第28回 血糖異常の対処方法 ~循環モニター何使う~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回はICUにおける循環管理について一緒に勉強しました。
本日は血糖異常の対処方法について一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① 低血糖をみたら
② 低血糖の原因検索
③ インスリン投与量について
⑤ DKAとHHSの治療
⑥ BOTの導入の仕方
病棟管理の上で低血糖、高血糖で呼ばれることは非常に多いと思います。ただ、内分泌内科の先生がいる昼間の時間帯であれば対応について指南していただくことも可能であると考えますが、夜間や早朝に血糖以上を起こすことも多々あると思います。そんなときの対処法を身につけるために本日は血糖異常の対処法について一緒に学んでいきましょう。
第28回 血糖異常の対処方法 ~循環モニター何使う~
本文内容は主に『内科レジデントの鉄則(聖路加国際病院 編)』を参考に記載している。
① 低血糖をみたら
低血糖をみたら、ブドウ糖投与で改善が見込めると思います。本人が経口摂取できるような状態であれば、50%ブドウ糖末10g内服してもらいます。もし、飲めないようであれば50%ブドウ糖液20mLの静注を行う。50%ブドウ糖液20 mLを2回行っても血糖の上昇が得られない場合には持続的に10%ブドウ糖を投与(40 mL/hrから開始)することが望ましいとのこと。注意が必要なのは無症候性の低血糖です。低血糖頻回発作患者や糖尿病コントロール不良患者、βブロッカー内腹患者では自覚症状がなく注意が必要。
ここで『50%ブドウ糖液20mLの静注』という言葉が出てきますが、通常は高濃度のブドウ糖を末梢静脈から投与することはありません。みなさんも御存知の通り長期間の栄養管理はTPNで管理と言われております。なぜなら、血管痛や静脈炎を起こすからです。なので、患者さんの意識がない場合は静脈から50%ブドウ糖液を入れても痛みを感じませんが、意識がはっきりしている患者さんに50%ブドウ糖液を投与するのは避けたほうが良いかもしれません。また静脈炎を起こさないように50%ブドウ糖液は側管から投与し、その後にしっかりフラッシュすることをおすすめします。
(参考 https://www.m3.com/clinical/kenshuusaizensen/433800)
② 低血糖の原因検索
低血糖を認めたらその原因検索をしましょう。
以下に原因検索のABCDEFについて記します。一緒に勉強しましょう。
A:Alcohol(アルコール)
B:Bacteria(敗血症)
C:Cancer(癌)
D:Drug(持効型インスリン、SU薬:作用時間ともに長い)→圧倒的に多い。
E:Endocrine(インスリノーマ、インスリン自己免疫症候群、甲状腺疾患、副腎不全)
F:Failure(肝不全、腎不全(インスリン排泄遷延))
肝不全に関しては耐糖能異常を呈する頻度が高く,いわゆる “ 肝性糖尿 ” という病態を含めるとかなりの割合で糖代謝異常が併存していると言われてきました。肝臓は血糖維持と関連しており、例えば、グリコーゲンの蓄積などでも血糖維持に貢献していると考えられます。
③ インスリン投与量について
以下に2ステップのインスリン投与初期時の設定方法について記します。
1、初期インスリン投与量の設定法について。年齢、腎機能、インスリン抵抗性に応じてまず1日総インスリン
必要量計算。基本は体重(kg)×0.2-0.3 単位/kg。
年齢 |
腎機能 |
インスリン抵抗性 |
設定量 |
70才以上 |
異常 |
|
0.2 単位/kg/日 |
70歳未満 |
正常 |
軽度(血糖値140-200 mg/dL) |
0.2-0.3単位/kg/日 |
重度(血糖値201-400 mg/dL) Ⅰ型糖尿病 |
0.3-0.5単位/kg/日 |
2、持効型と超即効型とに分配
1日総インスリン必要量を基礎分泌分と追加分泌3回分に分配。比率は基礎分泌(30-50%)、追加分泌(50-70%)となるように分配します。さらに、追加分泌分を朝昼夕の3回分に筋頭に分配して設定します。
インスリン製剤と作用時間
分類 |
商品名 |
剤型 |
作用発現時間 |
最大作用時間 |
持続時間 |
【超速効型インスリンアナログ製剤】 |
|||||
|
ノボラピッド注フレックスペン |
プレフィルド |
10~20分 |
1~3時間 |
3~5時間 |
アピドラ注ソロスター |
プレフィルド |
15分未満 |
30分~1.5時間 |
3~5時間 |
|
ヒューマログ注カート |
カート |
15分未満 |
30分~1.5時間 |
3~5時間 |
|
ヒューマログ注バイアル |
バイアル |
15分未満 |
30分~1.5時間 |
3~5時間 |
|
【速効型ヒトインスリン製剤】 |
|||||
|
ヒューマリンRフレックスペン |
プレフィルド |
30分~1時間 |
1~3時間 |
5~7時間 |
ヒューマリンR注バイアル |
バイアル |
30分~1時間 |
1~3時間 |
5~7時間 |
|
【中間型ヒトインスリン製剤】 |
|||||
|
イノレットN注 |
カート |
約1.5時間 |
4~12時間 |
約24時間 |
ノボリンN注フレックスペン |
プレフィルド |
1~3時間 |
8~10時間 |
8~24時間 |
|
【持効型溶解インスリンアナログ製剤】 |
|||||
|
プレフィルド |
1~2時間 |
明らかなピークなし |
約24時間 |
|
レベミル注フレックスペン |
プレフィルド |
約1時間 |
3~14時間 |
約24時間 |
|
【混合型インスリンアナログ製剤】 |
|||||
|
ヒューマログミックス25注カート |
カート |
15分未満 |
30分~6時間 |
8~24時間 |
ノボラピッド30ミックス注フレックスペン |
プレフィルド |
10~20分 |
1~4時間 |
約24時間 |
|
ヒューマログミックス50注カート |
カート |
15分未満 |
30分~4時間 |
18~24時間 |
|
ノボラピッド70ミックス注フレックスペン |
プレフィルド |
10~20分 |
1~4時間 |
約24時間 |
HP file:///C:/Users/medlibuser/Desktop/insulin_1.pdf
http://www.med.kobe-u.ac.jp/insigh/20111015_Kobe_InternalMedicineSeminar.pdf
④ 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の治療
高血糖によるケトアシドーシスは緊急疾患です。糖尿病性ケトアシドーシスの主な病態は、インスリン不足による細胞内の糖不足と高浸透圧利尿による高度脱水。インスリン投与と生理食塩水による補液を迅速に開始することがポイントです。糖尿病性ケトアシドーシスを見たときには原因検索を行いましょう。原因としては、感染症、インスリン中断(怠薬)、急性膵炎、心筋梗塞、外傷、脳血管障害、妊娠、アルコール多飲、ステロイド投与などが原因となり得ます。
高血糖高浸透圧症候群は、著しい高血糖(≧600 mg/dl)と高度な脱水に基づく高浸透圧血症により、循環不全を来した状態です。著しいアシドーシスは認めないところがDKAとの違いです。高齢者の2型糖尿病患者が感染症、脳血管障害、手術、高カロリー輸液、利尿薬、ステロイド投与により高血糖をきたした場合に発症しやすい。
以下の表で糖尿病性ケトアシドーシスと高血糖高浸透圧症候群の鑑別について記載してあります。参照ください。
DKAとHHNSの特徴
|
HHNS |
|
患者背景 |
1型糖尿病,若年者 |
2 型糖尿病,高齢者 |
初発(糖尿病の既往なし) |
20 ~ 30 % |
50 % |
発症 |
比較的急速(数時間~数日) |
緩徐(数日~数週) |
けいれんなど神経症状 |
まれ |
しばしば |
腹痛 |
しばしば |
まれ |
脱水 |
5 ~ 6 L |
8 ~ 10 L |
インスリンの絶対的不足があり,アシドーシスが治るまで大量に必要 |
インスリンの相対的不足で,補充は少なくてよい |
|
死亡率 |
2 ~ 10 % |
12 ~ 46 % |
DKAとHHNSの診断基準
|
HHNS |
|||
軽度 |
中等度 |
重度 |
||
血糖値(mg/dl) |
> 250 |
> 250 |
> 250 |
> 600 |
動脈血 pH |
7.25 ~ 7.30 |
7.00 ~ 7.24 |
< 7.00 |
> 7.30 |
血清 HCO3 − |
15 ~ 18 |
10 ~ 15 |
< 10 |
> 15 |
尿ケトン |
陽性 |
陽性 |
陽性 |
弱陽性 |
血清浸透圧 |
さまざま |
さまざま |
さまざま |
> 320 |
アニオンギャップ |
> 10 |
> 12 |
> 12 |
さまざま |
意識 |
清明~眠気あり |
昏迷・昏睡 |
昏迷・昏睡 |
(引用 HP https://www.igaku.co.jp/pdf/resident1102-2.pdf)
⑤ DKAとHHSの治療
DKAとHHSの治療は、輸液、インスリン、Kの補精、アシドーシスの補正を行います。
1 輸液
輸液は0.9%食塩水(生理食塩水)1.0L/hrで開始する。血糖値がDKAで200 mg/dl、HHSで300 mg/dlに達したら5%ブドウ糖+0.45%食塩水に切り替えて150-250 mL/hrに変更する。
ここでワンポイント生理食塩水を投与すると高Na血症を起こす可能性があります。その場合は0.45%に変化させ、高Na血症を防ぎましょう。もし準備が難しければ1号液が0.45%食塩水に近いので使ってもよいかもしれません。漫然と生理食塩水を行くのはやめましょう。
(参考 https://www.m3.com/open/clinical/news/article/544868/)
2 インスリン
ヒューマリン1単位/mlに調整し、0.1単位/kg/hrで投与する。50-75 mg/dl/hr程度の血糖降下速度を目標にして注入速度を1-3時間毎に変更する。その後、血糖値がDKAで200 mg/dl、HHSで300 mg/dlに達したら、0.02-0.05単位/kg/hrに減量しましょう。DKAおよびHHSの血糖値の目標はそれぞれ、150-200 mg/dl, 200-300 mg/dlです。
3 カリウム
K<3.3 mEq/L インスリンを中止 Kを20-30 mEqで補充
K=3.3-5.2 mEq/L 点滴のK濃度を20-30 mEq/Lとし4.0-5.0 mEq/L目標
K>5.2 mEq/L K投与なし2時間後に再チェック
4 アシドーシスの補正
pH<6.9なら、NaHCO3 100mmol+生理食塩水 400 mL+塩化カリウム液20 mEqを2時間でpH≧7.0となるまで繰り返す。
⑥ BOTの導入の仕方
食餌療法および運動療法に加えて経口糖尿病薬による治療を行っても、糖尿病のコントロールが治療目標に達しない場合は、インスリン療法の追加を考慮します。アメリカの糖尿病学会のガイドラインでも3剤の経口糖尿病薬の併用を行っても目標のHbA1cに達せない場合はインスリン療法の追加を推奨しています。
経口糖尿薬への基礎インスリンの1 回注射の追加はbasal supportoral oral therapy(BOT 療法)と呼ばれ,他のインスリン製剤の追加と比較してメリットが多く、外来での導入にも適しています。
開始単位は0.1 U/kg,もしくは低血糖を起こさない用量(4 U 程度)から開始するのが望ましいといわれています。その後は空腹時血糖値110~130mg/dL を目標としてインスリンの単位数を1 回の診察あたり2 U 前後漸増していく。空腹時血糖値が目標を達成してもHbA1c 値が目標値に届かない場合は,次のステップへと治療強化を検討します。(成人病と生活習慣病48 巻4 号 p394-)
いかがだったでしょうか。次回は嘔気・嘔吐の勉強をしたいと考えています。