嘔吐

 悪心・嘔吐の発現のメカニズムは末梢性経路と中枢性経路の2つがあります。末梢性経路としては消化管(小腸)にある腸クロム親和性細胞からセロトニンが分泌され、それが迷走神経の5-HT3受容体を刺激して第四脳室にあるchemoreceptor trigger zone(化学受容器引金帯:CTZ)や延髄外側網様体にあるvomiting centor(嘔吐中枢:VC)を刺激することで起きます。さらに中枢性経路として、抗がん剤によって遊離したサブスタンスPが延髄にあるニューキノロン1(NK1)受容体を刺激することでも起きます。

 

 悪心嘔吐の出現時期によって使用する薬剤が異なります。もし投与前に予測性で悪心・嘔吐が出る場合には抗不安薬を投与しましょう。

抗不安薬

1, ロラゼパムワイパックス⇔):1回0.5~1.5mg

 抗がん剤投与前夜,および当日治療の1~2時間前に内服します.必要に応じて1日3mgまで増量可能です。高齢者では低用量(1回0.5 mg)から開始する

2, アルプラゾラムソラナックス⇔):1回0.4~0.8 mg,1日2~3

 抗がん剤投与前夜から内服すると通常1回0.2~0.4mg,1日3回から開始し,必要に応じ徐々に増量可能です。高齢者や肝障害患者では低用量(1回0.2mg,1日2~3回)から開始する。

 

催吐性リスク別制吐薬の使い分け

1, 高度(90%以上4日間):NK1受容体拮抗薬アプレピタント(またはボスアプレピタント),5-HT3受容体拮抗薬,デキサメタゾン9.9 mg静注(12mg経□)の3剤

2, 中等度(30~90%,3日間):5-HT3受容体拮抗薬デキサメタゾン6.6~9.9 mg静注(8~12 mg経口)

3, 軽度(10~30%):デキサメタゾン3.3~6.6mg静注(4~8mg経□)

4, 最小度(10%以下):必要なし

 

NK1受容体拮抗薬(催吐性リスクが高度のとき)

アプレピタント錠(イメンド)1日目:抗がん剤投与1~1.5時間前125mg、2・3日目:午前中に80mg

または

ボスアプレピタント注(プロイメンド)1日目のみ:1回150mg抗がん剤投与前30分かけてサブスタンスPのNK1受容体への結合をブロックすることで,遅発性の嘔吐を抑制します.デキサメタゾン(デカドロン)の血中濃度を上昇させるため,イメンド、プロイメンドLR併用時にはデカドロンを減量します.効果不十分なときは5日間まで追加投与可能です.

5-HT3受容体拮抗薬(催吐性リスクが中等度~高度のとき)

パロノセトロン注(アロキシ)1日目のみ:1回0.75mg 抗がん剤投与前、第2世代セロトニン受容体拮抗薬で作用時間が長く,遅発期まで持続的な効果が期待できます。5-HT3受容体に結合後,受容体の形を変えるため,はがれた後もセロトニンが結合しにくくなります.

分類

出現時期

原因

制吐薬

予測性

抗がん剤投与前

過去の抗がん剤に関する悪心・嘔吐の体験などの精神的因子

ベンゾジアゼピン抗不安薬

急性

抗がん剤投与から24時間以内

5-HT3が関与

5-HT3受容体拮抗薬
ステロイド

遅発性

抗がん剤投与24時間後~数日間

サブスタンスPが関与
急性嘔吐のコントロール不良時に増強

NK1受容体拮抗薬
ステロイド

(レジデントノート Vo.18 No.16(2月号)2017, p2863- 引用)

いかがだったでしょうか。次回は急性膵炎の勉強をしたいと考えています。