第27回 ICUにおける循環管理 ~循環モニター何使う~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は気管挿管について一緒に勉強しました。
本日はICUにおける循環管理について一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① 循環評価の基本的な考え方
② 輸液では晶質液?膠質液?
③ 輸液量を制限すべきか、積極的に輸液すべきか
④ 循環作動薬の使い方
『ICUの循環器モニターはたくさんあってどうすればいいかわかりにくい。』、『次々に新しい機械が登場するしパラメーターも複雑。』と思っているのは私だけではないと思います。今回はICUにおける循環管理について一緒に学んでいきましょう。
第27回 ICUにおける循環管理 ~循環モニター何使う~
本文内容は主に『集中治療 ここだけの話』田中竜馬編を参考に記載しています。こちらは、ICUなどの集中治療室で使える知識を丁寧に解説している良本だと思います。もしよろしければ購入して読んでみてください。
① 循環評価の基本的な考え方
循環を評価する場合、心拍数(HR)と血圧(BP)をみて評価する場合が多い。
1, CO=HR✕SV(1回拍出量)
2, SV=前負荷✕収縮力✕後負荷
前負荷:最近有用とされる動的指標として、一回拍出量変動(SVV)、 脈圧変動PPVがある。これらは比較的簡便な指標であるが①不整脈がないこと②陽圧換気中で自然呼吸がないこと③8 ml/kg以上換気量が必要であることなど厳しい条件があります。
心収縮力:観血的動脈波形の面積からSVを計算する方法と、PAカテーテルによる熱希釈法があります。
後負荷:現時点でこれを反映する指標はありません。
乳酸値:敗血症は酸素の需給バランスの破綻、その結果臓器障害が惹起されていると考えられている。
乳酸値と死亡率は相関は実証されています。
② 輸液では晶質液?膠質液?
従来、膠質液は晶質液よりも血管内に留まりやすいと考えられていましたが、近年ではグリコカリックスの相の存在が見つかっており、考え方が少し変化してきています。グリコカリックス相が存在することによって、実は非侵襲時には晶質液の血管外漏出は少なく、また侵襲時にはグリコカリックスの破壊によって膠質液が漏出していることがわかりました。つまり、晶質液でも膠質液でも循環動態に与える影響に大きな違いはほとんどないと考えられています。
③ 輸液量を制限すべきか、積極的に輸液すべきか
過剰輸液の指標として水分バランスが体重の10%を超えてプラスになると死亡率が上昇するという報告があります。輸液組成による循環不全の治療は4つのフェイズに分けることができます。①ショックにより生命の危機に瀕している状態を救うrescue期、②ショックが代償されつつある状態で心拍出量と臓器還流の最適化を行うoptimization期、③維持輸液で安定した状態を保つstabilization期、④ショックを離脱し積極的に除水を図るde-escalation期です。輸液の調整が最も難しいのはoptimization期であり、このフェイズでの輸液の必要性を見極めて適切な量を投与することが過剰輸液を防ぐことにつながります。
輸液反応性を予測する上で最も直接的な方法は輸液チャレンジである。通常は晶質液500mL、膠質液であれば250-500 mLを30分以内に急速投与し、1回拍出量が10-15%上昇すれば輸液反応性ありと判断する。ただし輸液チャレンジは輸液の負荷となってしまう欠点がある。
輸液チャレンジのやり方
・生理食塩水、乳酸加リンゲル液500-1000ccを30分急速点滴。
もしくは
・5%アルブミナー250ccを30分急速点滴。
※CVP:目標値、CI:変化なし、SVV:10%以下、IVC径:呼吸変動を目安に繰り返す。
(引用:https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02850_04)
もう一つ、輸液不可を行わずに輸液反応性を評価する方法として、受動的下肢挙上試験(PLR)がある。これは、他動的に下肢を挙上して静脈還流量を一過性に増加させることで輸液反応性を判断する技法である。感度86%、特異度92%と優れた方法です。メリットとしては輸液チャレンジのように輸液をするわけではないので可逆的に反応をみることが可能です。
PLRのやり方
一般的に下肢を挙上することでおよそ150-200mLの輸液負荷に相当することが古くから知られており、PLRはその応用である。PLRの方法は、45度ヘッドアップの状態からスタートし、その後頭部フラット+45度下肢挙上状態にすることで心拍出量や血圧が増加するかどうかを評価するものであり、この手法では300-500mLの輸液ボーラス投与に相当するとされる。
引用:https://drmagician.exblog.jp/24106425/
④ 循環作動薬の使い方
循環作動薬の使用方法について勉強しましょう。『レジデントノート Vot.19 NO.2(11月号)2017p2093~』より一部引用しています。
・ドパミン
ノルアドレナリンの前駆物質です。低~中用量(10 mcg/kg/分未満)でβ1刺激作用があるほか、高用量(10mcg/kg/分以上)でα1刺激作用をも併せもちます。適応は、①急性心不全②低拍出症候群③敗血症に伴う循環不全です。
1~3μg/kg/分から開始し、20μg/kg/分(20 mL/時)まで増量可能です。
・ドブタミン
ドブタミンは潜在的なβ受容体刺激作用を有しており、心収縮力を強化して、心拍出量を増加させます。しかし、心拍数の増加作用はドパミンよりも少ないです。適応は①急性心不全②低心拍出症候群です。
1μg/kg/分から開始し、10μg/kg/分(10 mL/時)まで増量可能です。
・ノルアドレナリン
ノルアドレナリンは、β1刺激作用だけではなく、α1刺激作用もあります。低用量では、β1刺激作用が優位ですが、高用量になるとα1刺激作用が強く現れます。適応は①敗血症に伴う循環不全、②急性心不全です。
0.05μg/kg/分から開始し、1μg/kg/分まで増量可能です。
・アドレナリン
アドレナリンは、β1、β2、α1受容体刺激作用があり、投与量に応じて心拍出量を増加させることで血圧上昇効果を発揮します。適応は①低心拍出症候群、②敗血症に伴う循環不全です。
開始時は0.O1~0.03μg/kg/分より開始し、0.3μg/kg/分まで増量可能です。
・バソプレシン
バソプレシンは、血管平滑筋にあるバソプレシンー1(Vl)受容体を直接刺激して、末梢血管を収縮させ、血圧を上昇させます。主な適応は①敗血症に伴う循環不全です。
成人敗血症例の場合の昇圧には、0.Ol単位/分より開始して、0.03単位/分まで増量可能です。
・ニトログリセリン
硝酸薬の一種。血管内で一酸化窒素(NO)を遊離します。NOは血管平滑筋に作用し、血管拡張作用を示します。0.3~0.5μg/kg/分で開始し、血圧を見ながら徐々に増量します。最大3μg/kg/分まで増量可能です。血圧高値のため早期の降圧を行う場合には、10~20μg/kg程度を静注します。
・ニカルジピン
カルシウム受容体拮抗薬(CCB)の一種。ほかのCCBと比較して血管拡張作用が強く、心筋の陰性変力作用・陰性変時作用は弱いです、適応は、①高血圧緊急症、②急性大動脈解離の緊急の降圧、③その他出血疾患児の緊急の降圧です。
0.6~1μg/kg/分で開始し、血圧を見ながら徐々に増量します。最大6μg/kg/分まで増量可能です。血圧高値のため早期の降圧を行う場合には、20~40μg/kg程度を静注します。
・ミルリノン
ミルリノンはβ受容体を介さずに心筋細胞内あるいは細胞膜内に存在するホスポジエステラーゼ(PDE)IIIを阻害することで、細胞内cAMPを蓄積し、細胞内カルシウム濃度を上昇させて心収縮能、心拍出量を増加させます。適応は①急性心不全です。1 mL/時=0.1μg/kg/分となります。
0.1μg/kg/分(1 mL/時)より開始し、最大で0.75μg/kg/分(7.5 mL/時)まで増量可能です。
いかがだったでしょうか。なかなかICUでの循環管理の基準は混沌としていますが、PLRテスト等は簡易に行えて可逆的ですので利用しやすいかと思います。次回は血糖異常の勉強をしたいと考えています。