第24回 不眠 ~眠剤何選べばいいの?~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は、栄養の管理(食事、エネルギー)について学びましたね。

med-dis.hatenablog.com

 本日は不眠について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 問診の5Pとは

 ② 睡眠障害の分類

 ③ 睡眠衛生指導

 ④ コーヒーと睡眠

 ⑤ 薬物療法を考えよう

 ⑥ 薬物療法を考えよう

 ⑦ 睡眠薬の使用例

皆さん、不眠は得意でしょうか。不眠と聞くとすぐに、マイスリーデパスと使い慣れた眠剤を処方し様子を見るといった方も多いと思います。ただ、眠剤処方にもかなりの種類があり、どのような薬剤を選択するかなかなか悩ましいものです。今回は不眠について一緒に学んでいきましょう。

 

24回 不眠 ~眠剤何選べばいいの?~

① 問診の5Pとは

病歴聴取は5Pを意識して聞きましょう。

 Physical(身体的原因)                         :疼痛、発熱、掻痒感、頻尿など。

 Physiologic(生理的原因)                    :睡眠覚醒リズム障害がないか

 Psychological(心理的原因)                 :ストレス反応としての不眠

 Psychiatric(精神医学的原因)              :うつ病統合失調症アルコール依存症

せん妄などが背景にないか

 Pharmacologic(薬理学的原因)            :ステロイド、利尿薬、アルコール、カフェイン、抗がん剤甲状腺に作用する薬剤など

   (救急研修 ハンドブック (鈴木亮 編)より)

 不眠の原因となるものが身体的原因による疼痛などであれば、原因の除去に努めます。また、睡眠覚醒のリズムが狂っていれば、睡眠習慣の見直しを図るために生活指導は有効でしょう。また、時差ボケなどの原因がはっきりしている場合は、メラトニン作動薬(ラメルテオン)を使用することも考えましょう。心理的ストレスに対する反応としても不眠であれば、可能であればストレスの原因除去を行います。ただし、なかなかストレスが精神的なものであればなかなか除去するのが困難なこともあります。その場合はミルタザピンなどの抗うつ薬も有効であると考えます。精神医学的原因も同様に抗うつ薬の投与も考えても良いと思います。薬理学的な原因であれば、その薬やアルコール、カフェインなどの習慣をやめていただくのが良いかと思います。

 

② 睡眠障害の分類

 睡眠障害は以下の4つに分類されます。まずは問診してこれらの4つに分類を試みます。これらを分類した後は、以下の例の中の鑑別を考え、それぞれに対する対処療法を使用します。

入眠障害=寝付きが悪い

入眠が1~2時間以上かかる

「ベッドに入ってからどれくらいで眠れますか?」

(例)疼痛・掻痒感、むずむず脚症候群神経症性不眠

中途覚醒=寝た後に目覚める

夜間覚醒2回以上

「夜中に何回ぐらい目覚めますか?その後すぐに眠れますか?」

(例)頻尿、飲酒、睡眠時無呼吸症候群

早朝覚醒=早く目覚める

予定時刻より2時間以上早く起きてしまう。

「朝早く目が冷めて困っていませんか?」

(例)うつ病

熟眠障害=眠りが浅い

「睡眠時間の割にぐっすり寝た感じがしませんか?」

(例)飲酒、睡眠時無呼吸症候群

 

③ 睡眠衛生指導

 まずは薬剤に頼らず、生活指導から。生活指導によって睡眠が改善されることも多いです。

 1 カフェイン摂取を減らすか,制限する.特に午後は控える.

 2 就寝に近くなったら,タバコとアルコールを控える.

 3 就寝に近くなったら,重い食事は避ける.軽食は睡眠を促進する.

 4 就寝 3~4 時間以内の運動は避ける.

 5 就寝時刻と起床時刻を規則正しくする.日中のうたた寝は避ける.

 6 寝室は心地よい温度を保ち,光や騒音を最小限にする.

  (引用 medicina Vol.56 No.4 2019 増刊号 p398-)

軽食は睡眠を促進するんですね~。寝る前に少し食べるのは良いかもしれません。また、よく言われることですが寝酒はよくありませんね。また、タバコを控えるように指導してください。

 

④ コーヒーと睡眠

 コーヒーは寝る前に良くないと思っている方も多いと思いますが、寝る前っていわれても1時間前なのか10分前なのかわかりませんね。実際参照しした文献(medicina Vol.56 No.4 2019 増刊号 p398-)では、前出のように午後はコーヒーを取らないようにと書いていますが、コーヒー好きの方に半日我慢してというのは厳しいものですね。私も日々コーヒーを飲んで頭をスッキリさせることが多いのでもう少し詳しく調べてみました。

 文献を調べてみると覚醒の機序はカフェインがアデノシンがその受容体にアクセスするのをブロックするように発揮するとのことです。アデノシンは覚醒が長くなると脳内に蓄積され眠気を催してきます。良い睡眠を取るためには昼間覚醒していることが重要です。夜寝るときにはカフェインの影響が残らないようにしたいですが、カフェインは半減期が4時間くらいだそうで21時に寝る人はだいたい17時頃にコーヒーを飲むのをやめると良いかもしれません。飲む量にもよるかもしれませんが。

(参照 https://www.nestle.co.jp/asset-library/documents/nhw/interview12.pdf

 

⑤ 薬の作用機序

以下の文章はレジデントノート VoL。18 NO.13(12月号)2016 p2447~を参照しております。

ベンゾジアゼピン睡眠薬

 ベンゾジアゼピン睡眠薬はGABA受容体に結合することで神経活動を抑制し、抗不安、鎮静作用をもたらす向精神薬です。抗不安作用が強い場合は抗不安薬として使用され、催眠作用の強いものが睡眠薬と呼ばれています。ゾルピデムマイスリー)やゾビクロン(アモバン)、エスゾビクロン(ルネスタ)も薬理作用は同じです。副作用として、過鎮静、筋弛緩、前向性健忘、日中の作業能力の低下、離脱、反跳性不眠、高用量で呼吸抑制、長期使用で認知機能低下、依存などがあります。筋弛緩作用があるため、重症筋無力症には禁忌です。

メラトニン受容体作動薬

 現在発売されているのはラメルテオン(ロゼレム)です。視交叉上核のメラトニン受容体に結合して、睡眠―覚醒のリズムを整えることで睡眠を促します。依存性がなく反跳性不眠がみられないため使用しやすく中止しやすいです。副作用は傾眠や浮動性めまいです。抗うつ薬を服用している患者にラメルテオンを処方する場合には薬剤名まで確認する。満腹時は血中濃度が上昇しないため空腹時に服用してもらう必要があります。

オレキシン受容体拮抗薬

 現在発売されているのはスポレキサント(ベルソムラ)です。オレキシン受容体拮抗薬は脳の覚醒を維持するオレキシンをブロックすることで覚醒作用を抑制し睡眠を促します。満腹時は血中濃度が上昇しないため空腹時に服用してもらう必要があります。

・ベンゾのべからず7ヵ条

ベンゾジアゼピンは依存性や乱用の危険性に留意する必要があります。そこで文献の著者は以下のように『ベンゾのべからず7ヵ条』を記しています。

 1 原因検索することなく処方すべからず

 2 療養指導なくして処方すべからず

   まずは投薬前に生活指導から。

 3 高力価・短期作用型を投与すべからず

   特に、睡眠薬トリアゾラムハルシオン)とエチゾラムデパス)は依存形成しやすい。

 4 長期投与すべからず

   使うなら4週間以内にとどめておく。

 5 急激に中断すべからず

   急激に投薬をやめると離脱症状や、反跳性不眠を生じるので注意が必要。漸減してやめましょう。

 6 多剤併用すべからず

 7 禁忌に投与すべからず

 

⑥ 薬物療法を考えよう

以下の文章はmedicina Vol.56 No.4 2019 増刊号 p398-を引用しております。

主な睡眠薬の作用時間による分類と特徴

作用時間による分類

半減期

(時間)

治療に適する不眠症のタイプ

作用機序による分類

筋弛緩作用

抗不安作用

一般名

商品名

規格(mg)

超短時間作用型

2~4

入眠困難

メラトニン受容体作動薬

ラメルテオン

ロゼレム

8

ベンゾジアゼピン

ゾルピデム

マイスリー

5,10

ベンゾジアゼピン

++

トリアゾラム

ハルシオン

0.125,

0.25

短時間作用型

5~12

入眠困難中途覚醒

オレキシン受容体拮抗薬

スボレキサント

ベルソムラ

10,15, 20

ベンゾジアゼピン

ゾピクロン

アモバン

7.5,10

エスゾピクロン

ネスタ

1,2,3

ベンゾジアゼピン

++

ロルメタゼパム

エバミール

1,2

リルマザホン

リスミー

1,2

チエノジアゼピン*1

++

ブロチゾラム

レンドルミン

0.25

中時間作用型

20~30

中途覚醒,熟眠障害

ベンゾジアゼピン

++

エスタゾラム

ユーロジン

1,2

フルニトラゼパム

ロヒプノール

1,2

ニトラゼパム

ベンザリン

2,5,10

長時間作用型

40~

早朝覚醒,熟眠障害

ベンゾジアゼピン

±

クアゼパム *2

ドラール

15,20

++

フルラゼパム

ダルメート

15

 *慢性閉塞性肺疾患COPD)はベンゾジアゼピン系は避けるのが望ましい。

  テトラミド 5mg 眠前などで開始する

 *肝機能障害の患者さんにはマイスリーは避ける。

 

⑦ 睡眠薬の使用例

以下の文章はレジデントノート VoL。18 NO.13(12月号)2016 p2447~を参照しております。

 1)不安を伴わない入眠困難

   ロセレム1回8mg 1日1回眠前

 2)不安を伴わない中途覚醒

   ベルソムラ1回15mg 1日1回眠前(65歳以上)

   ベルソムラ1回20 mg 1日1回眠前

 3)生活リズムの乱れが原因の昼夜逆転による不眠

   ロセレム1回8mg 1日1回眠前

 4)せん妄のリスクが高い患者の不眠

   ロセレム1回8mg 1日1回眠前

 5)(アルコール離脱ではない)せん妄による不眠

   セロクエル1回25 mg 1日1回眠前(糖尿病がない場合)

   リスパタール内用液1回05~1mg 1日1回眠前

 6)呼吸抑制をきたすと困る身体合併症(睡眠時無呼吸症候群COPDなど)の不眠

   ベルソムラ 1回15mg 1日1回眠前(65歳以上)

   ベルソムラ 1回20 mg 1日1回眠前

   ロゼレム  l回8mg1日1回眠前

   デジレル  1回25 mgあるいは50 mg 1日1回眠前

 7うつ病うつ状態による不眠

   リフレックス 1回15 mg 1日1回眠前 1週間後をめどに30mgまで増量

   重症例には45mgまで増量可

 8)ベンゾ・Z系の減量や中止を希望する場合

   テジレルR1回25 mgあるいは50 mg 1日1回眠前

 

いかがだったでしょうか。次回はせん妄の勉強をしたいと考えています。