第25回 せん妄 ~ドロドロはだめですよ~

f:id:Med-Dis:20190901073042j:plain

こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は不眠について勉強しましたね。

med-dis.hatenablog.com

 本日はせん妄について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① せん妄とは?

 ② せん妄の予防とは?

 ③ せん妄の評価方法は?

 ④ 突然発症のせん妄をみたら?

 ⑤ せん妄において抗精神病薬を使用する目的とは?

 ⑥ 治療薬の選択

 ⑦ 低活動型せん妄とは?

 せん妄と聞くとすぐに、ハロペリドール注射で様子見ましょうといった方も多いと思います。ただ、ハロペリドールを投与してドロドロに患者さんをみて良く治療できているという考え方は現在の治療では当てはまらないようです。せん妄の上手な対応の方法について一緒に学んでいきましょう。

 

25回 せん妄 ~ドロドロはだめですよ~

 

① せん妄とは

 せん妄とは軽度の意識障害に認知・注意力・気分障害を伴った状態であり、急性発症・可逆性を特徴とします。せん妄の20~50%が見落とされるとの報告があり、常にせん妄がないか見当識障害の有無や意識レベルの変動を評価する必要があります。せん妄のリスクファクターを以下に記します。

せん妄のリスクファクター

 高齢者

 環境因子:ストレス(拘禁、筋腫、点滴などの挿入物)、環境変化、疼痛、発熱、便秘、排尿困難

 薬剤ベンゾジアゼピン系薬剤、H2ブロッカーガスター)、抗ヒスタミン薬(アタラックスーP)、

ステロイドオピオイド、三環系抗うつ薬

 電解質代謝:低酸素血症、高CO2血症、電解質(Na, Mg, Ca)異常、尿毒症、肝不全、血糖異常、甲状腺機能異常、副腎機能異常

 中枢神経脳卒中、けいれん、認知症

 その他:敗血症、心不全

特に急性期医療ではせん妄の直接原因として多いのが、脱水、感染、薬剤の3つの要因です。これらの要因も一緒に検索するようにしましょう。

 

② せん妄の予防

 せん妄の予防には環境整備が大事で、カレンダー、時計などを置き、日時を明確にします。また、景色が見えるように工夫します。メガネ、補聴器を使用します。家族が付き添ったり、家族の写真を配置したりします。昼夜のリズムをしっかり付けるようにします。また、せん妄が起こり得ることを先に家族にお話しておくことも大事です。

 予防のための薬物療法としてはラメルテオン(ロゼレム)などによるせん妄予防のRCTが複数報告されています。ただし、本邦の健康保険法ではせん妄を予防するための薬物療法は認められていません。

 せん妄のハイリスク患者に不眠を認めた場合は積極的に介入するのが望ましいです。しかし、ベンゾジアゼピン受容体作動薬を投与すると薬剤性のせん妄を引き起こす可能性がありますので投与は控えてください。せん妄ハイリスク患者の不眠に関してはトラゾドンレスリンまたは、デジデル)を用います。トラゾドン抗うつ薬に属するものの抗うつ効果は少なく、適度に鎮静効果が得られ、半減期が短いため翌日への持ち越しも少ないとのことです。また、ラメルテオンやスポレキサント(ベルソムラ)といった新しい作用機序の睡眠薬はせん妄のジャッキがすくない可能性があります。

 

③ せん妄の評価

  せん妄には過活動せん妄、低活動性せん妄。混合性せん妄の3つの病型があり、不穏や興奮を主体とする、せん妄はせん妄全体の一部に過ぎないことは留意する必要があります。せん妄の評価はCAM-ICUもしくはICDSCのどちらかで評価されることが多い。ただCAM-ICUを用いている施設が多いです。

  CAM-ICU     https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=3416

    ICDSC          http://www.md.tsukuba.ac.jp/clinical-med/e-ccm/_src/343/ICDSC.pdf

 

④ 突然発症のせん妄をみたら

 環境変化によるせん妄は通常、入院1~2日目で起きます。入院後しばらくして突然発症したせん妄には何らかの原因を考え検索が必要です。特に、敗血症、低血糖電解質異常、薬剤が頻度として高いので、せん妄の対応をしつつ鑑別を考えておく。

 

⑤ せん妄において抗精神病薬を使用する目的とは

 せん妄に有効な薬物による治療法や予防法はないです。臨床では抗精神病薬は「眠剤」との誤解が多いが、「寝かす」ことを治療かと誤解して用いると「寝かせるまで」投与しがちになり、結果として過量投与となるため注意したい。

 

⑥ 治療薬の選択

 治療薬を選択するときには基本的に、①可能な限り単剤で、②半減期の短い薬剤から選択し、③少量から様子をみつつ開始するのが原則です。抗精神病薬の有効性は、どの薬剤でもほぼ同等であることから、半減期の短いクエチアピンが最初に選択されることが多いです。ハロペリドールやリスペリドンも選択される薬剤です。

内服薬:興奮が少ない場合

〈定時薬〉トラゾドンレスリンA,デジレルR)1回25mg、1日1回夕食後

〈不眠時〉トラゾドン1回25mg 30分あけて計3回まで

内服薬:興奮が著名で徘徊や暴言がみられる場合

 クエチアピン(セロクエルまたは、リスペリドン(リスパダールを使用する。

 クエチアピンは半減期が短く安全性も高いが、糖尿病患者には使用禁忌

 糖尿病があればリスペリドンという流れになる。

注射薬

 注射薬は選択肢が少なく,ハロペリドールセレネース)を中心に処方を組み立てていくことになる。

 ハロペリドールの薬剤指示例

〈定時薬〉ハロペリドールセレネース)IA+生食100mL。夜20時から1時間かけて点滴

〈不眠時〉ハロペリドールセレネース)0.5A+生食20mL、側管から静注30分あけて計3回まで

薬の減量・中止

 せん妄に対して投与した薬を漫然と投与し続けることは問題です。直接的な原因が取り除かれた段階で、慎重に減量・中止を行うことがポイントです。

薬剤

投与経路

常用量

半減期

使用上の注意点

特徴

 定型抗精神病薬

ハロペリドール

経口,静脈,筋肉,皮下

0.75~10 mg

10~

錐体外路症状の発現率が高い.

在宅では内服が難しい場合に,皮下注・持続皮下注として用いられる.

  24 時間

クロルプロマジン

経口,静脈,筋肉,皮下

10~25 mg

10~

強いα1 受容体阻害作用があり,鎮静効果が強い反面,血圧低下など循環動態への影響がある.

ハロペリドールに比べて強い鎮静作用があるため,精神運動興奮が強い場合に用いる.

  59 時間

非定型抗精神病薬

オランザピン

経口

2.5~10 mg

21~

鎮静効果が強い.代謝障害のリスクがある.

鎮静効果が強く,睡眠リズムを作ることを意識して用いられることが多い.半減期が長いため,夜間の追加投与の必要性が少なく,家族の休養を確保しやすい.難治性悪心・嘔吐の治療薬としても使用されることがある.

  54 時間

リスペリドン

経口

0.5~4 mg

4~15時間

活性代謝物が腎排泄のため,腎機能低下時に過鎮静が生じる場合がある.代謝障害のリスクがある.

鎮静作用は弱くかつ半減期が長め.そのため,入眠を意識して使用すると過量投与になりがちなため注意する.

クエチアピン

経口

12.5~200 mg

3~6 時間

代謝障害のリスクがある

鎮静作用が比較的強く,睡眠リズムを作ることを意識して用いられることが多い.半減期が短く,もち越し効果が少ない.その分,夜間に追加投与をする機会が増えがちである.錐体外路症状がほとんどなく,Parkinson病のせん妄・精神病症状には第一選択薬となる.

アリピプラゾール

経口

6~24 mg

40~

 

鎮静効果がない.低活動性せん妄に対して主に使用される.

  80 時間

 (Medicina Vol.56 No.4 2019 増刊号 入院後せん妄に……より転載)

 

⑦ 低活動型せん妄とは

 入院中に見過ごされやすいせん妄として、不穏ではなく活動性低下・食欲低下・傾眠傾向を認める低活動型せん妄があります。活動型せん妄よりも予後が悪いことが知られており、薬剤介入が難しいとされます。環境調整、日中の活動性を上げることで徐々に改善を促すしかない場合が多いです。うつ病との鑑別が必要になる場合がありますが、せん妄は日ない活動があるのに対し、うつ病は月単位で進行する点で区別できます。

 

いかがだったでしょうか。次回は気管挿管の勉強をしたいと考えています。